(民族衣装で熱弁をふるうユドヨノ大統領 “flickr”より By Johannes P. Christo
http://www.flickr.com/photos/57725068@N00/3548832836/ )
【開発独裁のスハルト時代】
強権的な政治手法ながら強力に経済開発を推し進める、いわゆる「開発独裁」の政治家として見られているインドネシア第2代大統領スハルト氏について、その評価が議論されているそうです。
****インドネシア:英雄か虐殺者か…スハルト元大統領巡り議論*****
「国家の英雄か、虐殺者か」。インドネシアで08年に死亡したスハルト元大統領の評価を巡る議論が起きている。同国社会省が17日に公表した「国家英雄」認定者の候補に元大統領が含まれたことがきっかけだ。
スハルト氏は68年に第2代大統領に就任。人権を抑圧して政治的安定を図り、経済発展を進める「開発独裁」でインドネシアを経済成長に導いた。スカルノ初代大統領の「独立の父」に対し「開発の父」とも呼ばれる。
スハルト氏を国家英雄に推薦したジャワ中部の県知事は、地元メディアに「元大統領の国家に対する貢献、実績は国内外で認められている」とコメント。保守系政治家からは、「(混乱期に)国家を破滅から救った人物」として英雄に値するとの声が出ている。
一方で、スハルト氏は在任中、民主化勢力や共産主義者、国内の独立運動を弾圧し、その犠牲者は数百万人に上るとされる。32年に及ぶ長期政権では汚職が横行し、在任中の不正蓄財は最大350億ドルともいわれる。このため元政治犯の団体で代表を務めるブジョ氏は「国民的な犯罪者であり、ヒトラーと同じ虐殺者」と批判。人権団体「コントラス」のアズハル氏は「不正を暴くべき政府が栄誉を与えるのは不適切」と指摘する。
歴史学者のアスビ氏は「経済成長への貢献は大きいが、歴史上最大の破壊者でもある」とし、「現時点での認定は時期尚早だ」と語る。
国家英雄は、民族主義運動や独立戦争で功績のあった人物に贈られる称号として59年に定められ、スカルノ氏を含む政治家や軍人など計147人が認定されている。国家英雄認定審議会の協議を経て、ユドヨノ大統領が最終的に認定し、来月10日に発表される。【10月25日 毎日】
********************************
【「スハルト時代に逆戻りしている」】
インドネシアにとって、スハルト元大統領の評価以上に問題なのは、2期目に入った現在のユドヨノ第6代大統領の評価でしょう。
ユドヨノ大統領のもと、インドネシア経済は順調な成長をとげ、政治的にもG20の一角をなす地域大国となり、その第1期は国民の高い評価を得ました。
このブログでも、09年7月9日「インドネシア ユドヨノ大統領再選 好調なインドネシア経済を引っ張るムルヤニ財務相」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090709)としてとりあげたことがあります。
なお、スハルト独裁政権の間に縁故資本主義がはびこった金融構造の解体を推し進めて金融秩序を取り戻し、財政再建、腐敗一掃に辣腕をふるった「鉄の女」ことムルヤニ財務相は、今年5月財務相を突然辞し、世界銀行専務理事に就任しています。
「出る杭は・・・」と言うか、この人事の背景にはインドネシア国内の政治事情が絡んでいるようで、彼女を止めおくことができなかったユドヨノ大統領への批判もあるようです。
それはともかく、2期目のユドヨノ大統領に対しては、貧困対策や汚職・腐敗問題での進展が図れておらず、「スハルト時代に逆戻りした」との批判が出てきています。
****インドネシア:ユドヨノ政権、貧困対策進まず…2期目1年*****
インドネシアのユドヨノ大統領は20日、2期目の就任から1年を迎えた。順調な経済成長で国際的な評価は高いが、課題に掲げた貧困対策や汚職の根絶などで具体的成果が乏しく、国民の間に大統領への失望感が広がっている。同日、ジャカルタやバンドン、スラバヤなど計14都市で反政府集会が開かれ、地元メディアによると数千人が参加。ジャカルタ市内では投石を繰り返した学生に警官隊が威嚇射撃し、負傷者が出た。
ジャカルタの大統領宮殿周辺には約500人が集まり、「SBY(大統領の頭文字)は失敗した。辞任すべきだ」と叫んだ。工場労働者のハンドコさん(29)は「いくら働いても収入は増えない。大統領は労働者の側に立っていない」と批判。主婦のスマルシーさん(57)は「汚職や人権侵害がまん延したスハルト(元大統領)時代に逆戻りしている」と語った。
ユドヨノ大統領は昨年7月の大統領選で約6割の得票で再選された。連立与党は議会の4分の3を占め、「安定政権」に国民は高い期待を寄せた。
しかし、今年8月の民間調査機関LSIの調査では、大統領の支持率は66%と昨年7月に比べ約20ポイント下落。同時期の別の調査では「大統領の実績に満足」との回答は約51%で、昨年7月の90%から大幅に下がった。
インドネシアは昨年4.5%の経済成長を記録し、今年は6%を超す成長が見込まれている。しかし、調査では45%が「経済政策に不満」と回答。月約21万ルピア(1900円)以下で暮らす貧困層は今も3100万人を超え、人口の約13.3%を占める。経済学者のアビリアニ氏は「資本市場への投資に支えられた経済成長で潤うのは3分の1の富裕層だけ。国民全体の生活向上につながっていない」と話す。
汚職問題では今年3月、資金洗浄に手を染めた税務署職員が警察高官にわいろを贈った疑惑を国家警察の前刑事局長が暴露し、腐敗体質の根絶が進まない現状が露呈した。香港のシンクタンクによるアジア汚職度調査では、2年連続で最悪を記録している。
また国会議員の海外視察予算の大幅増額が明らかになり、「国家予算で豪遊」と批判が上がっている。
国内第2のイスラム教団体「ムハマディア」は今月、「大統領の指導力不足がさまざまな問題を引き起こしている」と批判。政治アナリストのアムバルディ氏は「期待を裏切られた都市部の中間層を中心に大統領批判が高まっている」と指摘している。【10月20日 毎日】
****************************
大統領の支持率はまだ66%ありますし、今年は6%を超す成長が見込まれているとのことですので、ユドヨノ大統領の政治がそうひどい訳でもなさそうですが、期待が大きかっただけに失望・反動も大きく出ているという感じです。
【「虐殺や人道に対する罪が今も続いている」】
経済・貧困対策、汚職・腐敗問題だけでなく、スハルト時代からインドネシアのひきずる強権的体質の表れとも思える事件も明るみに出ています。
****インドネシア:国軍兵士がパプア人拷問 動画サイトに画像*****
インドネシア国軍の兵士が東部パプア州で住民を拷問する様子を撮影したとされる映像が流出し、その残虐さが問題になっている。パプアでは今も分離独立を求める武装組織による小規模の武装闘争が続き、これを弾圧する国軍や警察による住民への人権侵害が報告されている。国軍のスハルトノ長官は18日、調査を命じたことを明かし、「関与が明らかになった兵士は法的な裁きを受ける」と話した。
映像は「パプア解放軍」を名乗る投稿者が先週末、動画共有サイト「ユーチューブ」に投稿した。約10分間、2人のパプア人が拷問を受ける場面が記録されており、映像の属性情報などから3月に撮影されたとみられる。
1人は首や鼻にナイフを押しつけられ、顔を何度も平手でたたかれている。もう1人は全裸で横にされ、兵士とみられる男が「武器はどこにある」と尋問しながら足で踏みつけ、熱した棒で男性器を焼いている。「お前はうそつきだ。焼け、焼け」という尋問者の声と男性の叫び声が響き渡る。
地元メディアなどによると、撮影場所はパプア州ブンチャック・ジャヤ県。この地域には独立闘争を続ける武装組織「自由パプア運動」(OPM)の基地があるとされ、国軍が掃討作戦を続けている。映像の男性2人は、3月に同県の国軍検問所で目撃されたのを最後に行方不明になっているという。
パプア州を含むニューギニア島西部を植民地支配していたオランダは61年、西パプア共和国として10年後の独立を承認。しかし、インドネシアは69年に自ら選んだ住民代表約1000人による投票で強引に併合した。
パプアは天然資源が豊かで米国系企業が採掘する世界有数の金・銅鉱山があるが、今も貧困率は国内で最も高く、中央政府や外国資本に収奪されているという不満が強い。独立運動への支援を警戒する政府は、メディアや人権団体関係者を含む外国人のパプア入りを厳しく制限している。
西パプア亡命政府の外相を務めるヤコブ・ルンビアック氏は「過去40年間で40万人以上のパプア人が殺害された。この映像はインドネシアによる虐殺や人道に対する罪が今も続いていることを示している」と話す。【10月20日 毎日】
****************************
インドネシア国軍の人権無視は、東チモール独立でも問題になったところです。
インドネシア政府は22日、軍の関与を認めています。
スヤント調整相(政治・治安担当)は、「現場で拘束した住民は武器を所持しており、反政府武装組織メンバーの疑いがあった」としたうえで、「倫理に反する行為をした兵士を探し出した。軍規に従って適切に対処する」と語っています。
経済・貧困対策、汚職・腐敗問題、国軍による人権無視・・・・スハルト元大統領の「開発独裁」時代が抱えた問題は、いまだ解決されてはいないようです。