(中央、青いネクタイの人物が「自由党」のウィルダース党首 右端はキリスト教民主同盟幹部のようです。
10月2日 “flickr”より By mikael.zellmann
http://www.flickr.com/photos/mikaelzellmann/5044035305/ )
【オランダ:極右「自由党」の要求のみ組閣合意】
オランダでは今年2月、アフガニスタンに派遣したオランダ軍部隊の駐留延長を巡る閣内不一致からバルケネンデ連立政権が崩壊。6月9日の総選挙では財政再建や移民問題が争点となり、大胆な赤字削減策を掲げた自由民主党、反移民の自由党が躍進しました。
自由民主党、キリスト教民主勢力の中道右派2党としては、「自由党」を取り込まないと過半数を確保できませんが、反移民を掲げる極右政党「自由党」のウィルダース党首は一昨年春、イスラム教の聖典コーランを非難する短編映画「フィトナ」を公開し、国際社会から批判を浴びた人物です。その「自由党」を含めた形の連立については拒否反応も強く、新たな組閣ができずにいました。
結局、選挙から100日以上経過した9月30日、ブルカ禁止など「自由党」の要求を呑み、中道右派2党による少数内閣を「自由党」が閣外協力で支える形で合意しました。
もっとも、オランダでは選挙から政権樹立に日時を要するのは今回だけではないようで、1977年には207日を要しています。
これはこれまで“世界記録”でしたが、つい先日イラクに抜かれたとか・・・。
****オランダでもブルカ禁止の動き、政策合意に極右政党の要求反映****
オランダで30日、新連立政権樹立で合意した中道右派の自由民主党(VVD)、キリスト教民主勢力(CDA)、閣外協力することで合意している同国極右政党の自由党(PVV)が政策合意を発表した。合意内容には、イスラム教徒の衣装であるブルカを禁止し、移民を半減させる政策が盛り込まれている。
しかしCDA党内ではこの政策について意見が割れており、2日に行われる党大会で最終的な結論を出す。
ヘールト・ウィルダース党首率いる同国極右政党の自由党(PVV)は、キリスト教民主勢力と財界重視の中道右派・自由民主党による少数与党の連立政権に閣外協力し、議会で政権与党を支持して過半数を確保する見返りに、新政権の政策決定に関与する方針で2党と合意している。
「反イスラム」で知られるウィルダース議員は、「オランダに新たな風が吹く」「ブルカが禁止される」と述べ、さらに移民の5割削減が行われることになるだろうと語った。
ウィルダース氏はイスラム教徒の移民禁止や、新たなモスク建設の中止、イスラム教徒の頭部用スカーフへの課税などの政策を提唱している。新政権の提案する緊縮財政策を支持する見返りに、政権の移民政策に関与したい考えを示していた。同氏は、イスラム教徒に対する憎悪を引き起こしたとして訴追されており、裁判が4日から開始される。【10月2日 AFP】
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オランダは「寛容の精神」で知られる国だそうですが、現在、人口(約1650万人)の約2割を移民が占めています。
【中道派も極右にアピール】
このブログでもこれまで取り上げてきたように、反移民・反イスラムの風潮が急速に強まる動きは、移民が増加し経済的・文化的軋轢が強まっている欧州社会に共通したものです。
****極右の炎に欧州が燃える****
・・・・新たなヨーロッパ政治の幕開けだ。10年前、急進主義的な政治勢力は周辺的な存在にすぎなかった。そんな彼らが今、各国の立法府で議席を獲得し、他党の政策や主張に影響を与え始めている。
中道右派のキリスト教民主主義政党か、中道左派の社会民主主義政党かという二極的政治の時代は終わった。世界最大の民主主義地域ヨーロッパでは、国家のアイデンティティーに基づく分離主義政治が始まろうとしている。
(中略)
(共産主義という)共通の敵が消え、(泥沼化したアメリカ主導のイラク・アフガニスタン戦争、アメリカ的自由市場への疑念もあって)アメリカとの同盟が最優先との合意も失ったヨーロッパの政治は、よりどころをなくしている。「ゲゼルシャフト(社会)」の政治から「ゲマインシャフト(共同体)」の政治へ移行するヨーロッパ各国では、極端な信条を掲げる人々から成る新たな共同体が生まれている。
自国の苦境は移民の(またはEUの、ムスリムの、ユダヤ人の、市場経済の、アメリカの)せいだと信じる彼らがつくる政治的共同体はいずれも社会に害を与える。社会全体を統治するには、妥協と優先課題をめぐる選択が欠かせない。だが今やヨーロッパの推進力となったアイデンティティー重視の政治がしているのは拒絶すること、「ノー」と叫ぶことだけだ。
(中略)
中道派も極右にアピール
極右政党に対する有権者の支持はもはや、一部の国に限定された「小さな現象」とは片付けられない。今やヨーロッパは極右政治の温床になっている。
各国の最近の選挙では極右政党がかなりの得票率を記録した。フランスの国民戦線は11.9%、オランダの自由党は15.5%、スイスの国民党は28.9%、ハンガリーのヨッビクは16.7%、ノルウェーの進歩党は22.9%。ベルギー、ラトビア、スロバキアなどでも極右政党が台頭している。
こうした政党の大半は00年になってから支持を仲ばしたか、10年前には存在すらしていなかった。極右政党の国政進出はヨ-ロッパ政治にとって共産主義国家の消滅以来、最大の衝撃だ。
(中略)
新しい政治の波は周辺部にとどめておくこともできない。フランスのニコラ・サルコジ大統領は低迷する支持率や影響力を回復しようと大衆迎合的な方策に走り、少数民族ロマの「弾圧」作戦を開始して祖国へ送還している。
この冷酷な措置には、サルコジの支持者の多くも衝撃を受けた。欧州委員会のビビアン・レディング副委員長は、ロマ追放は第二次大戦当時のユダヤ人迫害に匹敵すると発言。サルコジはナチスと同じだとほのめかした。
それでも今後、極右勢力にアピールするサルコジ的手法に多くの中道派が倣うことは疑いようがない。中道左派のドイツの社会民主党(SPD)は既に、移民を強制的にドイッ社会に同化させる政策に消極的だとして、アンゲラ・メルケル首相を批判している。
人種差別的でも急進主義的でもないイギリスのキャメロン政権も、外国人労働者の受け入れを厳しく制限する方針を明らかにした。雇用者の反対にもかかわらず保護主義的措置に踏み切ったのは、外国人や移民に反感を抱く有権者を取り込むため。彼らの支持を集める極右のイギリス国民党は今や、欧州議会に2議席を保有している。
従来の主流政党の衰退はヨーロッパの将来像そのものをむしばむ。(中略)
経済的苦境への不満に付け込むことにたけた極右勢力にとっては、こうした状況も幸いしている。
ヨーロッパが高成長を続けていた60年代、外国人労働者は自国の経済に貢献する貴重な戦力と見なされていたが、今では就職の機会を奪う泥棒扱いされている。そして彼らの流人を招く元凶として非難を浴びているのが、人の自由移動を保障するEUの方針だ。・・・・(後略)【10月6日号 Newsweek】
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【拒絶すること、「ノー」と叫ぶことだけだ】
“自国の苦境は移民の(またはEUの、ムスリムの、ユダヤ人の、市場経済の、アメリカの)せいだと信じる彼らがつくる政治的共同体はいずれも社会に害を与える。社会全体を統治するには、妥協と優先課題をめぐる選択が欠かせない。だが今やヨーロッパの推進力となったアイデンティティー重視の政治がしているのは拒絶すること、「ノー」と叫ぶことだけだ”という欧州極右の在りようは、今アメリカで猛威をふるう「ティーパーティー」にも共通する性格に思えます。
“ティーパーティーの特徴は、そのアナーキーな性格だ。彼らはあらゆる権威に敵意を示し、いつもけんか腰の言動を取り、自分たちが非難する政策に対して建設的な代替案を示すことはない。”
“過去へのノスタルジーを別にすれば、ティーパーティーに最も特徴的なのは怒りだ。自分たちが苦労しているのは、自分たちよりも社会階層が上か下の誰かのせいだ。リベラルなメディアに職業政治家、それに「いわゆる専門家」やウォール街の金融機関などのエリート。彼らは中流納税者を犠牲にして、貧困者やマイノリティー、移民(または金持ち)の便宜を図っている・・・。”【9月29日号 Newsweek日本版】
日本がながく民主主義の手本としてきた欧米における最近の風潮、強烈な民族主義を発散する特異な政治体制の隣国への反作用・・・これから日本社会も少なからず影響を受けるのかも。