孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ・中国  グーグル問題で表面化する「表現・言論の自由」と「サイバー攻撃の脅威」

2010-01-14 21:12:07 | 国際情勢

(中国政府の言論統制に抗議して、中国市民によって北京のグーグル社の前に手向けられた花束。 こんなことをして大丈夫なのか・・・と心配にもなりますが、それぐらいの自由は保障されているのでしょうか。 もちろん、TV報道によれば、「グーグルはアメリカの手先だ!」といった趣旨の批判もネット上にはあるそうです。 “flickr”より By endworld
http://www.flickr.com/photos/endworld/4271972274/)

【「自己検閲」はもはや続けられない】
米インターネット検索最大手のグーグルが、中国にける同社サイトへの攻撃と中国政府による検閲に抗議して、中国からの事業撤退もありうるとしている件は、アメリカ政府と中国政府の表現・言論の自由に関する考え方、サイバーテロという新たな領域での脅威に対する安全保障のあり方に絡んで、今後さらに大きな問題となることも考えられます。

****グーグルが中国撤退の可能性 ハッカー攻撃と検閲理由****
米インターネット検索最大手のグーグルは12日、中国版検索サイトや中国の現地法人を閉鎖する可能性があると発表した。中国からの同社サイトへの攻撃が激しくなっていることに加え、検索を制限する検閲が続いていることを理由にあげている。
米国を代表するネット企業による異例の声明で、人権問題や検閲を巡る米中間の摩擦が今後高まる可能性がある。

グーグルによると、昨年12月中旬、中国から、同社のコンピューターへの攻撃があったという。グーグルの電子メールサービス「Gメール」を使っている中国の人権活動家が標的にされ、2件のメールアドレスの情報がのぞき見られたようだという。ただ、見られたのはアドレスの開設日といった情報だけで、メールの中身には及ばなかったとしている。
また、米国や欧州で、中国の人権問題を問題にしている活動家のGメールも攻撃を受けていたことが判明。グーグル以外にも、ネット、金融、メディアなど20以上の大企業が、中国から同様のハッカー攻撃を受けていたという。
グーグルは、攻撃が「かなり高度なものだった」として、組織的な関与を示唆。「ネットの安全性だけでなく、表現の自由という、より大きな問題にかかわる」と主張している。

グーグルはさらに、2006年の進出以来、中国当局の求めで実施している人権関連サイトの非表示といった「自己検閲」は、もはや続けられないとして、「中国事業を続けるかどうか検証する」と表明。今後、検閲なしで検索結果を表示できるよう、中国当局と協議するという。グーグルはこうした検討が「中国版サイトや中国事業の閉鎖に発展する可能性があることは認識している」と述べている。
米国務省のクローリー次官補は朝日新聞に対し「中国を含む各国には、ネットの安全性を確保する義務がある。我々とグーグルは今回の発表前に連絡をとっていた」と話した。
グーグルは検索で世界最大手だが、中国市場では中国企業「バイドゥ(百度)」に大きく先行されている。【1月13日 朝日】
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グーグルは06年に中国市場に進出する際、中国政府の要請を受け入れ、検索表示の自主制限を続けてきましたが、今回の抗議のもとで自主規制を一部解除しており、14日までに、これまでできなかった一部の写真や情報の検索表示が可能になっています。 
これまで規制されていた、中国当局が民主化を求める学生らを武力鎮圧した天安門事件(89年)で、戦車に1人で立ち向かう男性を撮影した有名な写真や、戦車の発砲・虐殺された遺体の模様、また、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の写真などが検索表示されるようになっているようです。
なお、中国国内の検索エンジン大手、百度(バイドゥ)などでは引き続き表示できない状態だとか。【1月14日 毎日より】

【サイバー攻撃の背後に中国政府】
また、「かなり高度なものだった」とされるサイバー攻撃に関しては、中国政府の関与を指摘する向きもあります。

****グーグルへのサイバー攻撃は「中国の情報活動の一環」、専門家*****
米インターネット検索大手グーグルが中国事業からの撤退を検討する事態となった同サイトに対するサイバー攻撃は、コンピュータープログラムのソースコードといった知的財産や、人権活動家に関する情報を収集する中国の活動の一環だったという見解を、米国のコンピューター・セキュリティの専門家が示した。
コンピューター・セキュリティ関連の国際会議「ブラックハット」やイベント「デフコン」の創始者で、米国土安全保障諮問会議のメンバーでもあるジェフ・モス氏は13日、「中国は自分の国益になるあらゆる情報を吸い上げようという戦略だ。グーグルのユーザーを標的にしたとしても私は驚かない」と語った。
グーグルは12日、中国の人権活動家を標的にした「高度に洗練された」サイバー攻撃に抗議して、これ以上中国政府によるインターネットの検閲に屈しないと宣言し、中国事業からの撤退も検討すると明らかにした。

一方、アドビも13日、自社を含む複数の企業が管理するネットワークが9日に組織的なサイバー攻撃を受け、各社と共同で調査していることを発表した。30社以上が中国から同様のサイバー攻撃を受けたと報じられている。
攻撃を受けた企業は、世界で広く使われているインターネット閲覧プログラムやテキストや動画の処理ソフトなどを作っており、公開されていないそうしたソフトの情報を利用したいサイバースパイにとって恰好の標的だとモス氏は指摘する。
グーグルはサイバー攻撃の背後に中国政府がいると明言したわけではない。しかし、攻撃の洗練度や標的となった企業、攻撃が中国国内から行われたことから、同政府の関与があったものとみている。【1月14日 AFP】
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【オバマ米大統領:中国におけるインターネットの自由を支持】
今回のグーグルの行動はアメリカ政府と事前に協議されたもので、アメリカ政府もグーグルを全面的にバックアップする動きを見せています。

****米大統領、中国でのインターネットの自由を支持=ホワイトハウス****
オバマ米大統領は、インターネット検索大手グーグルが中国でのインターネット検閲やサイバー攻撃への懸念から同国撤退の可能性に言及していることを受け、中国におけるインターネットの自由を支持する考えを示した。 
ギブズ大統領報道官が明らかにした。
報道官は、グーグルが、中国に関する発表内容をオバマ政権に対し事前に伝えていたことも明らかにした。【1月14日 ロイター】
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【胡錦濤総書記:ネット統制の生ぬるさに強い不満】
中国政府にとっては、チベットやウイグルなどの民族分裂や「台湾独立」、民主化要求など、一党独裁を脅かす恐れのある「有害情報」が社会に流れることは、共産党による情報独占を突き崩し、「社会の安定」を揺るがしかねないことにもなるため、今後は、他の検索企業への影響を防ぐため、グーグル社を含む各社と個別の協議を重ねて、検閲への「協力」を改めて迫っていくものとみられています。
“中国筋によると、「胡錦濤総書記自身がネット統制の生ぬるさに強い不満を抱いている」とされ、今年は言論統制の中でもネット統制をさらに強化する方針という。2008年以来、一党独裁を批判する「08憲章」など、大胆な政治改革要求文書がネット上で広がるなどの事態を受けたものだ。
新華社電によると、今月12日、北京で開かれた党の精神文明建設指導委員会の会議では、イデオロギー担当の李長春・党政治局常務委員が「未成年者の健全な成長促進を目標に、法に基づき、ネットでわいせつな有害情報を広める行為を取り締まり、社会文化環境を浄化しなければならない」と述べ、一層の統制強化を宣言した。”【1月 14日 読売】

14日、国務院新聞弁公室(SCIO)の王晨・主任のウェブサイト上に掲載された声明では、ポルノ、サイバー攻撃、オンライン詐欺が、インターネット上の安全を確保する上で大きな脅威となるとの認識の上で、国際的な協力体制強化に前向きに取り組む姿勢を示していますが、政府はインターネット上の意見を「指導」する役割を果たすべきであり、ネットメディアは政府と協力する「多大な責任」を負う、としています。
ただ、グーグルへの直接の言及はありませんでした。【1月14日 ロイター】

【米政府を含む多数のコンピューターが中国国内からとみられる攻撃の標的に】
言論・表現の自由の問題は、アメリカ・中国双方にとって国是にも関わる問題で、容易に譲歩できないところですが、今回事案は更に、サイバー攻撃という新たな脅威に対する安全保障のあり方にも関係してきます。

おりしも、オバマ米政権は台湾への地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)売却を確認して、米中間に緊張が高まっています。中国は売却停止を求める抗議談話を発表、弾道ミサイル迎撃実験を行うなど強硬な姿勢に出ています。
クリントン米国務長官は訪問先のハワイで、緊張はこれ以上高まらないとの見方を示し、中国の出方を静観する構えであるとも報じられています。

米国防総省のグレッグソン次官補は13日、下院軍事委員会の公聴会に提出した書面で、中国が、台湾に対し軍事的に優位になったと自ら判断したうえで「最後通告」を突きつける恐れがある、との懸念を示していますが、この中で、中国がサイバー攻撃の能力を向上させていることにも懸念を表明。米政府を含む多数のコンピューターが中国国内からとみられる攻撃の標的になり続けているとし、「中国の軍や当局が実施、あるいは容認しているのか不透明だ」と言及しています。【1月14日 朝日より】
また、「米中間の誤解や連絡ミスが危機や衝突につながる可能性もある」と指摘し、グレグソン氏は安定した両国関係を通じ、軍事面で相互の信頼を育てる必要性を訴えています。
G2とか運命共同体とも言われる米中関係ですが、なかなかに危うい面も垣間見えたりもします。

「インターネットのセキュリティ問題」と「サイバースペースにおける軍縮」については、昨年12月12日、アメリカ政府がロシア政府および国連の軍縮委員会と話し合いを開始したと、米紙ニューヨーク・タイムズが報じています。
サイバースペースにおける軍縮条約に関する交渉については、かねてからロシアが求め、アメリカは拒絶してきましたが、オバマ政権は、サイバー兵器の開発を行う国が増える中、国家間の軍拡競争を抑止するには新たな対応策が必要だとの認識を示したものとされています。
ただ、“ロシアはサイバー兵器の開発を規制する条約に重点を置いている一方、米国はこの話し合いを利用して、インターネット犯罪に対抗するための国際協力を強化したい意向だ。同紙によると、米政府はインターネット犯罪対策を強化すれば、軍事的なサイバー攻撃への防衛力の強化につながるとの立場を取っている。”と、考え方に違いがあるようです。【09年12月13日  AFP】


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