(ラオスで行われているクラスター爆弾不発弾除去作業 “flickr”より By ICRC
http://www.flickr.com/photos/icrc/4837342658/in/photostream/ )
【クラスター爆弾のない世界へ向けて】
不発弾の多さから、投下後も市民を巻き添えにする被害が絶えないクラスター爆弾を禁止する条約「クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)」が今年8月、禁止に消極的な米中ロなど軍事大国を枠外に残したまま、NGOの強い働きかけのもと日本を含めた禁止に同意する各国の間で発効しました。
その締約国による初の会議が9日、世界最悪の被害国であるラオスの首都ビエンチャンで始まっています。
8月に発効した条約には現在、108か国が署名し、日本を含む46か国が批准。
条約はクラスター爆弾の使用や製造、保有を禁じており、保有国は発効から原則8年以内に爆弾を全面廃棄しなければならず、被害国も10年以内に不発弾を完全除去することが義務づけられています。
締約国はクラスター爆弾の被害を受けた締約国に財政的支援を行うことも定められています。
今回会議では、爆弾廃棄や不発弾除去に向けた今後5年間の道筋を示す「ビエンチャン行動計画」、非加盟国の参加を訴える「ビエンチャン宣言」を採択することになっています。
****クラスター爆弾禁止条約、初の締約国会議開幕 ラオス*****
クラスター(集束)爆弾の使用を禁止した「クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)」の第1回締約国会議が9日、ラオスの首都ビエンチャンで開幕した。
開会式でラオスのチュンマリ・サイニャソーン大統領は、「わが国はクラスター爆弾の被害が世界で最も大きい国のひとつだ。今も国民が不発弾に生命を脅かされている」と述べ、開発や貧困撲滅を進める上で不発弾の除去は急務だと強調し、国際社会に支援を呼びかけた。
■今後10年で240億円必要
ベトナム戦争時、米軍はラオスにも大量のクラスター爆弾を投下し、ラオスは人口1人当たりの投下された爆弾の量が世界で最も多い国となってしまった。まき散らされた子爆弾の30%近くが不発弾となり、今も国内各地に残っている。今年の8月1日に発効したオスロ条約はクラスター爆弾の使用や製造、保有を禁じているほか、締約国がクラスター爆弾の被害を受けた締約国に財政的支援を行うことも定めている。
国連のラオス担当コーディネーター、ソナム・ヤンチェン・ラナ氏によると、不発弾の除去、クラスター爆弾の被害者支援、子どもたちに不発弾の危険性を教える活動などで、ラオスは今後10年間で3億ドル(約240億円)が必要だという。
ラオスとベトナムに次いで、イラクやカンボジアにも多数のクラスター爆弾が不発弾として残存している。
■ラオス初の国際会議
インドシナ半島内陸の社会主義国家であるラオスは人口が約600万人で国土のほとんどが山地に属する。アジアの最貧国の1つで、同国で国際会議が開かれるのは初めて。会場となった劇場に向かう道路脇では、花を手にした生徒たちが立ち並び、会議の開幕を祝った。
4日間の日程で行われる会議に参加するため、締約国の政府や軍の関係者、非政府組織の職員、さらにクラスター爆弾の被害者など1000人あまりがラオスを訪れた。【11月9日 AFP】
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国際政治の舞台では殆んど登場することのないラオスでの国際会議ということも注目されます。
ラオスは記事にもあるように、クラスター爆弾の最大の被害国です。
“ラオスは、ベトナム戦争で米軍が200万ご以上の爆弾を投下し、8千万個以上の子爆弾が不発弾として残る世界最悪の被害国。中でも最大の汚染地帯のシェンクワン県では、事故は日常茶飯事だ。不発弾処理を担う政府機関の現地事務所によると、不発弾事故は年平均50件、20入が死亡、30人が負傷しており、うち6割がクラスター爆弾によるという。犠牲者の半数が子供なのも特徴だ。野球ボールを大きくしたような鉄球で、触れやすいせいでもある。”【11月9日 朝日】
シェンクワン県では、94年からの16年間で除去が終了し安全が確認されたのは全県の0.4%に過ぎません。アメリカは爆撃地点の資料を提供していますが、資料にないところからも不発弾が発見されています。【11月3日 毎日より】
【今も続く悲劇】
クラスター爆弾の不発弾による事故は、各紙が報じているように枚挙にいとまがありません。
****戦後35年 続く悲劇 ラオス****
ラオスではベトナム戦争で米軍により投下されたクラスター爆弾で09年に33人が死傷するなど、戦後35年たっても不発弾に苦しめられている。
シェンクワン県では、住民が不発弾で死傷する事故が日常的で、貧しい農民の暮らしを脅かしている。
「ドーン」。先月4日朝、静かな農村に爆発音が響いた。家族が外へ飛び出すと、自宅前で一家を支えるラドンさん(22)が、立ったまま血まみれで気を失っていた。
暖を取るため家の前でたき火を始めた際、正体不明の不発弾が爆発した。左手の小指を失い、顔面に破片の直撃を受けて目が開かない。4年前に結婚した妻のヌンさん(21)が付きっきりで介抱するが、医師は「目が見えるようになるかはわからない」という。
現地では各国の民間団体が支援して結成した不発弾被害者の治療費を負担する組織があり、一家は治療費を負担する必要はない。昨年からは日本の「難民を助ける会」も治療費支援に加わった。だが被害者や家族の生活費まで支援する枠組みはなく、11月からのコメの収穫期を前にした父カムタンさん(62)は「このままでは稲刈りができない」と途方に暮れる。
険しい山間部の村で、長男のキェオ君(10)が4月、農作業中にクラスター爆弾の被害を受けたトンク・ハーさん(35)一家はさらに深刻だ。手術費は「助ける会」からの支援で賄われたが、家族が3カ月間首都の病院に付き添った費用は、一家の年収に相当。10人の子供を抱えるトンクさんは、キェオ君の介護のため今年、稲作ができなかった。【11月2日 毎日】
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条約発効により20カ国が廃棄に取り組み、うち6カ国が完了していますが、今なお74カ国がクラスター爆弾を保有しています。
日本は08年11月28日の安全保障会議で自衛隊が保有するすべてのクラスター弾の廃棄を決定、オスロ条約署名後も、日本外交にしては珍しく他国に先駆ける形で条約批准などを進めてきました。
****クラスター爆弾:最大8.5万人死傷 NGO世界調査****
不発弾が市民を殺傷しているクラスター爆弾による死傷者が最大8万5000人にのぼることが非政府組織(NGO)「クラスター爆弾連合」の調査でわかった。従来のNGOの調査では最大約6万5000人とされており、被害がより深刻な実態がわかった。また、同爆弾が使われた少なくとも39カ国・地域のうち約4分の1の9カ国で除去作業が行われていなかった。9日から最大の被害国の一つ、ラオスで、クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)第1回締約国会議が始まる。条約は発効から10年以内の除去を定めており、調査で課題が浮かびあがった。
同連合が1日、明らかにした調査によると、死傷者の確定数は1万6816人だが、潜在的被害が多く5万8000人~最大8万5000人にのぼる。09年は10カ国・地域で100人が死傷した。
オスロ条約の今年8月の発効後も74カ国がクラスター爆弾を保有。子爆弾は10億発を超える。これまで15カ国がクラスター爆弾を使用したとされてきたが、調査では少なくとも18カ国が使ったことがわかった。17カ国で生産が続いている。
一方、8年以内の廃棄を定めるオスロ条約発効を機に20カ国が廃棄に取り組み、うち6カ国が完了。16カ国が製造への投資を禁止する意向だ。【11月2日 毎日】
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【コソボ、レバノン:除去作業を遅らせる資金不足】
不発弾除去作業のネックはやはり寄付金に頼る資金不足です。条約では、締約国はクラスター爆弾の被害を受けた締約国に財政的支援を行うことも定めていますが、爆弾投下国が参加していない場合の費用負担はどうなっているのでしょうか?今回会議で、資金的な面での制度的枠組みの確立・具体化が期待されます。
****クラスター:不発弾除去、資金難 世界経済悪化で寄付減り*****
不発弾が市民を殺傷しているクラスター爆弾の不発弾の除去作業が、世界各地で資金不足に陥っていることがわかった。金融危機に端を発した経済悪化で寄付金が少なくなった影響が大きい。同爆弾が大量に撃ち込まれたかつての紛争地では、資金不足が除去作業の長期化に直結し「不発弾による死傷者が出続ける」と憂慮の声があがっている。
コソボ紛争に伴う99年の北大西洋条約機構(NATO)軍の空爆でクラスター爆弾が投下されたコソボでは、不発弾除去の活動資金は事実上すべて外国の政府や企業からの寄付金に頼っている。今年は米、スイス両政府の資金で65人の爆発物処理班を維持できるが、来年の寄付のあてはまだない。資金不足で活動できなくなれば、政府系組織やNATO指揮下の国際治安部隊だけで処理にあたることになり、作業の長期化は避けられない。完了まで15年はかかる見込みという。
また、同じくコソボ紛争を巡るNATO軍空爆を受けたセルビアでも資金不足は深刻だ。ベオグラードの政府機関「セルビア地雷行動センター」によると、150以上の処理計画を立てたが、資金不足で実行できずにいる。また、今年は寄付金の集まりが遅く、8月まで不発弾処理を始められなかった。
一方、06年の第2次レバノン戦争で、イスラエル軍が子爆弾で400万発のクラスター爆弾を撃ち込んだレバノン南部では、07年には114あった除去チーム(国際非政府組織、国連のチーム含む)は、現在、半分以下の45に減少した。08年の金融危機以降、支援の出足が鈍っている。
除去費用は、1平方メートルあたり25~30米ドル(約2200~2600円)と見積もられるが、小国レバノンには重い負担だ。レバノン国軍の担当者は「資金不足は深刻だ」と話す。
非政府組織「ランドマイン・アクション」の08年5月の報告書によると、レバノンでクラスター爆弾の除去費用や民間人の死傷で生じた費用も加えれば、被害総額は最大2億3300万ドル(約201億円)にのぼる。同爆弾は「貧困層の多い南部の経済状況を、さらに悪化させ」(同報告書)ており、各国の資金援助の回復が求められている。【8月15日 毎日】
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【不参加国:使用回避への実質的影響】
全世界のクラスター爆弾の7~9割を保有する米ロ中は、クラスター爆弾は軍事的に必要との判断に加え、廃棄に多額の費用がかかるため、条約に参加していません。3国とも共に加盟する別の条約の下で、より規制の緩い「議定書」を作る交渉を5年以上も続けており、すでに禁止を明記している締約国からは「冗談のような交渉」(外交筋)と冷たい視線を浴びているとか。【11月9日 朝日より】
今回会議への当事国アメリカのオブザーバー参加が期待されていましたが、見送られました。
ただ、オスロ条約発効によって、たとえ不参加国であっても実際にクラスター爆弾を使用することへは国際的ハードルが高くなっていることも事実です。
対人地雷やクラスター爆弾の禁止、核兵器廃絶への取り組み、無人飛行機攻撃の問題・・・個々の兵器の問題への取り組みは進めるべきことでしょうが、その結果としての「人道的に問題のない兵器による戦争」というのも妙な話で、当たり前の話ではありますが、戦争はどんな兵器を使おうが悲劇を生むのは間違いありません。