孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  来月7日総選挙 圧倒的苦戦の野党勢力

2010-10-19 17:55:59 | 国際情勢

“flickr”より By Burma Partnership
http://www.flickr.com/photos/burmapartnership/4658429901/ )

【“民政移管”を偽装した総選挙】
11月7日にはミャンマーの総選挙が行われます。
これまでも繰り返し取り上げてきたように、また、多くのメディアが報じているように、今回選挙は軍事政権のコントロール下で行われ、“民政移管”を装いながら、実質的に現在の軍事政権を維持しようというものです。
民主化運動の象徴であるアウン・サン・スー・チーさんは軟禁されたままで選挙への関与を認められず、彼女が率いる国民民主連盟(NLD)は彼女の総選挙を認めないという意思を反映して、総選挙に参加せず解党の途を選択しました。

軍事政権は08年、新憲法を成立させましたが、新憲法には、議会の総議席の4分の1を軍部が指名するといった条項が含まれています。
更に、指名枠以外の部分でも、軍による議会の直接的な支配を目指して、多くの軍幹部が軍を離れ、テイン・セイン首相が党首を務める軍政直系の政党「連邦団結発展党」(USDP)から立候補します。

着々と準備を進める軍事政権側に対し、野党は厳しい戦いを強いられています。
公務員や僧侶は立候補できません。
各政党は、政党登録に当たって少なくとも1000人分の党員名簿を提出しなければならないとされましたが、投票日の発表から届け出まで半月足らずで、党員・候補者集めもままならない状態でした。
また、治安当局者が党員を訪ねる「嫌がらせ」も相次ぎました。
平均年収に匹敵する1人500米ドル(約4万3千円)の供託金も大きな負担となりました。

選挙活動についても、“立候補者は少なくとも1週間前には選挙活動を行う許可を得なければならない。スローガンを叫んだり、旗を掲げることは禁止。演説では軍事政権を批判したり、「治安に悪影響を及ぼして」はならない。”といった規制が課されています。

更に、選挙管理委員会は、主に少数民族が暮らす5州の一部地域で投開票を実施しないと発表しました。理由は「自由で公正な選挙を実施する見込みがない」ということですが、武装組織の政府軍編入を求める軍事政権に反発する少数民族を選挙から排除する方針に踏み切ったとみられています。
少数民族による選挙妨害を排除し、また、そうしたエリアでの軍事政権側の選挙敗北を未然に防ぐ意味合いがあると考えられます。

【スー・チーさんは選挙ボイコット】
アウン・サン・スー・チーさん自身については、選挙終了後の13日が自宅軟禁期限ですので、選挙の結果が確定したその時点で解放される見通しが政府高官から明らかにされています。
彼女の選挙権については、当初発表された有権者名簿の中に名前は含まれておらず、選挙権を奪われた形となっていましたが、欧米諸国の強い反発を受け、選挙管理委員会はスー・チーさんを有権者名簿に追加し、投票を認める措置をとっています。
しかし、当然ながら、彼女は投票しないことを表明しています。

****スー・チーさん、総選挙「投票しない」 ミャンマー*****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは12日、弁護士と面会し、11月7日に実施される総選挙では投票しない考えを伝えた。自宅軟禁中のスー・チーさんに対し、選挙管理委員会は投票を認める措置をとったが、軍事政権主導の総選挙に反発した形だ。【10月13日 朝日】
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【「選挙後に魔法のように一夜で民主主義が現れるわけでも、軍政が突然消えるわけでもない」】
こうした圧倒的に不利な状況下で戦う野党勢力にとって、大きな痛手は、民主化運動の象徴であるスー・チーさんの協力・支援が得られなかったことでしょう。

****軍政着々、民主化勢力は苦戦=スー・チーさんの支援得られず―ミャンマー*****
・・・・軍事政権側は、地方選を含めて1100人以上の候補者を擁立し、準備を着々と進めている。一方、民主化勢力は頼りのアウン・サン・スー・チーさんの支援も得られず、極めて苦しい戦いを強いられている。
民主化勢力の中核とされる国民民主勢力(NDF)は、選挙をボイコットしたスー・チーさん率いる最大野党の国民民主連盟(NLD)から分派した。約160人の候補者を立て、9月末には少数民族などの5党との連携を決めた。
しかし、スー・チーさんはNDFに批判的とされる上、弁護士を通じ、支援者に「支持政党がなければ、棄権すべきだ」と訴えている。スー・チーさんの後ろ盾のないNDFが、民主化を求める国民の受け皿となるのは難しい情勢だ。
これに対し、軍政側は資金力、組織力ともに圧倒的。民主化勢力側からは「優劣の差は歴然。予想されたような妨害行為すらない状態」との声も上がっている。【10月7日 時事】
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野党勢力側には、同じ民主化勢力でありながら、選挙を「見せかけ」と非難し、ボイコットを呼びかける旧NLD幹部への不満が募っているといるとも報じられています。

****瀬戸際に立つ民主化の象徴******  
・・・・・・NDF幹部のキン・マウン・スエ氏は、今月9日の反軍政誌「イラワジ」(電子版)のインタビューで、「われわれが選挙を戦っているのに、彼らは動かずにしゃべっているだけだ」と、NLD幹部を痛烈に批判した。
ただ、スー・チーさんの高潔さと英明さは尊敬しており、彼女が指示するならば、選挙後、民主化勢力の再結成のため、NDFを解散し、NLDと再び一緒になる考えを示した。
同時に、同氏は「選挙後に魔法のように一夜で民主主義が現れるわけでも、軍政が突然消えるわけでもない」などとして、スー・チーさん側に現実的な対応を呼びかけた。

国会議員の経験を持つキン・マウン・スエ氏は、「民主化実現には、強い中間層の成長が必要」として、5年をめどに「経済的民主主義」を実現し、その後、「社会的民主主義、政治的民主主義」の実現を目指す考えを明らかにしている。
これに対し、スー・チーさんは12日、ヤンゴン市内の自宅で面会した側近に、NLDが解党し支持する政党がなくなったことや、自宅軟禁を含め服役している人に投票権は与えられていないことを挙げ、改めてどの政党にも投票しない考えを示したという。
スー・チーさんの発言が、キン・マウン・スエ氏の呼びかけを知った上でのものかはわからない。さらに、選挙後の「和解」について、どう考えているのかも、現時点では不明だ。(後略)【10月17日 産経】
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冒頭にも書いたように、実質的に軍事政権を維持するための総選挙、完全に軍政にコントロールされた総選挙であることは事実ですが、一方で、ミャンマーの現実を考えると、そこに参加していく以外に民主化を現実のものとしていく方法が他にあるのでしょうか?
選挙の不当性を訴える激しい国際批判は起こるでしょうが、中国やインドの協力を取り付けている軍事政権側は、“国際批判”など意に介さないでしょう。
「われわれが選挙を戦っているのに、彼らは動かずにしゃべっているだけだ」「選挙後に魔法のように一夜で民主主義が現れるわけでも、軍政が突然消えるわけでもない」とのNDF幹部スエ氏の言葉に共感します。

****ミャンマー:総選挙期間中、外国人記者の取材認めず****
ミャンマーからの情報によると、同国選挙管理委員会は18日、首都ネピドーでミャンマー駐在の各国外交官らを対象に会見し、11月7日に投票が行われる総選挙の期間中、外国人記者の取材や国際選挙監視団を受け入れない方針を明らかにした。理由については「必要性がない」と説明した。
国際社会は軍事政権に対し、自宅軟禁が続く民主化運動指導者アウンサンスーチーさんを解放し、自由で公正な選挙の実施を求めているが、軍政側は「複数政党が参加する公平な選挙」と主張。外国メディアや選挙監視団の受け入れを拒否したことで、軍政は強硬姿勢をより鮮明に打ち出した。

選管のテインソー委員長は会見で、「外国メディアの代表として(最大都市)ヤンゴンに地元記者が常駐し選挙取材ができるため、外国人記者を受け入れる必要はない」と指摘。外交団については「投票当日、外交官や国連機関を対象に視察ツアーを予定している」と説明した。【10月18日 毎日】
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