![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/d2/5a88a99c7124c251ee661343a217db97.jpg)
(大会に備えて行われた市内道路舗装の化粧直し 7月頃の様子 “flickr”より By rustyproof http://www.flickr.com/photos/14406301@N08/4903565878/ )
【「生活できる場所ではない」】
当然ながら日本ではなじみがありませんが、英連邦に属する71カ国・地域のスポーツ選手が参加する「コモンウェルスゲーム」(英連邦競技大会)がインド・ニューデリーで10月3日から開催される予定です。
しかし、大会準備の遅れ・不手際が指摘され、中国と並ぶ「新興国の雄」インドの評価に大きな傷をつけています。
****歩道橋崩落 選手村不評 インドの「英連邦スポーツ大会」大丈夫?****
インドの首都ニューデリーを舞台に、英連邦に属する71カ国・地域のスポーツ選手が参加する「コモンウェルスゲーム」(英連邦競技大会)の開催が、ここへきていっそう危ぶまれている。来月3日に開会が迫る中、21日にはメーン会場近くで歩道橋が工事中に崩落し、作業員27人が負傷する事故が起きた。また、現地入りした海外チームからは施設に関する苦情が続出。治安への懸念も重なって、海外の有名選手の不参加表明も相次いでいる。
21日に崩落したのは、開会式などが行われるメーン会場のジャワハルラル・ネール・スタジアムと、道路を隔てた駐車場を結ぶ約95メートルの歩道橋。作業員がコンクリートを橋板に流し込んでいたところ、橋板が橋げたの手前から崩落したという。原因は調査中だ。
大会開催中に歩道橋が崩落していたら大惨事となる可能性があった。22日には重量挙げの会場の天井の一部が落ちるという事故もあった。だが、ディクシット・デリー準州首相は同日の記者会見で、一連の事故などについて「深刻ではない」と一蹴(いっしゅう)した。
一方、選手村の衛生状態も問題となっている。大会前に現地入りした海外の代表団は、新たに建設された選手村の部屋やトイレの汚さに「ショックを受けた」といい、「生活できる場所ではない」として、インド側に改善を迫っている。地元の大会組織委員会側は「外国の衛生基準はわれわれのものとは異なることを理解してほしい」と弁明している。
治安面でも依然、懸念が残る。19日にはイスラム教のモスク(礼拝所)の近くで、台湾人観光客が発砲され負傷する事件があった。インド側は大量の治安要員や警官を投じて警備に当たるが、20日にはオーストラリアのテレビ局が、爆弾製造キットを大会会場に持ち込めたとして、警備の脆弱(ぜいじゃく)さを報道した。こうした治安面での不安を理由に、昨年の世界陸上を制した女子円盤投げのサミュエル選手(豪)など有名選手が、相次ぎ不参加を表明する事態になっている。【9月23日 産経】
**************************
相次ぐ有名選手の出場辞退や参加国の選手団派遣延期で、一時は開催そのものも危ぶまれる状況でしたが、イングランドが9月23日に参加を正式決定したことで危機は沈静化に向かったそうです。【9月27日 時事ドットコムより】
なお、イギリスのエリザベス女王は訪問を取りやめたそうで、女王が観戦しないのは王座に就いて初めてのことだそうです。
インドを含めてアジア各国を旅行していると、「外国の衛生基準はわれわれのものとは異なることを理解してほしい」というインド側の言い分も多少わかる気もしますし、他国において自国と同じレベルを求める欧州側の主張にやや傲慢さを感じる部分もあります。
【土地取得の問題、手抜きに汚職】
ただ、それにしても今回の大会準備はお粗末だったようです。
そのあたりを、国家の威信をかけて北京五輪を「成功」させた中国と比較した記事があります。
****「五輪」が分ける中国との明暗*****
08年の北京五輪は中国にとって、首都・北京が21世紀のグローバル都市の1つであることを裏付ける最高の瞬間となった。自分たちも同じ道を、とインドは意気込んでいた。
インドの首都ニューデリーでは10月3日からコモンウェルス・ゲームズ(英連邦競技大会)が始まる。イギリス連邦の54の国・地域が集う4年に1度のスポーツの祭典で、開催地に決まったときにインドはこう豪語した。この大会はインドが第三世界の地位を脱却したことを証明し、インドを20年か24年の夏季五輪開催国の有力候補とするだろう。
しかし今のところ、インドの進歩どころか後進ぶりばかりが目立つ。大会の準備には工事の遅れ、煩雑な事務手続き、予算オーバー、手の付けられない腐敗が付きまとい、テロの脅威とデング熱の流行にも悩まされてきた。
(中略)
(中国との)最大の違いは実行力だ。北京は08年の五輪の準備に早々と取り掛かり、06年にIOC(国際オリンピック委員会)がペースを落とすよう求めたほどだった。「水立方」は予定より8ヵ月、「鳥の巣」は2ヵ月早く完成した。
一方、英連邦競技大会のほうは、準備が遅れて開催が危ぶまれると、連盟側から再三にわたって警告を受けた。インド政府自ら決めた完成期限に間に合わないことも4回に及んだ。インドが得意とするフィールドホッケーの練習場は、当局が問に合わないことを認めて建設中止になった。
多くの場合、インドの土地取得をめぐる手続きの煩雑さと訴訟が障害になっている。おかげで、関連施設の建設が本格的に始まったのは08年-ニューデリーでの開催が決まってから5年後だった。
土地取得の難しさは、外国からの投資が中国に比べてインドで少ない大きな理由になっている。特にその傾向は製造業で顕著。インドでは工場や倉庫の土地を購入しにくいため、国内の自動車大手タタ・モーターズでさえ、超軽量で超低価格の小型車「ナノ」の工場用地を探すのに苦労した。
表向きは完成した施設でも安心できない。主に手抜き工事をめぐる懸念が付きまとう。陸上競技場は、下にトンネルを建設する際の地固めが不十分だったせいで、コース内側部分が地盤沈下している。レスリング競技場は雨漏りがひどい。テニスの選手からは、コートの表面が粗悪で、けがにつながりかねないとの声が上がっている。
一番の不安は汚職防止のための政府機関である中央監視委員会(CVC)が、一部競技場のコンクリートが強度基準を満たしておらず、セメントの量が水増し申告されていると突き止めたことだ。捜査当局は安全証明書が偽造されたのではないかとの疑いを抱いた。外国人専門家は以前から、今回の大会で競技場の崩壊事故が起きるのではないかとの不安を非公式に目にしていたが、CVCの告発がそれに拍車を掛けた。
業者による巨額の水増し請求も判明した。トイレットペーパーー個につき90ドルも請求していたケースもあるという。汚職疑惑をめぐっては大会組織委員会の財務担当を含め、委員が辞任する事態も起きている。
中国にも腐敗は蔓延しているが、北京五輪では手抜き工事の心配はまったくなかった。国の威信が懸かっているので、メンツをつぶされないよう政府が目を光らせたのだ。ニューデリーでは政府の監督が行き届かなかった。
北京では大気汚染が選手と観客の健康上、最大の懸念だったが、政府は北京の空を(いくらかは)奇麗にすることに成功した。五輪期間中は工場を閉鎖し車の運転を制限し、人工雨まで降らせたのだ。
ニューデリーの大気は、実は北京以上に汚れている。そのほかにもデング熱の流行から食品汚染の可能性、テロ攻撃の不安まで、選手は数え切れないほどの懸念に直面するだろう。(後略)【10月6日号 Newsweek日本版】
************************
中国は北京五輪を開催し、ロシアは2014年ソチ冬季五輪、ブラジルは14年のサッカー・ワールドカップ(W杯)と16年リオデジャネイロ五輪を控えています。新興4カ国(BRICs)の一角として大規模なスポーツ大会の開催能力を示すはずでしたが、どうも失敗したようです。
【3分の1をラーマ神に】
インド関連では、お馴染みの宗教対立の話題もあります。
****インドの聖地、2つの宗教に分割判決 対立再燃も****
ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が所有権を主張し合い、宗教対立の火種となっているインド北部アヨディヤのモスク跡地をめぐり、同地に近いラクノウの高裁は30日、ヒンドゥー側が3分の2、イスラム側が3分の1を分割所有するよう命じる判決を言い渡した。判決をきっかけに対立が再燃する可能性があり、インド政府は全土で警戒態勢を敷いている。
アヨディヤには、ムガール帝国時代の16世紀に建造されたモスクがあった。しかし、ヒンドゥー教徒は、叙事詩「ラーマーヤナ」の主人公ラーマ神(最高神ビシュヌの化身)が生まれた聖地だと主張。1950年以降、双方が所有権の確認を求めて民事訴訟を起こしていた。訴訟が長期化する中、ヒンドゥー原理主義者が92年、モスクの破壊を強行。それをきっかけに全土で宗教暴動が起き、2千人以上の死者を出した。
判決は考古学的調査を基に、ヒンドゥー寺院の廃虚の上にモスクが建設されたと認定したうえで、ヒンドゥー教とイスラム教の団体にそれぞれ3分の1、聖地の核心部を含む3分の1をラーマ神という神格に分け与えるとした。
判決後、ヒンドゥー原理主義団体は「ラーマ神の生誕地と認定された。壮大な寺院を再建しよう」と歓迎。イスラム側は判決への評価を避けつつ、最高裁に上告する意向を明らかにした。
宗教対立の再燃を懸念する政府は、アヨディヤがあるウッタルプラデシュ州に約20万人の治安要員を動員。過去に大規模な暴動が起きた西部ムンバイでは、判決前に約7千人を予防拘禁した。扇動的なメールの送信を警戒して、全土で携帯電話メールの大量送信サービスを停止した。【10月1日 朝日】
****************************
“叙事詩「ラーマーヤナ」の主人公ラーマ神に聖地の核心部を含む3分の1を与える”という裁判判決は笑えますが、記事にあるように、この施設を巡っては92年12月、2万人を超えるヒンズー教徒がそれまであったイスラムモスクを襲撃して破壊。その後、各地で宗教抗争が起こり、2千人以上が死亡したとされているだけに笑いごとではすみません。
シン首相は9月29日、判決を前に国内主要紙に意見広告を掲載、「判決後はすべての国民に平和と秩序を保つことを要請する」と全土に冷静な対応を呼びかけています。
英連邦競技大会準備不足に見られるインド社会の問題、そもそも社会の根底にある貧困、宗教対立、カースト制などの根本問題・・・世界経済の明日を担うインドが抱える問題は深刻です。もう一方の中国社会の「特異性」も併せて、世界経済の牽引車には不安があります。