(大恐慌に対処したフランクリン・ルーズベルト大統領の記念公園にあるスープを求めて列をつくる人々の像
こうした時代が再現しないように、G20では各国指導者には冷静な議論を期待します。 “flickr”より By OakleyOriginals http://www.flickr.com/photos/oakleyoriginals/3371002742/ )
【「雇用の拡大と物価の安定」に向けた進展は「失望するほど遅い」】
なかなか経済停滞から抜け出せない、しかも大きな財政赤字のもとで大規模な財政支出も難しい・・・という状況で、日銀は10月5日の金融政策決定会合で「ゼロ金利政策」復帰、量的緩和政策導入を決定しました。
“政策金利の誘導目標を従来の「年0.1%前後」から「0~0.1%」へ引き下げ、2006年7月以来4年3カ月ぶりに事実上の「ゼロ金利政策」に復帰した。さらに、新たに5兆円規模で株価や不動産価格に連動する投資信託などを買い取り、従来の資金供給と合わせて計35兆円規模の基金をつくる。政策金利の引き下げ余地がほぼなくなったため、今後はこの基金の増額などで金融緩和を進める「量的緩和政策」に踏み込む見通しだ”【10月6日 朝日】
消費者物価指数が安定して前年よりプラスになると見通せるまで、ゼロ金利を続ける姿勢を明確に打ち出したこと、値下がりで損失を被る恐れがある株価指数連動型上場投資信託や不動産市況に連動する不動産投資信託を購入資産の対象とすることに踏み切った点で、「異例の措置」とも言われました。
9.6%と10%近い水準に高止まりする失業率や相次ぐ住宅差し押さえなどに象徴される厳しい経済状況への国民の不満から、中間選挙で与党・民主党が記録的敗北を喫したアメリカも状況は似たようなもので、米連邦準備制度理事会(FRB)は6千億ドル(約48兆6千億円)の米国債を来年第2四半期末(6月末)までに購入する追加緩和策を決定しました。
****米、国債6000億ドル購入 追加緩和 デフレ懸念に対処*****
米連邦準備制度理事会(FRB)は2、3の両日開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、新たに6千億ドル(約48兆6千億円)の米国債を来年第2四半期末(6月末)までに購入する追加緩和策を、賛成多数で決定した。高止まりする失業率とデフレ懸念に対処するため、潤沢なドル資金を市場に投入して長期金利の抑制を通じた景気刺激効果を狙う量的緩和策。FRBは主要政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を年0~0・25%に据え置き、事実上のゼロ金利政策を継続する方針も確認した。
FOMCの声明は、「生産活動と雇用の回復のペースは引き続き減速」と指摘。長期的なインフレ期待は安定していると指摘した。そのうえで、声明は、直近の失業率は高止まりし、物価上昇率はFRBが適正とする水準を幾分下回っていると指摘。「雇用の拡大と物価の安定」というFRBの任務達成に向けた進展は「失望するほど遅い」との見解を示した。
声明は、景気回復を加速し、物価上昇率を望ましい水準に安定させるために、「証券保有の拡大」を決定したとした。
FRBは2008年秋のリーマン・ショックを引き金とした金融危機の深刻化に対処するために、住宅ローン担保証券(MBS)や米国債など最大1兆7500億ドルを購入する量的緩和に着手。危機の沈静化を受けて買い取りはいったん停止したが、今年8月に、償還を迎えた証券の元本を国債に再投資することも決めた。
今回のFOMCはこの再投資の継続を確認したうえで、米国債の新規購入による量的緩和の第2弾に踏み切ったものといえる。【11月4日 産経】
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【超訳「これは実験で、実はどう転ぶかわからない」】
こういう経済記事は、正直なところ、専門用語も多くその意味するところがよくわからない部分が多々あります。
同じ思いの者は多いようで、Newsweekは、FRBの声明について、専門用語を日常的な言葉遣いに言い換えてシンプルな表現に翻訳した「超訳」を掲載しています。その「超訳」部分だけ紹介すると以下のようになります。
****超訳FRB「米景気はお先真っ暗」****
景気は相変わらず最悪だ。人々は以前よりカネを使うようになっているが、家計は破産寸前。10人に1人は仕事がなく、給料も上がらない。家の値段はがた落ちで、誰もローンを組めない。会社は新しいものを買っているけれど、新しい工場やオフィスビルをつくっているわけではない。誰も人を採用せず、誰も家を建てない。低かったインフレ率は超低い水準になった。
FRBの主な仕事は2つ。失業率を抑えて、物価を安定させることだ。ご存知のように、今の失業率はとても高い。インフレ率が非常に低いのも心配だ。私たちは失業率は下がるだろうと言い続けているが、相変わらず下がらない。
景気に渇を入れ、インフレ率をちょっと引き上げるために、買い物三昧を続けることにした。まず、昔の投資の元を取った時点で、新しいものを買い続ける。2つ目(今日のビッグニュースはこれ)に、金欠財政から6000億ドルをひねり出し、今後8カ月間で連邦政府の長期国債を買う。そうすれば利率が下がるから、人々がお金を借りたり使ったり、企業が採用を始めたりしやすくなると期待している。
ちなみに、これは実験で、実はどう転ぶかわからない。私たちには、いつでも計画を変更できる権利がある。
6000億ドルの国債買い入れがバブルを引き起こす?
もちろん、私たちは銀行が無利子でカネを借りられる政策を続ける。インフレの進行とドルの崩壊が心配なら、ここまでの話を読み返してほしい。私たちはできるだけ長い間、金利をほぼゼロにしておくつもりだ。でも、いつまで続けるかは教えてあげない。状況の変化に目を光らせていく。
FOMCの委員のなかで、カンザスシティー連銀総裁のトーマス・ホーニグ氏はこの政策に反対票を投じた。彼は今年の会合で毎回、FRBの政策に反対してきた。金欠財政から6000億ドルをひねり出せば、プラスよりマイナスの影響が多いと考えているのだ。景気回復のためにつぎ込んだ大金がさらなるバブルを引き起こし、インフレの心配を広げるとも考えている。そうなれば、さらなる危機が訪れるかもしれない。【11月4日 ジェーコブ・ゴールドスタイン、ジェレミー・シンガー・バイン Newsweekより】
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ただ、すでに金利は十分に下がり切っており、それでも投資意欲が出ない企業に問題があることから、こうした政策の効果が疑問視されることは日本同様です。
“これは実験で、実はどう転ぶかわからない”というあたりも、日銀の「異例の措置」とも似ています。他に打つ手もないので、とにかくやってみよう・・・というところでしょう。
【「米国の追加緩和は近隣窮乏化策だ」】
日本と異なるのは世界経済に与える影響の大きさです。
ダブついた資金が原油市場などに向かい、また、新興国などに資金が流入し、原油高・ドル安傾向を強める懸念、更には、相手国を巻き込んだ「通貨安競争」の激化の懸念も指摘されています。
****米追加緩和 景気刺激手詰まり 原油高、ドル安加速の恐れ****
米連邦準備制度理事会(FRB)が踏み切った長期国債の購入拡大による追加的緩和は、景気への刺激効果を疑問視する声があるうえ、原油価格の上昇やドル安圧力を高めて、貿易相手国との通貨安競争を激化させる恐れも指摘されている。
日銀が2001~06年に量的緩和を導入した当時と同様に、直接の景気への刺激効果には、エコノミストやFRB内部で意見が分かれている。長期金利は従来の緩和効果で低水準にあるが、企業向け融資も住宅ローンも低迷を続けている。追加緩和でさらに金利が下がっても「雇用や景気回復の効果は限られる」(エコノミスト)との見方が多い。
半面、「ドルの増刷」とも呼ばれるFRBの量的緩和には、世界経済を混迷させる副作用もある。だぶついた資金が原油や商品相場に流れ込み、資源輸入国にはインフレ圧力に働く。先の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で合意した「通貨安競争の回避」にも影響は必至だ。
期待できる即効性は、ドル安を通じた米国の輸出増。だが自国通貨の上昇に悩む新興国などが、資本流入規制や為替介入によって通貨切り下げを競う動きが活発化しそうだ。日銀や欧州中央銀行(ECB)など主要国間の中央銀行による「緩和競争」に突入する可能性も指摘されている。
ただ、米経済の不確実性は高まっている。7~9月期で2%の米成長率が、来年中に再びマイナスに陥る「二番底」の懸念は消えず、デフレ懸念も台頭している。
そうした中、2日の中間選挙で下院での過半数を奪還した共和党は、大規模な財政出動を伴う追加的な景気対策に抵抗する見込みで、金融緩和以外「ほかに有効な刺激手段がない」(市場関係者)のも事実だ。【11月4日 産経】
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ドイツのショイブレ財務相は、ドイツの放送局ARDに対して、今回のFRBによる追加緩和策では高失業率と景気低迷という問題は解決されない、と主張。「その政策では問題は解決されない。むしろ世界の問題が一段と深刻になる」との見方を示しています。
日本の菅総理も「米国のドル安政策によって、円だけでなく新興国通貨も軒並み上昇している」と、4日の衆院本会議で米金融政策が円高の一因になっているとの認識を示しています。
日銀は金融政策決定会合を、当初予定の15、16日から、FOMC直後の4、5日に前倒しする異例の「警戒体制」をとっています。
****アジア通貨上昇****
4日の海外市場では、台湾ドルや韓国ウォン、タイ・バーツなどが軒並み、対ドルで大幅に上昇した。インド・ムンバイ市場の株式指数も前日比427・83ポイント高の2万893・57と、終値ベースでの最高値を2年10カ月ぶりに更新。バブル懸念が膨らんでいる。
ブラジルのバラル対外貿易相は3日、「米国の追加緩和は(他国に不利益を押しつけ、自国だけメリットを受けようとする)近隣窮乏化策だ」と批判。
G20議長国・韓国の企画財政省は、FRBの追加緩和決定を受けて「(韓国ウォン高阻止のための)資本流入規制を積極的に検討する」との声明を発表した。米追加緩和が、通貨安競争を加速させ、各国を保護主義に走らせかねない状況だ。【11月5日 毎日】
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先のG20財務相会合の共同声明は「通貨安競争の回避」をうたっていますが、韓国のソウルで11、12日に開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議では、今回のアメリカの追加緩和策の影響や中国の人民元問題など通貨問題で意見が交わされるものと思われます。