孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカとイスラエル  ふたつの“誓い” 「神のもとの国」と「ユダヤ国家」

2010-10-12 20:01:06 | 国際情勢

(イスラエル・テルアビブの海岸で遊ぶアラブ系の少女たち “flickr”より 
By noga_kadman http://www.flickr.com/photos/noga_kadman/2169935294/ )

今日は「誓い」の話題。
【「one nation under God」】
ひとつはアメリカの「忠誠の誓い」。
****「神のもとの国」米忠誠の誓い 論争絶えず*****
米国のほとんどの公立学校では、毎朝子供たちが星条旗に向かい「忠誠の誓い」を朗唱する。誓いには「one nation under God」(神のもとのひとつの国)という言葉がある。このため、米国憲法の「教会と国家の分離」との整合性をめぐり、論争も続いている。
「忠誠の誓い」は1892年、キリスト教バプテスト派の牧師、フランシス・ベラミー氏によって起草され、1942年、連邦議会が正式な国の誓いとして認定したが、「神のもと」の表現はなかった。
「under God」はもともとリンカーン大統領のゲティズバーグの演説(1863年)に盛り込まれた言葉で、1954年、アイゼンハワー大統領が米国を特徴づける言葉として誓いへの挿入を指示し、上下両院の合同決議で承認された。背景には、宗教を否定した共産主義への宗教界と政界の危機感があったという。

以来、学校だけでなく、地方の政治的な集いやスポーツイベントなどで、米国民が右手を胸にあてて誓いを述べる光景は、多様な背景をもつ国民がひとつの国家という意識に統合される“象徴”といえる。
半面、国教の樹立を禁じ、信教の自由を保障した憲法修正第1条に違反するのではないか、という訴えも絶えなかった。
43年、連邦最高裁は「公立学校は子供たちに誓いを強要することはできない」との判決を下した。最近では、公立学校における誓いの奨励は違憲だとするカリフォルニア州の無神論者の訴えに対し、サンフランシスコの控訴裁判所が今年3月、「愛国心を養う儀式」として、合憲との判決を下している。
多様性を尊重しつつ、「神のもと」の結束を追求する米国。「神」が何を指すのか、反イスラム感情が広がる中、その問いかけに終わりはなさそうだ。【10月11日 産経】
*****************************

宗教がからむとなにかと複雑になります。
ある種“冷戦”の産物でもありますが、宗教保守派の力が強い現在、今更はずすこともできないでしょう。
まあ、問題にするのも一部無神論者でしょうから、さほど大きな問題になることもないのでは。

【「ユダヤ国家」】
もっと生臭いと言うか、政治的なのは、イスラエルにおける“「民主的なユダヤ国家」への忠誠宣誓義務化”の話題。
****イスラエル:「民主ユダヤ国家」忠誠宣誓義務化へ****
スラエル政府は10日、国籍取得の新規申請者に「民主的なユダヤ国家」への忠誠を宣誓するよう義務づける法改正案を閣議決定した。イスラエルには国籍を持ったイスラム教徒やキリスト教徒もおり、改正案には連立政権内でも「排他的だ」などとの反発が強い。
現・国籍法は、新規国籍取得者に「イスラエル国家」への忠誠の宣誓を義務づけ、今回、「民主的なユダヤ国家」との文言が加わる。国会承認を経て改正される見通しだ。

義務づけは主に、人口の約2割を占めるイスラム教またはキリスト教のパレスチナ(アラブ)系イスラエル人と結婚し、国籍を申請するパレスチナ人が対象。外国籍のユダヤ人は別の「帰還法」に基づき国籍を取得し、宣誓は義務づけられていない。国家のユダヤ的な性格を否定しないユダヤ系イスラエル人の中でも、改正は排他的、非民主的--との反発もある。【10月10日 毎日】
***************************

イスラエル建国後もこの地に残ったパレスチナ人は多く、【ウィキペディア】によれば、現在のイスラエル人口のうち、17.3%をアラブ人が占めています。
イスラエルは、この非ユダヤ人の増加について、“ユダヤ国家”のアイデンティティーを脅かすものとして神経を使っています。

今回の「民主的なユダヤ国家」への忠誠宣誓は、すでにイスラエル国籍を取得しているこれらアラブ人は対象外でしょうが、これらの者と結婚して新たにイスラエル国籍を取得するパレスチナ人が対象になるようです。
“イスラエル=ユダヤ国家”という認識は、現実に多数のアラブ人が存在することを考えると、常識的には“差別的”ですが、イスラエル・ユダヤ人の発想はまた別物です。

【難民帰還を否定する「ユダヤ国家」承認】
このイスラエルの「ユダヤ国家」へのこだわりは、パレスチナ自治政府との間で行われて中東和平交渉の障害ともなっています。
****入植凍結延長で条件=「ユダヤ国家」承認、パレスチナは拒否―イスラエル****
中東和平の直接交渉がユダヤ人入植問題で暗礁に乗り上げる中、イスラエルのネタニヤフ首相は11日、国会で演説し、パレスチナ側に対し、イスラエルを「ユダヤ人国家」として承認することを条件に、占領地での入植活動の凍結延長を提案していたことを明らかにした。
ただ、パレスチナ自治政府のアブルデイネ議長府報道官は同日、「われわれはすでにイスラエルを承認しており(ユダヤ人国家かどうかは)われわれには関係ない」と述べ、提案に応じない姿勢を鮮明にした。
イスラエルを「ユダヤ人国家」と認めれば、イスラエル建国で発生したパレスチナ難民が故郷へ帰還する権利を否定することにつながるため、パレスチナには受け入れられない条件だ。【10月12日 時事】
***************************

記事にもあるように、パレスチナ難民の帰還問題を考えると、パレスチナ側としてはとても認められない条件でしょう。
なお、アッバス議長は、進展が図れないイスラエルとの直接交渉の継続については、8日開催のアラブ連盟外相会合で協議したうえで、最終的に決断する方針を表明していましたが、アラブ連盟も最終判断を先送りしたようです。

****アラブ連盟:中東和平交渉の判断、1カ月猶予 米に配慮****
アラブ連盟(22カ国・機構)は8日、リビア北部シルトで外相級会合を開き、イスラエルによる占領地でのユダヤ人入植活動再開で決裂の危機に直面した中東和平交渉について、交渉継続の是非を1カ月後に判断すると決めた。当事者間の調整を続ける米国に配慮し、決裂回避のための「猶予期間」を設けた形だ。

アラブ連盟は会合後の声明で、イスラエルがユダヤ人入植住宅の新規建設を改めて凍結しない限り、直接交渉を打ち切ると表明したパレスチナ側の方針を支持。イスラエルを「違法な入植政策を続けて交渉を停滞させた」と非難した。一方で、1年以内の和平実現を目指すオバマ米政権の方針については支持を確認した。
連盟はアッバス・パレスチナ自治政府議長の提案を受け、1カ月後に再度集まり直接交渉の「代替案」を協議するという。
パレスチナは米国が提案したとされる「60日間の凍結」を受け入れ、この間に国境画定問題を協議する意向を示している。これに対し、イスラエルでは強硬派の右派閣僚を中心に、凍結に反対する意見が根強い。
米国が今後1カ月でイスラエルの譲歩を引き出せるかどうかが焦点となる。クローリー米国務次官補(広報担当)は8日、「交渉前進の努力を続ける」との声明を出した。【10月9日 毎日】
****************************

イスラエル・ネタニヤフ首相としては、“入植凍結”と引き換えに“ユダヤ国家”を認めさせることで、国内保守派を抑えようということでしょうが・・・・。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする