孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  「民政移管」の総選挙を受けての各国の思惑、経済「民営化」の動き

2010-11-07 19:50:40 | 国際情勢

(ミャンマー国内の選挙風景を伝える写真がflickrにも殆んどないので、07年の正月にミャンマーを観光した際の私の写真から、夜のシュエダゴンパゴダで祈る人々 )

【「出来レース」とは言いつつも・・・】
今日7日は、ミャンマーで20年ぶりの総選挙が行われています。
投票は、軍事政権側に不利な少数民族居住エリアを除く全国約4万の投票所で行われますが、当局は市内の商店や事業所に投票日7日の休業を要請しているとか。治安を維持し、投票率を高める狙いがあるとのことです。【11月6日 毎日より】インターネット接続も制限されているようです。

****ミャンマー、反軍政派伸びるか 7日に20年ぶり総選挙*****
軍事政権下のミャンマー(ビルマ)で20年ぶりとなる総選挙が7日、投開票される。軍政は、自らに有利な選挙の仕組みを整え、翼賛政党の連邦団結発展党(USDP)による過半数獲得に自信を見せる。ただ軍政不信や選挙への無関心が広がるなか、民主化勢力を含む野党が議席をどこまで獲得できるかにも注目が集まる。

前回1990年の総選挙では、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD、今年5月に解党)が圧勝したが、軍政は政権移譲を拒否。民主活動家らの弾圧を繰り返し、スー・チーさんはいまなお自宅に軟禁されたままだ。
今回は、民族代表院(上院、定数224)と人民代表院(下院、同440)からなる連邦議会と、14の地域・州議会(同888)の選挙が行われる。憲法の規定で定数の4分の1が軍人枠に充てられ、残り議席を投票で選ぶ。

USDPは、党首のテイン・セイン首相をはじめ閣僚が軍籍を離れただけで立候補するなど、ほぼ全選挙区に候補者を擁立。80年代までの独裁体制を支えたビルマ社会主義計画党が衣替えした国民統一党(NUP)がそれに続く。NUPは野党を強調するが、選挙結果によってはUSDPとの連立政権を目指すとの観測もある。
一方、NLDから分派した国民民主勢力(NDF)など民主化勢力は、反軍政の少数民族政党とともに一定の議席を獲得する可能性がある。ただスー・チーさんの棄権の呼びかけが逆風になるとの指摘があるほか、投票強制や票のすり替えなど軍政による不正を懸念する声も強い。
軍政は外国の選挙監視団や報道陣の受け入れを拒否。駐在外交官や外国メディアの地元スタッフに軍政が選んだ投票所を見せるだけだ。【11月7日 朝日】
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現軍事政権が衣替えしたUSPDと、軍事政権以前に一党独裁を行っていたNUPは、軍服を脱いだのが早いか遅いかだけの差しかないとも言われていますが、実際に多くの候補者を擁立して選挙活動を行える資金を持っているのは、この2党だけという状態で、国民の選択の幅は極度に制限されています。

今回の軍事政権からの民政移管を目指す選挙が実質的には軍事政権を維持継続する形式的なものにすぎず、様々な制約から、いわゆる民主化勢力の議会進出は阻まれており、軍人並びに元軍人が議会を支配すための「出来レース」にすぎない、国際社会むけのパフォーマンスにすぎない・・・という指摘は周知のところです。
このブログでも再三取り上げたところですので、そのあたりの話はパスします。

ただ、そうは言っても、民主化を目指す野党勢力から一人でも当選者がでるのか、冷めた国民の選挙への関心のもとで投票率はどの程度になるのか、選挙結果の不正な操作がおこなわれるのか、それとも操作も必要ないような結果となるのか・・・など、選挙結果についてはやはり気になるところでもありますが、結果が判明するのは数日かかるような話ですので、現段階での選挙後に関する話題などをいくつか。

【「選挙後」をにらんで動き出す国際社会】
「出来レース」だろうが「茶番」だろうが、一応の区切りをつける「潮目」になるとして、天然資源が豊富なミャンマーへの働きかけを強める日本を含めた関係国の動きが報じられています。
****ミャンマー投票を前に 「潮目」控え投資熱高まる経済制裁緩和の動き」****
〈世界銀行がビルマ支援を検討〉-今年1月28日付の英紙フィナンシャル・タイムズに載った記事が、ミャンマー(ビルマ)担当の外交当局者たちや、軍事政権に反対する民主化勢力を驚かせた。
国際社会、とりわけ欧米諸国は、1990年の前回総選挙後に権力移譲を拒んで居座った軍事政権に、経済制裁で臨んできた。だが、米国のオバマ政権が「対話路線」に転じ、風向きに変化の兆しが生まれた。そんな状況下の今年1月半ば、米国の影響が強い世銀と、アジア開発銀行(ADB)関係者がミャンマーを訪問。そこから冒頭のような報道が飛び出したようだ。
世銀、ADBはいずれも「融資の再開はない」と否定したが、訪問の目的は「将来に向けた分析作業」ニアダム
ス世銀上級副総裁)と含みを残した。ADBは7月下旬に上海で「ミレニアム開発目標」に関するワークショップを関いた際、軍政高官4人を招待。こうした動きは「制裁が緩和された時に、すぐ動くための準備」(援助関係者)と受け止められている。

規定では、総選挙後90日以内に「文民政権」が発足する。軍政系政党が圧倒的に有利な選挙に対して「軍服を背広に着替えるだけ」(民主化勢力)との批判は強い。しかし一方で、20年以上続いた軍政がともかく終わることを、一つの「潮目」と見る外交当局者や企業関係者は多い。
外交関係者によると、対ミャンマー政策で最強硬派だった英国が、5月の政権交代を機に政策見直しを検討し始めたという。
日本も、昨年9月に外務、経済産業両省の主導でミャンマー側と「官民合同貿易投資ワークショップ」を首都ネピドーで関いたほか、日本貿易振興機構(JETRO)や日本同工会議所などが相次いで視察団を送り込んだ。企業関係者の個別のミャンマー訪問も増えているという。
ミャンマーには天然ガスやレアメタルなど豊富な天然資源が眠っているとされる。選挙後の「民政移管」は、たとえそれが茶番と言われようと、同国でのビジネスの扉を開く契機にできる。
すでに韓国や中国、シンガポールといった制裁に積極的でない国々は活発にミャンマーヘの浸透をはかっている。

こうした「追い風」を象徴するかのように、最大都市ヤンゴン市内には新しいショッピングセンターやスーパーが相次ぎオープンし、欧米の経済制放下にあるとは思えない「活況」ぶりだ。
だが、庶民にとっては物価ばかりが高騰し、暮らしは厳しさを増している。「選挙後」をにらんで動き出す国際社会と、希望の少ない投票日を迎える市民。その姿はあまりに対照的だ。【11月3日 朝日】
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【将校らの親類や飲み仲間への「民営化」】
政治の「民政移管」に併せて、経済の「民営化」も行われているようですが、当然のごとく権力周辺特権者への譲渡です。
****ビルマの「民主化」選挙はただの見せ掛け****
世界で孤立を深めるビルマの軍事政権。11月7日に20年ぶりに実施される総選挙は、長く待ち望まれてきた民政への移管を記念するものになるはずだった。
だが実際は、投票といっても形ばかりのもの。野党は事実上、選挙への参加を許されていないし、現政権に近い企業関係者を政権の要職に迎えるための政治ショーの様相が強い。
このような演出された「改革」の波は経済界にも押し寄せている。軍事政権は今、1962年にクーデターによって政権を握って以来、最大規模の国有財産の「民営化」に着手しているところだ。数億ドル相当の庁舎や鉱山、通信設備、港湾施設、さらには国営の航空会社まで民間に売却し始めた。
とはいえ、野党の候補者が立候補を許されていないのと同様、競争入札はなし。大半が将校らの親類や飲み仲間の手に渡っている。「民主化」をうたっていても、結局は見せ掛けにすぎないようだ。【11月10日号 Newsweek】
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【ビルマ族主体の民主化勢力と少数民族が連携】
軍事政権への抵抗勢力としての国外亡命中の民主化勢力と、軍政に対し内戦状態にある複数の少数民族組織が連携する動きもあるようです。
****ミャンマー:民主化勢力と少数民族 連邦国家樹立へ協力****
軍事政権下のミャンマーで7日に実施される総選挙を前に、国外亡命中の民主化勢力と、軍政に対し内戦状態にある複数の少数民族組織などが秘密裏に会合し、少数民族の自治権を認める連邦国家樹立に向け協力することで5日に合意したことが分かった。在日の民主化勢力関係者が毎日新聞に明かした。選挙という民主化の「実績」を国際社会にアピールしたい軍政に対し、ビルマ族主体の民主化勢力と少数民族が連携を強化し、対抗していく戦略とみられる。(中略)

マウンミンニョウ代表は「民主化勢力側にも以前はビルマ人(族)中心の国家を考える者がいた。真の連邦国家を目指す今回の合意は画期的で、総選挙後の軍政への対抗措置だ」と話す。
また、先月24日にはインド国境付近で、別の民主化勢力と少数民族組織が会合を開催。民主化運動指導者アウンサンスーチーさん率いる国民民主連盟(NLD)の幹部と、シャンなどの少数民族の政党が▽スーチーさんの指導による団結と国民和解▽少数民族の自治権を認めた「パンロン会議」(47年)の第2回会議の早期開催--などで合意した。
NLDを支持するNLD・LA(国民民主連盟・解放地域)のタンゼンウ日本支部議長は「軍政は国境地帯で力がないので(選挙後も)国をまとめることはできない。合意は軍政への圧力の一つとなる」と話す。ビルマ族と少数民族の融和という積年の課題を民主化勢力が克服すれば、軍政を揺さぶる対抗軸になる可能性がある。【11月7日 毎日】
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国外亡命中の民主化勢力はミャンマー国内ではほとんど力を持ち得ないので、各民族武装組織の国軍編入を進める軍事政権に抵抗する少数民族武装勢力がどの程度の力を発揮できるのか・・・というところですが、あまり期待はできないようにも思えます。

ただ、これまで民主化運動を進めるビルマ人には少数民族蔑視があり、少数民族側にもビルマ人全体への不信感があったこと(そのため、民主化運動鎮圧には少数民族出身の部隊が動員されたとも言われています)を考えると、一歩前進ではあります。

【「11月13日に解放される」】
なお、スー・チーさんについては、13日解放が報じられています。
****「スー・チーさん13日解放」ミャンマー軍政筋*****
ミャンマーの軍事政権筋は6日、読売新聞に対し、2003年から自宅軟禁下に置かれている民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん(65)が「11月13日に解放される」と語った。
ミャンマーのテイン・セイン首相は10月にハノイで行われた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で、スー・チーさんは「11月のいずれかの時期に解放されるだろう」と述べていた。ただ、スー・チーさんが率いていた「国民民主連盟」(NLD)は、ミャンマーでは20年ぶりとなる7日の総選挙への不参加を決めて5月に解党し、現在は非公式な団体になっている。選挙後にスー・チーさんが自由の身となっても、軍政が政治活動をどこまで容認するかは不明だ。
関係筋によると、英国在住のスー・チーさんの次男が現在、解放後の再会に備えてタイのバンコクで待機している。【11月7日 読売】
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個人的には、選挙ボイコットを訴えるスー・チーさんが、たとえ「茶番」でも、国政参加の唯一の機会である選挙における民主化勢力支援の方向で動けば、もう少し違った流れもありえたのでは・・・という思いがあります。

コメント
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