孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ハイチ大地震  中国の「地震外交」 政治不在・貧困と災害の「負の連鎖」

2010-01-15 22:27:24 | 災害

(ハイチ 頭に乗せているのは彼の負傷した子供です “flickr”より By United Nations Photo
http://www.flickr.com/photos/un_photo/4275491498/)

【「記者はいらない、もっと医師をよこせ」】
ハイチ大地震は、“国際赤十字赤新月社連盟(本部ジュネーブ)は人口約960万人のうち被災者が300万人に上ると推計。プレバル大統領は米CNNテレビに死者が「3万人から5万人」に達すると語る一方、ベルリーブ首相は死者が「数十万人に及ぶ」との懸念を示した。交通や通信インフラなどの壊滅的な打撃もあって、救援活動は難航している。”【1月14日 読売】というように、被害がどのくらい拡大するのかさえわからない状態です。

ただでさえ貧弱だったインフラが壊滅し、国家機能も麻痺状態で治安・救助体制が殆ど機能していないようです。
****「無政府状態」の悪夢再び=略奪、銃声後絶たず-ハイチ****
大地震に直撃されたハイチでは、震災後の復興はおろか、真っ先に取り組むべき被災者救助や支援作業すら満足に進まない事態が続いている。政権中枢が壊滅的被害を受け、統率する「司令塔」が不在のためだ。度重なる政情不安に悩まされてきたハイチは、再び「無政府状態」の悪夢にさらされようとしている。

真っ暗闇の中を、人々が叫び声を上げながら右往左往する-。米CNNテレビは余震による「津波の情報」におびえた市民の表情を克明に報じた。結局はうわさにすぎなかったが、通信が遮断され、「孤島」に置き去りにされたという意識が強い被災者にはとっては一大事だ。こうした混乱に乗じ、商店が略奪されたり、銃声が聞かれたりしたとの報告も後を絶たない。
現地からの映像を見ても、治安維持を担うはずの警察や国連派遣部隊の姿は、街頭でほとんど見られない。目に付くのは、行き場のない市民や血の付いた包帯を巻いた負傷者、路上に遺体が並ぶ無残な光景だ。
世界中のメディアの関心が集まる中で、AFP通信は「記者はいらない、もっと医師をよこせ」と声を荒らげる男性の怒りを伝えた。【1月15日 時事】
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【米:数千人規模の派遣を検討】
国際的な支援物資も空港には届いているようですが、道路を覆いつくすがれきを除去する重機もなく、支援物資の輸送は難航しています。
国連派遣部隊についても、“平和維持活動ハイチ安定化派遣団(MINUSTAH)高官は14日、記者会見で、ハイチの大地震で司令部ビルの倒壊などにより、これまでに要員36人の死亡を確認したと発表した。約200人の要員とまだ連絡が取れておらず、犠牲者数はさらに増える可能性が高い”【1月15日 朝日】という状態で、あまり多くを期待できません。

こうした状況では、救援隊を送り込むことが現地にとっては一番助かることでしょう。
各国が救援チームを派遣しています。
****ハイチ地震で国際救援活動本格化 治安悪化の懸念も*****
大地震直撃のカリブ海のハイチでは14日、欧米などの救援チームが現地入りし、国際的な救援活動が本格化。被災地では治安悪化が懸念され、国連は平和維持活動部隊である国連ハイチ安定化派遣団の態勢を立て直し、活動を支援する方針。国連によると、最大被災地の首都ポルトープランスには中国、米国の救援チームが既に到着。フランス、アイスランドなどの救援隊も現地入りする。【1月14日 共同】
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地理的にも近く、歴史的にも深い関わりを持つアメリカがいち早く救援隊を派遣するというのは、納得できるところです。
“オバマ米大統領は13日、「迅速で組織的かつ積極果敢な救援活動にあたるよう政府に指示した」と述べ、行方不明者の救出活動と緊急支援に取り組む姿勢を強調。災害救援チームに加え、米空母を現地へ差し向けるとともに、海兵隊の現地派遣も検討するなど、04年のインド洋大津波以来の大規模な支援に乗り出した。”【1月14日 毎日】
“海兵隊や陸軍部隊を数千人規模で派遣することを検討している”【1月14日 毎日】ということですので、今後の復興作業の中心的な役割を担うことになるでしょう。

【中国:したたかな「地震外交」】
一方、目を引いたのは中国の迅速な活動です。
****中国が「地震外交」、ハイチに即座に救援隊*****
中国が台湾と外交関係のあるハイチに、赤十字を通じて100万ドルの緊急人道援助を表明したほか、即座に国際救援隊を派遣し、活動を展開するなど存在感をアピールしている。
国連平和維持活動(PKO)に参加している隊員ら8人が建物の下に埋まっているとの状況もあるが、将来的な外交関係樹立に向けた「地震外交」を推進する狙いとみられる。

新華社電などによると、国際救援隊50人は現地時間14日未明に、救助機材と救援物資約20トン、救助犬3頭を伴ってハイチに到着。工兵チームが直ちにPKO隊員の捜索を行うとともに、医療チームも臨時病院を設置し、ハイチ住民への診察治療に当たっている。無事だった中国のPKO隊員も救援活動に加わったという。
中国外務省の姜瑜・副報道局長は14日の定例会見で、「中国政府は海外に滞在する国民の安全を重視しており、どこにいようとも、困難や危険な目に遭っているなら全力で助けるだろう」と述べ、外交関係の有無にかかわらず救援活動に力を入れる姿勢を示していた。
中国は、2004年から、警察の暴動防止部隊をハイチでのPKOに派遣しており、現在は8度目の派遣で計148人が滞在している。【1月15日 読売】
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“台湾と外交関係を持つハイチに対して、PKOだけでなく、地震の救援でも中国の活動をアピールし、ゆくゆくは外交関係樹立につなげたい思惑もありそうだ。”【1月14日 時事】という説明を聞くと、なるほどと思うのですが、それにしても地球の裏側での出来事に対する迅速さは、中国外交の気合いを感じさせます。

なお、台湾メディアの報道によると、“(台湾の)在ハイチ大使館は倒壊し、徐勉生大使が左足を負傷、公使も顔にけがをして手術をしたが、いずれも命に別条はないという”【1月15日 時事】とのことです。
PAC3売却問題では緊張が高まっている米中台の関係ですが、台湾大使館員の救援に中国救援隊があたる・・・といった演出も今後あるのかも。

【初の黒人国から中南米最貧国へ】
ハイチ大地震のニュースを聞いて、個人的に一番関心が持たれたのは、地震のこと自体よりも、1804年に世界で初めての黒人国として独立したハイチが、なぜ人口の8割が1日当たり2ドル以下で生活するような中南米の最貧国になったのかということでした。

1804年に独立し、世界で初めての黒人国となった。人口の8割が1日当たり2ドル以下で生活する米州の最貧国。同じ島のドミニカ共和国はそれなりの経済成長を実現しているのに。
そのあたりは、クーデターと独裁の繰り返しだったハイチの歴史を見ればある程度納得もできるのですが、“米国の研究者、ジャレド・ダイアモンド氏は著書「文明崩壊」の中で、ハイチ荒廃の原因について、1957年から86年まで続いたデュバリエ父子による独裁政治を挙げる。独裁者が私腹を肥やすことに終始したため、インフラ整備は放置された。この無策によって自然災害に脆弱な社会構造になってしまったというわけだ。ドミニカ共和国にも独裁政権時代があったが、インフラ整備は進められ、ハイチだけが中南米カリブ海諸国で取り残された。”【1月13日 毎日】とのことです。

【「施しだけでは、貧困や災害の根本的な対策にはならない」】
そして政治的無策と貧困は、地震やハリケーンといった自然災害の被害を増幅させます。
****ハイチでM7 最貧国の悲劇 「負の連鎖」繰り返す*****
政情不安と貧困にあえぐ中米の島国ハイチを12日、大地震が直撃した。ハリケーン被害など大規模災害が相次ぎ、貧しさが被害をさらに増幅する悪循環から抜け出せない同国にとって、今回の地震が極めて深刻な打撃となるのは確実だ。(松尾理也)
 ▼生活費2ドル以下
「救出作業が徹夜で進められたが、進展ははかばかしくない」。13日朝、ニューヨークの国連本部で会見した潘基文事務総長はいらだちの表情をみせた。一方で、「われわれは首都周辺に3千人のPKO部隊を擁している。治安維持が最大の使命だ」と表情を引き締めた。
ハイチは事実上、国連PKOを含む外国からの援助がなければ国の運営が立ちゆかない状況にある。1人当たり国民総所得は560ドル(2007年)と中南米の最貧国に位置する。約1千万人の人口のほとんどは、1日の生活費が2ドル以下という貧困層だ。
これに加え、大規模災害の被害は後を絶たない。04年にハイチを襲ったハリケーンでは約3千人が死亡。08年11月に起きた学校倒壊事故では90人以上が犠牲になった。
ハイチでは治水も不十分な上、人々が生活のために樹木を切り倒すため、森林破壊も激しい。建築の安全性基準も確立しておらず、自然災害による被害が貧困によって増幅される構図がくっきりと浮かんでいる。
 ▼政情も安定せず
政治的にも不安定な状況が続いている。1990年に初めての民主選挙が実施されたあともクーデターや暴動などが続き、2004年には右派民兵組織の蜂起によって政権が倒れる事態も起きた。その後も治安の回復はなかなか進展せず、国連部隊に頼る構造が定着しつつある。
また20世紀初めには軍を送って占領した歴史もある米国は、現在も密接な関係にある。1994年にはクリントン大統領(当時)がハイチの民政復帰のため、米軍を進駐させた。そのクリントン氏は現在、国連ハイチ担当特使を務め、緊急援助の実施に手腕をふるう。
だがハイチ側には、外国からの援助に全面的に依存せざるを得ない実情に対する不満もふくらむ。現職のプレバル大統領は就任後、「施しだけでは、貧困や災害の根本的な対策にはならない」と訴えた。米紙ニューヨーク・タイムズはこうした発言を振り返りつつ、「今回も同様の構図に陥る可能性がある」と警鐘を鳴らしている。【1月14日 産経】
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