(スーダン 豊かな水と牛の牧歌的風景に見えますが・・・・ “flickr”より By Rita Willaert
http://www.flickr.com/photos/rietje/3174182916/ )
【負のイメージを凝縮した国】
スーダンでは1983年、当時のヌメイリ政権が国政にイスラム法を導入したことに、南部の黒人(大半がアニミズム、一部キリスト教徒)が反発して第二次スーダン内戦が勃発。
約190万人が死亡し(大半は市民で、飢餓と旱魃によるもの)、400万人以上が家を逐われる【ウィキペディア】という犠牲を出し、ようやく2005年1月9日に、バシール政権とスーダン人民解放軍(SPLA)との間で「南北包括和平合意(CPA)」が結ばれました。
この内戦は、北のアラブ系に支配された政府に対する南の非アラブ系住民の戦いであるとされ、また、南部で見つかった石油の利権をめぐる争いでもあります。
この第2次内戦に先立っては、当然ながらやはり南北間で争われた第1次内戦(1955年~1972年)があります。
更に、スーダン西部では、“世界最悪の人道危機”と国連が呼ぶダルフール紛争が進行しています。
人種・民族対立、地下資源をめぐる利権争い、内戦、気の遠くなるような数の犠牲者、全く顧みられることのない命の重さ・・・アフリカに対して抱く負のイメージが凝縮されている国のように思えます。
アフリカのと言うより、人間の愚かさというべきでしょうか。
【南部で部族抗争激化】
CPAから22年が経過し、今年4月には、24年ぶりの複数政党による総選挙・大統領選挙が行われる予定です。
また、来年2011年には、南部の北部からの分離の是非を問う住民投票も予定されています。
そんなスーダン南部では、部族抗争が激化し、新たな内戦も懸念されています。
****スーダンで新たな内戦の懸念、南部の民族間対立で140人死亡****
スーダン南部ワラブ州で民族間の衝突が起き、この1週間で少なくとも140人が殺害され90人が負傷したと、国連当局者が7日明らかにした。新たな内戦に発展する可能性が懸念されている。
地元筋の情報によると、殺害されたのはディンカ民族で、対立するヌエル民族の武装集団に襲撃されたという。ヌエル民族は約30万頭の牛を強奪したという。
衝突は今年に入って何度か起きているとみられるが、国連関係者が5日に現地入りし、初めて明らかになった。国連平和維持部隊が調査のため現地に向かっているという。
スーダンは9日、22年にわたって続いた南北間の内戦に終止符を打った「南北包括和平合意(CPA)」の署名から6年を迎える。4月には、24年ぶりの複数政党による総選挙が行われる予定だ。
こうした中、同国の治安に対する不安は高まりつつある。オックスファムなど10の援助団体が先ごろまとめた報告書は、暴力の激化、極度の貧困、政治的緊張の「致命的な三重苦」がCPAを崩壊寸前にまで追いやっていると指摘。国際社会が監視を怠れば、スーダンで新たな騒乱が起きる可能性があると警告していた。
今回の事件は、これらの懸念を裏付けるものだ。
スーダンにおける2009年の民族間紛争による死者は約2500人だが、これは、紛争が続く西部ダルフール地方における同年の死者数を上回っている。【1月8日 AFP】
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昨年10月には、スーダン南部の農村地域で、初夏の深刻な干ばつが原因で作物が育たず、百万人以上が草を食べて飢えをしのぐ状況に陥っていると報じられてもいました。
部族対立の背景には、内戦の傷も癒えぬまま深刻な飢餓に直面している貧困の実態があります。
また、今年・来年の選挙・住民投票を控えて、南部の勢力分断を狙い、北部が民族対立をそそのかしているとの見方も南部自治政府側にはあるようです。
実際、“部族抗争による被害拡大は、南部を暫定統治する自治政府の治安維持能力の欠如を示すもので、北部からの分離の是非を問う2011年の住民投票にも影響を与えそうだ”【1月8日 読売】といった見方も出ています。
【「血のロード」には今、パイプライン】
内戦の火種にもなっている石油開発については、次のような記事も。
****内戦の次は石油、政府と企業に振り回されるスーダン南部の住民たち*****
スーダン南部のNew Rier村を訪れた人がまず目にするのは、「White Nile Petroleum Operating Company(WNPOC、白ナイル石油会社)」の巨大な石油タンクと、同社の「飲料水供給イニシアチブ」がペンキで大きく書かれた看板だ。
だが、粗末な藁葺きの小屋とゴミで埋め尽くされたこの村の住民たちは、「平和と発展」を実現するという同社の約束は守られておらず、同社の石油採掘は住民の健康を害しているだけだと不満を漏らす。
村の人口はおよそ2000人。彼らはもともと、ここから数キロ離れたRier村に住んでいたが、2006年、同社によって現在の場所に移住させられた。なお、同社はマレーシアの石油大手ペトロナス(Petronas)の子会社だ。
カラシニコフ銃を携えた住民代表は、「移住の際、WNPOCは学校や病院を作り、飲料水を提供するなど、数々の約束をした。約束は守られないばかりか、人々は原因不明の病気になり、家畜はばたばたと死んでいる」と話す。(中略)
古井戸を使用する者は誰もいない。シアン化物、鉛、ニッケル、カドミウム、ヒ素がかなりの濃度含まれていることが判明しているためだ。さびに覆われた井戸のそばでは、蚊の大群が黒い雲を形作っている。(中略)
■内戦のあとには石油産業
この村は、数十年も前から試練に見舞われている。この国を22年間分断した内戦時、この村に至る道は「血のロード」と呼ばれた。ハルツームの中央政府を支持する数千人の武装勢力がこの道を使って南下し、周囲の村々を襲撃したのだ。
内戦は、推定150万人の死者を出し、2005年に包括和平合意のもとで終結した。この合意の根幹には、石油収入の分配に関する合意があった。
現在、この「血のロード」にはパイプラインが引かれ、南部で採掘された原油は精錬・輸出のため北部に送られている。
スーダン南部の一部地域に影響力を持つある牧師は、「石油による利益は生産された地域には戻ってこない。石油からは何も得られていない」と話した。【11月24日 AFP】
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【南部独立への保険をかける中国企業】
このスーダンでの石油開発に大きく関わっているのが中国企業です。
****中国石油天然ガス集団、スーダンの主要製油所を拡充へ*****
中国国営の中国石油天然ガス集団(CNPC)は20日、スーダンの主要製油所拡充に関する合意をスーダン政府と締結したことを明らかにした。
CNPCとスーダン側が折半出資するハルツームの製油所の精製能力は、同国で精製される石油製品の80%超に相当する。CNPCはスーダンの石油産業にとって最大の投資家。
製油所拡大の具体的な内容は明らかにしていない。(後略)【11月20日 ロイター】
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その中国企業も、2011年の南部帰属を決める住民投票をにらんでの対応を進めているとか。
****中国式「資源」獲得術****
ハルツームから約1200キロ離れた南部最大の都市ジュバに、中国の国旗が翻ったのは、08年9月のことだ。中国総領事館が開設されたのである。
イスラム教徒中心のスーダン政府が1983年、キリスト教徒などの多い南部にもイスラム法を導入しようとして南北間で内戦に突入。約20年間で200万人が死亡したといわれる。
2005年の和平合意に伴い、来年、南部独立の是非を問う国民投票が行われるのだが、これに中国が危機感を抱いている。中国が権益を持つ石油鉱区が南部に集中しているためだ。
内戦中、南部の敵だったオマル・バシル大統領を支援してきた中国に対して、「(独立すれば)中国企業との契約は破棄されるだろう」と、反政府軍の元司令官が脅したこともある。
そこで駆り出されたのが、スーダン進出の中国企業だった。南部地域で道路の舗装工事を行ったり、井戸の掘削事業を展開したりと、ビジネスを度外視した活動に汗を流している。
中国が06年から南部ワウに平和維持活動(PKO)部隊を派遣しているのも、これと無関係ではない。
そして、ジュバで五星紅旗を振りかざし陣頭指揮を執るのが総領事館なのだ。ジュバの兵士、ユアル・マジョク氏(28)はこう語る。
「南部はこれまで中央政府から差別されて開発が遅れていたが、中国は道路やホテル、病院を建設してくれた。良き友人だ」 【1月6日 産経】
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なかなかに、したたかな中国です。
資源が確保できるなら、北だろうが南だろうが・・・、人権侵害があろうがなかろうが・・・ということでしょう。