(08年7月13日 自らが主導した地中海サミットの公式晩さん会に出席したサルコジ大統領とカーラ夫人 この頃のサルコジ大統領は世界をリードする勢いでしたが・・・
“flickr”より By Ammar Abd Rabbo
http://www.flickr.com/photos/byammar/2701801499/)
【炭素税違憲判定に仕切り直し】
フランス・サルコジ大統領は、昨年来、化石燃料の消費によって家庭で排出される二酸化炭素1トンあたり17ユーロ(約2200円)課税する“炭素税”を今年1月から導入する方針を進めてきました。
しかし、法律の違憲性を判断する憲法評議会が年末12月29日、炭素税を「例外規定が多く不公平で違憲」とする裁定を発表、政府は新年度予算や税制改革は根本から練り直しを迫られていました。
法案では、電力業界を「CO2と無関係の原子力が主流」として対象外にし、また、欧州連合(EU)の排出量取引システム(EU―ETS)に参加する企業について排出量取引の過程でCO2排出量を厳格に制限されているなどとして課税を免除。この結果、製鉄、セメント、製油などCO2排出の多い千以上の事業所が例外扱いとなり、憲法裁判所から「気候変動と戦う目的に反する」「税金としての平等性も欠く」と指弾されたものです。
この憲法評議会の判断を受けて、政府は法案を修正し、7月1日の導入を目指す構えです。
****フランス、修正炭素税法案を閣議決定*****
フランス政府は20日、炭素税に関する法案を修正して閣議決定した。
炭素税は当初今月1日からの導入が予定されていたが、憲法会議は前月29日、免税対象が多すぎて税の平等原則に反し、二酸化炭素(CO2)削減の負担が少数の消費者に偏っているとして当初の法案は違憲との判断を下していた。
政府の発表によると、化石燃料の消費によって家庭で排出される二酸化炭素1トンあたり17ユーロ(約2200円)の課税を計画している。しかし一部の「エネルギーを大量消費する重要部門」には依然として特別な免税措置があり、農業・漁業は税率が25%に、陸運・海運業は65%に減免されることに加え、詳細は明らかにされていないが業種別に「競争力を保つための措置」がとられるという。
炭素税に反対する国民の声も強いが、ニコラ・サルコジ大統領は「革命的な」気候変動対策だとして2010年予算の目玉に位置づけている。
スウェーデン、デンマーク、フィンランドがすでに炭素税を導入している。フランスが導入すれば炭素税を持つ経済規模が最も大きな国になる。政府は修正法案を議会に送り、7月1日の導入を目指す方針だ。【1月22日 AFP】
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修正案は排出CO2、1トン当たり17ユーロ(約2200円)とされた税額など骨子は変わりませんが、EU―ETSに参加しているため当初法案で課税を免除されたCO2排出量の多い重工業界に協議を呼び掛け、より公正な負担を図るのが特徴だとか。【1月20日 共同】
【還付金交付で統一地方選乗り切りの思惑も破綻】
新税導入の場合、ガソリン1リットルの消費につき0.04ユーロ(約5.3円)の課税となるほか、石炭、ガスの消費にも課税されます。
昨年9月の世論調査では国民の3分の2が課税に反発していましたが、新税導入の見返りとして所得税減税などを通じて、全世帯へ家族構成に応じて一定額が還付金として交付されます。
エネルギー消費を抑制した家庭は、課税額は減少しますが、受け取る還付金は一定で、その分メリットを享受できる・・・という仕組みです。
サルコジ大統領の狙いは、3月に行われる統一地方選挙前の2月に還付金を交付して、国民の不満、反対派の批判を封じ込めようというものだったようですが、憲法会議の違憲判断と修正案づくりで、このスケジュールがご破算になってしまいました。【1月20日号 Newsweekより】
【不人気なサルコジ大統領】
サルコジ大統領は就任当初は、アメリカ・ブッシュ政権が死に体となって機能していなかったことや、08年7月からはEU議長国の立場にあったこともあって、グルジア紛争の仲介をはじめ、G20首脳会議(金融サミット)での世界経済危機への対応など、国際社会をリードするような勢いでした。
ただ、右も左も政権内にとりこんで、とにかく目立つような施策を強引に進める政治スタイルはいささか鼻につくところもあるのか、また、離婚・結婚、更に、大学生の次男を公共機関の要職に就けようとした事件などの私的な問題もあってか、国内的人気は下降気味です。
他の国同様に、景気後退・失業者増大という経済悪化が、国民の不満をさらに増大させており、昨年5月頃の世論調査では、65%が「失望した」との厳しい見方を示していました。
昨年11月調査でも不支持が6割超という結果でした。
****サルコジ氏、不支持が6割超=任期半ばの歴代大統領で最悪-仏*****
22日付の仏紙ジュルナル・デュ・ディマンシュが掲載した世論調査で、サルコジ大統領の不支持率が6割を超え、任期の半分を迎えた時点としては、第5共和制下の歴代大統領の中で最も反感を買っていることが分かった。大学生の次男を公共機関の要職に就けようとして、「縁故主義」と批判された問題などが痛手になったようだ。
調査は11月12~20日、1850人を対象に行われた。16日で任期5年の半分を終えた同大統領に「不満」との回答が63%だったのに対し、「満足」は36%。「不満」の比率は、これまで故ミッテラン大統領の1期目、2期目の半ばがいずれも57%で最悪だったが、それを大きく上回った。【09年11月22日 時事】
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【現代民主主義の困難】
今回の炭素税導入のつまづきが3月の統一地方選挙に影響すれば、サルコジ大統領の苦境は更に深まりそうです。
ただ、困難な政権運営を強いられているのはサルコジ大統領だけではありません。
アメリカ・オバマ大統領の命運を左右する医療保険改革も、さきのマサチューセッツ州での上院補選敗北で非常に危うくなっています。日本の鳩山首相も危険信号が点滅し始めています。
一般に、メディアによる政権批判がオープンで、国民が自由にもの言う風潮が定着している民主義国家で、世界経済危機のような取り巻く状況が悪いときに政権が人気を維持するのは至難な業です。
昔のように、一部の政界関係者を黙らせておけばすむ時代なら可能だった施策実行も、政権バッシングのような批判の嵐がすぐにまきおこる現代では困難です。
こういう時代に、昔ながらの“民主主義”が果たして機能するのか?と疑問に感じることも少なくありません。
ただ、フランス・サルコジ大統領は、今回の炭素税とか、物議を醸している「フランス人とは何か」の議論とか、何かやろうとしての困難です(その善し悪しは別として)。オバマ大統領も然り。
鳩山首相の場合、過去のスキャンダルと対応を決定できないことによる困難であり、そこがやや残念なところです。