孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  劉暁波氏のノーベル平和賞授賞式を「踏み絵」に

2010-11-16 19:30:12 | 国際情勢

(1月12日、香港で行われた劉暁波氏を支援する集会 “flickr”より By Vox Asia
http://www.flickr.com/photos/voxasia/4376893088/ )

【「誤った選択をすれば、結果に責任を負わなければならない」】
中国・北京の第1中級人民法院(地裁)は昨年12月25日、政治改革を訴える「08憲章」の起草に加わったのは国家政権転覆扇動罪にあたるとして、著名な反体制活動家の劉暁波氏(53)に懲役11年の判決を言い渡しました。
その劉暁波氏のノーベル平和賞授賞式について、中国政府が各国に対し出席しないように露骨な圧力をかけていることは周知のところです。日本は出欠の返答を留保しています。

*****平和賞授賞式、イラン・キューバ欠席へ 中国の要請受諾*****
ノルウェーの公共放送NRKによると、来月にオスロである中国の人権活動家、劉暁波(リウ・シアオポー)氏へのノーベル平和賞授賞式について、イラン、キューバ両国が欠席の方針を固めた。授賞に反発する中国政府が欠席を求めたのに応じた。一方、日本を含む数カ国が締め切りが過ぎても出欠回答を留保する異例の事態となっている。
12月10日の授賞式には各国の駐オスロ大使が招待されている。服役中の劉氏を「犯罪者」と呼ぶ中国政府は、各国に書簡などで欠席を要請。崔天凱外務次官が「誤った選択をすれば、結果に責任を負わなければならない」と述べるなど、経済力を背景に「踏み絵」を迫っていた。

ノーベル賞委員会への出欠回答期限は15日だったが、オスロの日本大使館は政府の指示待ちで「まだ検討中」。地元メディアによると、インド、パキスタン、インドネシア、スーダンも同様の理由で回答を留保した。期限の延長を求めた国もあるという。
ロイター通信などによると、米国、英国、ドイツ、フランスは参加する予定。他の欧州諸国も出席する見通し。
尖閣諸島を巡って悪化した対中関係の改善を急ぐ日本は、13日に日中首脳会談にこぎつけたばかり。回答の遅れは中国を刺激しない狙いとみられるが、もし欠席を決めた場合は、国内外から「人権軽視」と批判されかねない。
イランでは2003年に同国の女性弁護士で人権活動家のシリン・エバディ氏が平和賞を受賞した際、保守派が反発した。社会主義国キューバは、米国から政治犯の釈放を求められており、両国とも中国と境遇が似ている。【12月16日 朝日】
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中国の経済力を背景にした「踏み絵」であると同時に、国際社会に対しては、人権・政治的自由の重みを国内でどのように認識しているかを表明する「踏み絵」でもあります。

【気が重い判断】
中国との関係は、日本の場合、他の欧米諸国とは単純に比較できないものがあります。経済的関係のウェイトの重さだけでなく、歴史的に微妙な関係・国民感情もあります。
地政学的にも、狭い海を挟んで対峙し、好むと好まざるとにかかわらず互いに強く影響しあう関係にあります。

先の尖閣諸島沖の中国漁船問題で悪化した日中関係ですが、会談だか会晤だかはともかく、中国メディアが西表島沖で遭難の中国人船員を日本の海保が救助したニュースを大きく取り上げるとか、上海市トップの兪正声・市共産党委書記(党中央政治局員)が地元メディアのインタビューで上海万博を総括し、日本館を高く評価するなど、関係修復に向けた動きもようやく出てきたばかりのところです。

「圧力に屈せず、堂々と自国の主張をすべきだ」と言えばそれまでですが、これでまた関係が悪化したら・・・という気の重いところもあります。
結論的には、人権・政治的自由の価値観を重視する立場から、会談だか会晤だかを終えた日本も出席する判断をするのでしょう。人権において、イラン、キューバと同レベルになる訳にもいきません。
国内政治的にも、ここで欠席とかすれば、「中国の圧力に屈した」との批判で、支持率急落の菅政権はいよいよ追い詰められることにもなってしまいます。

今後、「誤った選択をすれば、結果に責任を負わなければならない」と言う中国がどういう対応に出るのかはわかりませんが、現在出欠を留保しているインド、パキスタン、インドネシアも出席して、アジアで日本だけが突出するという事態が避けられればベターではあります。

【“力の誇示”】
南シナ海での領有権問題にしても、尖閣諸島沖での件に関するレアアース禁輸措置しにても、今回の問題にしても、中国の高圧的な、恫喝とも言えるような姿勢が目立ちます。

いささかマイナーな話題ですが、先日のソウルG20サミット終了後のオバマ米大統領記者会見で、中国人記者が見せた不作法な質問態度が論議を呼んでいると、13日、網易が伝えています。
****オバマ大統領記者会見で中国人記者が見せた不作法な態度=中国で議論呼ぶ****
韓国出国前に開催されたオバマ米大統領の記者会見。最後の質問は韓国プレスに与えたいとオバマ大統領は話したが、真っ先に手を挙げ立ち上がったのは中国中央電視台(CCTV)の●成鋼(ルイ・チェンガン、●は草冠に内)アナウンサー。
「韓国人ではなくて失望させてしまうかもしれませんが」と前置きしつつも、「アジアを代表して質問したい」と発言。「公平に見て、韓国プレスの質問の番でしょう」とオバマ大統領はたしなめたが、「じゃあ韓国記者たちがいいと言えば、質問してもいいですよね」と食い下がった。
G20サミット開催国である韓国メディアの質問の機会を奪ったルイ・アナウンサーの発言は中国のネットで話題に。「勝手にアジアを代表するな」との批判の声が巻き起こった。一方で中国の存在感を示したと評価する声も多いようだ。ルイ・アナウンサーの行動を支持するかを問う網易のネットアンケートでは、57%が支持。34%が「謙虚になるべき」と回答している。【11月14日 Record China】
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こうした強引な態度に、“中国の存在感を示したと評価する声も多いようだ”という中国国内反応が気になります。
自分の利益のためなら、手段を選ばず、持てる力をすべて出せばよい。それで成果を出せば、自分の評価も高まる・・・という発想でしょうか。
ルールとかモラルを無視した、強烈な自己顕示欲とも言える“力の誇示”とも見えます。
こうした考え方が、中国社会に溢れ、国家の政治姿勢にも出てくるのでは・・・と感じた次第です。

【これで人権問題が改善されるのか?】
話を劉暁波氏のノーベル平和賞授賞に戻すと、敢えて中国の立場から考えると、その怒りも理解でない訳ではありません。
中国の政治体制は日本や欧米と異質ですし、我々が重視する人権とか政治的自由が侵害されています。
しかし、中国自身は彼らの政治体制を「正しい」と判断している訳ですから、その政治体制に逆らう劉暁波氏は許されざる存在であり、その犯罪者をノーベル平和賞という形で遇するのは、中国の政治体制に対する否定に他なりません。
自国の体制をノーベル賞という国際的ハレの場で否定される訳ですから、面子にこだわる中国ならずとも、色をなして怒り、様々の対抗手段を弄するのは無理からぬところがあります。

中国の圧力に屈することなくノーベル平和賞を選定したノルウェーの委員会には高い評価が寄せられていますが、こうした方法で中国国内の人権や政治的自由に関する状況が少しでも改善されるのであれば結構な話です。
しかし、現実にはむしろ国内での反体制派への締め付けが厳しくなっているとも聞きます。
長い目で見れば、中国政府も国際的な評価に留意して、人権重視の方向に対応が変化する・・・というものでしょうか?
授賞式に日本が出席する云々の話とは別に、今回のような政治的に異質な社会での反体制活動家への平和賞授与については、いろいろ考えさせられるものがあります。もちろん、反体制活動家支援は重要なことだとは思いますが。


コメント
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