孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  弱肉強食の競争社会での仏教修行僧と女子大生村長

2010-01-09 20:11:45 | 世相

(中国・五台山の僧侶 “flickr”より By if8
http://www.flickr.com/photos/66624862@N00/3618340063/)

【規範なき競争社会】
驚異的な経済成長を続ける中国ですが、やっかみともとられるかもしれませんが、日本の価値観からすると、ややたじろぐような面があります。
“金さえあればなんでもできる”という拝金主義に、硬直した一党支配のもとでの権力構造が結びつき、金と権力が支配するジャングルのようにも思えることも。
個人の権利とか、平等・公正の概念とか、今日の日本や欧米社会では一般的な価値観があまり顧みられず、産業革命時のような弱肉強食の剥き出しの資本主義が、社会主義国・中国で展開されているというのは皮肉な話です。

効率を重視する資本主義経済による社会が暮らしやすい社会であるためには、公正さを担保する社会的倫理感のようなものが必要なのではないでしょうか。
日本であれば、それは金や権力の驕りを戒める仏教や儒教に基づく価値観であったり、栄枯盛衰といった無常感とか、社会的成功より信念を貫くことを重視するような庶民感情などであったりするのでしょう。
欧米社会であれば、キリスト教的な倫理感でしょうか。
中国であれば、本来は共産主義思想がそれにあたるのでしょうが、あまり機能しているようには見えません。

激しい競争と汚職・腐敗の構造から自殺へと追いやられる人々も。
****中国で地方幹部の自殺相次ぐ 腐敗や出世競争が背景****
中国で地方当局幹部の自殺が相次いで表面化し、話題になっている。腐敗行為への厳しい取り締まりや、国家が急速な経済成長を進める中での激しい出世競争のストレスが背景に指摘される。監察当局は7日、昨年1~11月に規律違反などについて130万件以上の通報を受け、共産党員や役人ら当局者10万6千人を処分したことを明らかにした。
地方幹部の自殺は、過去2カ月に報道されただけで計6人に達した。(中略)
11月末には湖南省武岡市の副市長(47)が自宅マンションの3階から飛び降りて死亡した。現金21万元(約280万円)が自宅に隠されているのがみつかり、遺書には「大きな誤りはしていない。仕事が忙しく、もらった金を銀行に預ける暇もないくらいだ。死にたくないが、市民たちに死を迫られた」とあったという。収賄容疑への追及を苦にしての自殺と見られている。

相次ぐ地方幹部の自殺の表面化は極めて異例な状況のようだ。ネット上には「疑いなく、2009年は『公務員の自殺年』だった」といった書き込みがみられ、市民の関心も強い。中国筋は「報道されないケースも多い。実際には、さらに多くの自殺者が出ている」と話す。
中国の地方幹部は市民生活に直結した仕事が多く、わいろにつながる機会も多い。ただ、出世と失脚は紙一重。経済発展で高成績を残せば、中央へ抜擢(ばってき)されることもある。その半面で、発展重視の政策で多数の死傷者を出すような事件や事故が起きれば、行政の担当者として厳しく責任を取らされる可能性も高い。
党中央規律検査委員会や監察省の7日の発表によると、昨年1~11月に処分された当局者らのうち党員は8万5千人。うち収賄行為が発覚した2231人の党籍をはく奪し、司法に案件を引き渡したと発表した。中央の役人も含まれるが、大半は地方幹部と見られる。党や政府機関などの「裏金」を意味する「小金庫」も昨年春から11月まで集中摘発され、計2万2千カ所から裏金101億元(約1350億円)が見つかった。
腐敗の広がりに対する市民からの不満の強さも、地方幹部への様々な圧力につながっているようだ。中国メディアは「腐敗捜査が上層部まで及ばないように自殺させられたケースもあるのではないか」といった分析も伝えている。【1月7日 朝日】
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【傷ついた心を癒すものは】
倫理感の希薄な競争社会でのストレスは当然ながら公務員だけでなく、一般市民も同様でしょう。
先日NHKの「世界遺産への招待状」という番組で「五台山」を取り上げていました。
中国仏教の聖地として名高い五台山には多くの寺院があり、修行僧が暮らしています。
文化大革命では迫害を受けた仏教ですが、今現在の中国社会で仏教僧がどういう立場にあるのかよくわかりませんが、昨今の厳しい社会情勢を反映して、心の癒しを求める多くの人々が仏教に救いを求めているようです。

厳しい西台の冬越しに挑む若い修行僧。幼くして父親が病死、母親は再婚して彼を捨て、どうして世の中はこんなに汚いのかと悩んで仏門に入ったとか。
おしゃれしたら結構美人ではないかとも思われる元美容師の若い尼僧。俗世ではいろいろ口にできないようなことをしてきたとかで、過去の過ちを悔い改めるべく出家したとか。
妻に去られ、世間の厳しい視線から行き場を失ったチベット人男性。今は寺に属さない雲遊僧として廃寺の復興を目指して修行。

厳しい競争社会で受けた心の傷を癒すべく仏教の教えにすがる人々の姿に、中国にも金や権力に明け暮れる世界とは別の世界が存在していることが窺えて、少しほっとしたような気分になりました。
なお、五台山はチベット仏教の聖地でもあるのですが、先のチベット騒動以降、チベット仏教、チベット僧侶がどのような扱いを受けているのかは、この番組ではわかりませんでした。

【女子大生村長】もうひとつ最近観た中国関連の番組で興味深かったのは、女子大生村長の奮闘を紹介したNHK番組でした。
これについては、産経記事もあります。

****村長は女子大生 中国・陝西省高傑村*****
 ■「子供」「口だけ」批判も…公約実現へ奮闘中
中国北西部、陝西省の山あいにある寒村で、全国最年少19歳の女子大生村長が「村の活性化」のために奮闘している。「若さと知識で村を豊かにする」との選挙公約を掲げ昨年1月に当選した白一とう(はく・いっとう)さんだ。経験不足のため試行錯誤の繰り返し。一部村民によるリコール(解職請求)署名活動にもめげず、公約実現のため精力的に活動している。
 ◆19歳…当選1年
飛行場のある町から車で雪の山道を7時間、白さんが村長を務める陝西省楡林市の清澗県高傑村にたどり着いた。まさに山奥という表現がふさわしい。同村の戸籍人口は1千人余り。一人当たりの平均年収は1千元(約1万3千円)前後で、周辺の村と比べても特に貧しい。
2008年秋の村民委員会主任(村長)選挙は、男性候補3人の支持者が対立して混乱。年末まで4回投票が繰り返されたが、誰も当選に必要な過半数を獲得できなかった。
翌年1月14日の出直し選挙に、当時、安康大学文学部2年生だった白さんが立候補したところ、清新なイメージが派閥対立に嫌気をさした村民に受け、9割以上の得票で圧勝した。「道路を舗装する」「酒造工場を作る」などの10大公約に対する村民の期待も、得票を伸ばした理由だ。白小革(はく・しょうかく)さん(37)は「彼女の元気の良さと大学で学んだ知識、都会的なセンスが村を変えてくれるのではないかとワクワクした」と当時の様子を振り返った。
 ◆「これから成長」
白さんは同村で生まれた後、生後7カ月で省都の西安市に移った。村での生活経験はほとんどなかった。そのため、「農作業もしたことのない子供に村長が務まるのか」と疑問視する村民も少なくなかった。
当選後、村民を動員して図書室と村祭りで行う演劇の舞台を作ると、早速、村の長老から「無意味なことをするな」と批判された。茶の加工工場の業績が伸びず、村の収入増につながっていないことも、「口だけの人」と陰口たたかれる理由となった。
テレビなどの取材を頻繁に受けたことも「目立ちたがり屋」と非難された。歳出削減のため、村の幹部の交際費を削減したところ猛反発を受け、リコールの署名運動まで発展した。幸い「彼女の努力を評価したい」と大多数の村民が彼女を支持したため、運動は広がらなかった。
白さんはいま、最大の公約である「酒造工場」の投資誘致を目指し、村と周辺都市を往復しながら商談を繰り返している。村の主要農作物のナツメを原材料とした酒造工場を造れば、発酵保存の方法で、いままで人手不足のために腐らせていた多くのナツメを処理できる。商品の付加価値も高くなり、村の収入増につながるという発想だ。
さまざまな困難に直面しながらも、「絶対に公約を実現させる」と意気込む白さん。「いままでうまくいかないことがあったのも私の若さが原因かも。これからは成長するから」と言うと、19歳の女子大生らしい笑顔を見せた。【1月6日 産経】
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この女子大生村長の奮闘ぶりも、生き馬の目を抜くような北京や上海とは全く異なる、中国のもう一つの世界を伝えて、ほほえましくも思われるものでした。

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