2024年10月13日
石破政権が成立した。すでにアメリカの日本操作グループ「ジャパン・ハンドラー」が結集しているシンクタンク「CSIS」から早速反応が出てきた。これを紹介する。
石破政権の誕生とアメリカとの関係
石破が総裁選を制し、第28代の自民党総裁、そして第102代の内閣総理大臣に就任した。石破政権の誕生である。
石破首相は早速、9日に衆議院を解散した。今月27日投開票の衆議院選挙に向けて、事実上の選挙戦がスタートする。衆議院の解散に先立ち、国会では石破首相と野党各党党首との党首討論が開催され、通常より長い80分間行われた。
一方、石破首相は、いわゆる裏金議員の公認問題をめぐって、これまで非公認となる見通しだった6人と合わせて、10人以上を非公認とする方針を確認した。非公認となる議員の多くは旧安倍派が中心なので、非公認議員が万が一当選した場合、旧安倍派による石破降ろしの動きが起こることも懸念されている。また、衆院選では自公の過半数割れの可能性も指摘されている。
27日に行われる衆院選はどうなるのか、注目する必要がある。
アメリカの大きな影響力
これがいまの日本国内の状況だが、日本の歴代政権の命運に実質的に大きな影響力を及ぼしているのは、アメリカからの圧力である。周知のようにアメリカの歴代の政権を背後から動かしているのは、巨大な勢力を持つパワーグループである。特に、外交政策に関してはそうだ。
軍産複合体とウォールストリートの金融産業は「外交問題評議会(CFR)」に結集し、アメリカの外交政策の基本方針を決定している。「CFR」で立案されたプランは国務省の「政策企画局」によって具体的な外交政策に仕上げられ、ホワイトハウスに渡される。むろん、「政策企画局」の局長、さらに歴代の政権の国務長官、国防長官、財務長官、補佐官なども「CFR」のメンバーであることが多い。
これらに連なる軍産複合体系のグループのひとつとして、「ジャパン・ハンドラー」が存在する。彼らは日本の主要メディアでは「知日派」などと穏健な呼称で呼ばれているが、基本的には軍産複合体の系列に属し、日本の操作を専門に行うために編成されたグループでる。
このグループは、「国際戦略問題研究所(CSIS)」という安全保障系のシンクタンクに結集している。「CSIS」が日本の歴代政権に向けて出すレポートは、アメリカの意向として日本では受け止められ、歴代の政権はこれに迅速に反応し行動してきた。それが首相の辞任に結果することも多かった。過去の「CSIS」のレポートがもたらした影響については、このメルマガの第812回の記事に詳しく書いたので、参照してほしい。
では、石破政権に「CSIS」はどのように反応しているのだろか?政権が発足したばかりなので、「CSIS」からは正式なレポートは出ていない。
しかし、石破首相の持論の外交政策について、懸念も表明されている。
周知のように石破首相は、かねてから日本とアメリカの同盟関係が従属関係から対等な関係になるような政策を模索していた。それは以下の3つである。
<1. 日米地位協定の改定>
石破首相は1日夜の就任会見で、日米同盟の強化につながるとして、在日米軍の法的地位を定めた地位協定を改定する方針を表明した。在日米軍に特別な地位を認めた同協定の見直しは、日本側がかねてから課題と捉えてきたが、本格的に公約として掲げた政権はなかった。
<2. アメリカとの核共有>
「核共有」というのは、ヨーロッパの「北大西洋条約機構(NATO)」諸国に米国が配備している核兵器に関して使われる概念であり、石破首相自身、過去には、日本に米国の核兵器を「持ち込む」ことを前提に日本も「核共有」を検討すべきだと主張していた。
<3. アジア版NATO>
今のウクライナは明日のアジア。ロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換えれば、アジアに「NATO」のような集団的自衛体制が存在しないため、相互防衛の義務がないため戦争が勃発しやすい状態にある。この状況で中国を西側同盟国が抑止するためにはアジア版NATOの創設が不可欠である。
石破政権に対する「CSIS」の反応
所信表明演説や国会答弁などでは石破首相はこうした持論を封印し、一切言及しなかった。だが、「CSIS」のサイトには石破政権の政策を紹介しているページがあり、そこには次のようにある。
石破氏は選挙期間中、在日米軍の地位協定(SOFA)の見直しを提案するなど、日米同盟について言及しており、二国間同盟における非対称性を問題視する立場から、その限界を押し広げる可能性もあります。日本の防衛力と産業基盤の強化を目指す取り組みを長年支持してきたことから、日本の安全保障における米国への依存を減らそうとする本能的な傾向があるかもしれない。
出典:Ishiba Shigeru: Japan’s New Leader(2024年9月27日配信)
ここでは石破政権に対する批判はないものの、ちょっとした警戒感が滲み出ている。
しかし、石破首相の誕生直後に出た記事では、「ジャパン・ハンドラー」のメンバーから石破首相の危険性を指摘するコメントが出ている。
石破氏は日米両国のエスタブリッシュメントが望むよりも、より破壊的な考えを表明している。彼は在日米軍再編協定の改定を求め、第三のレールに近づいた。また、平和主義に関する憲法規定の改正を望むことで、別のレールにも近づいた。さらに、日本を米国の安全保障上の属国から対等な同盟国へと変えるアジア版NATO構想についても語っている。
「彼は米国にとって問題となる可能性がある」と、コロンビア大学の元日本研究者で、現在は日本に多くの時間を過ごすジェラルド・カーティス氏は言う。「彼は、米国との同盟関係は時代遅れであり、占領の匂いがすると考えている」ワシントンで屈指の日本ウォッチャーであるケン・ワインスタイン氏が私にテキストメッセージで伝えたところによると、石破氏は主要な候補者の中で最もアメリカ人にとって読みにくい人物であるという。
出典:What Japan’s New Prime Minister Means for the US – POLITICO(2024年9月29日配信)
ちなみにジェラルド・カーティスは「ジャパン・ハンドラー」の大御所であり、ケン・ワインスタインは「ネオコン」を支持し、近い関係にある「ハドソン研究所」の日本部長である。これを見ると、石破首相は「ジャパン・ハンドラー」と「ネオコン」から危険視された存在であることが分かる。
いま「ネオコン」や「ジャパン・ハンドラー」などの軍産複合体系のグループは、ハリスを全面的に支持している。ハリスが大統領になると、外交政策はこのグループが立案することになるだろう。もしそのときに、石破政権が日米地位協定改定と「アジア版NATO」構想、核兵器のアメリカとの共同運用などの方針を追求しているならば、石破政権はアメリカからの予想以上に強い批判と圧力にさらされ、辞任を迫られることにもなりかねない。
一方、小泉進次郎はコロンビア大学出身であり、「CSIS」の研究員だった。「ジャパン・ハンドラー」に育てられた人物である。石破首相の辞任後は、小泉が首相になる方向に誘導されるかもしれない。
トランプが大統領になるとどうなるのか?
では反対に、トランプが大統領に選出されたらどうなるのだろうか?
トランプは「ディープ・ステート」の徹底した排除を約束している。「ディープ・ステート」には「ジャパン・ハンドラー」も「ネオコン」も含まれる。2017年から2021年まで続いた前トランプ政権では、「ジャパン・ハンドラー」も「ネオコン」も政権の要職から追放されていた。トランプは、これら軍産複合体系のパワーグループを排除したまれに見る政権だった。今回大統領になると、この方向性はさらに徹底され、このパワーグループが結集する連邦政府の部局も廃止か再編される可能性は大きい。もちろん「ジャパン・ハンドラー」も排除される。
これは日本との関係にも重大な影響を及ぼすことは間違いない。
石破首相は日米地位協定の改定や核の共同保有、アジア版NATOなどの構想を進め、アメリカに隷属した日米同盟の、対等なパートナーシップへの引き上げを目標にしている。これは、各国との同盟関係を再検討し、各国の防衛をアメリカではなく、それそれの国に任せて、世界への関与から撤退する孤立主義のトランプ政権とは親和性のある方向ではないかと思う。
トランプ政権の成立は、アメリカとの対等なパートナーシップを構築して日本の独立を目指す石破首相にとっては千載一遇のチャンスになるかもしれない。
むろん、一国主義で孤立主義のトランプ政権が世界の政治と経済のシステム、そして既存の国際関係に及ぼす影響ははかりしれない。どの国もアメリカとの関係を大幅に調整させられる状況に置かれるのもしれない。日本は、そうした新しい国際環境への適応をトランプ政権のもとで余儀無くされるのかもしれない。しかしそれは、決して悪いことではない。戦後長く続いているアメリカへの隷属体制を少しでも終わらせる出発点になるかもしれない。
石破はカルヴァン派の熱心なプロテスタント
実はこれ以外にも、石破首相がトランプ大統領と馬が合う可能性が大きいことを示唆する状況がある。それは、石破首相が熱心なカルヴァン派のプロテスタントであるという事実である。これは、元外務省分析官の佐藤優氏も詳しく解説しているポイントだ。
石破首相は4代目のクリスチャンだ。小さい頃から母親の和子さんに連れられてプロテスタント系の「日本基督教団鳥取教会」に通い、そこで18歳の時に洗礼を受けた。また、石破首相の母方の曽祖父は、いまの同志社大学の創立者である新島襄から洗礼を受けた金森通倫(みちとも)だ。金森は新島の自他ともに認める愛弟子だった人物だ。
キリスト教ニュースの「クリスチャンプレス」によると、鳥取から上京し、慶応義塾高校、慶応義塾大学に進学後は「日本キリスト教会世田谷伝道所(現世田谷千歳教会)」に出席し、教会学校の教師も務めている。また、自著の「石破茂語録」の副題には、祈っている手のイラストとともに「共に祈りましょう」とある。
ちなみに、カルヴァン派のプロテスタントは、すべての人間には生まれる前から神から与えられた使命と役割があり、人間はその使命を全力でまっとうすることで、天国に行けると教える教派だ。社会学者のマックス・ウェーバーはこれに着目し、自らの使命と役割に徹して禁欲的に蓄財する行動様式が、近代資本主義の原点になったと主張した。
敬虔なカルヴァン派の石破首相も神から与えられた使命として、政治家としての職業を見ている。5年前に「日本キリスト教団」のトップと対談したときに、「神様の御用に役立つことをしたい」と発言している。やはりこれは、石破首相が政治家という職業を神から与えられた使命として考えていることの証左である。ということでは、たとえば「世界平和の実現」、「日本国民の幸福の増進」など非常に理想主義的な目標の実現を本格的に目指し、その実現に向けてまっすぐに努力するという性質の政治家なのだと思う。
トランプの宗教とメンタリティー
では、トランプはどうなのか?
たしかにトランプ家の宗教は、伝統的にプロテスタントの「長老派」である。「長老派」はアメリカのプロテスタント教派の主流であり、多くのエリートがメンバーだ。そしてカルヴァン派の代表的な教派である。
しかしトランプは、宗教心のある人物なのかと言えばそうではない。宗教やスピリチュアリズムにはほとんど関心を示さない現実主義者であった。「長老派」というのは、自分の家の宗教が「長老派」であったというだけで、トランプがカルヴァンの教えを熱心に信仰したことはない。
しかし、トランプ政権末期の2020年10月にトランプは、「長老派」から離脱すると表明した。だがこれは、トランプが宗教心をなくしたというわけではない。任期中、トランプはキリスト教原理主義の「福音派」との関係を深めた。「福音派」は神や聖母マリア、そして天使の存在を直接体験することに重点を置く教派である。どうも2020年の10月頃からトランプは、自分が大統領になったことに神の意志の介在を強く感じ、教派の媒介なしに、神と直接つながる方向を模索した可能性がある。
そうしたトランプのメンタリティーの元で起こったのが、7月13日の暗殺未遂事件であった。ここでトランプは、一瞬のタイミングのずれで命が救われた。極めて危ない状況だった。トランプは自分が助かったのは、神の介入があったからだと確信している。
暗殺未遂事件の直後、トランプは自らのSNS、「トゥルース・ソーシャル」の投稿で、「想像を絶する事態を防いだのは神のみである。私たちは恐れず、その代わりに信仰を堅持し、邪悪なものに対して反抗的であり続けよう」と書き込んだ。また、「ニューヨークポスト紙」のインタビューで、「私はここにいるべきでなく、死んでいるべきなのだ。運が良かったのか、それとも神のおかげなのか、多くの人が神のおかげだと言っている」と述べている。
暗殺未遂事件以降、トランプと話をした人の何人かによれば、トランプは本当に自分が神の介入によって救われたと思っており、特に宗教的、スピリチュアルな人間ではないトランプが、この事件を機に神の存在を感じて根本的に変わったという。
このように、トランプは神を感じて根本的に変わったのかもしれない。だとすると、大統領として神から自分に与えられた使命と責任を真剣に考えることだろう。そうした使命は世俗的なものではあり得ない。「世界平和を実現すること」、「アメリカ国民すべての幸福のために全力を尽くすこと」など、理想主義的は目標になるはずだ。
この理想主義的なメンタリティーは石破首相のそれとぴったり合うのかも知れない。「ディープ・ステート」を排除したトランプ政権との間で、新しい関係がもしかしたら始まるのかもしれない。興味深い。
引用元。