孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  カザ地区で高まる緊張

2010-01-08 21:54:12 | 国際情勢

(1月1日のイスラエルによるガザ空爆で死亡した少年の葬儀
“flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/4235560183/)

【ガザ封鎖の矢面に立つエジプト】
一昨年の12月27日に開始されたイスラエル軍のガザ攻撃は、大規模空爆から地上侵攻に至り、戦闘は約3週間に及びました。
この戦闘により、パレスチナ側で1300人以上、イスラエル側で13人の犠牲者が出ました。
戦闘から1年経過して、今またガザで緊張が高まっています。

****エジプト:ガザとの境界で緊迫 密輸トンネル封鎖巡り*****
封鎖下のパレスチナ自治区ガザ地区とエジプトの境界にあるラファ検問所付近で6日、ガザ住民とエジプト治安部隊が衝突し、エジプト人警官1人が死亡、ガザ住民10人が負傷した。ラファ近郊では5日夜から6日未明にも、エジプト側からガザへ援助物資を運び込もうとした国際市民団体がエジプト治安部隊と衝突し、55人が負傷するなど緊張が高まっている。

ラファでは、地下トンネルによるエジプト・ガザ間の密輸を防ぐため、エジプト政府が地下に鉄製の遮断壁を埋設するなどしている。6日は、生活物資の入手などで密輸に頼っているガザ住民数百人が、検問所付近で抗議デモを実施。境界の分離壁を挟んでエジプト側に投石するなどした。治安部隊側は発砲などで応酬した。死亡したのは、監視塔の警官とみられる。
ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは、エジプトの地下遮断壁建設を強く非難。境界付近では最近、ガザ側からエジプト人作業員を狙った発砲事件が相次いでいた。

一方、ラファの西にあるエジプトの港湾都市エル・アリッシュでは、英国を拠点とする国際的な市民団体「ビバ・パレスタイン」と機動隊が衝突。同団体によると55人が負傷した。エジプト当局者は毎日新聞の取材に対し、「5日夜に大型車両約60台のラファ通過を拒否した。交渉は一時決裂し、衝突に発展した」と話した。
この団体には英下院議員ジョージ・ギャロウェイ氏も参加。救急車など約200台で医療物資などをガザに運搬するため、エル・アリッシュで待機中だった。団体側は結局、許可を得た約150台でガザ入りし、08年末のイスラエル軍のガザ攻撃以降最大規模の援助物資を運び込んだ。

ガザ地区への国際支援活動に対し、エジプト政府は極めて神経をとがらせている。ハマスはエジプトで非合法化されている事実上の最大野党「ムスリム同胞団」と関係が深く、ガザ支援がエジプトの国内政治にも影響を与えかねないからだ。
一方で、エジプト政府の対応は、イスラエル支配下にあるパレスチナ自治区への支援拒否とも受け止められかねない。反イスラエル感情の強いアラブ諸国から反発を招くことも考えられ、エジプト当局は微妙なかじ取りを求められている。【1月7日 毎日】
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【エジプトの仲介も困難に】
イスラエルに囲まれた形のガザ地区は、イスラエル以外としては、唯一エジプトと接していますが、イスラエルとの関係に配慮したエジプトは、ガザ地区との境界線を封鎖しています。
実際には、この境界線の地下に何百本もの密輸トンネルが掘られ、ガザ地区住民150万人の市民生活を支えています。(同時に、ガザを実効支配するハマスへの武器密輸も行われています。)

エジプト側治安当局は密輸業者から賄賂をもらい、この密輸を黙認していると言われていますが、最近では、記事にもあるように、エジプトはトンネル密輸を防ぐ地下遮断壁の建設を進めており、建設中止を求めるハマスと対立が激しくなっていました。
記事にある、ラファやエル・アリッシュでのエジプト側治安当局とパレスチナ、その支援組織との衝突によって、エジプトが矢面に立たされる形で緊張が高まっています。

封鎖状態が続く中で、ハマスへの住民からの不満も大きくなっているとも言われますが、ガザ地区での圧倒的な武力を後ろ盾とするハマスの「力の統治」は健在で、「(ハマスと対立する穏健派)ファタハさえ声を上げられずにいる」状態とも。昨年12月の世論調査では、ハマスのハニヤ最高幹部はガザで4割強の支持を維持しています。【09年12月27日 毎日】

一方のエジプトは、イスラエルへの配慮と同時に、ハマスの生んだ母体でもある国内の原理主義組織「ムスリム同胞団」の勢力拡大に神経をとがらせています。

エジプトはハマスと穏健派ファタハの和解交渉を仲介しており、また、12月下旬にムバラク大統領がイスラエル・ネタニヤフ首相と会談、1月4日にはパレスチナ自治政府のアッバス議長と会談するなど、中東和平全体の仲介役も担っています。
ガザ境界線でのエジプトとパレスチナ住民やハマスとの対立は、こうした仲介を困難にすることが危惧されています。

【イスラエル 報復空爆】
緊張の高まりに乗じて、ガザ地区側からのロケット弾攻撃が激しさを増し、それに報復するイスラエル側の空爆を呼ぶ・・・というように、不穏な空気も漂っています。

****イスラエル、ガザ報復空爆…1人死亡2人負傷****
イスラエル軍は、7日深夜から8日未明にかけて、パレスチナ自治区ガザ市など4か所を空爆、AFP通信によると、少なくとも1人が死亡、2人が負傷した。
昨年1月のガザ紛争停戦後、最も広範囲にわたる空爆で、ガザ情勢が再び悪化する恐れが高まっている。
同軍によると、空爆したのは、ガザ市内にある武装勢力の武器製造工場のほか、エジプトとの境界地帯にあるガザ南部の密輸トンネル2か所、ガザ中部に掘られたイスラエル潜入用のトンネルなど。ガザの武装勢力が7日、イスラエル領内に約10発のロケット弾や迫撃砲弾を撃ち込んだことへの報復だったという。
ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは、対イスラエル攻撃を自制しているが、他のパレスチナ武装勢力は攻撃を続行。このため、イスラエル軍は空爆で応戦している。【1月8日 読売】
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【アッバス議長の求心力低下】
今日のパレスチナ情勢を難しくしている大きな要因に、パレスチナ側の自治政府・アッバス議長の求心力が低下していることがあります。結果、ハマスの行動もコントロールできない状況にあります。
イスラエルが占領するヨルダン川西岸のユダヤ人入植問題で、アッバス議長は当初、アメリカ・オバマ政権の後ろ盾でイスラエルに入植活動の「完全凍結」を迫りました。しかし、イスラエルの強硬な反対でオバマ政権はイスラエル側の一時的部分凍結を評価する方向に転換し、アッバス議長は「はしごを外された」格好になっています。
その前にも、イスラエルのガザ攻撃を非難する国連人権理事会の審議について、アメリカは審議先延ばしに応じるよう自治政府に圧力をかけ、これに応じたアッバス議長はパレスチナ内部で不興を買っています。


不満を募らせたアッバス議長は次期議長選への不出馬を表明する事態となっており、今後誰が自治政府を指導していくのか不透明な情勢です。
この問題に関しては、現在イスラエルで収監中の自治政府次期議長として有力視されるマルワン・バルグーティ氏(50)が捕虜交換で解放されるかどうかが注目されていることは、09年12月25日ブログ「ガザ侵攻から27日で1年 ハマスの思惑 アッバス議長の去就」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20091225)でも触れたところです。

【イスラエル国内の不穏な空気】
イスラエル国内には不穏な空気があると報じられています。
イスラエルの占領地ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地問題を巡り、入植活動の「一時凍結」を決めた同国のバラク国防相の暗殺をほのめかす脅迫文が、相次いで国防相あてに送りつけられています。
差出人は不明ですが、入植活動を推進するユダヤ教の極右勢力による可能性が高いとされています。
イスラエルでは95年、オスロ合意(パレスチナ暫定自治合意)を導いたラビン元首相が、占領地を「神から与えられた土地」と信じるユダヤ教原理主義者に射殺されています。治安当局には、現状と当時の雰囲気が似ていると指摘する声もあるとか。【1月6日 毎日より】

和平交渉に消極的な右派ネタニヤフ首相がリードするイスラエルにはあまり期待できないというのが一般的な見方ですが、国内に上記のような極右勢力を抱える状況では、右派のネタニヤフ首相でないと国内を抑えきれないという側面もあるようにも思えます。

いずれにしても、1300人以上の血を吸ったパレスチナの大地に新たな血が流されることがないように、ハマス、自治政府、イスラエルの当事者は十分に熟慮してもらいたいものです。

コメント
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