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https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/73/49/6fcc1e9f697849c47eb213a371cf3195.jpg
(メコンで隔てられたタイ・ラオス国境のチェンセーン 左岸がタイ、中州・右岸がラオスです
脱北者は中国を経てラオスに入り、ボートに隠れてメコンを下ってきます。
“flickr”より By Stewie1980
http://www.flickr.com/photos/stewie1980/3671130611/)
【厳しくなる取り締まり】
個人的な事情でここ1カ月ほど時間が自由になることとなり、今日から10日ほどタイ北部のチェンライに旅行することにします。ミャンマーやラオス国境も近いところです。
もちろん、100%物見遊山の旅ですが、国際ニュースとの関わりで言えば、このエリアは北朝鮮からの脱北者が多いところです。
脱北者の環境については近年厳しくなっていることが伝えられています。
****中国国内の脱北者が急減、取り締まり強化で*****
難民問題を研究する米ジョンズ・ホプキンズ大学のロビンソン教授は7日、「北朝鮮離脱住民の健康」をテーマに開催された学会で、1998年には5万~13万人に達していた中国国内の脱北者が、2002年に3万~7万人に減り、2007年には6000~1万6000人まで急減したと発表した。
調査は、1998年から延辺朝鮮族自治州の都市と農村数十カ所を「観測地点」と定め、現地調査員らが把握した脱北者数の変化を人口統計学モデルに組み込み、中国全体の脱北者数を算出したもの。こうした急減は、2002年に北京のスペイン大使館を通じて脱北者25人が集団脱出して以降、中国当局の脱北者取り締まりが大幅に強化され、北朝鮮の国境管理も厳しくなったためと分析される。【1月7日 聯合ニュース】
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また、韓国の情報機関、国家情報院(NIS)は1月25日、北朝鮮が最近、脱北者に対する処罰を強化し、処刑数も増加していることを明らかにしています。
韓国の北朝鮮専門インターネット新聞「デーリーNK
は、中国筋の情報として、脱北後に送還された30代の脱北者の夫婦と協力した友人の3人が処刑されたと報じています。
この中国筋は、脱北者に対する処罰は通常、強制収容所での7~15年の刑だが、「反社会主義分子の駆逐を目指した取り締まり」の一環で処刑が行われたと話しているとのことで、デーリーNKは、北朝鮮では社会秩序の回復を目指す「50日戦闘」が実施されており、処刑された家族はこの方針の犠牲者だと報じています。【1月25日 AFPより】
【増加するタイ北部ルート】
こうした情勢にあって、脱北者のルートとして最近増加しているのが、中国・ラオスを経由してタイに脱出するルートです。タイで収容所等に収容された後、最終的には韓国に送られます。
下記は若干古い記事ですが、昨日あたり同様内容をTVでもやっていましたので、事情は現在もあまり変わっていないようです。
****脱北者のタイ流入急増、五輪後に中国から毎月80人*****
北朝鮮から中国などを経てタイに流入する脱出住民(脱北者)が、昨年8月の北京五輪前の激減状態から一転、毎月平均80人と急増していることが、タイ警察当局や支援団体の調べで分かった。
五輪で厳戒態勢にあった中国国内の警備が緩み、潜伏していた脱北者の移動が活発化したとみられる。最大の脱北ルートとして定着しつつあるタイは、滞留する脱北者への対応に苦慮している。
警察当局などによると、脱北者の身柄拘束数は昨年1~8月で約140人にとどまり、年間1000人を超えたとされる2006年、07年を大きく下回ると見られていた。
だが、08年9~11月にミャンマーやラオスとの国境沿いのタイ北部・東北部14県で計約250人の脱北者が拘束され、特にチェンライ県(114人)とパヤオ県(94人)で突出。チェンライ県の関係者は「毎週20人単位で現れ、過去にないペース。拘束を逃れるケースも多く、実数は倍以上」と話す。
昨年12月と今年1月の拘束数は不明だが、中国の旧正月(1月26日)前に人の移動が盛んとなった影響から増加しているといい、年間1000人超のペースに戻ったものとみられる。
脱北者は主に、北朝鮮から中朝国境を越え、雲南省からラオスの山岳地帯を抜け、メコン川を渡ってタイ北部に入るルートをたどる。タイは脱北者の第三国出国を容認しており、脱北者は最終的に首都バンコクの入国管理局収容所や支援者の隠れ家などに入り、韓国政府の受け入れを待つ。
在タイ韓国人支援者によると、タイから韓国へは毎週30~40人が出国していたが、昨夏、韓国側の受け入れ施設が飽和状態となり、出国者数が激減。バンコクの収容所は一時、五輪後の流入増の影響もあり、定員200人の2倍を超える400人以上が詰め込まれる劣悪な状態となった。支援者は「脱北者の間で寝床スペースが500ドルで売買されるほど。環境改善が急務」と訴える。
タイ政府関係者によると、政府は07年ごろ、増加する脱北者だけを収容する「難民センター」の設置を秘密裏に検討し、韓国政府に協力を要請。韓国側の全面資金協力でバンコク近郊に建設する方向で話が進んだとされる。だが、昨年10月に韓国メディアが報じた際は、両国政府とも否定し、計画は頓挫した格好だ。
タイの実情に詳しい脱北支援者は「タイ政府は、受け入れ施設拡大の公然化が脱北者増につながることや、ルート上で脱北者の取り締まりを徹底する中国に『脱北支援に積極的』と見なされて関係がこじれることを懸念している」との見方を示している。【09年2月4日 読売】
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タイ経由ルートが多く利用されるようになったのは、タイは脱北者の第三国出国を容認しており北朝鮮への送還がないこと、韓国へ移されるまでの収容所での期間(約2か月)が短いことのほか、タイ警察の対応が温和であることもあるとのことです。
そのあたりの雰囲気は、脱北者支援団体の北朝鮮難民救援基金のサイトに掲載された報告などからも窺えます。
下記はチェンセーン警察署への脱北者用支援物資の寄贈を行った際のものです。
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・・・・前日到着した8人も含めて40人もの脱北者が収監されており、大半が20代・30代と思える女性で、男性はわずか3人、子どもが2人(中国人との間に生まれた子どもだとのこと)でした。ただし、監房の扉は開けっ放しにしてあり、数人は監房の外に座っていたりして、留置所といえども緊迫した雰囲気が無かったのが救いでした。署長さんのおっしゃるには、脱北者は犯罪者ではないし、そもそも保護を求めて自ら出頭してくるので署から逃げ出そうとする脱北者はまずいないからだとの説明に納得。(中略)
中国からタイへ脱出するための費用が一人当たり約15万バーツ(約41万円)かかるが、脱北女性は大半が、中国で売春などにより脱出費用を稼ぐケースが多いとのこと。脱北者は殆どが船で来るが、メコン川のどこで降りて同警察署に行けばよいのかを中国人の付添い人(たぶんブローカー)が詳しく事前におしえるので迷うこともなく、チェンセーン警察署に来るとのことでした。・・・・
(http://www.asahi-net.or.jp/~fe6h-ktu/topics091025.htm)
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比較的最近のタイ経由ルートを使った脱北者の記事としては次のようなものも。
****ボート乗り国境越え、タイで脱北者42人拘束*****
タイ・ラオス国境のタイ北部チェンライ県で今月、北朝鮮からの脱出住民(脱北者)42人が、不法滞在の疑いでタイ当局に身柄を拘束されていたことが24日、分かった。
最大の脱北ルートのタイで、一度の拘束人数としては今年最多。当局は、ルート上の中国が取り締まりを徹底し、潜伏中の脱北者が耐えきれずに集団でタイへ脱出するケースが出てきたとみている。
タイ警察関係者によると、脱北者は21日、ボート3隻に分乗し、メコン川をラオスからタイに渡ったところを警察に拘束された。
同県では、1~9月の身柄拘束数190人に対し10月だけで計60人と急増。脱北支援関係者は「中国で足止めされた脱北者が、危険を承知でタイ行きを敢行している」との見方を示した。【09年10月25日 読売】
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【ブローカーへの支払いは売春で】
実際、中国・ラオスを経てタイへやってくる脱北者を取材したルポが「PAN ASIA NEWS」のサイトにあります。(http://panews.rakurakuhp.net/i_142317%2Csi_17359.htm など)
ルポでは、ブローカーへ支払う金をつくるため売春などで働く様子などが語られています。
ただ、バンコクの韓国大使館へ行って政治亡命を認めてもらいたいと言う、タイ・メーサイのカラオケクラブで客をとっているという脱北者女性が、なぜ警察に出頭して韓国への移送を受けないのか・・・そのあたりの事情はよくわかりませんでした。
なお、タイ警官の職権乱用の話などもあって、先述のチェンセーン警察署の対応とはまた違うようです。
【「肉が具のスープ」】
それにしても、地図を見ればわかるように、北朝鮮から中国・ラオス、さらにタイ・・・脱北者にとっては気の遠くなるような遠くて危険な道のりです。
北朝鮮の金正日総書記が、国民はいまだ「肉が具のスープ」を食べられないなど、同国が満足できる生活水準に至っていないことを認める発言をしたと、9日の朝鮮労働党機関紙、労働新聞が伝えています。
「永遠の主席(金日成氏)は、人民が白米と肉の入った汁を食べ、絹の服を着て、瓦屋根の家に住めるようにならなければいけないと言った。しかし、わが国はまだこの目標を達成できていない。できる限り短期間のうちにこの問題を解決し、永遠の主席の遺志を実現したい」とも述べたそうですが、本気でそう思っているならこんな脱北者も出ないだろうに・・・と思わざるをえません。