(アメリカ・スタンフォード大学で、ロシアの10の目標(教育、透明性と腐敗一掃、絶えざる政治改革、信頼できる司法制度など)について語るメドベージェフ大統領 “”より By jurvetson
http://www.flickr.com/photos/jurvetson/4730224329/ )
役人の汚職や非効率さは、どこの国でも大なり小なり指摘されるところですが、新興国の一角を目指すロシア社会も根深い問題を抱えているようです。
【汚職追放で、市民生活混乱】
下記は、メドベージェフ大統領の進める腐敗一掃が、かえって役人の仕事へのやる気なさを助長しているとの報道です。
****「賄賂なし=役人やる気なし」地獄の日常****
腐敗撲滅でクリーンにはなったけど、賄賂をもらえなくなった役人は最後の人間らしささえ失ってしまった!
ロシアの役所が非効率なのは今に始まった話ではない。ドミトリー・メドベージェフは08年に大統領に就任した際、国を挙げて汚職と戦うと宣言した。それ以来、贈収賄を減らし効率を上げることを目指して官僚制度の中央集権化を進めてきた。
だがこの改革は、腐敗が最も進んだ政府上層部の汚職を減らすより、市民生活を混乱に陥れているという批判が強い。
賄賂が禁じられた今のロシア人の暮らしがどんなに地獄か。それを知るには、一市民の目線から平均的なお役所仕事のあり方を追ってみるのが一番。中でも遺産相続がわかりやすいだろう。
私の祖母は去年の11月に他界した。それから半年経ってようやく、家族は相続の手続きに取り掛かることができた。これから書くのは、祖母の唯一の相続人である私の母が、家族の暮らすアパートの名義を祖母から自分に書き換えたときの苦労話だ。
母はまず、祖母がアパートを所有していたことを示す書類を市の公証役場に提出しなければならなかった。提出を受けて公証役場は所有権移転の手続きを開始するのだが、ここでさまざまな書類やら証明書を出すよう求められる。
オリジナルの書類だけでなくコピーも添えなくてはならないため、母は全部で20部もの書類をそろえなければならなかった。必要な書類を集めるために、母は不動産や相続に関連する6つか7つの役所を回る羽目になった。
これらの窓口の営業時間たるや、不便という一言では片付けられない。どの窓口も時間によって業務内容が異なる。午前中は提出書類を受け付ける時間で午後は各種の承認や政府の認可書類を交付する時間という風に。3〜4時間しか開いていない窓口に書類を提出するために、人々は朝早く、場合によっては前の日の夜から列を作る。
役所に手続きを支援する姿勢はほとんど見られない。電話をかけてもまずつながらない。インターネット上にも手続きに関する説明はほとんどなく、あってもあいまいだったり省略されすぎていたりして、必要な書類が何と何なのかまるではっきりしないのだ。
あらゆる書類のコピーを添付することを求められる場合もあれば、求められないこともある。コピーの添付を求められたが手元にないという場合も、窓口にコピー機はない。
手数料の支払いもその場ではできない。汚職撲滅運動の影響で、カネを直接役所に渡すことは許されなくなったのだ。
国営銀行で支払いを済ませたら、領収書を再び窓口に持参しなければならない。支払いのために列に並んだかと思えば、領収書を提出するためにまたもや並ばなければならないのだ。
どの役所も稼動しているのは全体の50%以下といったところ。例えば窓口が3つあれば、開いているのはたいてい1つだけ。待合室が2つあれば、椅子が置いてあるのは片方の部屋だけだ。十分に椅子が用意されているところなんて1つもない。
まるでジョージ・オーウェルの世界
目指す許可や承認が降りるまで下手すれば何カ月もかかる。たいていの場合、承認書類の受け取りには発行窓口の受け付け時間の前から列に並ぶ必要がある。
これだけでも相当につらいのにそれに輪をかけるように、こうした窓口には通常、エアコンの設備はない。困り果て、いらいらしたお年寄りがたくさん来ているのにだ。職員に人当たりのいい人はまずおらず、好きな時間に休憩を取っているようだ。
手続きをスムーズに進めるためのうまい手はないのかって? 昔は役人がその役目を果たしてくれた。【9月30日 マヤ・ドゥクマソバ Newsweek】
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【「道路関連のカネの7割が腐敗した役人とそれに近い企業トップの懐に消えている」】
次は、道路建設が進まず物流を阻害しているロシアの道路事情の背景にも、官僚機構の腐敗体質や非効率があるとの指摘です。
****劣悪な道路事情 進まぬ整備、腐敗を象徴****
ロシアの道路事情というと首都モスクワの大渋滞が有名だが、問題は決してそれだけにとどまらない。首都を少し離れれば幹線道路でも陥没だらけの片側1車線が普通で、物資の輸送効率も欧州方面からロシアに入った途端に大きく落ちる。ロシアの道路が質量の両面で不足していることの根底には建設費が高いという問題があり、このことは広大なロシアが発展する上での大きな障害にもなっている。
各種統計によると、ロシア国内の道路総延長は1995年の94万キロから2007年の96万3千キロとわずかしか増えておらず、08年の建設も2500キロにとどまった。これに対し、国土面積がロシアの約56%の中国では08年だけでロシアの21倍超にあたる5万3600キロが建設され、総延長は190万キロとロシアの約2倍に達した。ロシアでは、5万以上の居住区に舗装道路が通っていない。
既存道路の質も問題だ。自動車所有者の社会団体「選択の自由」のルイサコフ代表は「路面の平坦(へいたん)さや重量耐久性など法的基準に合致している道路は連邦道の37%、地方道の24%にすぎない。使われている技術が古いために道路の“寿命”は短く、標識の設置などにも問題は多い」とし、「状況は危機的だ」と話す。世界経済フォーラムの国際競争力ランキングは、ロシアの道路の質を133カ国中の118位と評価している。
「ロシアでは自動車や燃料関連でわれわれが支払っている税金のほとんどが他の分野の支出に振り向けられており、予算における道路の優先順位は最も低い」。ルイサコフ氏は道路建設が進まない最大の理由は予算の分配方法にあるとし「多くの地方では新規建設はおろか修復にすら金が回っていない」と説明する。
資金難に加え、高すぎる道路建設費が状況をさらに悪化させている。ロシア誌の報道によれば、舗装道路1キロの“平均価格”は中国で220万ドル(約1億8600万円)、米国で590万ドル、欧州連合(EU)が690万ドルなのに対し、ロシアでは1760万ドルと突出。モスクワで建設が進められている第4環状道路の1キロあたり建設費は、米カリフォルニア州で07年に供用が始まった高速道路の108倍という額だ。
こうした内外価格差をめぐっては、政権側から「統計の取り方が恣意(しい)的だ」といった反論がある。また、ロシアの国土が広大で気象条件が厳しく、建設資材の運搬にも困難が伴うといった特殊事情も考慮する必要があろう。ただ、異常な建設費の根底に官僚機構の腐敗体質や非効率があることでは多くの専門家が一致している。
反政権派に転じたネムツォフ元第1副首相は露メディアに「道路関連のカネの7割が腐敗した役人とそれに近い企業トップの懐に消えている」と指摘。道路関連の入札は最初から上積みされた評価額に基づいて行われており、受注側が落札額の3~5割をキックバックする構図があるとみている。業者側の手抜き工事も日常茶飯事だ。(中略)
露誌「新時代」によれば、EUではモノが1日1千キロのペースで輸送されるのに対し、ロシアでは300キロ以下。劣悪な道路事情は、ロシアの消費財価格を押し上げている大きな要因の一つとなっている。ロシアは交通事故による死者が10万人あたり25・2人と世界ワースト2でもあり、道路事情の改善は急務というほかない。【10月5日 産経】
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【“監視”が必要な議員活動】
社会に広がる腐敗・汚職、非効率。
それを正していくべき議会でも非常識がまかり通っているようです。
****出席88人なのに賛成449人!? 露下院で大規模代理投票発覚*****
ロシア下院で大規模な「代理投票」が行われたことが判明し、下院の委員会は個人を識別できる高精度カメラを議場内に設置するといった対策の検討に乗り出した。
しかし、下院で圧倒的多数を誇るプーチン首相の与党「統一ロシア」には、私的なビジネスで忙しい議員が多く、“監視強化”を渋っているようだ。
問題が表面化したのは5月。法案採決のさい、下院(定数450)の議場には88人しか出席していなかったのに、449人分の「賛成ボタン」が押されたのが発端だった。
インターネット上には、議場内を駆け回って欠席者のボタンを次々と押す議員を撮影したニュース映像も出回っている。
14日付の有力紙「独立新聞」によると、下院には改善を求める“忠告”がメドベージェフ大統領からも寄せられた。このため、個人を特定できる高精度のカメラを設置し、個々の議員の入退場を把握するシステムの導入案も出された。しかし、費用は最低で1千万ルーブル(約2700万円)かかるとの試算もあり、下院当局者が難色を示したという。
同紙は、「最も“出席率”が悪いのが統一ロシアの議員であることは、下院の関係者なら、みな知っている。彼らは多数の議席を占めているだけでなく、(議員報酬以外に)別の収入がある比率も高い」と論評。同党が改善策をとろうとしないのは、ビジネスにいそしむ彼ら自身の首を絞めることになるからだ、との見方を示した。
統一ロシア所属の下院議員は315人と全議席の7割に達し、同党単独で憲法改正案も可決できるほど。与党の翼賛体制は権力基盤の確立というプーチン氏の戦略に沿って生まれたものだが、当の議員たちはその“恩恵”を別の方面で生かしたようだ。【10月18日 産経】
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日本でも「代理投票」が問題になった議員や、あまり国会審議に参加しない“大物政治家”などがいますので、これもロシアだけの問題ではありませんが、“出席88人なのに賛成449人”というのは、あまりと言えばあまりな状況です。
ロシア社会の改革を進めたいメドベージェフ大統領ですが、道は遠く険しいようです。