【まくら】
身投げは心中の一種である。心中とはその字のとおり心の中を示すためのもので、誓紙をとりかわしたり、爪をはがしたり指をつめたり髪を切って渡したりと、さまざまな形がある。その心中の極限が一緒に死ぬことであるから、心を試すために使われる、ということもあったかも知れない。心中でもっとも多いのは身投げである。隅田川をはじめ江戸には川や堀が多く、身投げする場所には事欠かなかった。ただし身投げは助かる確率も大きい。心中で身投げしたはずが、舟に助けられて生き残ってしまったという話は歌舞伎の題材にもよく使われる。しかし心中死体はそのまま取り捨てられる。もし生き残ってしまったら、日本橋の南詰のあたりで三日間さらし者にされた。夕暮れになると牢屋に返され、明るいうちは人目にさらされるのである。そして三日を過ぎると、手下に落とされた。
出典:TBS落語研究会
【あらすじ】
旦那は弁天山の下の茶店「すずしろ」のお花を世話していると、女中が奥様に御注進。奥様が旦那に問い詰めると、お客様のお世話をしている女だが、大阪に帰ってしまうので、「後は星野屋、お前が面倒を見てくれ」と言う事で、面倒を見ている女なのだ。と、しどろもどろで弁解をした。
「良いきっかけなので、ここで別れよう。」と、奥様に口約束した。
お花の家に行って、50両の金を出して別れ話を切り出した。
お花は「お金は受け取れないし、他に好きな女が出来たのなら、ハッキリ言えばいいでしょ。水くさいんだから・・・。私は旦那しか居ないんだから、そんな事言われたら死んでしまいます。」
「嬉しいね。死んでくれるか。私は養子で女房には頭が上がらないんだ。その上、星野屋は仕事が上手くいかなくて左前になっている。私も死のうと思っていた。一緒に死のう。八つ(午前2時頃)を合図に 今夜来るから、母親に気ずかれるなよ。」と言い残して帰ってしまった。
八つに迎えに来た旦那はお花の手を取って、吾妻橋にやって来た。「人が来た。先に行くぞ。」と、ドブンっと飛び込んでしまった。「気が早いんだから~」。
その時、屋根舟が一艘やって来て、一中節の上辞で「♪さりとは狭いご了見、死んで花が咲くかいな。楽しむも恋、苦しむも恋、恋という字に二つはない」。「そうだよね、死んで花が咲かないよね。旦那~、おっかさんもいるんで、失礼しま~す。」と、こんな失礼な事はない。
一時の感情の高ぶりで死ぬと切り出したものの、お花の方は恐くなって家に帰って来て、タバコを一服していると、重吉が尋ねてきた。「星野屋の旦那が来なかったか」と切り出した。「いいえ」と知らん顔を決め込もうとするお花に、「知らないならいいんだよ。ただね、今夜はおかしいんだ。眠れないで、トロトロとしていたら、雨も降っていないのに、あたしの枕元にポタポタと水が滴り落ちる。なんだろうと思って、ふと上を見ると、 旦那が恨めしそうな顔で、あたしに言うには、『お前が世話してくれた女だが、一緒に死ぬと言うから、吾妻橋から身投げしたのに、あの女は帰ってしまった。あんな不実な女だとは知らなかった。これから、毎晩、あの女のところに化けて出て、取り殺してやる』 と言うもんだからね、ちょっと気になって。何も無かったんだな。じゃ、帰るからな」。
「チョット待っておくれよ」。
「重さん、本当は、チョットだけ行ったんだよ。どうか、出ない方法はないかね。」
「それだったら、髪の毛を切って、今後雄猫一匹膝に乗せませんって、墓前に供えたら浮かばれるだろう」。余程恐かったのか、お花は裏に入って髪を切って、頭には姉さん被りをして出てきた。「これなら、旦那も浮かばれるだろう」。
そこに死んだはずの旦那が入ってきた。
「あら、旦那!」。
「旦那はな、お前を家に入れたくて、俺のところに相談に来たんだ。一緒に飛び込んでいたら、旦那は泳ぎは名人だし、橋の下には5艘の舟と腕っこきの船頭がいて、水の一滴すら飲ませずに星野屋に入れるとこだったんだ。」、「それならもう一回行きましょう」。「旦那、こういう女なんだ。大事にしている髪の毛を切ったので我慢してください。」、「そんな髪なら、いくらでもあげるよ。それが本物の髪の毛だと思っているのかい。それはカモジだよ」。
「チクショウ!お前はふん縛(じば)られるぞ。その金を使ってみろ。お前は、捕まって、火あぶりになるぞ。それは偽金だ。」
「ちくしょう、どこまで企んでんだ。こんな金返すよ。」
「ははは、本当に返しやがった。偽金なんて話は嘘だよ。これは本物の金だ。偽金だったら旦那が先に捕まってしまう。」
「どこまで企んでんだ。おっかさん!あれは本物だってよ。」
「私もそうだと思って、3枚くすねておいたよ」。
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
【オチ・サゲ】
拍子落ち(調子づいた感じでとんとんと運び、切って落としたように下げるもの。)
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『人を呪わば穴二つ』
『日の本は岩戸神楽の初めより女ならでは夜の明けぬ国』
『焼餅も遠火に焼けよ焼く人の胸も焦がさず味わいも良し』
【語句豆辞典】
【吾妻橋(あずまばし)】江戸の時代から大川(隅田川)に架かっていた有名な橋。両国橋、新大橋、永代橋に続いて、浅草と本所を結んで、安永3年(1774)に架けられ、大川四大橋と言われ、明治までこの状態が続いた。
【一中節(いっちゅう‐ぶし)】浄瑠璃の流派の一。延宝(1673~1681)の頃、京都の初世都一中の創始。早くから江戸にも伝わり、天明(1781~1789)の頃以降は吉原を中心に伝承。曲風は渋く温雅で、伝統的に上品な浄瑠璃と見なされている。
【茶店(ちゃみせ)】ここで言う茶店は緑茶を売る店ではなく、