【原文】
世の中に、その比、人のもてあつかひぐさに言ひ合へる事、いろふべきにはあらぬ人の、よく案内知りて、人にも語り聞かせ、問ひ聞きたるこそ、うけられね。ことに、片りなる聖法師などぞ、世の人の上は、我が如くく尋ね聞き、いかでかばかりは知りけんと覚ゆるまで、言ひ散らすめる。
【現代語訳】
世間で当時の人のブームになった事を話題にしたり、知らなくても良いような分際にも関わらず岡目八目に内情を熟知していて、人に喋り散らしたり質問攻めにしたりするのは、頭に来る。特に田舎の坊さんに至っては、世間のゴシップに詳しく、自分の身辺の様に調査して、「なんで、何でお前がそんなことを知っているのだ」と軽蔑されるぐらいの勢いで暴露するようだ。
◆鎌倉末期の随筆。吉田兼好著。上下2巻,244段からなる。1317年(文保1)から1331年(元弘1)の間に成立したか。その間,幾つかのまとまった段が少しずつ執筆され,それが編集されて現在見るような形態になったと考えられる。それらを通じて一貫した筋はなく,連歌的ともいうべき配列方法がとられている。形式は《枕草子》を模倣しているが,内容は,作者の見聞談,感想,実用知識,有職の心得など多彩であり,仏教の厭世思想を根底にもち,人生論的色彩を濃くしている。