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(08年11月 アフガニスタン・カンダハルで、登校途中にタリバン支持者によって顔に酸をかけられた17歳の女性 “flickr”より By tanweer1
http://www.flickr.com/photos/7282565@N08/3034343433/ )
【実効をあげていない女子差別撤廃条約】
私自身は特にフェミニストでもありませんし、女性の権利云々を主張する者でもありませんが、弱い立場にある女性を食い物にしたり、不満のはけ口として女性に暴力をふるったり、あるいは、女性を自分の付属物のように扱う・・・そうした行為については到底賛同できません。
****世界の女性の3分の1が暴力を受けている、国連CEDAW副委員長*****
国連の女性差別撤廃委員会の鄒曉巧副委員長は12日、米国ニューヨークの国連本部で記者会見し、全世界の女性の3分の1以上が、性行為を強要されたり、配偶者や家族から暴力や虐待を受けていると述べた。
この数字は国連人口基金がまとめた最新報告書に基づくもの。さらに世界各国で多くの女性や少女たちが売春行為を強要されており、毎年、5歳から15歳の少女たち200万人が売春市場に出されているという。
また1979年に採択された「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」は186か国が批准しているが、多くの国で条約が実効を挙げていないと述べた。国連加盟国のうち米国、イラン、スーダンなど6か国が女子差別撤廃条約をまだ批准していない。【10月13日 AFP】
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【妻子への暴力「しつけとして許される」】
近年、いろんな国際的問題でイスラム的価値観と日本や欧米の価値観の違いが問題になりますが、イスラムの女性に対する扱いは、なかなか理解しがたいものがあります。
庇護すべきものという考え方は、基本的に同等の権利を認めておらず、往々にして庇護される立場の者の意思・権利を無視したことにもなりかねません。
****UAE:妻子への暴力、最高裁が一部容認…傷残さないなら*****
アラブ首長国連邦(UAE)の最高裁は、男性による妻子への暴力について、傷が残らないことなどを条件に「しつけとして許される」との判断を示す判決を出した。
18日付の同国ナショナル紙(電子版)によると、男性は家庭内で妻や23歳の娘に殴るけるなどの暴行をしたとして罪に問われた。最高裁は、イスラム法では、傷やあざが残らないこと▽子供が18歳未満であることを--条件に、妻子へのしつけが認められるとの判断基準を提示。そのうえで、男性は妻の歯を欠けさせるなどの傷を負わせ「イスラム法の権利を乱用した」と指摘した。男性は有罪判決を受け、500ディルハム(約1万1000円)の支払いを命じられた。
同紙は社説で「多くのイスラム法学者が、いかなる家庭内暴力もイスラム法に反すると判断している」とし、判決が暴力を一部容認したことを問題視した。【10月19日 毎日】
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女性に車の運転や一人旅を禁じているサウジアラビアなどのイスラム湾岸諸国と比べ、アラブ首長国連邦は比較的、寛大なイスラム国と見られているそうです。しかし、司法制度にイスラム法が組み込まれている点では同様です。
事件となった男性は、妻だけでなく23歳の娘にも暴力を加えており、被告が妻を負傷するほど殴ったことに併せ、娘の23歳という年齢が、しつけを必要とする「幼い子ども」とはみなされないことを挙げ、裁判所は被告の暴力はイスラム法(シャリア)に違反するとの判決を下しています。
しかし、記事にもあるように、このことは傷が残らない程度の暴力、18歳未満の子供への暴力なら「しつけ」として許されるという判断の裏側でもあります。
「多くのイスラム法学者が、いかなる家庭内暴力もイスラム法に反すると判断している」というナショナル紙社説が実態に即したものであり、大多数の国民がそうした考えであればいいのですが・・・。
【「メンバーの中にそのような活動をする者がいたとしても止められない」】
イスラム社会における女性の権利をとりあげるとき、イスラム社会の中でも女性に厳しい立場をとっているアフガニスタンのタリバンのことが気にかかります。
アルカイダというテロリスト一掃のために、彼らをかくまうアフガニスタンに攻撃をしかけ、多くの市民の命も犠牲にしているアメリカのアフガニスタンでの戦いに対しては多くの批判があります。
ただ、現実問題として、今アメリカが手を引けばカルザイ政権などはすぐに崩壊し、タリバン支配、あるいは軍閥が割拠して争う社会が復活することでしょう。
それがアフガニスタン国民の選択であるなら仕方ないところでもありますが、タリバンなどが支配する社会における女性の立場には危惧を感じざるを得ません。
アフガニスタンでは1980年代、社会主義政権下で都市部を中心に女性の社会進出が進みましたが、90年代に内戦が激化すると教育自体が衰退。その後、タリバン政権は女子教育を禁止しました。
01年の同政権崩壊で女子教育は再開。高校までの就学児童・生徒700万人のうち女子の割合は37%にまで回復しています。
しかし、タリバンの攻勢に伴って、女子教育への妨害も増加しています。
8月にはカブールの女学校で何者かが噴霧器で殺虫剤のようなものをまき、85名が病院に運ばれる事件がありました。
アフガニスタンではこれまでも夜間に校舎に火を放つなどの女学校攻撃は行われていましたが、08年11月に南部カンダハル州で登校途中の女子生徒11人と教師4人に硫酸のような液体をかけたとして、反政府武装勢力タリバーンの支持者らが逮捕された事件、昨年5月に東部のカピサ州で毒性のガスを使った学校襲撃があり、女子生徒ら126人が意識を失うなどの被害に遭った事件、隣のパルワン州で同月、化学物質の粉末がまかれて60人が一時意識を失った事件など、最近になって毒物や劇物を使って生徒や教師を直接襲って恐怖を植え付ける事件が増えています。
「毒ガス攻撃」は今年4月以降、北部クンドゥズ州とカブールで計5件起きています。【10月16日 朝日より】
8月に「毒ガス攻撃」を受けたカブールの女学校は、それでも一日も休まずに授業を続けたそうです
****女学校 襲撃に負けない 1日も授業休まず*****
■女子教育に強い反対
01年、アフガン戦争でタリバーン政権が崩壊し、女性たちは抑圧から解放されると期待した。しかし戦争は続き、地方を中心にタリバーンは息を吹き返す。時代が後戻りするような重苦しさが漂う。
一連の女子学校襲撃に対し、犯行声明などは出ていない。タリバーン情報部門の幹部は「我々は女子教育に反対しているが、生徒に硫酸をかけたり、毒ガスを使ったりはしない」と組織としての関与を否定する。だが、「メンバーの中にそのような活動をする者がいたとしても止められない」と付け加えた。
地元のNGO「アフガン女性教育センター」(AWEC)のライハナ・ジャワドさんは女子教育に不満を持つのはタリバーンなどの勢力に限らないと指摘する。「女性の社会進出に対する男性の危機感は、地方だけでなく首都カブールにもある」 アフガン社会に根強く残る保守的な思想が事件の大きな背景にあるとの指摘だ。
カマールの40代の男性運転手は「教育を受けて女性が仕事に就けば、アフガンの文化やイスラム法はないがしろにされてしまう」と女性の高等教育に不快感を隠さない。
ザビウラ・エスマティ女学校のムフタリ副校長は、事件後一日も学校を休まなかった理由について「休めば生徒に動揺が広がり、女子教育を阻もうという犯人の狙い通りになってしまう」と説明する。「古い考え方を変える唯一の方法は女性に教育を与えること。多くの女性が外で働き、男性を助けられるようになって初めて、男女対等の意識が広がる」と言う。
生徒たちも、恐怖と戦いながら学校に通う。意識を失ったルクサールさんは事件の3日後には登校した。「学校ば友達がいて楽しいし、将来は裁判官になりたいから勉強を続けたい」。3日間の入院を余儀なくされた12年生政マディナさん(18)も、退院後すぐに学校に来た。「怖いけど、来年は大学進学か留学をしたい。夢は映画監督になること」と目を輝かせた。【10月16日 朝日】
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組織の関与を否定しながらも、「メンバーの中にそのような活動をする者がいたとしても止められない」という言い様は腹立たしいものがあります。
ただ、「教育を受けて女性が仕事に就けば、アフガンの文化やイスラム法はないがしろにされてしまう」という男性の発想にみられるように、男性優位の考えはタリバンにとどまるものではありません。
イスラムとか文化を盾にしていますが、特別の教育もうけていない男性にとっては、女性への教育は、男性であるというだけで与えられていたこれまでの優位を脅かす不快なものに思えるのではないでしょうか。
別にアメリカはアフガニスタンに民主国家を建設するために戦っている訳でもありませんし、どのような社会をつくるかはアフガニスタン国民の選択でもありますが、学校に通う女生徒に硫酸をかけるような行為がまかり通る社会になることには賛同できません。