(14日NLD本部を訪れ、支持者に手をふるスーチーさん “flickr”より By bdcburma007
http://www.flickr.com/photos/aung_san_suu_kyi/5185405805/ )
【「しばらくは地方遊説に出るつもりはない」】
13日に7年半の自宅軟禁から解放されたミャンマーの民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チーさん(65)は、総選挙への対応で分断された民主化勢力の再結集に努力することを当面の目標とし、軍事政権側を刺激する発言は慎重に避けています。
また、軍政トップのタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長との直接対話に意欲を表明し、融和姿勢を示しています。【11月15日 産経より】
彼女の政治活動が本格化して軍事政権側を刺激すれば、再び軟禁・拘束される事態も想定されていますが、そうした事態につながる地方遊説は当面行わない方針のようです。
****ミャンマー:スーチーさんNLD再建に全力 地方遊説せず*****
7年半ぶりに自宅軟禁を解除されたミャンマー民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(65)が、軍事政権による再度の身柄拘束などの恐れがある地方遊説を、しばらくは行わない意向を示したことが分かった。スーチーさんは当面、地方遊説を行わず、総選挙参加をボイコットして解党処分となった「国民民主連盟」(NLD)の「再建」に全力を挙げる方針とみられる。
スーチーさんと14日面会した、ヤンゴン駐在各国大使の一人が明らかにした。
スーチーさんは、政権が軟禁解除に何の条件も付けず「私は完全に自由」と言い、「しばらくは地方遊説に出るつもりはない」と語ったという。
政権はスーチーさんの地方遊説で、民主化を求める動きが地方に拡大するのを恐れているとみられる。スーチーさんは89年以来3回自宅軟禁処分となり、うち2回は地方遊説がきっかけとなって身柄を拘束された。
スーチーさんは再拘束の恐れがある地方遊説よりも、NLDの「再建」が、政治活動再開への優先課題と考えている模様だ。NLDはヤンゴン市内に事務所を維持し事実上の政治活動を続けているが、政権は「非合法組織」としていつでも弾圧できるとの見方もある。
NLDは解党処分取り消しを裁判所に申し立て、18日には首都ネピドーの最高裁がこの訴えに基づき審理に入るかを判断する予定。スーチーさんは15日の弁護士らとの会議で「法廷闘争」の方針を確認。16日には申し立てに関する書類への署名のため、ヤンゴンの裁判所を訪れた。【11月16日 毎日】
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解放後の活動としては、意識的に選択した結果か、比較的穏当な「HIV感染者の療養施設訪問」が伝えられています。
****HIV療養施設を訪問=患者に花―スー・チーさん*****
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは17日、最大都市ヤンゴン東部にあるエイズウイルス(HIV)感染者の療養施設を訪問、「気持ちを強く持って」と激励した。
施設には約100人のHIV感染者を含む300人以上が集まった。スー・チーさんは同日午後、国民民主連盟(NLD)幹部とともに施設に到着。感染者に花を渡した。【11月18日 時事】
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【国営紙:スーチーさんの名前に敬称を付ける異例の扱い】
スーチーさん側の「抑えた対応」に呼応するように、軍事政権側もこれまでになくスーチーさんに対し「寛容」な姿勢を見せています。
****ミャンマー:軍事政権、「民主化の進展」国内外にアピール****
ミャンマーの軍事政権が、民主化運動指導者アウンサンスーチーさんの解放について、民主化「進展」と国内外にアピールしている。総選挙中は外国メディアの取材を禁じる一方、選挙で圧勝しスーチーさんを解放した後は、一転して一部欧米メディアの直接インタビューを事実上容認した。
普段スーチーさんの動向を一切伝えない国営紙は14日、「独立運動の父の娘に恩赦」との見出しでスーチーさんの軟禁解除を大きく報じた。スーチーさんの名前に敬称を付ける異例の扱いだった。当局者とスーチーさんが和やかな雰囲気で面談し「当局は国の安定と平和を望んでおり、スーチーさんが必要とするすべてに応じる準備がある」と伝えた。
一方、これまで国民に「悪魔」と宣伝していた英BBCテレビなど一部欧米メディアによるスーチーさんのインタビューを阻止せず、事実上容認した。政権側には欧米メディアの活動を阻止しないことで、「寛容姿勢」を強調する狙いもあるとみらる。【11月17日 毎日】
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軍事政権側のこうした「寛容」姿勢がいつまで続くのか、スーチーさんと軍事政権側でどのような話になっているのかわかりませんが、緊張をはらんだ、いささか「不気味な」静けさのようにも見えます。
今後については、スーチーさん自身の活動内容の他、少数民族反政府勢力と軍事政権の衝突も影響しそうです。
【米:「(軍事)政権の今後の対応次第だ」】
欧米諸国は依然ミャンマーの軍事政権・非民主的な総選挙を非難しています。
国連総会第3委員会(人権)にEUが提出した対ミャンマー人権決議案は、ミャンマー総選挙で軍事政権が「自由で公正かつ透明性のある選挙を行わず、国際監視団や記者の受け入れを拒否した」ことを問題視し、国際社会が求める水準以下だったと強く批判しています。
アメリカも制裁を続ける方針です。
****米、対ミャンマー政策変えぬ方針 制裁解除「政権次第」*****
米国務省のクローリー次官補は15日の定例会見で、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん(65)を解放したミャンマー(ビルマ)政府に対する政策を、現時点では変えない方針を示した。制裁解除の可能性については「(軍事)政権の今後の対応次第だ」とし、民主化勢力との対話を迫った。
クローリー氏は、「米国は国民民主連盟(NLD)再建に協力する」とし、クリントン米国務長官がスー・チーさんにメッセージを送ったことも明らかにした。また、「ビルマの人々が(軍事政権の支配とは)違う種類の社会を熱望していることを示している」と指摘。全有権者が参加する政治プロセスを含む「本当の市民社会を見せてほしい」と軍政に注文をつけた。【11月16日 朝日】
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軍事政権側は、豊富な地下資源を武器に、中国・インド・タイなど周辺国との関係を強めており、欧米の制裁に対抗しうる自信を持っているとも言われています。
欧米によるミャンマーへの経済制裁については、スーチーさんは「国民が解除を望み、国民のためになるならば考えたい」と述べています。スー・チーさんは以前にもタン・シュエ議長に対し、制裁解除のために軍政に協力する意思を表した手紙を出しています。
【中国:安定を重視するよう促す】
ミャンマーの「後ろ盾」とも言われる中国は、安定を重視することを求めています。
*****ミャンマー安定を重視=中国*****
中国外務省の洪磊・副報道局長は16日の定例会見で、ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん解放の感想を問われ、「ミャンマーが平和と安定を保ち、民族和解と経済社会発展を推進することを望む」と述べ、軍事政権に安定を重視するよう促した。
中国政府のスー・チーさん解放に対する反応は極めて静か。ノーベル平和賞受賞者であるスー・チーさんの解放が注目を集め、同賞受賞が決まった服役中の民主活動家、劉暁波氏の釈放要求が高まることへの警戒もあるとみられている。【11月16日 時事】
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なお、フランスのサルコジ大統領は、訪仏した中国の胡錦濤国家主席との首脳会談の際に「わたしから胡主席に話をして、中国当局がミャンマー軍政に影響力を行使した」と語っているそうです。【11月17日 時事より】自信家と言うか、自己顕示欲が強いと言うか、いかにも彼らしい発言です。そうした資質がないと政治家・指導者は務まらないのでしょうが・・・・。