![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/ff/78a8d63e6aa57403c48957187bb5f390.jpg)
(9月21日、カイロ、ムバラク親子の権力世襲に反対する抗議者と警官隊の衝突 当然こうした抗議活動の背後には黒幕が存在するのでしょう。 “flickr”より By Nasser Nouri
http://www.flickr.com/photos/nassernouri/5043653741/ )
【権力世襲に軍部から反発】
来年に大統領選挙を控えたエジプトでは、今月28日、人民議会選挙(総選挙)が行われます。
議会では、5期29年にわたり大統領の座にあるムバラク大統領の率いる与党「国民民主党(NDP)」が絶対的多数を占めていますが、今回総選挙においては、小選挙区制にもかかわらず与党NDPから複数の候補が立候補する選挙区が多数存在します。
当初は予備選挙で一本化すると言われていましたが、それが出来なかった結果ですが、与党NDP内の内部対立から調整に失敗したものと見られています。
その与党内部対立は、来年大統領選挙におけるムバラク親子の世襲を認めるかどうかにあるようです。【11月17日 朝日より】
****ムバラク後への思惑 改革派政策に反発も*****
要因としてささやかれているのが、大統領選を来年に控えた、「ポスト・ムバラク」を巡る動きだ。
81年に暗殺されたサダト前大統領の後を継いだムバラク氏は、5期29年にわたり大統領の座にある。現在82郷これまで何度も重病説が流れた。今年3月にはドイツで「炎症による胆嚢の摘出手術」(政府発表)を受けている。仮にムバラク氏が続投したとしても、高齢ゆえ早晩、後継問題に直面せざるを得ない。
取りざたされるのが、次男ガマル氏の動向だ。米系銀行のロンドン支店幹部だったガマル氏は2002年、党ナンバー3の政策委員長の座に座った。世襲をにらんだ動きと受け止められた。
ビジネスマンとしての経験から、ガマル氏は「改革派」のイメージを打ち出し、法人税減税や国営企業の民営化推進、規制緩和などに取り組んだ。経済界や都市部富裕層の支持を集め、「ムバラク王朝の継承」は既定路線との受け止めも一部に出た。
だが、これにムバラク氏と同じ軍出身の有力者らから猛反発が出たとされる。52年の革命で生まれたエジプトの体制を築き、支えたナセル、サダト両氏も軍人で、ムバラク氏も空軍出身。だがガマル氏には軍歴がない。さらに、ガマル氏の打ち出すNDPの改革政策は、軍や官僚機構をのし上がった地方出身者が多い古参幹部らの既得権益を脅かしているとされる。
ガマル氏は大統領ポストについて「個人的に野心はない」と語る。だが、「推されれば出るのでは」との見方は根強い。ムバラク氏自身は後継について一切の発言を避けている。
親子があいまいな態度を続ける中、複数のアナリストは「ムバラク氏はガマル氏への継承で軍を説得できておらず、親子ともに様子見を続けている」とみる。
そのため、大統領選の前哨戦として、議会選を前にポスト・ムバラクを巡る思惑と不協和音がNDP内部に生じたとの見方がもっぱらだ。【11月17日 朝日】
******************************
与党幹部からは、「次期大統領選のNDP候補はムバラク大統領だ。これが党指導部の意思だ」と、ムバラク大統領の6選出馬が表明されていますが、大統領自身は進退について明言していません。【10月22日 時事より】
エジプト大統領選挙については、国際原子力機関(IAEA)事務局長を務め、ノーベル平和賞を受賞したエルバラダイ氏が出馬の可能性を示し話題になったことがあります。若年層を中心に変革への待望論もあります。
しかし、エジプト憲法は大統領候補の要件として、5年以上存続する政党の幹部経験1年以上か、無所属の場合は人民議会(国会)や地方議会の議員250人の支持が必要--と定めており、こうした規定が緩和されない限り、エルバラダイ氏の立候補は困難とされています。
【成長に取り残された一般庶民】
与党内部の思惑・対立とは別に、成長するエジプト経済から取り残された多数の一般庶民の政治への期待は薄いようです。あきらめとも言える雰囲気があります。
****貧しさ ビルに隠されて*****
ムバラク政権が進めた減税や規制緩和、国営企業の民営化など、経済自由化政策の結果、経済成長率は2004年以降、年率4~7%台の伸びを示している。国際通貨基金(IMF)は08年の報告で、ムバラク政権の経済政策を「大胆で印象的」とたたえた。(中略)
だが、経済発展に取り残された人は少なくない。(中略)
経済成長にかかわらず、1目2ドル(約160円)で暮らす貧困層の割合は2割前後を占め、失業率も10%前後で高止まりしている。物価上昇率は年10%を超える。08年には補助金で価格が1枚5ピアストル(約1円)に抑えられているアエ-シュ(エジプトのパン)が品不足となり市民が殺到、暴動に発展した。エジプト投貴庁は09年の報告書で「エジプト人労働者の9割は、投資増などによる恩恵を受けていない」と認めた。
だが、イブラヒムさんのような庶民の不満は、選挙の投票につながらない。
前回05年の人民議会選の投票率は28%。同年の大統領選も23%だった。実際の有権者数に対する投票率はさらに低いとみられている。1982年生まれ以前の世代は、自分で有権者登録をしないと投票ができず、登録を済ませていない人も多いとされるためだ。また、与党候補の得票や投票率を政府が水増ししているという疑惑が、選挙のたびに浮上する。
民主化運動の活動家ジョージ・イスハーク氏(70)は「政治活動が制限されているため野党勢力が極端に弱く、有権者の選択肢が乏しい。そのうえ、政府による不正の横行で、投票しても意見はまともに反映されないと多くの人々が思っている」と指摘。民意が反映されない政治の現状を嘆いた。【11月18日 朝日】
****************************
最近では、トマトが高騰して騒ぎにもなっています。
****トマトの怒り…エジプト、不作で価格が10倍に*****
エジプトが今、「トマト危機」に見舞われている。猛暑による不作で価格が約10倍に高騰しているのだ。エジプト料理にトマトは欠かせないだけに、人口の大部分を占める低所得層には大打撃だ。事態悪化を防げなかった政府への抗議デモも頻発している。(後略)【10月29日 産経】
*****************************
【民主化とイスラム勢力台頭 アメリカのジレンマ】
こうした政治・経済状況で国民から大きな支持を集める組織が、比較的穏健と見られているイスラム原理主義の「ムスリム同胞団」ですが、政治活動は非合法化されており、選挙には無所属として出馬する形をとっています。
****米方針、野党盛衰を左右****
もし、エジプトで自由で民主的な選挙が行われたら、与党・国民民主党(NDP)に代わって、第1党になるかもしれないとみられている組織がある。ムスリム同胞団だ。
イスラム組織として1928年に創設された。歴代政権によって、厳しい弾圧にさらされたが、貧しい人々への福祉活動などを通じて、大衆の中に根を張る。
宗教政党の結成や選挙での宗教的スローガンの使用を禁止されているにもかかわらず、メンバーを「無所属」として立候補させ、2005年の前回選挙では88議席を獲得し、野党第1党となった。
「我々は、やろうと思えば議会の過半数を取る能力がある」。カイロで10月、エジプト人民議会選挙への参加を発表した同胞団のカトタニ議員団長はそう豪語した。
だが、ムバラク政権との対決を避けるため、今回は候補者を公選議席508の3割に絞り込むという戦術をとる。同胞団の盛衰は、政権の「さじ加減」にゆだねられているからだ。
前回の選挙で同胞団が議席を増やした背景には、米国のブッシュ前政権が掲げた「中東民主化」政策の影響が指摘されている。民主化を求める米国の圧力で、ムバラク政権が選挙への干渉を弱めた。その結果、比較的自由な選挙が実施され、同胞団が伸長したとの見方だ。
オバマ政権になって、エジプトヘの民主化圧力は弱まったとされる。「民主化が進めば、伸長するのは同胞団」。前回の選挙結果を受け、方針転換を図ったとの見方がもっぱらだ。同胞団は、パレスチナでイスラエルに対して抵抗運動を続ける強硬派ハマスなど世界各地のイスラム組織に影響を与えており、米国はその動向に警戒を解かない。
エジプト人口の1割を占めるとされるキリスト教系コプト教徒の人々も「早急な民主化を行えば同胞団が伸び、混乱が生まれる」と懸念する。「同胞団が07年に発表した憲章草案を見ればいい。彼らの本性が現れた。イスラム法を適用し、大統領と首相はイスラム教徒の男性に限るとしている。そうなれば、女性や我々は2級市民扱いだ」コプト系の新聞「ワタニ」のユーセフ・シドム編集長はそう訴える。
コプト教徒は、教会を自由に建設できなかったり、公務員採用を断られる差別にあったりする。ムバラク政権の腐敗ぶりや、強権的な政治手法にも厳しい批判を向ける。だが、「同胞団が政権を取るよりはまし」とシドム編集長は断言する。
イスラム教、キリスト教を問わず、多くのエジプト国民が宗教に深く根付いて暮らす。民主的な選挙が宗教に基づく争いにつながることを少数派は恐れる。一筋縄ではいかない民主化の現実が、エジプトにはある。【11月19日 朝日】
****************************
そのムスリム同胞団もムバラク政権の厳しい弾圧で幹部の多数が逮捕され、組織的にも政治参加路線から保守的な組織強化や社会奉仕の重視にかじを切っているとの見方があります。
今年1月に最高指導者に選ばれたモハメド・バディ氏もそうした保守派で、「平和で憲法にのっとった漸進的改革」を進める意向を表明。「暴力はいかなる形でも拒否する」と述べています。
6月に行われた諮問評議会選挙では、無所属で立候補した「ムスリム同胞団」系候補は全員落選しています。
比較的穏健とか保守派とは言っても、イスラム原理主義勢力の台頭はアメリカにとっては望ましくない結果です。
民主的選挙を行うように圧力を強めると、結果、原理主義勢力が増大するという事態に、オバマ政権は民主化圧力を弱めていると言われています。
****中東諸国:オバマ路線の限界 対話が裏目、民主化停滞*****
◇変わらぬ中東の強権政治、エジプト反政府デモ影響少なく
強権的政治体制で長年批判を受けている中東諸国の民主化が停滞している。25日にはムバラク大統領の独裁的な支配が続くエジプトで数千人が参加する反政府デモが起きたが、“民主化”に結び付くにはなお時間がかかりそうだ。停滞の要因の一つは米国の「外圧低下」だ。ブッシュ前政権からの「変革」を掲げたオバマ米政権だが、中東諸国への民主化要求を低下させたと受け取られる皮肉な状況に陥っており、「ソフトパワー」の限界が露呈している。(中略)
ブッシュ前政権は対テロ戦争の一環で「中東民主化構想」を掲げ、エジプトやサウジアラビアなど親米国に強い民主化圧力を加え、イラクではフセイン政権を排除した。しかしイラクで内戦状態の泥沼に転落、中東での対米評価も地に落ちた。
反省からオバマ大統領は昨年、「イスラム世界との対話」を打ち出した。民主化は支持しながら「他国に特定の統治形態を強いてはならない」とも発言。中東の強権的政権に強硬に改善を求める姿勢は実質的に後退した。その後、中東民主化や中東和平で大きな進展はなく「期待はずれ」(アラブ外交筋)との声が強い。
中東では、サウジ、シリア、リビアなど多くの国で自由な言論や政治活動が認められない強権的な政治が行われており、平和的な反政府デモは珍しい。【6月27日 東京】
********************************
アメリカが望む「民主化」と、現地の人々が望むものに乖離があるようです。
06年1月のパレスチナ評議会選挙でも同様のことがおこり、アメリカが選挙を行うように圧力をかけた結果、急進派のハマスが台頭しました。
アメリカの「国益」としては、民主化による混乱よりは、親米的なら強権的支配による安定の方がベターということでしょう。
現実的選択としては理解できないことはありませんが、問題の根幹は残ります。