(急進的な国営化路線を進めるチャベス大統領(左)と、左派ながら穏健な市場主義でブラジルを新興国の雄に押し上げたブラジルのルラ大統領(右) “flickr”より By Dr. Rosinha
http://www.flickr.com/photos/drrosinha/4561137381/ )
【襲撃による2009年の死者は計1万9000人】
過激な反米発言や隣国の親米政権コロンビアとの度重なるトラブルなどで話題になる、南米ベネズエラのチャベス政権ですが、国内治安は劣悪な状況です。
****反チャベス派のベネズエラ財界トップ、襲撃される*****
南米ベネズエラの首都カラカスで27日夜、ベネズエラ経団連(フェデカマラス)会長など財界トップら4人を乗せた車が武装グループの襲撃を受け、2時間ほど拘束され1人が重傷を負う事件が発生した。28日、フェデカマラスが明らかにした。
フェデカマラスのノエル・アルバレス会長が報道専門テレビ局グロボビシオンに語ったところよると、同会長らは夕食を終え事務所に戻る途中だった。乗っていた車が高速走行してきた4輪駆動車に妨害され、「こちらの車がブレーキをかけると、彼らは無言でわたしたちめがけて銃を撃ってきた」という。
その際、同乗していたフェデカマラス前会長のアルビス・ムノス氏が胸と腕の計3か所を撃たれた。武装グループは4人を車から降ろし、殴った後、カラカス市内を2時間にわたって車で連れ回してから解放したという。また、撃たれたムノス前会長は病院の近くで下ろされたが、容態は安定していなかったという。
アルバレス氏は襲撃グループに関する詳細には触れなかったが、「政府には全公民を保護する義務がある」と述べて、当局に捜査を求めた。同氏は、社会主義路線を推し進めるウゴ・チャベス大統領に対する率直な批判で知られる。
統計によるとベネズエラでは毎日5人が誘拐されており、また襲撃による2009年の死者は計1万9000人で、南米で最悪を記録している。【10月29日 AFP】
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南米には、「麻薬戦争」で十数人単位の殺害が常態化しているメキシコや、左右の武装組織や麻薬組織の存在でかつては世界最悪の誘拐国だったコロンビア(現在はかなり改善したようですが)など、治安に問題のある国がありますが、“毎日5人が誘拐されており、また襲撃による2009年の死者は計1万9000人”というベネズエラの状況も尋常ではありません。
【「21世紀の社会主義」】
チャベス大統領は貧困層を対象にした施策によって、貧困層からの支持は依然根強いものがあります。
経済的には、「21世紀の社会主義」を掲げて、企業の国営化を推し進めようとしていますが、経済情勢はよくありません。
****ベネズエラ 行き詰まる国営化戦略 中小への拡大、混迷深める恐れ*****
南米ベネズエラの反米左翼、チャベス大統領は2日、「国境なきブルジョアジー(資本家階級)に対する経済戦争」を宣言した。「21世紀の社会主義」を掲げる同大統領は、これまでも電力、エネルギー、通信産業など、インフラ部門を中心に国営化を進めてきた。最近、経済統制は小売業を含めて、さまざまな産業分野に及び、中小企業も接収の対象となっている。しかし、こうした政策は同国の経済発展に逆効果であり、経済危機をさらに深める恐れがある。
≪分析≫
チャベス政権は、国家は経済発展と国民統合の原動力であり、国営企業と民間企業との協力や、企業の国有化によって経済効率を向上させ、幅広いサービスを提供できると考えている。当初は民間投資を認める実利的なアプローチを取っていたが、基幹産業の国営化が進むにつれて労働組合の政治的発言力が増し、中小企業の国営化を求める声が強まった。
◆チャベス派分裂
1999年12月に「ベネズエラ・ボリバル共和国憲法」が制定されて以降、同国はインフラ部門をはじめ、重要産業の国有化を進めてきた。しかし、憲法は財産所有者への補償を約束しており、憲法と政治体制に従う限り、民間投資を認める現実的な政策を取ってきた。
ベネズエラ政府は中小企業の国営化に抵抗し、国家経済戦略の優先順位に従って国営化を進めてきた。補償額の大きさや経営能力の欠如も、政府が場当たり的な国有化をためらう理由だった。政府が国有化を加速せず、新規国営企業で労働組合による管理を推進しなかったことへの不満から、2007年以降、チャベス派の労働組合は分裂し、労使関係も複雑化した。
チャベス派内部の階級対立は、同政権が地元の民間企業に代わって、政権に忠実な社会主義的企業家を育成しようとしたことから、いっそう激化した。公共事業の割り当てで優遇され、不正に私腹を肥やした企業家は「ボリブルジョアジー(ボリバル革命の資本家)」と呼ばれ、チャベス政権に対する国民や労働組合の信頼は低下した。
ベネズエラでは国民議会(一院制国会)の総選挙が今年9月に迫っている。チャベス政権と与党・統一社会党(PSUV)は、左派と貧困者の間で中核的支持基盤を再び固めることを狙っている。中小企業に対象を拡大した国有化政策によって、衰えつつあったチャベス派の忠誠心は改めて勢いづくだろう。
◆低生産性と汚職
しかし、国有化の推進によって経済危機が深まり、暴動が起きる恐れも高まる。既存の国営部門、特に公的インフラ部門は、投資の不足や上限価格の設定、貧弱な経営のために、供給不足や停電を起こすなどして、業績はお粗末だ。国営企業の深刻な問題として、官僚主義、先見性の欠如、不透明な会計手続きがみられ、生産性が低く、汚職が起きやすい脆弱(ぜいじゃく)な体質となっている。
米州機構の米州間汚職防止協定に基づく報告書によると、ベネズエラは汚職防止のための113項目にわたる技術的勧告のうち109項目を実施していない。例えば、収入の管理について、資産と負債の公表はほとんど進展しておらず、商品とサービスの政府調達を行う公務員の効果的な雇用も行われていない。
ベネズエラ政府は、食品分野でも、補助金を受けた食料サービス「メルカル」の拡充、国営輸出入企業の設立、半国営の中小企業への低利融資と優先的な外貨割り当てなどを通じて、資本主義モデルから転換し、社会主義的食料生産、流通・販売網を構築しようとしている。しかし、こうした戦略によって市場を補完し、経済を発展させることはできそうもない。
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≪結論≫
ベネズエラ政府は、経済を石油産業への依存から脱却させ、多角化を図ることに成功していないばかりでなく、経済転換のための効果的な政策を持っていない。一段と国有化を推進し、私的財産権に改めて挑戦することを通じて、供給不足に対処しようとしているが、チャベス大統領が進める資本家階級との「経済戦争」は、激烈な反資本主義感情を内包しており、同国の経済危機をかえって深める恐れが大きい。【6月10日 オックスフォード・アナリティカ】
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【依然貧困層が支持、しかし反対派も増大】
上記記事にもある9月の国民議会選挙では、一応過半数は維持したものの、得票率では野党が与党を上回る結果となっています。
****ベネズエラ:反米左翼与党が過半数を維持*****
9月26日実施されたベネズエラの国会議員選(1院制、定数165)で、同国中央選管は27日未明、暫定集計を発表し、反米左翼チャベス大統領が率いる与党ベネズエラ統一社会党(PSUV)が90議席以上を獲得し、過半数を維持する見通しとなった。
ただ、PSUVは現在保有する142議席を大きく減らし、議席数が3分の2に達しない見込み。野党の選挙連合「民主統一会議」は少なくとも59議席を獲得、勢力を躍進させることになった。
PSUVが重要法案や最高裁判事などの人事案の単独採決に必要な3分の2の議席数を獲得するのは厳しい情勢で、今後、法案審議などで野党に譲歩を迫られるのは必至。チャベス大統領の強権的な政権運営にも影響が及びそうだ。
治安の悪化や2年連続の経済のマイナス成長予測などでの政権への反発が響いた。野党の民主統一会議によると、得票率では野党が52%と与党を上回ったという。【9月27日 毎日】
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現在2期目のチャベス大統領ですが、07年に行われた社会主義化と大統領の連続再選を無制限に可能にする憲法改正の是非を問う国民投票では、反対が51%に達して失敗しました。
しかし、09年2月再度国民投票を行い、「賛成」54.36%、「反対」45.63%で、大統領の連続再選を可能にしました。
貧困層からの絶大な人気を背景に底力を見せた形ではありますが、反チャベス派も過去最高の得票を記録、反対派が力をつけていることを裏付ける結果ともなっています。
一時暴落して石油依存の国家財政を圧迫した原油価格はこのところ80ドル台で推移していますので、その点では財政的にはやや持ち直しているのでしょうか?
しかし、経済全般はよくないようで、“中央銀行の3月2日の発表によると、09年第4四半期のGDP成長率は前年同期比マイナス5.8%で、09年通年ではマイナス3.3%となった。回復の兆しがみられず、10年もあまり明るい材料は見当たらない。逆に電力危機などが経済活動をさらに押し下げる要因となり得る”【JETROホームページより】といった状況です。
9月26日総選挙結果にみるように、与野党の支持は拮抗しています。
治安悪化への国民の不満も高まっています。
憲法改正までして3選に臨む2012年の次期大統領については、国営化政策のもたらす経済状況いかんでしょう。