(2003年1月 タリバン政権が崩壊し、アフガニスタンに新たな国家が建設されると思われていた頃のパキスタン-アフガニスタン国境、トルカム。 現在は混乱のなか、パキスタンによって、NATO部隊向け補給物資輸送が停止されています。 “flickr”より By mbiturbo
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【激しさを増すパキスタン側での米軍の攻撃】
アメリカは、アフガニスタン戦略の要となる隣接するパキスタン北西部への無人機による攻撃を激化させています。
この攻撃によるアルカイダ幹部死亡も伝えられています。
****アルカイダ幹部、パキスタンで米軍無人機の攻撃受け死亡か****
パキスタンの情報当局者は28日、米軍の無人機によるとみられる攻撃でアルカイダのシェイク・ファテフ幹部が死亡したとの見方を示した。
当局者は、同幹部は今月26日、アフガニスタンとの国境にほど近い北ワジリスタン地区を移動していたところ、乗っていた車両がミサイル攻撃を受けたと説明。
パキスタンとアフガニスタンの武装集団を監視するLongWarJournal.orgによると、同幹部は、今年5月の無人機攻撃によって死亡したムスタファ・アブ・ヤジド幹部の後任として、両国でのアルカイダの作戦を指揮していた。
米国は最近、同地区での無人機による攻撃を激化させており、今月だけで少なくとも20回実施されたことが確認されている。【9月29日 ロイター】
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しかし、パキスタンでの一連の作戦は、パキスタン側との軋轢も強めています。
****NATO軍が越境攻撃、パキスタン軍兵士死亡*****
パキスタン北西部クラム地区で9月30日、アフガニスタンに展開する北大西洋条約機構(NATO)軍のヘリコプターの攻撃でパキスタン軍の国境警備兵3人が死亡した。パキスタン当局はこれに抗議して、NATO部隊向け補給物資の陸上輸送ルートを封鎖した。
NATO軍の説明によると、ヘリコプターは自衛のため、29日未明にパキスタン領空に入り、地上から銃撃があったと確信した兵士らが「武装した複数名」に向かって攻撃を行ったという。
パキスタン政府は現在、事件を調査しており、また米国防総省は、問題解決に向けて米当局高官がパキスタン側と会談を行っていることを明らかにした。
米国はパキスタン北西部の部族地域に国際テロ組織アルカイダの拠点があり、アフガニスタン武装勢力の基地となっていると主張しており、同地域一帯に繰り返し無人機による攻撃を行っている。また、西側情報機関が前月突き止めたと発表したアルカイダによる英仏独3か国での同時テロ攻撃計画は、同地域の武装組織によるものとされる。
こうしたなか、パキスタン南部シンド州のシカルプル地区では1日、駐アフガニスタンNATO軍への補給物資を運ぶトラックやタンカー数十台が、武装した20人ほどの集団に襲撃されて炎上する事件が発生した。【10月1日 AFP】
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【「NATOのトラックを1台も通すな」】
もとより、アメリカとパキスタンの関係は微妙で、アフガニスタンにおける対テロの戦いの同盟国という立場にはありますが、インドに対抗してアフガニスタンにおける自国影響力を保持しようとするパキスタンの三軍統合情報部(ISI)が、アフガニスタンのタリバン、ハッカーニー・ネットワーク、そしてグルバディン・へクマチアルの率いるヒズブ・イスラミ(イスラム党)とつながりを持っているという事実は、以前からの周知のところです。
7月に内部告発サイト『WikiLeaks』に公開された文書においても、パキスタンとイスラム過激派との強いつながりが明らかにされています。
今回のパキスタンによるNATO部隊向け補給物資の陸上輸送ルート封鎖は、こうした微妙な関係を一層複雑にしそうです。【10月1日 Newsweek】はこうした状況を「敵と味方の区別は曖昧になるばかり」と報じています。
****タリバン掃討 無人機空爆にパキスタンがキレた*****
NATOの空爆に前例のない検問所封鎖で対抗したパキスタン。敵と味方の区別は曖昧になるばかり
パキスタン政府は9月30日、アフガニスタンに駐留する外国軍の主要な物資輸送ルート上にある国境の検問所を封鎖した。イスラム原理主義勢力タリバンと疑われる標的を狙ったNATO(北大西洋条約機構)による自国領内での空爆に対する苛立ちが原因だ。「NATOのトラックを1台も(北西部国境地帯の)トルカム検問所から通すなと命じられている」と、国境検問を担当する政府当局者は取材に答えた。
アフガニスタンへの通過を認められない石油運搬車やコンテナトラックは、トルカムの検問所で長い列を作っている。パキスタン政府がNATOに対して自国領内での空爆と無人偵察機による攻撃をやめるように圧力をかけているのは明らかだ。
トルカム検問所はNATOが兵器以外の物資をアフガニスタンに輸送するとき使用する2つの主要供給ルートの1つにある。NATO用物資の80%以上はパキスタン経由で運ばれるが、今は石油タンクローリーやコンテナトラックの多くがカイバル・バクトゥンクワ州の州都ペシャワルまで戻り、道路脇に停まっている。地元住民は停車中のトラックがタリバンの注意を集めるのではないか、とパニック状態だ。
国境封鎖のきっかけになったのは、9月25日と27日にNATOが立て続けに実施したアフガニスタンに隣接する北西部の部族地帯への空爆。アメリカとパキスタンの当局者によれば、この2回の攻撃で武装勢力と見られる56人が死亡した。
30日には、検問の先のパキスタン領にNATOのアパッチ攻撃用ヘリコプター2機が200メートル侵入し、国境警備兵が常駐していた拠点をミサイルで攻撃した。NATO側は兵士がライフルでヘリを攻撃したため、やむなくミサイルを発射したと説明している。この攻撃で警備兵3人が死亡し、4人が負傷した。(中略)
CIA(米中央情報局)のレオン・パネッタ長官は30日に首都イスラマバードへ急行し、パキスタン政府に事態の収拾を働きかけた。
ペトレアス司令官の新戦略の一環か
今回の空爆は、アフガニスタン駐留米軍司令官を兼務するデービッド・ペトレアス新NATO軍司令官の下でこの夏から始まった以前より攻撃的な新戦略の一環とみられている(前任のマクリスタル司令官は市民の犠牲を最小限にするため、空爆を控えていた)。
今回の攻撃以前にも、北西部部族地帯のワジリスタンではかつてないほど無人攻撃機の空爆が増加。9月には22回の攻撃があり、数百人が死亡した。そのうちタリバンや国際テロ組織アルカイダの武装勢力も何人かいたが、ほとんどは一般市民だった。
軍事アナリストは、タリバン関連組織の武装勢力ハッカニ・ネットワーク制圧のために北ワジリスタン州を解放することをパキスタン政府が拒否したため、無人攻撃機の空爆が増えたと指摘している。ハッカニは訓練を受けた推定4000人のゲリラで構成され、アフガニスタン領内でのNATO攻撃を非難されている。
「パキスタン政府の態度に米政府がいらだつのも無理はない」と、イスラマバード在住の軍事専門家ハミド・ミルは言う。
パキスタン政府はずっと米軍の無人偵察機の空爆を非難してきたが、輸送ルートの封鎖はかつてない措置だ。パキスタン軍指導部や一般市民の間で高まる米軍とNATOへの怒りを考慮したのかもしれない。
北ワジリスタン州の州都ミーランシャーには、数千人規模の武装した部族勢力が集結し、もしパキスタンの政府と軍が自分たちを守れないならアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領に命を守ってもらう、と警告している。「パキスタンが我々を守れないなら、部族地域の自治を宣言しよう」と、部族地域の指導者マリク・イクバル・カーンは演説で群集に叫んだ。
パキスタンのレーマン・マリク内相は、無人攻撃機の空爆が続くなら政府は断固とした行動を取るとほのめかしていた。そして30日の空爆の後、記者たちに「今回は現実の行動に出る」と告げた。「もうたくさんだ」と、マリクは言う。「我々は敵なのか味方なのか。NATOははっきりするべきだ」
それはアメリカのセリフでもあるのだが。【10月1日 Newsweek】
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【パキスタン国民感情では「米国は敵」】
アメリカ、パキスタン双方が、相手に対して「我々は敵なのか味方なのか」と苛立っている状況です。
パキスタン国民のアメリカに対する反感は厳しいものがあります。ピュー・リサーチセンターが今年4月に行った世論調査によると、アメリカに好感を持っているのはパキスタンでは17%で、調査対象の22カ国のうち、エジプト、トルコと並んで最下位。オバマ大統領を信頼しているのはわずか8%。これは単独の最下位だったそうです。
****パキスタン:国民の6割が「米国は敵」…米世論調査機関****
・・・・オバマ政権は、アフガンの武装勢力タリバンや国際テロ組織アルカイダの幹部が、アフガン国境沿いのパキスタン内に潜んでいるとみて、無人機による攻撃を強化している。調査では、この攻撃を「悪い」と考える人が93%、「罪のない市民が犠牲になっている」との回答も90%に上り、対米感情の悪化につながっていることを裏付けた。
パキスタンの対米不信には歴史的な背景がある。79年にアフガンに侵攻した旧ソ連に対抗するため、米国はパキスタンを通じてイスラム勢力を支援。89年の侵攻終了でパキスタンから手を引いたが、01年の米同時多発テロ後は再び、対テロ対策でパキスタンと共闘するという、「身勝手」な政策を取ってきたためだ。
対米感情改善への思惑も込めて、オバマ政権は昨年、5年間で計75億ドル(約6482億円)の非軍事支援を決定。先日パキスタンを訪問したクリントン国務長官は、このうちダム建設などで5億ドル(約432億円)を支出すると発表した。だが調査によると、16%が米国からの援助はないと信じている。【7月30日 毎日】
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アメリカは自分の目的を達成したら、さっさとこの地から去っていく・・・・パキスタン政府のアフガニスタン・タリバンとのかかわりも、パキスタン国民のアメリカへの反感も、そのあたりが背景にあります。