孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

東南アジア諸国に強まる中国警戒感 強まるアメリカの関与 ただ各国の実情は・・・

2010-10-24 20:42:19 | 国際情勢

(南沙・西沙諸島に対する中国の進出の不当を訴えるベトナム側のポスター “”より By Nguyen Ngoc Chinh
http://www.flickr.com/photos/nguyen_ngoc_chinh/2113425395/ )

【「対中国スクラム」】
尖閣諸島沖中国漁船衝突事件での中国のこれまでにない強硬な姿勢に、南沙諸島や西沙諸島の領有権をめぐり同じような問題を抱える東南アジア各国は中国への警戒感を強める流れになっています。
更に、そうした各国の不安に乗じるような形で、中国台頭を牽制したいアメリカがこの地域への関与を強めようとしています。

そうした動きから、中国の強硬姿勢は結局中国にとって戦略的にはかえってマイナスになったのでは・・・といった指摘もされています。
“マイナス”だったかどうかはともかく、先のASEAN拡大国防相会議でも、アメリカを背景にした対中包囲網的な流れが見られました。

****拡大国防相会議 「対中スクラム」は有効だ*****
東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に日本、中国、米国など域外8カ国を加えた初めてのASEAN拡大国防相会議が今月中旬、ハノイで開かれた。
会議では、南沙(英語名スプラトリー)諸島や西沙(同パラセル)諸島の領有権をめぐって中国と一部のASEAN加盟国とが争っている南シナ海問題について、中国をけん制する発言が相次ぎ、さながら「対中国スクラム」が形成されたような状況だったという。
この会議で示されたASEANや米国の動きは、尖閣問題をきっかけに、対中外交の立て直しを進める日本にとっても、大いに参考になりそうだ。

中国は軍事、通商の要衝である南シナ海を「核心的利益」と位置付け、ほぼ全域を自国の権益圏とみなして、軍事活動を活発化させている。こうした中国の拡大志向に対し、日本同様にASEAN諸国も強い警戒感を抱いている。
今回の会議では、直前に米国がASEAN各国と個別に接触し、南シナ海に言及するよう呼び掛けたとされる。米国も、中国がこの海域を勢力下に置き、自国の船舶の航行が脅かされる事態となるのを警戒している。
米国のゲーツ国防長官は会議で、南シナ海の領有権問題を念頭に「実力行使なしに、外交を通じ国際法に沿って解決されるべきだ」と述べ、名指しはしないものの中国を強くけん制した。
会議では、米国を含め7カ国が南シナ海問題に触れ、インドなど5カ国が南シナ海における「航行の自由」に言及したという。日本の安住淳防衛副大臣も「東シナ海でも海洋問題が各国間の懸念を呼んでいる」と発言した。

これに対し、中国の梁光烈国防相は「中国の軍事力は誰かを脅かそうとするものではなく、国際的、地域的な平和と安定を促進するためのものだ」と述べたが、強い反発は示さなかった。
7月のASEAN地域フォーラムでは、中国は同じような批判に対して外相が激怒し、声を荒らげて反論する場面もあった。今回、こうした対応を取らなかったのは、尖閣問題での対日強硬策が国際的な批判を浴び、これ以上の孤立化を避けたかったためとみられる。
ここからの教訓は、時として強引で独善的な行動を取る中国に対するには、多国間の安全保障や経済の枠組みに中国を引き込み、「1対多数」の構図で、理性的で平和的な行動を取るよう要求する手法が有効だということである。
実際、中国は会議の空気を事前に察したのか、西沙諸島で拿捕(だほ)していたベトナムの漁民を会議直前に解放している。

今月下旬から来月にかけ、ASEANプラス3(日中韓)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)など、日本と中国がともに参加する多国間会議が相次いで開催される。こうした場を利用して、国際的に責任ある態度を取るよう、中国を誘導していくことが大事だ。【10月18日 西日本】
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【「核心的利益」を取り下げ、しかし、主権や領土で譲歩せず】
上記記事にもあるように、西沙諸島の周辺海域で操業していたベトナム漁船を拿捕し、ベトナム側に罰金の支払いを求め身柄拘束を続けていたた船員9人を、中国は12日、無条件で解放しました。
また、南シナ海を「核心的利益」と位置付けることについても、中国政府高官は「この問題で中国政府が公式に『核心的利益』との言葉を使ったことはない」と、その姿勢を調整する方向を示しています。

****中国「核心的利益」を取り下げ 南シナ海権益で*****
中国政府が米政府に対し、南シナ海を台湾やチベットと並び領有権で絶対に譲らない「核心的利益」と位置付けると表明したこれまでの発言を否定し、核心的利益とする立場を事実上取り下げる姿勢を示していたことが22日、分かった。関係筋が明らかにした。中国がこの新方針を表明後、米国や東南アジア諸国連合の関係国が強く反発。米国などに配慮する形で対外的な立場の変更を決めたとみられる。【10月22日 共同】
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ただ、主権や領土にかかわる、譲歩を見せられない問題と位置づけていることは変わりないようです。
南シナ海へのアメリカの関与には強く反発しています。
****中国ASEAN大使「南シナ海問題、日米関与認めぬ」*****
中国のトウ暁玲(トウはにんべんに冬)・東南アジア諸国連合(ASEAN)大使は22日、朝日新聞記者らと会見し、ASEAN諸国の一部との間で領有権問題を抱える南シナ海を巡り「2国間の範囲での解決を求めるべきだ。米国はこの問題を持ち出すことはできない。どの国が何を言っても、この問題で中国の立場は変わらない」と語った。

クリントン米国務長官は今年7月のASEAN地域フォーラム(ARF)で、南シナ海での「航行の自由」などを訴え、中国の海洋権益拡大の動きに強い懸念を表明した。日本もこれに同調する発言をしていた。トウ大使の発言は、今月末にハノイで開催される東アジアサミットを前に、こうした米国や日本の動きを強く牽制(けんせい)した形だ。
東アジアサミットには、ASEAN諸国や日中韓などに加え、来年から米国などが新加盟することになったことを受け、クリントン長官も参加する予定。南シナ海を巡るやりとりが注目されている。【10月23日 朝日】
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【「天国は遠いが中国は近い」】
ASEAN諸国は28日から、日本などの対話国を含めた一連の首脳会議をベトナムの首都ハノイで開催します。
尖閣諸島を巡る問題も、ASEAN首脳会議の議題に含まれていると報じられています。
また、30日の東アジアサミットでは、来年から米国とロシアを加えることが正式決定される予定で、クリントン米国務長官とラブロフ・ロシア外相も出席します。
こうした場で、再び中国の拡大強硬姿勢を強く意識した議論されると思われます。

****「ASEAN独力で安全保障を」 領有権対立に事務局長****
来日中の東南アジア諸国連合(ASEAN)のスリン事務局長は21日、東京の日本記者クラブで会見し、加盟国の一部が南シナ海で領有権をめぐって中国と対立している問題について、「ASEAN独自の力で海域の平和や安全保障を確保する仕組みを考える必要がある」と述べた。

スリン氏は、南シナ海を含む東南アジア周辺海域は「世界の通商に極めて重要な位置にある」とし、「海域での平和、安定、治安の維持を保障することがASEANの責務だ」と強調。「独自に実現できるまでは米国の軍事プレゼンスが必要」とも述べた。
また、南シナ海の平和的な紛争解決を目指して2002年に中国と合意した「行動宣言」に、より強制力や実効性を持たせる「行動規範」の作成を急ぐ考えも表明。「対立は二国間で解決を見いだす必要があるが、ASEANは協議の土台や枠組みを提供できる」と説明した。【10月21日 朝日】
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“ただ、ASEAN内にも中国を刺激したくないとの思惑があり、同海域での航行の自由の確認などにとどまるとの観測もある”【10月23日 時事】というのも実情です。

中国を牽制する形でアメリカに接近しているベトナムも、悩みは同じです。
****選択迫られるベトナム、「天国は遠いが中国は近い」*****
・・・・国力の劣るベトナムにとって身近な大国である中国を刺激するのは避けたいとの考えもあり、遠く離れた米国に過度に依存することは危険だという意見もある。また、米国は常に利益を最優先するため、イラクのようにいつ切り捨てられるかわからないという不安も存在している。
かつてベトナムのファム・バン・チャ元国防相が「天国は遠いが、中国は近い」と言及したように、ベトナムは今後の身の振り方を慎重に選択する必要に迫られていると記事は指摘している。【10月15日 Record China】
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【「叩頭派」対「失望派」】
中国への対応に苦慮しているのはアメリカも同じです。
アメリカは中国との間で人民元問題を抱えており、主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、人民元相場の大幅な切り上げに応じない中国を狙い撃ちした経常収支の数値目標の設定を提案しています。
会議で同意が得られないことは承知のうえでのアメリカの唐突な提案は、中国を牽制するためと、中間選挙を目前に控えて国内向けにアピールするためと見られています。

そのアメリカは対中国対応について、協調と対立、どちらを重視するかで二派が争っているとか。
****対中政策で米政権二分 穏健VS強硬 対立増幅 米紙報道****
オバマ米政権が対中国政策をめぐって二分し、激しいやりとりが交わされていることが21日、米紙ワシントン・タイムズの報道で明らかになった。中国関連の取材で定評のあるビル・ガーツ記者が報じた。

報道によると、オバマ大統領の11月のアジア訪問で中国に立ち寄らないことが中国政府をさらに硬化させ、米政権内部の従来の意見対立を増幅させた。
米政権内で一貫して中国への和解や譲歩を説くグループは「叩頭派」と呼ばれ、スタインバーグ国務副長官、ベーダー国家安全保障会議アジア部長、中央情報局(CIA)の実務者たちが主体という。
これに対し、中国の対米態度に反発し、現実的で強固な対中政策を求めるグループは「失望派」と呼ばれ、クリントン国務長官、パネタCIA長官、キャンベル国務次官補、グレグソン国防次官補らがいる。オバマ大統領とバイデン副大統領はこの対中政策論議には加わっていないが、ゲーツ国防長官は「失望派」に傾いているとされる。

報道はさらに「叩頭派」主体のオバマ政権のこれまでの対中政策では、イランや北朝鮮の核開発、人民元交換レート、貿易政策、気候変化、韓国哨戒艦撃沈など、一連の重要案件で中国の協力を得られなかったことが失敗と指摘している。
スタインバーグ国務副長官は中国に対し、現在の勢力拡大があくまで平和的であることを「戦略的に再確認」するよう求めたが断られ、和解や譲歩によるアプローチの失敗を印象付けているという。【10月24日 産経】
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「叩頭派」というのは、いささか穏やかでない表現です。
いろいろなせめぎあいを抱えているのは中国の政権内部も同様でしょう。
宥和・協調路線か、強硬・対立路線か・・・いつの時代にも、どんな問題にもつきまとう悩ましい判断ですが、日本を含めて東南アジア諸国、中国、アメリカ、それぞれ大人の対応で臨んでもらいたいところです。


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