孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州委員会、フランスのロマ送還問題で法的措置回避  ルーマニアのロマの現況

2010-10-22 20:47:09 | 世相

(ルーマニアのロマの母子 “flickr”より By Cernavoda
http://www.flickr.com/photos/98422476@N00/137475525/ )

【EU法に沿う形で国内法を来年初めまでに改正】
EUの行政府・欧州委員会は先月29日、フランス政府が少数民族ロマを出身国ルーマニアなどに送還している問題について、「欧州市民の域内移動の自由」を定めたEU法に抵触していると判断、フランス政府がEU法に沿った形で国内法の不備を速やかに是正しなければ法的措置を取る方針を決めました。

ロマ送還を巡っては、欧州委員会のレディング副委員長(司法・基本権・市民権担当)が第二次世界大戦中の強制送還になぞらえたことにサルコジ大統領が猛反発。バローゾ欧州委員長とサルコジ大統領がEU首脳会議の場で舌戦を繰り広げるなど、対立が深刻化していました。【9月29日 毎日より】

フランス政府は15日、「欧州市民の域内移動の自由」を定めたEU法に沿う形で国内法を来年初めまでに改正する意向を示したことにより、ロマ送還を巡る欧州委員会とフランスの確執はひとまず決着した形となっています。

****仏政府、ロマ人送還問題で是正を約束 法的措置回避****
フランス政府が少数民族ロマ人を東欧などへ強制送還している問題で、欧州連合(EU)の欧州委員会は19日、フランス政府から改善にむけた法整備を行うとの回答があったことをうけ、欧州司法裁判所への提訴などの措置は行わないと発表した。
フランス政府は数か月前から国内のロマ人居住キャンプ数百か所の強制撤去に着手し、ロマ人を出身国のルーマニアやブルガリアに送還している。これについて欧州委は、EU市民の域内の移動の自由を保障したEU法に違反する可能性があるとし、提訴の可能性を示唆。仏政府に15日を期限として回答をもとめていた。
だが、欧州委のビビアン・レディング副委員長(司法・基本権・市民権担当)は19日、仏政府からEU法に準拠するよう国内法を見直すとの回答があったと発表。欧州委は、この対応を評価し、当面はフランスに対する司法措置などは行わないとの方針を示した。【10月20日 AFP】
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【イタリアでは“壁”】
もっとも、フランスは今、年金改革問題で国をあげて大騒動の最中で、ロマの問題などどこかに吹き飛んだ感もあります。
ロマ対策強化はフランスだけでなく、14万人のロマがいるとされるイタリアなどでも見られます。
“ベルルスコーニ首相は今月中旬、仏フィガロ紙との会見で、サルコジ大統領の「ロマ追放策」を支持し、「ロマ問題は仏だけでなく欧州すべての問題だ」と語った。また、極右政党「北部同盟」のボッシ党首も12日の党大会で、イタリアも追放策を進めるかと聞かれ、マイクを手に「(同じ党所属の)マローニ内相がすでに(内閣に)求めたはずだ。空き巣の大半はロマの仕業だからな」と語った。”【9月27日 毎日】

先日、TVのニュースで、イタリア・ナポリ近郊のジュリアーノ市では、ロマ居住区を高さ3mのコンクリート壁で遮断する計画だと報じていました。当局の説明では、この壁は“町の装飾”だとか。
こうしたロマへの厳しい対応は、窃盗など不法行為を行うロマが多数存在するという現実が背景にあります。

【出国時に300ユーロ】
また、ロマがフランスなどに移動してくるのは、帰国時に出されるカネが目当てという一面もあるようです。
*****欧州を覆うロマ人問題 山口昌子*****
・・・・仏政府は自発的に出国に応じた者には1人300ユーロ(約3万3千円)、出身国で店などを出す計画がある者には3600ユーロ(約40万円)を支給する。出国に応じない者は強制送還する。
仏週刊誌ルポワンによると、ルーマニア東部カルビニ在住のロマ人の大半は少なくとも一度は仏滞在の経験がある。300ユーロや開店資金が目当てだ。「次は開店の計画書を提出する」と渡仏の機会を狙っている者もいる。仏国内のロマ人はここ数年、常時約1万5千人。追放してもいつのまにか舞い戻るイタチごっこが続いている。
(中略)
子連れなどのロマ人の送還は第二次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ系住民の強制収容所送りを連想させることもあり、仏国内では社会党など野党や人権団体に加え、カトリック教会も政府を批判。国連人種差別撤廃委員会も「人種差別、外国人排斥の感情をそそる」と非難している。
欧州全体でロマ人と移動生活者の総数は1千万人を超える。欧州を徘徊(はいかい)するロマ人対策は今や、EU全体の課題でもある。【8月25日 産経】
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【「『ロマ問題』と名付け、ロマ全員を邪魔者と決めつける議論が出てくるのは怖い」】
定職について働いているロマの人からは、土地の不法占拠などは取り締まるべきだが、「ロマ問題」という形で「我々多様なロマを一くくりにしないでほしい。差別を助長するだけだ」といった声もあります。
****ロマ:「偏見、助長しないで」首相ら批判発言に懸念*****
「我々多様なロマを一くくりにしないでほしい。差別を助長するだけだ」--。イタリアの首都ローマ南郊のロマ居住区の代表は、フランス政府のロマ強制送還をめぐる議論に神経をとがらせている。イタリアでも、ベルルスコーニ首相や与党の極右政党党首がここぞとばかりに「ロマ批判」を公言しており、差別が広がるのを恐れているためだ。(中略)
フランス政府の送還策については、意外にも全面的に反対という立場ではないという。「土地の不法占拠など違法行為は取り締まるべきだ。だが、『ロマ問題』と名付け、ロマ全員を邪魔者と決めつける議論が出てくるのは怖い」(中略)

現政権は08年に「治安」を理由に子供も含むロマ全員に指紋押印を強制しようとしたが、欧州委やカトリック団体の反発にあって取り下げた。ナポリでは住民がロマのキャンプを破壊し追い出す事件も起きている。ローマでは24日から与党「自由国民」の市会議員名で「ロマの占拠キャンプからローマを解放せよ」「移民を止めろ」と書かれたポスターが張られ出した。
イタリア政府は追放策を取っていないが、仏のやり方や右派の暴言に対する国民の反応を探っているところがある。左派の野党は弱く、彼らの声は響いてこない。
メディアでは「イタリア語も話さず固まって暮らし、融和しない」と中国人がよくやり玉に挙げられるが、政府要人による批判は少ない。「我々が標的になるのは、国家という後ろ盾がないからだ。『流浪の民』というのは全くの偏見で、我々の多くは定住型で、みな社会に溶け込み普通に暮らしたいのだ」
バンバラウさんはイタリアに来た80年代末から、差別的な空気が年々高まってきたと感じている。【9月27日 毎日】
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【ルーマニアにおける差別、貧困、教育問題】
ロマが欧州各国に移動して多くの問題を惹起している背景には、ロマの多くが暮らすルーマニアにおけるロマへの偏見・差別があります。

****逆境に生きる:ルーマニアのロマ/下 結婚、家族の反対で破局*****
◇出自隠したくない
・・・・ロマはなぜ差別されるのか。ブカレストのロマ支援組織「イムプレウナ」のドゥミニカ代表は、この地で19世紀半ばまで約600年間続いた奴隷時代にその根源があると指摘する。1800年代の法典はロマを「生まれながらの奴隷」と規定、自由人との結婚を認めなかった。
奴隷解放後も根深い差別の下でロマの土地所有や教育は進まなかった。都市周辺部に追いやられたロマは独自の文化や慣習を固守する閉鎖的な社会を築き、差別を増幅させる悪循環につながった。
事実、ロマであることを隠し社会に同化する人も少なくない。人口2100万人余りのルーマニアで、ロマは自己申告に基づく国勢調査では50万人だが、出自を隠している人も含めると150万人に達すると言われる。
「ロマであることを隠さなくてもよい社会になってほしい」。(ロマであることから結婚が認められなかった)破局から立ち直ったフロリカさんは今、ロマ支援のボランティアに参加している。【10月20日 毎日】
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ただ、この「1800年代の法典」については、“当時、そのような法典が公布及び施行された記録が残されていないからで、法典自体も見つかっていない。”【ウィキペディア】との懐疑的な見方があります。

こうした差別の結果、経済状況は厳しいものがあります。
****逆境に生きる:ルーマニアのロマ/中 一家8人、収入は手当だけ*****
 ◇差別や無学、就職妨げ
・・・不況に苦しんでいるのはロマ以外のルーマニア人も同じだが、不安定な生活ぶりは定職率に表れている。ロマ支援団体によると、賃金労働者のロマ男性のうち会社員はわずか36%。非ロマの割合の半分以下だ。1400人足らずのロマ中心のピタスカでは、1人1日1ドル以下で暮らす「極貧」家庭も珍しくない。
貧困の背景はさまざまだ。差別や無学が障害となり働きたくても働けない人もいれば、汗水垂らして働くよりも社会手当を当てにする者もいる。ルーマニア人の教師の妻を持つあるロマ男性はこう話す。「高等教育を受けた妻でも月給はわずか180ユーロ(約2万円)。パリの観光名所で物ごいし日に150ユーロ稼いだという話もある。社会手当をもらうために働かない方がいいと考える者がいて当然だ」(後略)【10月19日 毎日】
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そして貧困は、教育の機会を奪う形で、貧困と差別を再生産する悪循環にあります。
****逆境に生きる:ルーマニアのロマ/上 靴が無いから、学校に行けない****
 ◇抜け出せぬ貧困
・・・・ロマの教育状況は深刻だ。全く教育を受けていない人の割合は、少数民族を含むルーマニア全体で5・6%なのに対し、ロマは34・3%。高卒以上は全体の46・8%に対し、ロマは6・3%に過ぎない(02年調査)。背景には貧困だけでなく、ロマ社会の伝統や差別もある。(後略)【10月18日 毎日】
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EUとしては、ルーマニアにおけるロマの置かれている状況改善に手を打つべきですが、ただ、多くの民族問題・社会差別問題と同様に、制度をいじるのは容易でも、ひとの心の中にある“壁”を取り除いていくのは極めて困難で長い時間がかかる問題です。

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