【原文】
唐の物は、薬の外は、みななくとも事欠くまじ。書どもは、この国に多く広まりぬれば、書きも写してん。唐土舟の、たやすからぬ道に、無用の物どものみ取り積みて、所狭く渡しもて来る、いと愚かなり。
「遠き物を宝とせず」とも、また、「得難き貨を貴とまず」とも、文にも侍るとかや。
「遠き物を宝とせず」とも、また、「得難き貨を貴とまず」とも、文にも侍るとかや。
【現代語訳】
メイドインチャイナの舶来品は、薬の他は全て無くても困らないだろう。中国の本は、この国でも広まっているからコピーすればよい。貿易船が危険な航路を承知の上で、必要のない贅沢品を窮屈そうに満載し、海に揺られて来るとは、ご苦労なこった。
「賢者は遠くの物を宝として欲しがらない」とか「入手困難な物を価値ある物として喜んではならない」などと、古い中国の本にも書いてあるではないか
「賢者は遠くの物を宝として欲しがらない」とか「入手困難な物を価値ある物として喜んではならない」などと、古い中国の本にも書いてあるではないか
◆鎌倉末期の随筆。吉田兼好著。上下2巻,244段からなる。1317年(文保1)から1331年(元弘1)の間に成立したか。その間,幾つかのまとまった段が少しずつ執筆され,それが編集されて現在見るような形態になったと考えられる。それらを通じて一貫した筋はなく,連歌的ともいうべき配列方法がとられている。形式は《枕草子》を模倣しているが,内容は,作者の見聞談,感想,実用知識,有職の心得など多彩であり,仏教の厭世思想を根底にもち,人生論的色彩を濃くしている。