孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  総選挙に向けて軍政の思惑、スー・チーさんの動向

2010-01-19 13:54:31 | 国際情勢

(ミャンマー シュエダゴン・パゴダにて “flickr”より By indigoprime
http://www.flickr.com/photos/indigoprime/4272642165/)

【「自由・公正な総選挙」】
岡田外相は17日午前、都内のホテルでミャンマーのニャン・ウィン外相と会談し、総選挙に関してスー・チーさんを含む政治犯が釈放され、すべての関係者が参加して行われることが重要だと指摘。
ウィン外相は、ミャンマー政府とスー・チーさんとの対話状況を説明するとともに、総選挙について「自由・公正な総選挙を実施する」と応じたそうです。

ミャンマーの総選挙については、今月初め、10月10日投票を軸に調整がなされているとの報道がありました。
「民政移管」とは言え、軍部の影響力を保持することを担保した新憲法枠組みでの選挙ではありますが、自宅軟禁状態にあって裁判中のアウン・サン・スー・チーさんの処遇も含めて、やはり注目があつまります。

****ミャンマー総選挙、10月10日軸に調整 軍政筋明かす*****
ミャンマー(ビルマ)の軍事政権が独自の「民政移管プロセス」の一環として今年中の実施を表明している総選挙について、軍政筋は6日、10月10日の投票を軸に調整が進んでいると明らかにした。現職閣僚の多くが4月までに辞任して立候補する予定で、投票時期については「選挙活動に半年ほどが必要」との判断が働いているという。
軍政筋によると、選挙は人民代表院(下院=定数440)と民族代表院(上院=同224)で同時に実施され、4月前後に選挙法や政党法などが公表される見通し。軍政は閣僚を辞任する高位軍人らに加え、翼賛組織「連邦団結発展協会(USDA)」のメンバーらに2~3の翼賛政党を設立させるとみられている。
2008年5月に成立した新憲法では、上下両院の議席の4分の1は軍が指名することになっており、選挙で決まるのは残りの議席。ここに軍の影響下にある議員を大量に送り込み、選挙後も実質支配を続ける体制を作り上げるのが軍政側の狙いだ。

選挙を見据えた動きも出始めた。軍政は、数十万人の公務員の給与を今月末の支給分から一律2万チャット(実勢レートで1840円)増とする方針を決めたが、政府職員の票の取り込みを狙った措置とみられている。
外交筋によると、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが率いる国民民主連盟(NLD)など、反軍政勢力にも選挙への参加を認める可能性が高い。民主的な選挙を装い、選挙後の新政権の承認を国際社会から引き出す狙いだ。
ただ、軍政の弾圧でNLDは組織の弱体化が進んでいるとされ、スー・チーさんの軟禁解除も「軍政は容易には応じない」(外交筋)との見方が強い。スー・チーさんが自由に活動できなければ、選挙に参加しても厳しい戦いを強いられるのは必至で、NLDは参加の是非を慎重に検討しているとみられる。【1月7日 朝日】
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【周到に準備進める軍政側】
“軍政は閣僚を辞任する高位軍人らに加え、翼賛組織「連邦団結発展協会(USDA)」のメンバーらに2~3の翼賛政党を設立させるとみられている。”とは、軍政側も用意周到です。
一応、複数政党による民主政治を演出しようというものです。

スー・チーさんについては、軍政は国際社会が求める解放に応じた場合の総選挙への影響を慎重に検討しており、解放しても選挙結果に大きな影響はなく、軍による実質的な支配体制は揺るがないとの自信を深めている模様だとも報じられています。

“軍政に近い筋によると、軍政は「スー・チーさんを解放し、国民民主連盟を選挙に参加させたとしても、国民民主連盟の獲得議席は全体の4分の1程度にとどまる」と分析。解放のタイミングについて「投票日直前」で固めつつあるという。一方、軍政と太いパイプを持つ中国政府関係者も「選挙前にスー・チーさんが解放される可能性が高い」と語った。”【09年12月28日 毎日】

「投票日直前」なら、スー・チーさんの選挙戦への参加を実質的に認めないままで、形式的には「自由、公正かつすべての関係者が参加する」という国際社会の要請にも応えられ、“民主的”選挙の結果を国際的にもアピールできるという考えです。

上記記事はこうした、軍政側の総選挙に向けた一連の流れは、昨年末に対話路線に舵を切ったアメリカ・オバマ政権との間で話がなされているものだとの見方を示しています。
“一転してスー・チーさん解放に応じる可能性が高まったのは、今年1月発足したオバマ米政権が制裁一辺倒の対ミャンマー政策を対話路線に大きく転換させたことが契機となった。
米国のキャンベル国務次官補は11月初め、米高官として14年ぶりにミャンマーを訪問し、軍政のテインセイン首相、スー・チーさんと相次いで会談。双方に当事者間の「対話」を要請し、総選挙へ向けた一連のシナリオを提示した可能性がある。”【同上】

【NLD、選挙参加の方向か】
一方、スー・チーさん、野党「国民民主連盟」(NLD)の動向ですが、明確な決定はなされていませんが、スー・チーさんもNLDの選挙戦参加の方向で調整を進めていることが報じられています。

****ミャンマー:NLD、選挙向け執行委の若返り図る*****
民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チーさん(64)率いる同国野党「国民民主連盟」(NLD)は14日、中央執行委員会のメンバーを11人から20人に拡大すると発表した。軍事政権が今年予定する20年ぶりの総選挙をにらみ、執行委の若返りを図るのが狙い。ただ、アウンシュエ議長(91)ら高齢の現メンバーはそのまま留任。焦点の総選挙への参加の是非も明らかにしなかった。
現在の執行委メンバーの大部分は80歳以上だが、新メンバー9人は60歳代が中心だ。スー・チーさんは昨年12月、アウンシュエ議長らとの会談で執行部改革を要請。執行部の世代交代により、総選挙への参加に積極的とされる若手の登用を図る狙いがあったとみられていた。

高齢の現メンバーが留任したことについて地元記者の一人は「議長らが引き続き党を指導していく意向を強く示したもの」と指摘。一方で「政権主導とはいえ、総選挙に参加しなければNLDの先細りは避けられない。NLDは一部政治犯への恩赦など政権側の『柔軟措置』を待ち、それを理由に選挙参加を表明するのではないか」との見方を示した。
総選挙の実施は今年後半になるとみられる。国際社会は「自由、公正な選挙」の条件として軍事政権にNLDの選挙参加を強く求めており、NLDが参加を表明すれば政権は受け入れるとみられる。
一方、ヤンゴンからの情報によると自宅軟禁中のスー・チーさんは15日午後、軍事政権のアウンチー連絡担当相と昨年12月以来約1カ月ぶりに会談した。スー・チーさんは11月に政権トップのタンシュエ国家平和発展評議会議長に出した手紙で、NLDの執行委開催を認めるよう求めていた。今回の会談では、新体制による執行委の開催を協議した可能性が強い。【1月15日 毎日】
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ミャンマー民主化を求める立場からすれば、実質的な軍政の延長ともとれる民政移管後の新体制に参加することで、この新体制を認めることについては忸怩たるものがあるでしょうが、さりとて、新体制の枠外にいては何らの影響力も行使できないことにもなります。
スー・チーさんが進めているとされるNLDの総選挙参加は、現実的な対応かと思われます。

もっとも、軍政側が “選挙前のスー・チーさん解放”や“NLDの総選挙参加”を報じられているように認めるのかという点は、まだまだ不透明なところではあります。




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