(08年11月26日夜のムンバイ同時多発テロの標的となったタージマハル・ホテルも近いインド門をバックにスピーチするオバマ大統領夫妻 “flickr”より By wtluae
http://www.flickr.com/photos/55118228@N03/5151167338/ )
【任期1期目の訪印 対印重視の表れ】
アメリカ・オバマ大統領は5日から14日まで、日本を含めたアジア諸国を歴訪しますが、そのうち6日から9日まではインドに滞在するスケジュールが示すように、今回外遊の主たる目標は、経済関係拡大及び台頭する中国牽制のためのインドとの関係強化にあります。
****米大統領:インドと経済関係強化へ アジア歴訪*****
オバマ米大統領は5日、アジア歴訪に出発し、14日までインド、インドネシア、韓国、日本を訪問する。与党・民主党が敗北した中間選挙後の初の外遊となる。大統領は3日の記者会見で「(訪問の狙いは)米国の雇用創出に向けた市場開拓だ」と述べ、国内外に米国の経済政策をアピールする考えを表明した。特に重視するのは巨大市場としての可能性を秘め、中国の対抗勢力に位置付けるインドとの関係強化だ。
大統領は6~9日の日程で首都ニューデリーと経済の中心地ムンバイを訪れ、「世界最大の民主国家」インドとの強いきずなを演出する。00年にクリントン大統領、06年にブッシュ大統領がインドを訪問しているが、いずれも2期目の訪問で、任期1期目に訪問するのは過去10年でオバマ大統領が初めて。インド側は米側の対印重視の表れと歓迎している。
インドは米国にとって14番目の貿易相手国だが、オバマ政権は、人口約12億人、年8~9%の高成長を続ける巨大なインド市場への参入加速化により、米経済に活気をもたらす狙いだ。また、中国の輸出制限でにわかに重要性を増してきたレアアース(希土類)などの資源開発で協力を打ち出す可能性もあり、中国にらみの関係強化を印象付けることになりそうだ。
米国はインドの核実験(74年と98年)で課した経済制裁を徐々に緩和してきたが、今回ほぼ完全撤廃で合意する見通し。宇宙開発などに使われる高度な技術のインドへの移転も可能となりそうだ。(中略)対印制裁撤廃は、米印の宇宙共同開発を促すことになり、中国が警戒しそうだ。(後略)【11月4日 毎日】
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【100億ドル(約8100億円)の商談】
昔、日本の池田隼人首相はフランスのド・ゴール大統領に「トランジスタラジオのセールスマン」と揶揄されましたが、最近は各国トップがセールスの先頭に立つのはごく普通の光景になっています。
フランス・サルコジ大統領は、中国・胡錦濤国家主席の訪仏を受けて、ノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏関連などの人権問題を封印したとの批判を受けながらも、原子炉やエアバスなど、総額200億ドル(約1兆6100億円)のビジネス契約を結ぶとされています。
イギリス・キャメロン首相も、主要閣僚メンバー4人および財界首脳40人以上とともに今週中国訪問します。英国の中国訪問団としては過去最大規で、キャメロン首相自身が今回の訪中について、「極めて重要な貿易派遣団だ」と言明しています。
オバマ大統領訪印の目的の一つも、こうしたトップセールスにあります。
****オバマ米大統領:「5万人雇用創出」 訪印し100億ドル商談成立*****
オバマ米大統領は6日、アジア歴訪(インド、インドネシア、韓国、日本)の最初の訪問地であるインドの経済中心都市ムンバイに入った。9日までインドに滞在し「アジアにおける米外交政策の礎石」(ドニロン米大統領補佐官)と位置づけるインドとの戦略的な関係強化を図る。
オバマ氏は過去の外遊で最大規模となる米経済界トップ約200人を率い、インド経済界トップ200人を合わせた米印ビジネス会議に参加した。演説で「米印は21世紀(の行方)を決定するパートナー関係」と指摘、インド核実験(74年と98年)への制裁として米国が科したハイテクの移転禁止措置を「不要な障害」と撤廃する方針を表明した。
また、今回の訪問で100億ドル(約8100億円)の商談が成立したことを明かし、「米国で5万人の雇用を生む」とアピールした。インド民放NDTVなどによると、米航空大手ボーイング社のB737旅客機33機やC17軍用輸送機売却、米機械・電機大手GEの軽戦闘機エンジン414基供給が含まれる。【11月7日 毎日】
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【NSGへのインドの正式参加を米政府として支持】
それにしても、今回オバマ訪印が100億ドルなら、サルコジ大統領の対中国200億ドルというのは、やはりすごい数字です。インドと中国の現在の経済状態の差でしょうか。
そんな巨竜・中国を牽制すべくインドとの関係を強化したいというのが、もうひとつアメリカの狙いです。
インドとの関係強化の具体的現れが、、核不拡散条約(NPT)非加盟のインドに対して核燃料や原子力技術の輸出を認める施策です。インドだけ「例外扱い」することへの“二重基準”との国際的批判もありましたが、アメリカの強力な指導で国際的にも認めた形になっています。
このインドとの原子力協力関係を更に推し進める方向のようです。
****米、インドの「原子力供給国」参加支持 輸出規制も緩和*****
米ホワイトハウスのフロマン大統領次席補佐官は6日、電話会見し、原子力技術の輸出を管理する「原子力供給国グループ」(NSG)へのインドの正式参加を米政府として支持することを明らかにした。
米国はインドに国際規制を順守させることで「核不拡散体制を強化する」としているが、核不拡散条約(NPT)非加盟のまま国際的枠組みへの参画を容認するものともいえ、NPT体制のさらなる形骸(けいがい)化への懸念も出そうだ。
オバマ大統領が同日の演説で表明したインド向けの規制緩和策の一環で、ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)など四つの国際枠組みへの参加を後押しする。また防衛、宇宙関連技術について米国が輸出規制の対象にしてきたインドの4団体のうち、3団体への規制を解除する方針。そのうち国防研究開発機構(DRDO)は、1998年の核実験で主導的な役割を担った国防省傘下の組織。米国の軍民両用技術についての対印輸出規制も緩和するという。【11月7日 朝日】
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【持続可能な新興国経済のモデル】
国際協力体制になかなか加わろうとせず、独自の政治経済体制に自信を深め、対外強硬姿勢も目につくようになった中国に対して、最近アメリカは従来の対話・協力重視に見切りをつけ、強硬・対立姿勢に転じつつあるとも言われています。
そのためには、中国のライバル・インド取り込みが必須ということにもなります。
そんなこともあってか、ガイトナー米財務長官は中国を暗に批判するかのように、インド経済を「持続可能な新興国経済のモデル」と称賛して持ち上げています。
****インド、持続可能な新興国経済のモデル=米財務長官*****
ガイトナー米財務長官は、8日付のヒンドスタン・タイムズ紙への寄稿で、インドの内需主導の成長や為替の柔軟性を称賛し、持続可能な新興国経済のモデル、との見方を示した。
長官は、京都でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)財務相会合に出席後、7日にデリーに到着した。オバマ米大統領もインド訪問中。
長官は、インドは貿易収支が大幅な赤字や黒字となることを回避することにより、世界の経済成長のリバランスに寄与している、と述べた。
長官は「インドは、内需主導の経済成長と柔軟な為替相場が可能だということを、身をもって示している」と評価。そのうえで、主要な新興国は「ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に沿った」市場が決定する為替に移行する必要があり、構造改革を通じて内需拡大に努めるべきだ、との認識を示した。中国や人民元は、直接は名指ししなかった。【11月8日 ロイター】
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【慎重な「求愛ダンス」】
こうしたオバマ政権のインド重視姿勢について、Newsweek誌は“慎重な「求愛ダンス」”と表現しています。
****オバマのインド訪問は慎重な「求愛ダンス」*****
11月6日から9日まで予定されているオバマ米大統領のインド初訪問は、スケジュールからうかがわれるよりもはるかに大きな狙いを秘めているようだ。
インド滞在中、オバマはお決まりの観光をこなしながら、地元の経営者や財界人とも会談する。一方で議会での演説も予定されているが、政治指導者たちとの膝を突き合わせての会談は8日の午前中だけだ。
とはいえ、今回の訪問は非常にデリケートな「求愛ダンス」のようなもの。「まっとうな関係をインドと築くには時間がかかる」と、米国防総省の幹部は語る。「一夜で状況が一変することは期待できない」
2国間に、協議すべき差し迫った課題が山積しているのは事実.。 その1つが貿易だ。経済危機から何とか脱しつつあるアメリカは、急成長を続けるインドの巨大市場に今まで以上に自由に参入したいと考えている。
「アメリカにとってインドは最も重要な新興市場のひとつだ」と、オバマ政権の国家安全保障会議で国際経済問題を担当するマイク・フロマンは言う。
輸出振興だけではない。台頭目覚ましい中国に対抗すべく、オバマはアジアの同盟国との関係強化を急いでいる。10日間の日程でインド、インドネシア、韓国、日本を回る今回のアジア歴訪の最大の狙いもそれだ。
中国に対して冷戦時代的な封じ込めを行う気はないことを、ゲーツ米国防長官は10月にハノイで明確に示した。それでも、南シナ海などで存在感を増す中国の動きに、アメリカが深い懸念を抱いているのは確かだ。
中国を牽制しようとするアメリカに、インドは協力する気があるのか。答えは110億ドルを投じて新たな戦闘機を買おうとしているインドが、どこへ発注するかで推測できる。
米軍需産業大手のボーイングとロッキード・マーチンが受注を望んでいるが、インド側はヨーロッパやロシアのメーカーも検討しており、契約についてはまだ白紙の状態だ。
米政府は、オバマの訪問で商談がまとまるとは思っていない。しかし35億ドルの軍用輸送機の契約はまとまりそうだと、米政権筋は明かす。
一方、アフガニスタン、パキスタン、イランをめぐる問題については、インドはアメリカとの話し合いに乗り気ではないようだ。インドのある外交官はこう表現する。「インドは(アメリカに)釣り上げられるような魚じゃない」【11月10日 Newsweek】
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インド学生との意見交換でも、学生からは「米国はなぜパキスタンをテロ国家と呼ばないのか」との指摘が出されたのに対し、「パキスタン政府と協力してテロリスト掃討に努めている。パキスタンの安定がインドの利益になる」とオバマ大統領は答えていましたが、インド側は納得はしていないでしょう。