孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア・パプア 崩れゆく伝統文化

2010-01-16 15:11:30 | 世相

(観光客向けのショー “flickr”より By kahunapulej
http://www.flickr.com/photos/kahunapulej/352020727/)

【伝統と近代の衝突】
私は海外旅行が好きで、ごく単純に“最後の秘境”とか“少数民族・先住民の暮らし”と言った言葉に強く引き付けられます。
そういう所は実際に行くのは大変で、なかなか行く機会はありません。
せいぜいが、観光用にショウアップされた場所を覗く程度です。
北部タイの首長族の村・・・とか。

また、“秘境”と言っても現代社会の中に存在している訳ですから、多くの場合、外の世界の影響を強く受けています。
旅行先で「少数民族の村を訪ねるトレッキング・ツアー」なんてものに参加して、「なんだ、民族衣装を着ている訳でもないし、ただの貧しい村じゃないか・・・」なんて、勝手なことを言うことも。

アジアで“最後の秘境”と言えば、インドネシアのパプア州などのニューギニアでしょうか。
下の記事は、約1年前に見たインドネシア・パプアに関するものです。

****伝統崩壊と抑圧で、緊張はらむパプア先住民社会****
インドネシア・パプア州の山間、バリエム渓谷沿いにある町ワメナの「洗車場」は、単に車を洗うだけの無邪気な場所ではない。
道端には日中からホームレスの若者や少年たちがたむろし、酒を飲みながら、車やバイクの到着を待っている。なかには酔いつぶれて意識を失い、寝転がっている者もいる。
洗車もわずかの金銭にはなるが、彼らが本当に待っているのは車そのものではなく、ドライバーである。ドライバーとのセックスは、洗車よりも稼ぐことができるのだ。こうした洗車場の出現は、ひと昔前には誰も予想できなかった光景だ。

深い渓谷によって外部から隔絶されてきた一帯の村には第2次大戦以降、衣服や金属、金銭、医薬品といった数々の「なじみのないもの」が持ち込まれてきた。しかし、この地域の上の世代の男性たちには、いまだに「コテカ」と呼ばれるペニスケースだけを身につけて生活する者も多く、伝統と近代がこれほど激しく衝突している場所はほかにない。
外部からこの地に初めて訪れたのはキリスト教の伝導師たちで、教会も建てられたが、教会内でのコテカの着用は容認されている。教会を取り囲んでいるのは、伝統的なわらぶき小屋と入り組んだヤムイモの畑だ。
しかしパプア州は今、1969年に同州を併合したインドネシアから押し寄せる変革の波に、急速に飲み込まれようとしている。
険しい陸路を避け、バリエム渓谷を超えてやって来るプロペラ機はインフラに必要な物資などのほかに、インドネシア各地からの移住者をもたらす。先住民が大半のパプア州のなかで店を構え、同州のビジネスを牛耳っているのはこうした人々だ。
「発展によって伝統が少しずつ失われている」と、地元の人権活動家(40)はつぶやく。彼の子ども時代の唯一の危険と言えば、いつ起こるとも知れない、盗まれた妻やブタをめぐっての部族間の争いだった。 

■抑圧される先住民たち
伝統の死滅に伴いパプア州の住民、移住者、インドネシア警察と軍の間での緊張も高まりつつある。
インドネシア政府は、約1万5000人規模の軍隊を同州に投入し、分離独立派の動きに神経をとがらせており、人権侵害の報告も後を絶たない。外国の記者が同州に立ち入ることも制限されている。今回AFP記者は、国家情報局部員が同行するという条件付きで、同州の取材が許された。

今年(08年)8月9日「世界の先住民の国際デー」の祝賀行事の際には、45歳の先住民、オピヌス・タブニさんが、警察か軍隊によるものとみられる発砲により射殺される事件があった。この日、伝統衣装に身を包み、法律で禁止された分離独立派のシンボル「明けの明星」の旗を掲げて行事に参加した数百人の先住民たちに、警官隊が「威嚇発砲」した末の事件だった。
このときに拘束された40人あまりの先住民たちは、いまだに獄中にある。この旗を示すと、最高終身刑になる可能性もある。ある住民は「人びとはタブニさんの復讐の機会を、虎視眈々と狙っている」と語った。
人権活動家らは「人種差別が横行している。警察は自分たちや移住者は守るが、パプアの先住民たちには正義が与えられていない」と憤りをあらわにしている。(後略)【08年12月18日 AFP】
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【「独立以外の道はない」】
次は、1年後の最近見かけた記事ですが、事態は変わっていません。

****消えゆく秘境:パプア高地先住民/下 くすぶる分離独立運動****
「私が発展させてみせる。国内の他の地域と同じように」。インドネシア最東部パプア州。中央高地、ジャヤウィジャヤ県のウェティポ知事は観光による経済発展の夢を描く。
草ぶきの伝統住宅が残る県都ワメナでは、4階建てのショッピングモール建設が進み、50室規模のホテルも近く開業予定という。8月には、コテカ(ペニスケース)姿の男たちが伝統儀式を披露するイベントも開かれる。狙いは「秘境」を求める外国人観光客だ。

ただ、知事の考えには先住民から批判的な声も聞かれる。「本来は部族ごとに違う慣習をごちゃまぜにして、神聖な伝統儀礼を観光客用の見せ物にしている」。先住民文化に詳しいヨラン・ヨゴビ氏(39)は顔をしかめる。ワメナ近郊で生まれ、中部ジャワの大学で学んだ。04年にワメナに戻ると、社会はすっかり変わっていたと嘆く。「昔は皆が自然に感謝し、年長者を敬って暮らしていた。今は食料はじめ何でも金で買えるようになったことで、畑は荒れ、拝金主義が横行している」

観光振興の障害となるのは、こうした反発だけではない。パプアは国内で唯一、分離独立運動が残り、武装組織・自由パプア運動(OPM)が活動する地域でもある。先月も、州西部でOPM指導者のクワリク司令官が警官隊に射殺される事件があり、葬儀に集まった先住民と治安部隊との間で一時緊張が高まった。ワメナでも00年10月、独立旗掲揚をめぐり、先住民グループに警官隊が発砲、逆に先住民が入植者を襲う事態に発展し、数十人の死者が出ている。

海外からの独立運動支援を警戒する政府は、パプアに入る外国人に入域許可取得を義務付けている。ワメナを訪れる外国人が年間千人規模にとどまっているのはこうした事情も背景にある。
潜伏活動を続けるOPMのファキキル司令官は「インドネシア政府は軍や警察を使ってわれわれパプア人を殺し、迫害し、差別してきた。パプア人が自らの文化と尊厳を守るには、独立以外の道はない」と大義を強調した。
ジャワ人の妻を持つヨゴビ氏さえこう言う。「先住民は、ジャワ、スマトラなどからの入植者に対する劣等感と怒りを心の中でくすぶらせている」【1月14日 毎日】
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【「平均的インドネシア」に向かって】
パプアの人々は外との交易も乏しく、貨幣経済に組み込まれて日も浅いため、経済活動を試みても失敗することが多いようです。
“高地の中心ワメナの街では、路上で農作物を売る女性か、ベチャと呼ばれる自転車タクシーを走らせる男性以外、先住民の働く姿を見るのはまれだ。
店を構えるのは、ジャワ、スマトラなどからの入植者ばかり。(中略)入植者は増え続け、県によると、ワメナの人口約6万人の7割近くを占める。
中央政府にも先住民の就業援助制度がある。だが、実態は定期的に補助金がばらまかれるだけ。その金が結局、入植者の店で消費される。”【1月13日 毎日】

“パプア州のあるニューギニア島西部がインドネシア施政下に移ったのは1963年。スハルト政権は70年代以降、高地先住民の「インドネシア化」を目的に、洋服の着用を強いた。銃で脅された経験を持つ住民も多い。今は何の強制もないが、ワメナと州都ジャヤプラが空の便で結ばれ、ジャワなどからの移住者が増大。先住民の世代も移り、社会全体が「平均的インドネシア」に向かっている。
そんな中でも伝統を守っている数少ない一人を訪ねた。ワメナの中心から約1時間の村。立派なコテカを着けたリヒャロさんが迎えてくれた。酋長の地位を示す髪飾りの下には白髪が目立つが、正確な年は自分でも分からない。「ホナイ」という草ぶきの家に暮らし、主食は今もイモ。だが、妻も子も弟も、家族はみな、Tシャツやズボンなどの服を着るようになった。
「息子たちが何を着るかは本人の自由だ。車も走るようになり、若い連中にとって暮らしが便利になったのはいいことだ。ただ、美しかったこの世界が壊れてきているような気はするな」。部族語が静かに続いた。”【1月12日 毎日】

パプアの人々に地域の伝統装束、コテカと呼ばれるペニスケースや腰みのを期待するのは、観光客のわがままでしょう。
強要されなくとも、現地の人が外の便利な世界にあこがれ、外の文化を受容するようになるのも当然のことです。
それを止める権利はありません。
文化保護の名のもとに、外の世界と遮断してしまうの、野生動物の保護区を見るようで、同じ人間としての視線を欠いているようにも思えます。アメリカの居留区政策も中に暮らす人々の意欲を阻害し“飼い殺し”状態を生みます。

ただ、何もしないまま、伝統文化が風化していくのも寂しいものがあります。
そこに暮らす人々が自分達の文化をどのように考え、どのように取り組んでいくか・・・そうした意識の問題でしょう。外の世界の人間ができるのは、その手助けだけです。



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