「戦後史の正体」を読む 志村建世
「戦後史の正体」(孫崎享・創元社)を読みました。いま話題の本で、日本の戦後政治の「常識」を覆す内容を多く含んでいますが、
本来は「高校生にもわかるように日米関係を解説する」趣旨で企画されたとのことで、非常にわかりやすく書かれています。
状況を具体的に説明しながら話を進めて行く説得力は、「池上彰の時事解説」にも似たところがあります。
一回の記事で紹介しきれるような内容ではありませんが、大筋としては、敗戦後のアメリカ軍による日本占領以来、日本の政治経済は、
アメリカの国益を最優先として支配されてきており、その状態は今も変っていないということです。これを政治家の系譜として見れば、
「アメリカ追従路線」と「自主独立路線」との消長の歴史でした。大ざっぱに言えば、比較的に安定長期にわたる「アメリカ追従」と、
短期不安定で終る「自主独立」との交代の繰り返しでした。
アメリカの対日政策の最初は、日本を二度とアメリカの脅威にならない国にすることでした。軍備の全廃と平和憲法は、その中心です。
さらに経済的にも、東南アジア諸国の平均程度の生活水準にするのが当初の計画でした。しかし大戦後の米ソ対立と朝鮮戦争により、
日本の工業力を利用する方向へと、方針は急遽変更されました。共産主義への防波堤として、日本の利用価値が高まったのです。
この枠組みは、講和条約で日本が独立しても全く変りませんでした。
ということは、アメリカは継続して日本の政治経済への支配力を維持する必要があったのです。そのためのノウハウは、
占領時代の圧倒的な権力を通して、日本国内のさまざまなシステムの中に、深く埋め込まれていました。
必要な影響力を与えられる多くのチャンネルを、今も保持しているのです。
米ソ冷戦が終っても、太平洋を勢力圏にしておきたいアメリカの国益は変りません。今は世界戦略への協力を日本に求めてきています。
アメリカの国益を損なう恐れのある日本の政権は、今でも短命に終る運命にあるようです。しかしアメリカは政権を倒すことはできても、
次の政権を指定することはできない、そこに「自主独立」への可能性があると孫崎氏は言います。
それと日本の平和憲法が、今はアメリカに対して日本の国益を守る防波堤になっているという皮肉な現実があります。
戦後67年たっても、アメリカにとっての日本は、独立した「外国」ではありません。
だからこそオスプレイの配備も自由にできて当然と考えるのです。
日本の戦後史は、アメリカとの関係がすべてであったと言ってよいでしょう。どうしたらここから「独立」できるか。
高校生とともに考える絶好のテキストになります。
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