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(金融危機後遺症に悩むポルトガルを訪問した中国・胡錦濤国家主席 中央は主席夫人 右はソクラテス・ポルトガル首相 “flickr”より By novais822 http://www.flickr.com/photos/13192468@N07/5152706258/ )
【欧州版IMF創設で「第二のギリシャ」防止】
欧州経済は今年前半、ギリシャの財政破たんを巡る騒動で大きく揺らぎました。
「危機対応制度がなかったためにユーロ圏全体が崩壊しかかった」(ファンロンパウ欧州理事会常任議長(EU大統領))との認識から、欧州版IMF創設によって「第二のギリシャ」出現を防ごうとの取り組みも行われています。ただ、この取り組みにも問題は多いようです。
****EU:欧州版IMF創設合意 制度整備までには難題山積*****
欧州連合(EU、加盟27カ国)は28日の首脳会議で、財政危機に陥ったユーロ導入国を支援する欧州版の国際通貨基金(IMF)創設で合意し、通貨統合の枠組み強化に踏み出した。ユーロ圏の財政規律厳格化と合わせ、1999年に欧州単一通貨が誕生して以来、指摘されていた構造的な欠陥の手直しに取りかかる。だが、取り組みには各国の思惑が絡み、制度整備までには難題が山積している。
今回、合意されたのはギリシャ財政危機で露呈したユーロの二つの弱点を補う是正措置だ。一つは金利調整などの金融政策を欧州中央銀行(ECB)が担当する一方、財政政策は各国に委ねられている「また裂き状況」の改善。第二はユーロ発足時には「想定外」だったユーロ導入国への融資制度の整備だ。
ユーロ圏では、許容される財政赤字幅(国内総生産比3%)などを定めた財政ルール「安定成長協定」が、存在しない「EU財務省」に代わり、各国財政のお目付け役を果たすはずだった。だが、違反が常態化しても対策が取られず、有名無実化していたため、違反国への制裁発動を迅速化する体制を整えた。
欧州版IMFはユーロ圏各国が資金を出し合い、「第二のギリシャ」の出現を防ぐための恒久的なセーフティーネットだ。本家のIMFや民間部門の参加などの細部は今後、詰められるが、EU最大の経済国ドイツは融資提供には厳格な条件を付けるよう求めており、他国との調整が難航しそうだ。
また、欧州版IMF創設に向け、ドイツが提唱してきた基本条約「リスボン条約」の修正をのむ見返りに各国は自国にとっての「土産」を取り付けた。財政規律違反国への制裁発動で「遊び」を持たせたいフランスは各国による事前協議制の維持に成功し、大規模な歳出削減策を発表した英国は来年度EU予算の大幅増額反対で仏独など10カ国の支持を得た。
さらに、加盟国政府の承認だけで条約を一部修正する場合、欧州市民の代表である欧州議会や、各国議会の意見が反映されにくい難点がある。欧州議会のブゼック議長は「条約修正は極めて困難だろう」と警鐘を鳴らしており、EU本部と各国政府の主導による修正は市民の「EU離れ」に拍車をかける事態を招きかねない。【10月29日 毎日】
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【消えない火種】
しかし、PIGSとも呼ばれたポルトガル、アイルランド、ギリシャ、スペインなどを中心に、今も欧州経済は不安定状態を脱していないようです。
例えば、アイルランド。
****アイルランド、欧州の新たな火種に 赤字膨らむ****
アイルランドが欧州財政問題の新たな火種になっている。銀行救済費用がかさみ、政府はさらなる緊縮予算に踏みだそうとしているが、政権基盤は不安定になる一方。市場で国債が売られて金利が上がり、5日の10年物国債は一時年7.9%に達し、過去最悪になった。
アイルランドの今年の財政赤字は国内総生産(GDP)比で32%まで膨らんだ。政府は4日、来年の歳出削減・増税を当初の想定から大幅に拡大し、60億ユーロ(7千億円)にすると発表した。同国は金融危機の傷がひどかったが、景気刺激策にほとんど手を出さなかった。2年の緊縮予算を経験し、今年もマイナス成長が見込まれている。
アイルランド労組会議のデビッド・ベッグ書記長は3日、ダブリンで記者会見を開き、「経済成長への手だてがなければ、デフレスパイラルになる危険がある」と財政再建を急ぐべきでないとした。学費値上げに抗議し、「我々を標的にするな」と訴える約2万人の学生のデモもあった。与党議員の離脱や辞任も相次いでおり、与党の優勢は今やわずか3人だ。
もう一つの不安要因が欧州連合(EU)首脳が10月末に合意した常設の緊急融資枠だ。加盟国が支援に駆け込んだ場合に支払いの繰り延べなど国債投資家にも負担を求める方向で検討が進んでいる。ドイツが強く主張し、各国も受け入れつつある。だが、それは国債の安全神話を公然と崩すことも意味する。英エボリューション証券のアナリスト、ブライアン・バリー氏は「すでに不安定な市場に、さらに大きな不確実性が加わった」と話す。【11月6日 朝日】
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アイルランドのレニハン財務相は8日、欧州連合(EU)内で最悪の水準となっている財政赤字の削減に向けた4カ年計画の詳細を、月内に発表すると述べています。
レニハン財務相との共同記者会見に出席したレーン欧州委員(経済・通貨問題担当)は「4カ年計画が発表されれば市場の信頼は回復するだろう」との見解で、市場不安を打ち消そうとしています。
また、ユーログループのユンケル議長(ルクセンブルク首相)は8日、アイルランドが欧州金融安定ファシリティー(EFSF)からの融資を余儀なくされるかとの質問に対し、「アイルランド当局が今月初め発表した60億ユーロの財政赤字削減(2011年)目標を達成することができれば、大きな問題はないだろう」と答えています。
ギリシャについても、問題は解決していません。
****ギリシャの債務返済、ますます困難に=ルービニ氏*****
米ニューヨーク大学教授でエコノミストのルービニ氏は、6日付のギリシャ紙Ta Neaに寄稿した論文で、ギリシャは債務返済のために秩序だった債務の再編を行う必要があるとの考えを示した。
同氏は「単純な計算でみると、現在の状況および債務返済計画では、ギリシャの債務返済はますます不可能になっている」と指摘し「ユーロ圏の各国財務相、国際通貨基金(IMF)、および欧州中央銀行(ECB)は、債務返済を可能にするためギリシャ政府と協力する必要がある」との認識を示した。
債務の償還時期を5─15年延長するという「時宜にかなった秩序だった債務の再編」は、投資家の損失を最小限にとどめる一方、ギリシャは金融市場へのアクセスを維持できると指摘。「RGE(ルービニ・グローバル・エコノミクス)は、そうした再編ができるだけ早期に実施されることが好ましいと考えている」と主張した。
ギリシャの債務は、もっとも楽観的なシナリオで、2013年には国内総生産(GDP)比144%にまで達する。
ギリシャ、欧州連合(EU)、およびIMFはこれまで、債務返済協議の可能性を排除してきたが、ギリシャとIMFはこのところ、債務返済時期の延期について議論の余地があるとの見方を示している。
現在のスケジュールでは、ギリシャの借入ニーズ総額は、2011─2013年の年間550億ユーロから、2014/15年には700億ユーロを突破する見通し。【11月8日 ロイター】
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こうした見方について、ギリシャのパパコンスタンティヌ財務相は8日、同国は債務の再編を検討していないと否定しています。【11月9日 ロイターより】
アイルランドにしても、ギリシャにしても、当事国・EUは信用不安打ち消しに努めていますが、火種が存在しているのは事実のようです。
【救世主?チャイナマネー】
そうした揺れる欧州経済に救いの手を差し伸べているかのように見えるのが中国、チャイナマネーです。
****ギリシャ国債、再開ならば中国買い入れ 温首相が表明****
中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相が2日、訪問先のギリシャで記者会見し、財政再建中のギリシャが長期国債の発行を再開した場合、中国が買い入れる考えを示した。実現すれば、市場での資金調達の早期再開を目指すギリシャにとっては後押しになる。(後略)【10月3日 朝日】
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これについては、“ギリシャはEUやIMFに資金支援をしてもらっているために、2012年までは国債を発行する必要性はないということなのです。では、何故そのようなことを中国は発言したのか?それは、ギリシャ政府が来年以降に国債の発行を再開したいとの意向があるようであり、もし、ギリシャ政府が国債の発行を再開するようなことがあれば、その時には‥、という飽くまでも仮定の話に過ぎないということなのです。つまり、今回のニュースは余り真剣に受け止めることは適当ではないのだ、と。多分にリップサービスの要素を含んでいると考えた方が良いでしょう。”【小笠原誠治氏 経済ニュースゼミ http://blog.livedoor.jp/columnistseiji/archives/51177964.html】という指摘もありますが、「ここでもまた、中国頼みか・・・」という感もします。
中国側にも相応の思惑があるようです。
****ギリシャが頼るチャイナマネー*****
EU(欧州連合)とIMF(国際通貨基金)から1400億ドルの支援を受けたギリシャに、新たなスポンサーが付いた。中国だ。
中国は対ギリシャ投資を大幅に増やしている。最近では、ギリシャの港湾の経営権を35年の期限付きで取得するなど、海運事業に50億ドルを投資。建設や通信、観光、鉄道にも投資を行う上、290トンのオリーブオイルも買い付ける。ギリシャを訪問した温家宝(ウエン・チアパオ)首相は、政府債の購入を約束。おかげで先週、ユーロの対ドル相場は8カ月ぶりの高値を付けた。
ギリシャに限らず、中国は活発にグローバル戦略を進めている。04年に100億ドル足らずだった対外投資は今年500億ドルに達し、世界第5位の投資大国となる見込みだ。特にEUへの進出が目覚ましく、中国企業の対EU投資は対北米投資の約2倍に上る。
EUはチャイナマネーの恩恵を受けている。中国企業の進出で雇用や技術が奪われるという懸念はほぼ杞憂に終わり、むしろ産業基盤が強化される効果が大きい。
中国は政治的にも抜け目ない。EU各国と2国間で契約を交わすことによって、各国が異なる利害を持つことになり、EU全体の対中国政策はまとまりにくくなる。EUが結束して中国に圧力をかける事態を避けられるというわけだ。【10月20日号 Newsweek】
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中国の胡錦濤国家主席が訪問したポルトガルも、ギリシャ同様の中国からの国債購入方針を期待したようですが、その具体的言及はありませんでした。ただ、中国の協力を得たことで信用不安克服には役立つかも・・・とのことです。
****ポルトガルの危機克服に協力へ=経済分野で合意文書調印―中国主席*****
ポルトガル訪問中の中国の胡錦濤国家主席は7日、ソクラテス首相と会談した。現地からの報道によると、胡主席は会談後の記者会見で「国際的な危機の影響軽減に向けたポルトガルの取り組みに対し、具体的施策を通じ支えていく用意がある」と述べ、市場での信用不安克服を目指すポルトガルへの協力を表明した。
胡主席はまた、中国企業による対ポルトガル投資やポルトガル企業の対中輸出を活発化させ、2015年までに2国間の貿易額を倍増させる意向を示した。両国は観光や通信、金融、再生可能エネルギーなどでの協力に関する合意文書にも調印した。
ポルトガル側が期待した中国によるポルトガル国債買い支えについて胡主席から具体的言及はなかったが、今回の協力表明でポルトガル国債の利回り上昇傾向に影響が出る可能性もある。【11月8日 時事】
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フランス・サルコジ大統領主導の大型商談、イギリス・キャメロン首相の訪中団など、世の中すべてチャイナマネー頼みの様相です。