(レバノン訪問で熱烈歓迎を受けるイラン・アフマディネジャド大統領 “flickr”より By trainthj
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【「外交で得点を得ようとしている国内事情」】
核開発問題で欧米による経済制裁が続いているイランのアフマディネジャド大統領の言動は、アメリカなどを敵視した従来からの極端な発言と、欧米との妥協点を模索する現実的なものが交錯する形で、どこを目指しているのかわかりづらいものがあります。
9月末には、10月中の米英仏中露独との交渉再開の方向が報じられていました。
****イラン:常任理と核交渉再開へ会合****
イランの核開発を巡る欧米との交渉に再開の兆しが見えている。イランのアフマディネジャド大統領が(9月)24日、米英仏中露独との交渉再開に向け、10月中にも会合を開くことを明らかにしたためで、欧米は成り行きを注意深く見守っている。イランが、動き出した背景には、4度目の経済制裁で打撃を受けた事情や、大統領が反対派との政争に打ち勝つため、外交で得点を得ようとしている国内事情もある。だが欧米への「譲歩」には保守派の抵抗も大きく、進展は微妙な情勢だ。【9月25日 毎日】
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「外交で得点を得ようとしている国内事情」については、“政権保守派内では、大統領とラリジャニ国会議長を中心とする反大統領派との対立が激化。13年の次期大統領選をにらんだ「イスラム革命以降、最大の政争」との声もある。経済悪化が進み、反大統領派からの攻撃材料が増える中、大統領は「国民向けに外交で得点をかせぐ狙い」(外交筋)もあるようだ。”【同上】とのことです。
一方、9月23日の国連総会演説では「米同時テロは米政府による陰謀」と発言、アメリカの神経を逆なでしています。また、10月3日には、イスラエルを「中東という野に放たれた野犬」と、更に、オバマ米大統領についても「地獄に送ってやる」と激しく批判しています。
“アフマディネジャド大統領は、イスラエルや米国が「(ナチス・ドイツによる)ホロコースト(ユダヤ人虐殺)を口実に中東諸国を収奪しようとしてきた」とした上で、「その後は、米同時テロを新たな口実に中東に押し入った」とイラク戦争などを批判した。”【10月4日 読売】
【エジプト、シリアとの関係強化】
しかし、最近のイラン外交は、着実にその影響力を周辺国に拡大しています。
****イラン:孤立化打開に積極外交 アラブ諸国に急接近*****
イランが、周辺アラブ諸国との関係改善に力を入れている。エジプトとの間で、国交断絶(80年)後初となる旅客機の直行便運航で合意したほか、アフマディネジャド大統領は今月13日、05年の就任以来初めてレバノンを訪問する。核開発問題で孤立化を深めるイランは地域での足場固めに躍起だ。
イランのバガイ副大統領は3日、エジプトを訪れ、航空協定に調印し、両国の首都を結ぶ週28便の運航で合意した。79年のイスラム革命でイランを出たパーレビ国王をエジプトが受け入れたことなどにイラン政府が反発し80年、両国は国交を断絶した。
しかし、近年は、核開発の権利主張などの際に共同歩調を取ることも多く、関係改善の機運が生まれた。今年7月には、両国出資による銀行をテヘランに開設することでも合意し、経済を軸に結びつきを強めている。(中略)
また、以前から関係の良かった友好国シリアとも関係を一層、深化させている。アフマディネジャド大統領は今月2日、テヘランを訪問したシリアのアサド大統領を前に、「シリアの存在がなければ、地域のいかなる国もイスラエルの侵略を防げないだろう」とたたえ、アサド大統領の首に国家表彰のメダルをかけた。両大統領は先月18日にもシリア首都のダマスカスで会談しており、2週間で2度の首脳会談で蜜月を強調した。
米国はシリアをイランと並ぶ「テロ支援国家」に指定しながら、関係改善を模索。「シリアはイランとの関係を見直すべきだ」(クリントン米国務長官)との圧力もある中、イランはシリアのつなぎ留めに懸命だ。【10月5日 毎日】
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【レバノンでは熱烈歓迎】
上記記事にもあるレバノン訪問では熱烈な歓迎を受けています。
****イラン:レバノンで影響力拡大…大統領がヒズボラ拠点訪問*****
イランのアフマディネジャド大統領は13日に始めたレバノンの公式訪問で、政府幹部から一般国民に至るまで大歓迎を受けている。核開発問題でイラン包囲網強化を目指し、レバノンの親米勢力取り込みを図ってきた米国には打撃だ。大統領は14日にはイスラム教シーア派組織でイランが支援するヒズボラの拠点レバノン南部を訪問。イスラエル国境から数キロ北のビント・ジュバイルも訪ね、敵対する親米国イスラエルに対しても、中東での影響力拡大を見せ付けた。
アフマディネジャド氏は13日、レバノンのスレイマン大統領と共同会見。「敵(米国)によって押し付けられた方程式を変えた」と米国と距離を置きつつあるレバノンを称賛。影響力維持を図る米国を間接的に非難した。スレイマン氏も「脅威の際に共闘してくれる」と謝意を表明した。
親ヒズボラのシーア派国民を中心に歓迎ムードは強く「イスラエルとの戦いを支援してくれる」(50代男性)とイランを評価する。
イランは米主導の孤立化政策に直面するが、アフマディネジャド大統領は、レバノン訪問に先立つ2日、シリアのアサド大統領とテヘランで会談して友好関係を確認。核問題で米国の意向に反して核燃料と濃縮ウランの交換協定を提案したトルコとも関係強化を進めるなど、米国への対抗軸作りに取り組む。
米国は、昨年6月のレバノン総選挙の際にも「外部の介入」を批判してイランをけん制した。しかし、イスラム教スンニ派で親米と見られていたレバノンのハリリ首相は、シリアやイラン寄りの姿勢を見せ始めている。9月には、父のハリリ元首相暗殺事件へのシリアの関与を疑ったのは「間違いだった」とまで発言した。
同事件ではヒズボラ関係者の訴追がうわさされているが、アフマディネジャド大統領は13日のベイルートでの演説で「でっち上げだ」と反発した。
米国務省のクローリー次官補は13日の定例会見で、イランがヒズボラを通じ「レバノンの政府と主権を危うくしている」と批判、今後も関与を続けていく姿勢を明示した。【10月14日 毎日】
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06年のイスラエルによるレバノン攻撃の際、シーア派武装組織ヒズボラは、イランが供与したとされる対戦車砲などでイスラエルの攻撃を押し返しています。
そうした関係から野党でもあるヒズボラとイランの親密な関係は当然ですが、レバノンのハリリ首相の“父のハリリ元首相暗殺事件へのシリアの関与を疑ったのは「間違いだった」”との発言は驚きです。
【イラク政局への影響力】
シリア、レバノン、エジプト、トルコとの関係改善・強化・・・更にイラクにおいてもイランの影響力が強まりそうです。
連立交渉が膠着していたイラクは、“3月の連邦議会選挙(定数325)から約7カ月間続いているイラクの連立交渉で、マリキ首相の続投につながりそうな動きが出始めている。強硬な「反マリキ」姿勢だったイスラム教シーア派のサドル師派が反対を取り下げ、さらに、議会第1勢力でスンニ派が支持する「イラク国民運動(イラキヤ)」との交渉にも進展の可能性が出てきた。ただ、イラキヤからの支持獲得には、大統領職を同派に割り振ることが条件となりそうで、大統領職を現在握っているクルド人会派との調整が必要になる”【10月5日 毎日】という動きが出ています。
この動きのカギとなったのは、強硬な「反マリキ」姿勢だったイスラム教シーア派のサドル師の姿勢転換ですが、その背景については、“9月29日付の汎アラブ紙アッシャルクルアウサトによると、マリキ氏を後押しする隣国イランが、現在は同国を拠点とするサドル師への働きかけを強化。マリキ氏は9月下旬、サドル師派の支持を取り付けるのに成功し、協議の流れはマリキ氏続投に傾いた。”【10月3日 産経】とのことです。
マリキ首相にしても、サドル師にしてもイランの支持を背景としており、今後のイラクへのイランの関与は更に強まることが推測されます。
こうして見ると、欧米によるイラン包囲網に対抗するイラン外交も相当にしたたかです。