
(“flickr”より By American Red Cross
http://www.flickr.com/photos/americanredcross/4272027088/)
【国際援助物資で空港は大混雑】
大地震に見舞われたハイチのポルトープランス国際空港は、アメリカ(実際には米空軍)が暫定的に管制業務を担っていますが、援助物資などを積んだ各国からの航空機で大混雑となり、離着陸を一時制限せざるを得ない状況となっていました。(支援物資が住民の手に届いているかは別問題です)
例えば、国際医療援助団体「国境なき医師団(MSF)」は、薬品や手術用備品、透析装置2台など計12トンの物資を積んだ輸送機が3度にわたって着陸を拒否され、隣国のドミニカ共和国に迂回させられたとのことで、「被災者の命を救う医療援助を積んだ輸送機が拒否され続けることは受け入れられない」と不満を表明していました。
そうした混乱状況も、国連のホームズ人道問題調整官(事務次長)が20日、米国の航空管制下でポルトープランス国際空港に援助物資が順調に運び込まれるようになるなど、改善し始めているとの認識を明らかにしています。
大災害や紛争などがあると、各国や国際援助団体が先を争って駆けつけ援助合戦を繰り広げる現象が見られます。
日本などは今回援助出遅れが指摘されています。
もちろん各国・各団体が援助を競うことは基本的には結構なことです。
ただ、現地の必要性の状況に関わらず、人々の関心が薄れていくにつれ援助は減少していきます。また、各国・各団体の思惑・意図が現地の要請とずれていることもあります。
逆に、ハイチではまだまだ先の話ですが、援助・支援が現地の人々に依存症をもたらすこともあります。
空港が支援物資で渋滞するほどの手厚い国際支援が、現地の視点で、現地の復興につながる形で行われることを願います。
【厳重な警備の中で海水浴やバーベキュー】
ハイチ大地震の情報は毎日たくさん流れていますが、救助・支援の本筋とはやや異なる視点からの記事・情報を2,3ピックアップしてみました。
****震災ハイチに豪華客船は適当?=「無神経」「経済支援」で賛否****
大地震が襲ったハイチの北部に今週、各国の観光客を乗せた大型クルーズ客船が停泊した。被災前から旅程に組み込まれ、援助物資を急きょ携えての訪問となったが、震災後の混乱が広がり被災者の窮状が悪化するさなかだけに、物議を醸している。
同客船はロイヤル・カリビアン・インターナショナル社(米国)が運航。今週だけで計3隻が到着し、数千人規模がハイチを訪れる予定だ。報道によれば、観光客は被災を免れた北部の同社プライベートビーチで、厳重な警備の中で海水浴やバーベキューを楽しんでいる。
同社は震災支援で100万ドル(約9100万円)の寄付を表明したほか、寄港地プエルトリコで米や粉ミルク、水、缶詰などを積み込み、ハイチ側に提供。ゴールドスタインCEO(最高経営責任者)は自らのブログで、「島にいて、物売りや弊社従業員のために経済活動を生み出すことが支援になる」と今回の停泊を正当化している。
しかし、ある乗船者はインターネットに「数万の遺体が路上に積まれ、生存者が食料と水を求めているのに、日焼けやカクテルを楽しむのは無理」と自責の念を書き込んだ。報道を受け、ネット上には「無責任で不快だ」「ハイチ唯一の収入源である観光を断ち切るべきではない」など賛否両論が飛び交っている。【1月20日 時事】
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“物売りや弊社従業員のために経済活動を生み出すことが支援になる”というのは理屈ではあります。
“収入源である観光を断ち切るべきではない”というのも、インド洋大津波の後に観光客が減って苦しんだビーチリゾートが多かったことでも問題になりました。
しかし、“遺体が路上に積まれ、生存者が食料と水を求めているのに”“被災を免れたプライベートビーチで、厳重な警備の中で海水浴やバーベキューを楽しんでいる。”というのは、やはり受け入れがたいものを感じます。
いささか時期が早すぎたようです。
【84%が米国には支援の責任があると回答】
各国の救援・支援活動の中でもアメリカのそれがやはり際立っています。
オバマ大統領は12日夕に地震の一報を受けると、約30分後には支援を表明。その後も1億ドル(約91億円)の緊急援助、軍や空母の派遣など矢継ぎ早に救援策を発表しました。
アメリカは独裁政権崩壊による自国の権益保護を名目に、ハイチを1915~34年に占領、04年クーデター後の事態収拾でも、国連多国籍軍に海兵隊約3000人を派遣しており、ハイチの国家形成には、米国の干渉の歴史が強く影響しています。アメリカの今回の迅速・大規模な活動は、単に地理的に近い最貧国の災害救援というだけでなく、そうしたハイチとの関わりがあってのことです。
米CBSテレビが18日発表した世論調査結果によると、84%が米国には支援の責任があると回答、オバマ大統領のハイチ大地震への迅速な対応を80%が評価しているそうです。【1月19日 時事より】
また、オバマ大統領は昨年4月の米州首脳会議で中南米外交を始動させ、域内の反米左派政権との「協調」を一度は演出しましたが、6月の中米ホンジュラスのクーデター対応が中南米で批判を浴び、アフガニスタンでの戦線拡大などで亀裂を深める結果となったことを受けての、中南米での「失地回復」との見方もあるようです。【1月16日 産経より】
ベネズエラのチャベス大統領は17日、アメリカは地震を口実にハイチを占領しようとしているなどと非難しています。
【援助はするが、アメリカには来ないで】
米軍当局者はAFP通信に対し、「必要なだけハイチにとどまる。60日かもしれないが、それ以上必要というなら支援を続ける」と並々ならぬ決意を見せているそうですが、一方で、ハイチから難民がアメリカへ押し寄せるのは困るという本音もあります。
****ハイチ、首都から住民脱出 米、難民食い止めに躍起*****
ハイチ大地震で壊滅的被害を受けた首都ポルトープランスから、食糧があって治安もましな農村部へ住民の大脱出が始まった。そうした国内状況に絶望した住民が米国などに海路、押し寄せる可能性も浮上、米政府は難民発生を食い止めようと躍起になっている。
AP通信は19日、ポルトープランス発で、何千人もの首都住民が飢えと暴力を逃れ、農村部なら食糧が手に入れやすいと期待して、バスに争うようにして乗り込んでいる、と伝えた。首都脱出者は百万人を超すともみられているという。
一方、米紙ニューヨーク・タイムズによると、米政府当局は、今後、数週間で被災地の生活環境が悪化して、ハイチ国民が海を渡って不法入国する可能性を懸念して、「ボートピープル」を海上で拘束してキューバのグアンタナモ米海軍基地に収容する計画の検討にも入っているという。
このため、米空軍の輸送機は1日約5時間にわたってハイチ上空を飛行、駐米ハイチ大使の声で「よく聞いてください。祖国を離れようとボートに飛び乗ってはいけません。祖国に送還されるだけです」との録音メッセージを流し、難民の水際阻止を図っている。
フロリダ州をはじめ米国内には、ハイチからの不法移民40万人が滞在しているとされ、難民が不法移民化する事態だけは避けたいからだ。
米政府は現在、滞米中のハイチからの不法移民に、特例措置として18カ月間の滞在と労働許可証を交付する方針を固めたという。不法滞在者の収入獲得を合法化し、祖国への仕送りを促進して間接的にハイチ復興を支援するという狙いと、米国内に“稼ぎ手”がいれば難民の発生も極力、抑え込めるとの思惑がある。(中略)
ただ、特例措置では、米国滞在と就労が合法化されるのは18カ月間のみで、それ以上、経過した場合、国外退去措置も免れない。【1月21日 産経】
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駐米ハイチ大使の上空からのメッセージ「米国への扉が広く開かれていると思うなら、まったくそうではありません。海上で即座に阻止され、元の場所に送還されるでしょう」について、米国務省の19日の会見では、記者から「非常に残酷だ」「なぜ必要なのか」と疑問が相次ぎ、クローリー次官補は「海を渡るのは危険な試みだとはっきり理解してもらうためだ」として「人道的配慮」を強調したそうです。【1月20日 朝日】
被災者をよそにビーチリゾートを楽しむ豪華客船といい、支援はするが自国には来ないでと訴えるアメリカといい、勝手と言えば勝手です。
こんなブログをのんびり書いていることも、被災者の窮状からすれば理不尽なものでしょう。
所詮、人間の存在・営みは理不尽・不公平なものではありますが、どこで自己を律するラインを引くかということでしょう。
【国際養子縁組は最後の手段】
こんな記事も。
****ハイチの子ども、国際養子縁組は「最後の手段」=国連****
国連児童基金(ユニセフ)は19日、ハイチの大地震で身寄りを失った子どもたちや孤児について、国際養子縁組は最後の手段であるべきとの立場を表明した。
ユニセフは、12日の地震で親が死亡したり行方不明になり、混乱した首都ポルトープランスの路上をさまよっている子どもたちについて、身元の確認に努めている。
スポークスマンのベロニク・タボー氏は会見で「人道的状況がどのようであれ、家族が再び一緒になることを優先するというのが常にユニセフの立場だ」と説明。親が死亡したり行方不明の場合には、祖父母など親族の元に引き取ってもらう努力がなされるべきと語った。その上で、子どもは「できる限り出生国にとどまるべき」とも述べた。
また、地震後に子どもに対する暴力も報告されていると指摘。子どもの人身売買が起こる恐れを懸念しているとも述べた。
ユニセフによると、今回の大地震発生前の時点で、ハイチの人口の48%は18歳未満だった。【1月20日 ロイター】
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“国際養子縁組は最後の手段であるべきとの立場を表明”ということは、逆に言えば、国際養子縁組を求める声が多く寄せられているということでしょうか。
子どもの人身売買は論外ですが、スーダン・ダルフール地方の孤児だと主張してチャドの子ども103人を フランスに密出国させようとしたと、2007年12月、チャドの裁判所から誘拐未遂罪で重労働 8年が言い渡されたフランス援助団体「ゾエの箱舟(Arche de Zoe)」の事件みたいなことが起こらないようにしてもらいたいものです。