(ロシアの基地使用再開が報じられているベトナム・カムラン湾 “flickr”より By dreaminspirer
http://www.flickr.com/photos/dreaminspirer/2559019846/ )
【中国の主張は「理性を失っている」】
尖閣諸島での問題、今回の劉暁波(リウ・シアオポー)氏(54)がノーベル平和賞を受賞したことに見られる中国の政治・社会体質など、深まる経済的関係の一方で、「異形の大国」中国とどのようにつきあっていくべきか、日本だけでなく多くの国が悩んでいるところです。
ベトナムも、南シナ海のパラセル(西沙)諸島の領有権をめぐり、中国と厳しく対立しています。
“1954年のインドシナ戦争の終結に伴い旧宗主国のフランスが去ってから、北緯17度以南に成立したベトナム共和国(南ベトナム)が同諸島の西半分、中国は1956年には東半分をそれぞれ占領し、以後18年にわたり、南ベトナムと中国の対峙が続いた。ベトナム戦争中の1974年1月、中国軍は西半分に侵攻して南ベトナム軍を排除し、諸島全体を占領した。この際、南ベトナムの護衛艦1隻が撃沈された(西沙諸島の戦い)。1974年1月19日に中華人民共和国によって占領、その後、同諸島は中国の実効支配下にある。
現在は中華人民共和国が支配しているが、ベトナムと中華民国(台湾)も領有権を主張している。”【ウィキペディア】
昨年3月ごろから海洋権益を守るためとして、中国は漁業監視船による監視を強化。ベトナム漁船の拿捕が相次いでいます。
9月11日には、同諸島の周辺海域でベトナム漁船が中国当局に拿捕され、乗組員9人が拘束される事件が発生。ベトナム側は抗議を続けていますがが、乗組員の解放に至っておらず、両国間の緊張も高まっています。
****南シナ海 深い対立****
■国防相会議で議論も
南シナ海ではパラセル諸島やスプラトリー(南沙)諸島の領有権をめぐり、海洋権益の拡大を目指す姿勢を強める中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部の国が対立している。特に中国当局によるベトナム漁船の拿捕はここのところ頻発しており、今月12日にハノイで開催予定のASEAN10力国と日中米ロなど8カ国が初めて参加する拡大国防相会議でも焦点となる可能性がある。
国営ベトナム通信によると、拿捕されたのはベトナム中部クアンガイ州の漁船1隻。両国政府は発生直後から外交ルートを通じて交渉を続けていた。そんななかで、ベトナム外務省が今月5日に在ハノイの中国大使館に対し、ベトナムの主権を主張したうえで拿捕と拘束にあらためて抗議したことを、同通信が明らかにした。
ベトナム当局者によると、中国側は「漁船が爆発物を使った漁をしていた」との理由で漁船所有者に罰金の支払いを求め、払えば乗組員と船を解放すると伝えた。ベトナム側は「漁船はベトナム領海内で通常の漁をしていた」とし、乗組員9人の即時無条件の解放を要求。同当局者は、中国側から当初受け取っていた報告書には漁船が爆発物を積載していたことに触れていなかった点を挙げ、罰金の支払い命令に対し「理性を失っている」と批判したという。
南シナ海の軍事情勢やベトナム政治に詳しいオーストラリア国防アカデミーのカール・セアー教授は「今回のベトナムの抗議のコメントはこれまでで最も強い」と指摘。背景としてベトナムでは中国の経済的、軍事的な存在感が高まるにつれ、エリート層の間に反中感情が高まっていることから、指導部人事が協議されるとみられる来年のベトナム共産党大会を控えて対中外交で強い態度をとらざるをえなくなっていると分析する。これまでベトナムは表立っては、強い中国批判を控えてきた。
シンガポールのシンクタンク、東南アジア研究所のイアン・ストーリー特別研究員は「ベトナム政府は、尖閣諸島沖で逮捕された中国人船長の無条件解放を日本に求めた中国政府と同じように、ペトナム人漁師の無条件解放を要求することで中国の二重基準を強調しようとしている」と分析する。中国が南シナ海では自国船舶の航行の権利を主張する一方で、東シナ海では日本船の航行の権利を否定するという矛盾した姿勢を浮き彫りにさせる狙いだとの見方だ。
中国は昨年以降、パラセル諸島海域に漁業監視船を派遣。セアー教授の調べによると、今年に入って中国当局に
拘束されたベトナム人漁師は40人余りにのぼるという。【10月9日 朝日】
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【アメリカ、更にロシアに接近 中国を牽制】
ベトナムは強まる中国の脅威を牽制するべく、最近、旧敵アメリカとの接近を図ってきました。
****ベトナム:米と国防次官級協議 南シナ海巡り中国けん制も****
ベトナムと米国は8月17日、ハノイで95年の国交正常化後、最高レベルの防衛対話となる国防次官級協議を開催した。かつて米国と戦い南北統一を果たしたベトナムは、急速に米国との軍事協力を推進。中国とは南シナ海の領有権問題で対立し、歴史的にも警戒感が強いだけに、中国封じ込め姿勢を強めるオバマ米政権の思惑を巧みに利用しているとみられる。(中略)
両国間では今月上旬、国交正常化15年の祝賀行事の一環として、米原子力空母「ジョージ・ワシントン」が、ベトナム戦争時に米軍の一大拠点となった中部ダナン沖合の南シナ海に到着。ベトナム政府や軍の幹部らが空母に乗り込み、軍事協力強化をアピールしたばかり。
中国は今年3月、南シナ海について初めて、領土保全に関する「核心的利益」と表明。中国政府の同海域の権益獲得に臨む強い姿勢の表れと受け止められた。
中国の南進圧力に抵抗してきた長い歴史を持つベトナムが、これを深刻な脅威ととらえたのは明らかで、ベトナムを議長国に7月、ハノイで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議では、東アジアサミットに来年から米国とロシアを参加させる方針が決まった。
米空母のベトナム訪問に関し中国は「米越両国がそれぞれを利用して中国をけん制しようとすれば、後悔することになる」(楊毅・中国海軍少将)と強い調子で警告。ベトナムにとっては中国との経済関係は自国の経済成長に欠かせないものでもあり、ビン次官は17日の防衛協議後、「協力強化は他国の利益を侵害するものではない」とも強調している。【8月18日 毎日】
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アメリカだけでなく、ロシアともカムラン湾の海軍基地の使用再開に向けた協議が行われています。
****ロシア、カムラン湾再進出 ベトナムと基地使用合意へ 露紙****
ロシアの有力紙「独立新聞」は7日付で、ロシアが南シナ海に面するベトナム南部、カムラン湾の海軍基地の使用再開に向け、近く同国と合意する可能性があると伝えた。南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島、パラセル(同・西沙)諸島などでは、中国とベトナムなど周辺国が領有権問題を抱えており、ロシアの基地使用再開は中国の警戒を招く可能性もある。
同紙はロシア国防省当局者の情報として、10月下旬のメドベージェフ大統領のベトナム訪問時に、基地使用再開に向けた合意文書が交わされる可能性があると報じた。同当局者は「政治的決定がなされてから3年間で、使用再開の準備が整う」としている。
旧ソ連は1979年、25年間を期限とするカムラン湾基地の無償使用協定をベトナムと締結した。その後、ベトナム側が協定更新の場合には有償に切り替える方針を示したことから、露太平洋艦隊は2002年5月に撤退、東南アジア唯一の拠点を失った。
ロシアのカムラン湾基地使用再開には、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内でのロシアの存在感を強めて、原子力発電や地下資源、兵器などの市場を確保しようとする狙いがうかがえる。オバマ米政権もASEAN重視の政策に転換し、南シナ海への関与姿勢を示している。
また、ベトナム側にも、ロシアを南シナ海に関与させることで、スプラトリー、パラセル両諸島の領有権をめぐり対立する中国を牽制(けんせい)する思惑があるとみられる。(後略)【10月8日 産経】
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【中国と正面から対立するのは想定外】
ベトナムの対応に見られるように、尖閣諸島の問題を含めた最近の中国の強硬な姿勢は、周辺ASEAN諸国における中国脅威論を高める結果にもなっており、台頭する中国を牽制してアジアへの関与を強めたいアメリカの思惑とも合致して、対中国という点でASEAN諸国とアメリカの関係が強まるところともなっています。
****中国船長釈放 「南シナ海問題」米と連携 “厳戒”ASEAN****
日本が9月25日、中国漁船衝突事件で勾留していた船長を釈放したことを、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国は「中国政府の強い圧力で釈放を決めた」(シンガポール・ストレーツ・タイムズ紙)と受け止め、今後、南シナ海の大半の領有を主張する中国が攻勢を強めてくると、警戒している。ただ、ASEANも中国経済に大きく依存し、中国の政治的影響力も無視できない。ASEANでは中国との正面衝突を避ける一方、米国などのアジア地域への関与を促し、地域での力の均衡をはかっていく構えだ。
「中国の勝ちというだけでなく、(アジア)地域の他の国々に隣の大国(の中国)を、いいかげんに扱ってはならないという警告にもなった」。南シナ海の南沙諸島(英語名・スプラトリー)の領有権をめぐり、中国と対峙(たいじ)するフィリピンの有力紙マニラ・タイムズは25日付の社説で、今回の措置をこう評した。
ASEAN各国は「一昨年の金融危機以降、経済での発言力をつけた中国はとみに傲慢(ごうまん)になった」(ASEAN外交筋)と感じている。オバマ米政権が東南アジアへの関与を強める姿勢を示したことは、「アジアは中国がすべてではない」(シンガポールのリー・シェンロン首相)と、「独善的姿勢」(マニラ・タイムズ)を強める中国を警戒するASEAN各国にとって歓迎すべきことだった。
ただ、もともと中華系が多く今も、中国本土からの移民が増えるマレーシアやシンガポールだけでなく、ベトナムやフィリピンのように領有権をめぐり血を流した国でも中国と正面から対立するのは想定外だ。
米国とASEANの首脳会議の共同声明が、中国に配慮した表現に落ち着いたのも、こうした背景がある。声明の草案には「ASEANと米国は、南シナ海の領有権紛争で主張を通すための武力行使や威嚇に反対する」という中国非難の表現があったが、直前に削除された。
ASEANとしては今後、米国の支持を受けつつ、2002年の「南シナ海の関係諸国行動宣言」に基づく交渉実現を中国に働きかけていく構えだ。【9月26日 産経】
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中国非難の表現だけでなく、会議では、「南シナ海を含む紛争の平和的解決の重要性で合意した」としているものの、共同声明は原案にあった「南シナ海」の語句を削除しています。これについては、上記記事にもあるように中国との正面からの対立は避けたいASEAN諸国側の意向のほか、中国側が猛烈に巻き返し、伝統的な友好国のラオスやカンボジア、ミャンマーなどへの外交攻勢を強めて骨抜きにした・・・との見方もあるようです。
北沢俊美防衛相は10日、ASEAN拡大国防相会議に出席する各国の国防相と会談するため、ベトナムに向けて出発します。11日にゲーツ米国防長官ら6カ国の国防相と個別に会談し、沖縄・尖閣諸島沖での海上保安庁巡視船と中国漁船との衝突事件を踏まえ、東シナ海での権益拡大を図る中国の動向をめぐり意見交換する予定です。(微妙な情勢下、外務省の判断で個別会談相手国に中国が含まれておらず、北沢大臣が立腹した・・・との話もあるようですが)