孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  メドベージェフ大統領の国内改革姿勢の実像は?

2010-11-19 19:49:11 | 国際情勢

(05年モスクワ市裁判所に連行されるかつての大富豪ミハイル・ホドルコフスキー プーチンの政敵として失脚・服役中ですが、リベラル派を代表する「殉教者」へ変身した感もあります。 “flickr”より By stenioprof
http://www.flickr.com/photos/stenioprof/2694878616/ )

国後島訪問によって「強い指導者」像を国内向けにアピールしたメドベージェフ・ロシア大統領ですが、政治・経済の近代化向けた国内改革「モデルニザーツィア」を掲げています。
ロシアの政治状況を伝えるニュースには、その国内改革の片鱗を窺わせるものもあれば、旧態依然のものもあって、大統領の目指す国内改革「モデルニザーツィア」の実像・本気度はよくわからないところがあります。

【「黒幕がたとえ権力者でも裁きを下す」】
メドベージェフ大統領の改革姿勢を示すものとしては、以下のようなものが最近目につきました。
****記者襲撃事件で試される大統領の正義****
プーチン前大統領時代、ロシアでメディア関係者が暴力や脅迫を受ける事件が起きれば、黒幕は政府だと思われていた。少なくとも黙認していたのは確かだ。そのため先週、独立系コメルサント紙の花形記者オレグ・カシンが襲撃されて重傷を負ったときも、人々は思った。政府はまた何事もなかったように振る舞うのだろう、と。

だが驚くべきことに、メドベージェフ大統領は個人的に入院中のカシンに見舞いを送り、事件の特別捜査班を組織。自身のブログには、黒幕がたとえ権力者でも裁きを下すと書き込んだ。
黒幕が政府でないなら、いったい誰だったのか。コメルサントによれば、最も疑わしいのは汚職まみれの地方指導者か、与党・統一ロシアの青年組織だという。カシンは襲撃前、こうした組織の取材をしていた。
官僚や司法機関とつながりのある者が襲撃の裏にいるとすれば、メドベージェフは本当に裁きを下せられるのかを試されることになる。もし大統領の正義が誰か別の権力者に阻まれたとしたら、ロシアの報道機関にとって暗い時代は今後も続くということ。大統領が見舞いを送ったくらいで状況は変わらない。【11月18日 Newsweek】
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****ロシア大統領、リベラル色出す? デモ規制強化に拒否権*****
ロシアのメドベージェフ大統領は、集会やデモの規制を強化する法改正案に拒否権を発動した。大統領府が「憲法で定めた市民の意見表明権を守るため」と6日に発表したところ、人権活動家らの間で評価が高まっている。2012年の大統領選をにらんで「政治の季節」に入っており、大統領のリベラル色を打ち出す動きと専門家は見ている。
法改正案は、上下両院が先月可決していた。集会やデモの開催許可が地元行政府から出るまでは時間や場所を発表できない▽過去の集会・デモで行政罰を受けた人は参加できない▽車によるデモの場合は時間や場所は地域の役人が決める――などの規定が盛り込まれている。

ロシアでは、日本からの輸入車への関税アップなどに反対して車によるデモが極東で多発。集会の自由を保障した憲法31条を守るためとしてモスクワで各月の31日に催される反政府デモをめぐり、「無許可」を理由に取り締まる当局側と主催者との間でもみ合いが続いてきた。
大統領は今回、上下両院議長に書簡を送り、法改正案を修正するよう求めた。プーチン首相が党首を務める最大与党「統一ロシア」などが法案を提出していたが、修正に向けて再審議する見通しだ。
ロシアの著名な人権活動家のポノマリョフ氏は「小さな一歩だが、欧米のような民主的秩序を志向することが言葉だけではないことを示している」と歓迎している。
政治学者のマカルキン氏は「大統領は自らのリベラル色を立て直す必要があった」とみる。大統領は7月、犯罪を起こす恐れのある組織や人物に事前警告ができる権限を連邦保安局(FSB)に与える法案に署名し、人権団体などが「旧ソ連国家保安委員会(KGB)の復活だ」などと反発していた。このため「治安派勢力とリベラル派のバランスをとろうとした」とマカルキン氏は指摘している。【11月9日 朝日】
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こうした大統領の拒否権発動については、大統領のリベラル色を打ち出すためのパフォーマンスとして、あらかじめ議会関係者との間でシナリオが出来ていたのでは・・・という感もありますが。

【「経済を近代化させようとしているのは誰か。検察か警察か、それともスパイか?」】
一方、一部指導者による強権支配体制という旧態依然の状況を思わせる記事にも事欠きません。
03年に逮捕されるまでロシア最大手の石油会社ユコスの社長として君臨していたミハイル・ホドルコフスキーは、プーチン首相によって追い落とされ、詐欺と脱税の罪ですでに8年間服役しています。

****プーチンの政敵はやっぱり刑務所暮らし*****
11月2日、最終陳述に臨んだホドルコフスキーの様子はまさに「政治犯」だった。
「あなた方の手の中にあるのは、2人の人間の命運に留まらない」と、ホドルコフスキーは裁判長に語りかけた。2人とはホドルコフスキーとかつてのビジネスパートナー、プラトン・レベジェフのことだ。「今ここで、わが国の全て市民の命運が決められようとしている」
ホドルコフスキーとレベジェフは2億トン以上の石油を横領した罪と、それを売って得た1億ドル近い金の資金洗浄の罪に問われている。判決は12月15日に言い渡される予定だ。
ホドルコフスキーも弁護団も、2人の有罪はほぼ間違いないと覚悟している。そして「容疑」はウラジーミル・プーチン首相(03年当時は大統領)の側近がユコスの石油関連資産を利用するためにでっち上げたのだと主張している。

選挙にでしゃばらないよう先手?
ホドルコフスキーは詐欺と脱税の罪ですでに8年間服役している。刑期は11年10月に終わることになっているが、ロシアではその数週間後に議会選挙が、そして翌12年3月には大統領選挙が予定されている。
刑期を延長し、選挙シーズンはシベリアの監獄で大人しくしていてもらおう――ホドルコフスキー側に言わせれば、彼が追起訴された裏にはそんな意図が働いている。
「私は自分の国を恥ずかしく思う」とホドルコフスキーは法廷で述べた。20分間の熱弁が終わると、支持者や多くの地元ジャーナリストから割れんばかりの拍手喝采がわき起こった。
「(ロシアは)世界のトップに立つはずのいくつもの一流企業をつぶし、自国民を侮って官僚と公安組織だけを信頼しているような国だ。この国は病んでいる」と彼は言った。

彼はまた、ドミトリー・メドベージェフ大統領の掲げる「経済の近代化」路線にも批判を浴びせた。「経済を近代化させようとしているのは誰か。検察か警察か、それともスパイか?」と、彼は声を上げた。「以前にもわが国はその手の近代化を試したことがある。だがうまく行かなかった」。要するにソ連時代のことだ。

リベラル派の旗手か強欲な富豪か
03年の逮捕以来、ホドルコフスキーはロシアのリベラル派を代表する「殉教者」へのイメージチェンジを慎重に進めてきた。そして情報機関や治安機関の出身者で占められている現政権にノーを突きつけ、民主主義と人権を求めようと国民に呼びかけてきた。
中にはこの変身ぶりを冷めた目で見る人もいる。ホドルコフスキーが90年代に財を成したのは、他のオリガルヒ(新興財閥)たちと同じで食うか食われるかの冷酷な手法を使ったからではないかというわけだ。
とはいえ多くのオリガルヒは、今も逮捕されることなく政府の手厚い支援を受けている。ホドルコフスキーの支援者に言わせれば、これこそ司法のダブルスタンダードだ。
「これは私とプラトン(・レベジェフ)だけの問題ではない」と、ホドルコフスキーは言った。「ロシア国民の希望――明日こそは、裁判所は国民の権利を守ることができるようになるのではという希望の問題だ」
彼はこうも言った。「牢獄暮らしは厳しい。こんなところで死にたくはない。だがこの信念は命を賭けるに値する」

国民は裁判のことさえ知らず
03年当時、プーチン大統領の下で首相を務めていたミハイル・カシヤノフは、ホドルコフスキーの弁論を「重要なもの」だと評価する。
「われわれはロシアを失いつつある」とカシヤノフは言った。カシヤノフの見るところ、裁判所が無罪判決を下す可能性は「ほとんど期待」できない。「裁判所が(プーチンが作り上げた)権力機構の一部となっているのは周知の事実だ」
ちなみにカシヤノフは03年に、ホドルコフスキーを逮捕するのは野党に資金提供したからだとプーチンから直接、聞かされたという。
だが2日の裁判について耳にするロシア人はほとんどいないだろう。全国ネットのテレビ局(大半のロシア人のニュース源)では取り上げられないからだ。
世論調査機関のレバダ・センターが10月に行なった調査によれば、この裁判を「非常に注意深く」見守っているという人はたったの2%。26%は裁判について聞いたことすらなかったという。
それでも42%のロシア人は、ホドルコフスキーの運命を決めるのは「権力の中枢にいる人々」だと答えている。【11月4日 Newsweek】
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【政府ぐるみの「悪人隠匿列伝」】
****ロシアにとって法律は破るためにある*****
人殺しのお尋ね者が国会議員に
例えば、元KGB(ソ連国家保安委員会)職員のアンドレイ・ルゴボイだ。イギリスに滞在していた亡命ロシア人のアレクサンドル・リトビネンコを06年に毒殺したとして、イギリスの検察当局が行方を追っている人物だが、この男は今や国民的ヒーローであり、選挙で国会議員に当選し、刑事免責特権まで手に入れている。
あるいは「美人スパイ」のアンナ・チャップマン。ロシア政府のためにスパイ活動をしたとして米国内で逮捕され、スパイ交換によって晴れて自由の身となった彼女、帰国したときにはウラジーミル・プーチン首相から称賛の言葉を贈られた。政界進出の噂もある。

政府ぐるみの「悪人隠匿列伝」の最新版は、09年に起きたエルミタージュ・ファンドの顧問弁護士セルゲイ・マグニツキーの事件に関与した政府高官と警官60人がおとがめなしとなったケースだ。
マグニツキーは、税務警察の高官がエルミタージュの関連企業を悪用して2億3000万ドル相当の税金を詐取したと告発した人物。だが逆に逮捕され、あらぬ脱税の罪で刑務所に放り込まれた。その後、獄中で健康を害したが治療を拒まれ、そのまま死亡した。
米議会は先頃、このマグニツキー事件に関与した人物へのビザ発給を禁ずる法案を可決した。法案の共同提案者に名を連ねたジョン・マケイン上院議員によれば、「このロシアの愛国者を死に追いやった者を特定し、その名を世界に知らしめ、犯罪の責任をとらせる」のが法案の狙いだ。
だがロシア側は、「大きなお世話」とばかり猛反発。ロシア外務省は「良識を逸脱」した行為だと非難し、内務省はマグニツキー逮捕で中心的な役割を果たした捜査官を昇格させてみせた。【11月17日 Newsweek】
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メドベージェフ大統領の国内改革「モデルニザーツィア」やリベラル色は、単に「良い警官と悪い警官」を演じるプーチン首相との共同のパフォーマンスの一環に過ぎないのか、これまでの欧米とは異質な政治体制に変革をもたらそうとうするものなのか・・・


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