孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国、ASEAN会議で脅威論払拭に対話協調 アメリカは対決も辞さない姿勢へ

2010-10-30 20:08:55 | 国際情勢

(今回ASEAN関連の写真が見つからなかったので、代わりに今月6日に開催された第13回中国EU首脳会議での温家宝首相 “flickr”より 
By President of the European Council
http://www.flickr.com/photos/europeancouncil/5059699742/)

【「友好と協力の海」】
南シナ海での領有権主張や尖閣諸島沖中国漁船衝突問題での強硬姿勢などで、中国脅威論が東南アジア各国でも高まるなかで開催されたASEAN首脳会議でしたが、中国側もこれ以上の緊張を避けるべく、南シナ海問題では“対話の姿勢”を強調したようです。

****中国、ASEANには配慮 南シナ海問題、対話を強調*****
中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議などの場で、懸案となっている南シナ海問題の解決に向けて対話の姿勢を強調したほか、経済協力の一層の強化を打ち出すことで、域内に高まる中国への懸念や不信感の払拭(ふっしょく)に力を入れていた。しかし日中首脳会談の一方的なキャンセルなど最近悪化する日中関係を、加盟国のある外相は「中国による銃口を突きつけた外交」と表現。「明日は我が身」となりかねないASEAN諸国に中国脅威論が再燃する可能性もある。

温首相は28日にハノイ入りすると、すぐに議長国ベトナムのズン首相に加え、ラオスのブアソン、カンボジアのフン・セン両首相と相次いで個別に会談し、経済協力を申し出た。また南シナ海問題では、領有権問題に関係のないラオス、カンボジア両首相に対してあくまで二国間で解決する中国の方針を強調、同意を取り付けたと伝えられる。
29日のASEANやASEANプラス3(日中韓)首脳会議で、温首相は南シナ海を「友好と協力の海」と呼んだ上で、問題の対話による解決を定めた「行動宣言」について、「履行に真剣に取り組む」と表明。ASEAN外交筋によると、具体化のための指針作りに今年12月下旬から着手することになった。

あくまで対話に徹する姿勢を強調する背景には、7月のASEAN地域フォーラム(ARF)で、クリントン米国務長官が南シナ海での活動を活発化させる中国に対して懸念を表明し、ASEAN諸国からも批判が相次いだことが、中国側の想定の範囲外だったことがある。
中国とASEANは今年1月から自由貿易協定(FTA)を本格的に発効させるなど、経済関係での結び付きを急速に強めており、ASEANにとって中国が最大の貿易国になっている。

焦点の行動宣言は2002年に中国とASEANの間で署名されたが、ASEAN側は法的拘束力のある「行動規範」への格上げを主張。中国はこの問題を多国間協議で扱うべきではないと主張し、その具体化を進める指針作りなどは進んでいなかった。
今後、指針については、12月22、23の両日に北京で開かれる見通しの作業部会や年明けに予定される高級事務レベル会合で内容の検討に入る。ASEAN外交筋によると、紛争解決を二国間での解決に委ねるとする中国の主張が盛り込まれることでほぼ合意ができており、中国が「実」を取る一方、ASEANにとっても、行動規範に向けた前進と位置づけることができ、中国に「屈服」した印象を避けることができ、双方が折り合えたと見られる。【10月30日 朝日】
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対話姿勢を打ち出した中国ですが、「南シナ海行動宣言」を具体化する指針作りに関しては、“紛争解決を二国間での解決に委ねるとする中国の主張が盛り込まれることでほぼ合意ができており”ということですので、やはり中国の勢いにASEAN各国は一定に配慮せざるを得ない「現状」が見てとれます。


【会談拒否から10分間懇談へ】
一方、日本との対話には問題があるようで、菅直人首相と中国の温家宝首相による日中首脳会談が29日、中国側の拒否で見送られるという、日本政府としては想定外の展開になっています。
尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をめぐって悪化した日中関係修復を目指した日本側でしたが、再び日中関係は冷え込む可能性も出てきました。

中国側の会談拒否の理由については、クリントン米国務長官の尖閣諸島が日米安保条約第5条の対象になるとの発言への反発、更に、前原誠司外相との会談での東シナ海ガス田共同開発の交渉再開に関する“誤報”問題があげられています。

****中国、首脳会談を拒否 「日本が雰囲気壊した」*****
・・・・27日(日本時間28日)にハワイであった日米外相会談で、クリントン米国務長官は尖閣諸島について米国の防衛義務を定めた日米安保条約第5条の対象になると発言しており、これに強く反発したとみられる。中国外務省の馬朝旭報道局長も同日夜、クリントン長官の発言に「強烈な不満」を表明する談話を発表。「絶対に受け入れられない」などとした。
また、中国側は29日午前にあった前原誠司外相と中国の楊潔チー(ヤン・チエチー、チーは竹かんむりに褫のつくり)外相の日中外相会談を取り上げ、「日本側が事実ではない話を流し、両国の東シナ海をめぐる立場をねじ曲げた」と指摘。東シナ海ガス田共同開発の交渉再開で合意したとの報道があったとして、「完全に事実と異なる」と訴えた。
日本外務省によると、中国側は仏AFP通信の記事を問題視しているという。AFP通信は前原外相の発言として、東シナ海ガス田開発の条約交渉再開で両政府が合意したという記事を配信しており、日本外務省はAFP通信に訂正を求めたという。・・・・【10月30日 朝日】
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こうした中国側の姿勢の背景には、中国では現在反日世論が高まっており、国内での「弱腰」批判を恐れる中国としては、日本、特に対中強硬発言を繰り返す前原外相に対し、柔軟な姿勢を見せられない状況にあることが推測されています。
中国当局も想定外に拡大する懸念もある反日デモ抑制に神経をとがらせています。
“中国人権民主化運動情報センター(本部香港)によると、10月半ばに反日デモがあった陝西省西安市、四川省成都市などの大学では今週末も、学生の外出を制限する措置が取られた。学校側はメールなどで「デモを組織すれば退学処分にする」と警告。学生からは「外出制限は憲法に違反する人権侵害だ」と反発する声も出ているという。”【10月30日 時事】

ただ、さすがにこのまま日本との交渉断絶というのもまずいという判断か、10分間の懇談が日中首脳間でなされたました。
****日中首脳が懇談 「今後ゆっくり話す機会つくる」で一致****
菅直人首相と中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相が30日、ハノイで開かれた東アジアサミットの会合前に、会場内にある首脳控室で約10分間、意見を交わした。福山哲郎官房副長官によると、両首脳は(1)29日に日中首脳会談が行われなかったことは残念との認識を共有(2)今後も民間交流を強化する(3)引きつづき戦略的互恵関係の推進に努力する(4)今後、ゆっくり話す機会をつくる――の4点を申し合わせた。【10月30日 朝日】
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【「決して他人事ではない」】
中国側の日中会談拒否については、ASEAN諸国にも波紋を広げています。
****中国の対日姿勢「他人事ではない」 ASEAN各国注視*****
日中首脳会談が中国側の拒否で見送られたことについて、東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国は「事態の推移を慎重に見極めている」(加盟国の外務省高官)など、一様に高い関心を持って注視している。最近、尖閣諸島やスプラトリー(南沙)諸島などで権益拡大の動きを見せ、強硬手段にも訴える中国の動きは、領有権問題を抱える一部の加盟国にとって「決して他人事ではない」(タイのベテランジャーナリスト)からだ。
ASEAN関連首脳会議が開かれているハノイの国立会議場では29日夜、会談中止のニュースが流れると、各国高官らは一様に驚きの反応を示した。カンボジアのハオ・ナムホン副首相兼外相は「あくまで二国間の問題」としながら「両国の関係が悪くなるのは決して望ましくない」と記者団に述べた。
ハノイに駐在する加盟国の外交官は「中国はたびたび自分たちの考えを率直に述べるが、外交のやり方にはなじまない」と話した。別の外交官は「日本は外交交渉の場などで明確な意思表示をしないことが多い。そこに問題の素地があるのではないか」と指摘した。【10月30日 朝日】
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【米:中国との対決も辞さない強固な姿勢へ】
中国側が反発しているのは、日本との関係だけでなく、中国脅威論を背景にこの地域への関与を強めようとするアメリカの対応が背景にあります。
アメリカ・オバマ政権内部にも、中国との対話を重視する「叩頭派」と、強硬姿勢を重視する「失望派」の対立があることは以前ブログでもふれましたが、次第に対中国強硬姿勢に傾いているようです。
そして、その変更の背景には中国の外交姿勢変化もあるとの認識です。

****オバマ政権変容 対中政策、対決も辞せず 2国間関与拡大→同盟諸国と連帯****
米国のオバマ政権の中国に対する政策が基本的な変容を示し始めた。中国との対立点を認めながらも米中2国間の関与拡大で中国を既存の国際秩序に招き入れていくという従来の基本政策をほぼ放棄し、今後は日本などの同盟諸国と連帯し中国との対決も辞さない強固な姿勢へと移行するとみられる。

オバマ政権の対中政策の変更については国防総省の前中国部長で現在は大手研究機関AEIの中国専門研究員のダン・ブルーメンソール氏が27日、「オバマ政権登場以来の対中戦略的適応と呼べる融和的な政策は、中国側の最近の強硬姿勢により保持できなくなった」と評した。
ホワイトハウスの26日の記者会見でもギブズ報道官は中国人記者から「オバマ政権の対中政策は強硬な姿勢へと変わったのか」と問われ、否定せず、「中国側は通貨問題などでとにかく行動をとらねばならないというのが米側の信念だ」と強い語調で答えた。
ニューヨーク・タイムズ紙も同日付で「オバマ政権は同盟諸国と連帯して、中国への姿勢を強固にすることになった」と報道した。それによると、オバマ政権は発足当初以来、中国に対しては2国間だけの直接のアプローチで人民元通貨レート、貿易不均衡、安全保障など広範な問題について根気強く協力を求める政策をとってきた。だが、中国側の最近の新たな強い自己主張に対米協力はほとんど得られないと判断し、政策変更を決めたという。
ワシントン・タイムズ紙も27日付で、アジア太平洋歴訪に出発したクリントン国務長官が中国の新たな強硬姿勢に対し、ベトナムやオーストラリアなどの友好、同盟国との連帯の強化に努め、オバマ政権の新対中政策が打ち出されつつあることを強調した。

米国では最近、中国が南シナ海を自国領海扱いし、東シナ海では尖閣諸島をめぐり日本に威嚇的な態度をとったことや、レアアース(希土類)輸出の一方的規制、北朝鮮やイランの核開発阻止の非協力などに対し、超党派の広範な反発が強まってきた。
オバマ政権の対中政策の変容はこうした内外の数多くの要因に押され、他に選択の余地がない結果ともいえる。しかしその背景の核心としては中国自体が対米、対外の戦略を根幹から変えたようだとの認識が影を広げている。
その典型は外交評議会の中国専門家で民主党系の有力学者のエリザベス・エコノミー氏が最近、発表した「中国の外交政策革命」についての論文だといえる。論文は中国がオバマ政権誕生当時は米国主導の既存の国際システムにその規則を守りながら参入していく意図だったが、一昨年の米国の金融危機以降、既存の国際秩序をむしろ積極的に変えていくという「国際的革命パワー」へと変わることを決めたようだ、と論じた。【10月30日 産経】
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米中間の対決姿勢(お互いの利害次第では手を組むことも当然ありうる関係ですが)が強まるなかで、中国との経済的関係の強い日本を含めた東南アジア各国は今後も難しいかじ取りが要求されます。

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