(延坪島への砲撃 “flickr”より By xiaohe1120
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【北朝鮮の真意は?】
46人韓国兵が死亡した3月の韓国海軍哨戒艦「天安」の沈没事件に続いて起きた北朝鮮による韓国・延坪島への砲撃は、改めてこの国の無法ぶりを世界に印象付けています。
また先週末には、北朝鮮で2つ目のウラン濃縮施設が建設されていることが明らかになっており、多くの専門家は北朝鮮軍による3度目の核実験がいつ行われてもおかしくないと考えている状況です。
こうした北朝鮮の行動の真意については、いろんなことが言われています。
北朝鮮がこれまでアメリカや韓国の注意を引くために行ってきた威嚇と同じ「瀬戸際外交」・・・・、金正日から金正恩への後継体制を強固なものにするため、金正日は軍幹部への依存を強めており、その結果軍の強硬派が政権内で力を伸ばしている・・・、金正恩氏の軍に対する統制力強化のための行為・・・、国際社会に自国を「核大国」と認知させた上で、核兵器・技術の不拡散などを約束し、その見返りとして米国と平和条約を結ぶ「C計画」の一環・・・・、南北間の緊張を再び極度に高めることは、飢餓に苦しむ北朝鮮国民を引き締める効果もある・・・等々。
いずれにしても、大胆で理解困難な行動です。これだけのことを行っても、現在の北朝鮮・韓国・中国・アメリカの基本的枠組みは崩れないとの自信でしょうか。
【経済優先の韓国、冷静な対応】
当然韓国側には北朝鮮の挑発に激しく反発する声はありますし、李明博(イ・ミョンバク)大統領も砲撃の直後にテレビ電話会議で将軍たちを召集し、武力報復を検討したとも報じられています。李明博大統領は「何倍でもやり返せ」と指示したとも。
しかし結局は、大統領は戦闘が拡大しないよう指示しており(国内の弱腰批判から、その後「そんな指示はしていない」としています)、韓国社会も、反日問題などでは激高しやすい国民性にもかかわらず、基本的には非常に冷静な対応を維持しています。
北朝鮮内の開城(ケソン)工業団地に764人、金剛山に14人の韓国人が在留しており、南北の緊張がさらに高まれば、事実上の「人質」ともなりかねないという問題もありますが、基本的には紛争拡大が現在の経済成長の足かせになるのを嫌っているということでしょう。
【中国:「血で固めた友誼(ゆうぎ)」と本音】
注目されるのは、公式には朝鮮戦争を共に戦った「血で固めた友誼(ゆうぎ)」の関係として、また、実質的にはエネルギー問題で北朝鮮の生命線を握っており、北朝鮮の後ろ盾、後見人的立場とみなされている中国の対応です。
事件当日の中国外務省報道官は「(南北双方が)平和に貢献するためにさらに行動すべきだ」と事態の鎮静化を期待するコメントを出していますが、本音では核兵器を保有したうえに、暴挙を繰り返す北朝鮮に相当苛立ちがあるのではないでしょうか。
北朝鮮に影響力を持つ唯一の国という立場は「北朝鮮カード」として、アメリカなどとの交渉に生かせますが、それも実際に北朝鮮をコントロールできればの話です。実際のところは、北朝鮮はやりたい放題で、その度に国際社会から中国へは「北朝鮮を何とかしろ」との圧力がかかります。
なかなか中国のコントロールにも従順とは言い難い北朝鮮ですが、当然ながら中国としては北朝鮮の崩壊は困ります。難民が中国に押し寄せたり、アメリカの影響力を受ける韓国主導の統一政権と国境を接するようになるのは是非とも避けたいところです。
結果的に北朝鮮の行動を支持したり、容認することになると、国際社会からは北朝鮮と同一視されたり、その北への影響力の不足をさらすことにもなり、国際社会で名誉ある地位を占めたいと願う中国にとっては、北朝鮮は「お荷物」的な存在ではないでしょうか。最近、強硬姿勢の目立つ中国ですが、さすがに北朝鮮と比べるとまだ随分穏健に見えます。
今回事件ではアメリカで中国への批判が高まっています
****強まる中国批判=対北対応で米議会****
北朝鮮が韓国の延坪島に砲撃を加えるなど、挑発行為を強めていることに対し、米議会では北朝鮮だけでなく、同国を支援している中国を批判する声が強まっている。
共和党の重鎮、マケイン上院議員は23日の声明で、砲撃事件は韓国哨戒艦沈没事件などとともに「北朝鮮の長年にわたる敵対行為の一環だ」と指摘。同国に最も強い影響力を持つ中国が、地域の安全と安定のために「北朝鮮の無謀な行為を変えさせるため、より直接的かつ責任ある役割」を果たすよう求めている。【11月24日 時事】
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中国はこうした国際批判に苦慮しつつ、南北対立に巻き込まれて厳しい立場に追い込まれることを警戒し、何とか穏便に済ませたい意向です。
中国の楊潔チ外相が、26~27日に予定していた韓国訪問を突然延期しましたが、北朝鮮を非難することも、支持することもできない中国としては深入りを避けたい・・・というところでしょう。
****中国、外圧に苦悩=北への影響力に世界の期待―北朝鮮砲撃****
韓国領土を攻撃した北朝鮮を抑えるため、日米韓首脳は24日、中国に対し「北朝鮮への働き掛けを強めるべきだ」と口をそろえて迫った。しかし、中国には「中朝関係安定が基本」(外交関係者)という大原則がある。国際社会の期待に応えられないジレンマを抱え、しばらく外圧に苦しみそうだ。
共産党機関紙・人民日報系の国際問題紙・環球時報は24日、社説で「今回の砲撃は朝鮮と韓国のいずれにもメリットはない。双方が敗者だ」と主張。「けんか両成敗」で幕引きにしたい焦りもにじむ。
3月の哨戒艦事件と同様、北朝鮮非難は慎重に避ける社説は、朝鮮半島有事の際には「難民の第1陣は中国に押し寄せる」とし、「半島安定に関心を寄せる立場は韓国と同じで、半島から(比較的)離れた日米とは違う」と指摘した。【11月24日 時事】
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****北、韓国を砲撃 中国、不快感と不信感 遠のいた「6カ国」再開****
北朝鮮が韓国の延坪島に砲撃、死傷者が出た事件について、中国政府は重大な関心を寄せ、事態の推移を見守っているとみられる。ウラン濃縮施設の公開に続く北朝鮮の軍事的挑発によって、朝鮮半島の緊張が激化、6カ国協議の再開に影響することを中国は警戒しており、北朝鮮、韓国双方に自制を求めていく方針だ。(中略)
北朝鮮の相次ぐ軍事挑発に中国が不快感と不信感を募らせているのは疑いない。ウラン濃縮施設の公開に続く今回の事件で、朝鮮半島の緊張が増し、6カ国協議の早期再開は極めて困難になったからだ。
中国の専門家筋はかねて、「先軍政治」を体制維持の要にしている北朝鮮が核を放棄することはないとし、6カ国協議に懐疑的な見方をしてきた。同筋はさらに、北朝鮮が金正日氏の三男、正恩氏への権力移行期にあるため、軍の発言力が増し、核開発を加速する可能性を指摘していた。
先の中朝首脳会談で、中国側は北朝鮮の後継体制への支持と支援を表明。さらに10月下旬の中国義勇軍の朝鮮戦争参戦60周年では、次期共産党総書記の地位を確定的にした習近平中央軍事委副主席が、手を携え「正義の戦争」に勝利した中朝の「血で固めた友誼(ゆうぎ)」を称賛する演説をした。
北朝鮮は最大の支援国である中国との関係緊密化をバックに、体制維持に自信を持っているかに見える。しかし、それが核開発の加速など軍事挑発を生んでいるとすれば、中国にとっては歓迎すべき事態ではない。中国には北の「暴走」を阻止する国際的な期待があり、それにこたえる責任もあるからだ。【11月24日 産経】
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中朝の微妙な関係については、以下のフィナンシャル・タイムズの記事がよく説明しています。
****中国と北朝鮮、ぎこちない同盟関係をつなぐもの*****
バラク・オバマがアジアを歴訪していた今月初め、米大統領が各国で次から次へと歓迎されているのを見て、ある中国政府関係者は寂し気にこう語った。「世界中を見まわせば、アメリカは強固な同盟関係をいくつも築いている。うちには一つしかない」。
しかもそのたった一つの同盟関係は、何てぎこちないものか。中国政府は数日前から、北朝鮮との緊密な関係に関してまたしても矢面に立たされている。北朝鮮の独裁体制は中国の援助と政治的庇護によって保たれているのだと、あちこちから批判されているのだ。
北朝鮮は23日、韓国の島を砲撃した。北朝鮮が高度なウラン濃縮施設を開発したようだという情報と合わせて、世界各国が声高に中国の対応を求めている。中国は北朝鮮にもっと圧力をかけるよう、世界中が求めているのだ。
北朝鮮が何か挑発行為に出るたびに、中国政府の無力ぶりが強調されるようだ。北朝鮮は本当に、実に特異な国だ。しょっちゅう中国に恥をかかせているのに中国から叱られずに済む、唯一の国と言える。
中国の対北朝鮮政策は各方面から不快に思われている。中国国内でも評判が悪いのはある意味で当然かもしれない。中国の北朝鮮政策は、中国国民の間でも国家エリートの間でも、よく思われていないのだ。やや保守的なブログでさえ、24日には北朝鮮の動きをさかんに非難し見下していた。軍事問題を主に扱うサイト「鉄血(Tiexue)」でも、「こんな無謀な行動をいつまで容認し続けるのか」という書き込みがあった。別のウエブサイトでも「北朝鮮が、今度も中国に助けてもらおうと思ってないといいのだが。まるで門のところに居座る狂犬だ。気の休まる時もない」という投稿があった。
中国の外交専門家たちも、北朝鮮との緊密な関係がいかに問題だらけか、競うようにして次々と並べ立てている。専門家たちは、中国が北朝鮮と同盟関係にあるせいで、中国は責任感ある世界市民だとアピールしてもなかなかうまくいかないのだと指摘。来年1月に予定される胡錦濤国家主席の訪米を前に、対米関係を改善しておくのがますます難しくなったとも主張している。
外交専門家たちはさらに言う。中国と韓国の経済的なつながりは深まっているのに、中国と北朝鮮の同盟関係のせいで、中韓関係にヒビが入ってしまっていると。北朝鮮の行動は加えて、日本の軍備強化や核保有さえ主張する日本国内の勢力を勢いづけているとも。
北京外国語大学のシェ・タオ氏は「北朝鮮が予測可能な行動をとるという保障がないなら、同盟を続ける意味がない」と言う。
北朝鮮との関係を懸念する声は高まっているが、中国政府が北朝鮮政府への支援を減らすとはほとんど誰も思っていない。金正日体制が崩壊すれば大量の難民が大挙して中国に流れ込むし、独立国・北朝鮮は駐韓米軍と中国との間の緩衝地帯になっているというのが、中国政府における主流意見だ。(中略)
中国政府は対北政策を見直すよりも、現状をうまく乗り切ろうとしているようだ。今年夏と違って中国は、韓国を怒らせないように、米韓合同演習にさほど反対していない。しかしその一方で中国政府はこれまでのところ、北朝鮮による暴力行為をはっきりと非難はしていないし、2006年の核実験を受けて実施したエネルギー資源輸出制限のような制裁を検討している様子はない。
もし北朝鮮が再び核実験を行えば、中国国内でも再び制裁措置の再検討が求められるだろう。しかし中国は今のところは、金正日から息子への権力継承を裏書きすることに決めたのだ。
金正恩が平壌の軍事パレードで国全体にお披露目された先月、ひな壇で父・金正日の隣に立ってニコニコ笑っていたのは、中国共産党の最高幹部のひとり、周永康だった。ぎこちない同盟相手であろうとなかろうと、中国政府が金王朝の側に付いているのは間違いない。【フィナンシャル・タイムズ 11月24日】
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なお、北朝鮮の金正日総書記も中国を嫌っているそうです。上から目線で何かと注文をつけられれば当然でしょう。
アメリカ原子力空母も参加しての米韓両国による黄海での海軍合同演習に、前回激しく反発して計画を変更させた中国ですが、今回は「関係各国は情勢の緩和と朝鮮半島の平和と安定に役立つことを多くなすべきだ」と牽制するにとどめています。26日の中国外務省も、「中国の排他的経済水域(EEZ)内での軍事演習に反対する」と発表。これまで黄海での演習に一貫して反対してきましたが、EEZ内での演習に反対することで国内強硬派に配慮しつつ、事実上、演習を容認したとみられています。