孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  NATO首脳会議で出口戦略「行程表」とロシアの協力 戦車と夜間民家急襲

2010-11-21 18:38:24 | 国際情勢

(旧ソ連軍が残していった戦車で遊ぶアフガニスタンの子供 “flickr”より By Robert W. Kranz
http://www.flickr.com/photos/21273796@N05/2069863544/ )

【「予定された時期よりも治安状況に基づく」】
リスボンで開催されたNATO首脳会議は、アフガニスタン問題の出口戦略について、14年末までにアフガニスタン政府への治安維持権限移譲を行う「行程表」で合意しました。

****14年末までのアフガン治安権限移譲で合意、NATO首脳会議*****
ポルトガル・リスボンで行われた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は20日、アフガニスタンに駐留する国際治安支援部隊(ISAF)からアフガニスタン政府への治安維持権限移譲を2011年に開始し、2014年末までにISAFが担う役割を、訓練など支援的なものにすることで合意した。
ただし米国は「今後も厳しい戦闘があるだろう」として、2014年以降もアフガニスタンで戦闘が続く可能性を排除しなかった。
これに対しアフガニスタンの旧支配勢力タリバンは電子メールで声明を発表し、「侵略者たちは9年の占領を経て過去の侵略者たちと同じ轍を踏んでいる」として、NATOの決定に冷笑的な姿勢を示した。【11月21日 AFP】
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権限移譲の可否は「予定された時期よりも治安状況に基づく」とし、反政府勢力タリバンとの戦闘の状況などを見極めて、慎重に進める意向を示されています。状況次第では「14年」に縛られないということです。
また、アフガニスタン側への権限移譲とISAF部隊の撤退は別物で、ISAF部隊は15年以降も一定数残留し、治安部隊の支援に当たるとしています。

一方で、「軍事的な手段だけでは成功できない」と、民生支援との協調を重視する方針を表明。カルザイ政権がタリバン側と進める和解プロセスや、元武装勢力の社会復帰などを評価し、支援を続ける考えも示しています。
会見したカルザイ大統領は「権限移譲と同時に、政治対話を進める方向性で合意した」と強調。NATOが戦闘任務よりもアフガン軍や警察の訓練に重点を移すことへの期待をにじませています。【11月20日 朝日より】

【NATO ロシアとの関係をリセット】
今回NATO首脳会議のもうひとつの主なテーマは、旧ソ連の脅威に対抗する軍事機構として作られたNATOにとっては旧敵であり、グルジア侵攻で関係が悪化したロシアとの関係を「リセット」し、アフガニスタン安定化を促進し、ミサイル拡散などの「新たな脅威」に立ち向かうため協力を進める方針の決定です。

“NATO側がロシアとの関係改善を急いだ背景には、パキスタン経由のアフガンへの物資輸送がイスラム原理主義勢力タリバンにより危険にさらされ、ロシアの領域通過が必要になってきた事情がある。
露シンクタンク、現代発展研究所によると、ロシアやカザフスタンなど旧ソ連圏経由のアフガンへのコンテナ輸送量は昨年6月に月100個程度だったが、現在では月3千個を超えた。”【11月21日 産経】
アフガニスタン問題がけでなく、イラン対策にもロシアの協力が必要です。
ロシア側はアフガニスタンへの物資輸送やヘリコプターの提供、麻薬密輸対策などで協力していくことが協議されています。
ただ、当然ながらNATO、ロシアそれぞれに思惑がありますので、ロシア内部にもNATO進めるミサイル防衛に対して冷やかな見方もあるように、今後の協力がスムーズに進むかは定かでない部分もあります。

【欧州の国防費削減にアメリカ苛立ち】
NATO側内部においても、一枚岩とは言い難い情勢があります。
****NATO首脳会議 揺らぐ米欧の協調 国防費めぐり亀裂 結束確認焦点に****
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が19日、2日間の日程でリスボンで始まった。第二次大戦後、冷戦を勝ち抜いた米欧は加盟国を当初の12カ国から28カ国に拡大。しかし、イラク戦争では亀裂が生じ、9年にわたる戦闘を続けているアフガニスタンでも利害の不一致が鮮明になっている。金融危機で国防費を大幅に削る欧州に米国が「武装解除だ」(ゲーツ米国防長官)と不満をあらわにする中、米欧が結束を再確認できるのか注目される。

NATOのラスムセン事務総長は旧ソ連圏に対峙(たいじ)した冷戦下の役割を「バージョン1」、冷戦後、バルカン半島の危機や米中枢同時テロへの対応を「バージョン2」と位置づけた上で、「今日、加盟国9億人の安全を守るバージョン3が必要だ」と強調する。
NATO設立の目的は「米国を引き込み、ソ連を締めだし、ドイツを押さえ込む」(イズメイ初代事務総長)ことだった。冷戦終結でその目的を達したNATOはバルカン半島やアフガンでの域外活動に活路を見いだすが、イラク戦争に仏独が反対したことでNATOの終焉(しゅうえん)もささやかれた。

今年に入ってNATO側で最悪の計650人超の犠牲者を出したアフガンをめぐっては、クリントン米国務長官がNATO首脳会議に先立つ17日、ヘイグ英外相と会談し、NATO主体の国際治安支援部隊(ISAF)からアフガン側への治安権限移譲を2014年末までに完了することを目指す方針を確認した。
しかし、戦況好転の兆しは見えないままで、米英に寄り添ってきたオランダでは、政権が崩壊して今年8月に撤退を開始、仏独も激戦地への転戦を渋っている。
アフガン民主化どころか対テロ戦争の最前線での敗色が濃くなる中、米国は欧州の軍事能力の低さに落胆し、欧州は明確な計画を持たないまま派遣兵員を計14万人にまで拡大させた米国への不信感を募らせる。
それに加え、欧州の国防費は2000~09年に毎年2%近く減少したが、米国はイラク戦争やアフガンでの出費で約1・7倍に拡大した(米シンクタンク調べ)。
さらに、金融危機の影響で英国は15年までに国防費を8%、スペインも11年だけで7%削減する。独自の核抑止力と空母の前方展開能力を保つため英仏は未曾有の軍事協力を行うほどだ。
オバマ米大統領は米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で「われわれは互いに最も緊密なパートナーだ」と米欧関係の未来を強調したが、米欧間の溝は新たにミサイル防衛(MD)計画を一体化させることなどでは埋め難くなっているのが現実だ。【11月20日 産経】
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【戦車:「衝撃と畏怖を与える」】
いずれにしても、今回承認された出口戦略はNATO側の「希望」であり、戦略どおりいくかは状況次第です。
ところで、11月13日ブログ「アフガニスタン情勢:カブール陥落から9年  米軍のGPS誘導移動式ロケット、ロシアの復帰(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101113)」で、GPS誘導で誤差1m以内に着弾する
誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)がタリバン側に恐怖を与えていることをとりあげましたが、今日は「戦車」の話題。
私は知りませんでしたが、これまで米軍はアフガニスタンには「戦車」は投入していなかったそうですが、その戦車が投入されることになったそうです。

****アフガンに戦車初投入=タリバン牙城、掃討強化―米紙****
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は19日、米軍がアフガニスタンに初めて戦車を投入すると報じた。反政府武装勢力タリバンの牙城となっているアフガン南部の戦線で使用される。
オバマ米大統領が来年7月の駐留米軍撤退開始を目指す中で、国防総省は南部制圧に全力を挙げ、空爆やタリバン幹部を狙った夜襲を強化している。
米軍当局者は、武装勢力掃討のための攻撃力が増すとともに、タリバンに「衝撃と畏怖(いふ)を与える」と語っている。イラク戦争でも使われた、戦車「M1エイブラムス」を16両、海兵隊が展開する南部ヘルマンド州に投入する計画。【11月19日 時事】 
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“アフガンでは、戦車は1979年に同国に侵攻した旧ソ連軍の象徴でもあり、米軍が「侵略者」とみなされ住民の反感を招く恐れもある。同省は「現場の指揮官が地域の指導者や地元評議会(シューラ)に、戦車投入の目的や役割を説明する」としている”【11月20日 時事】とのことです。
米国防総省のラパン副報道官は「旧ソ連軍はアフガン国民を威圧するために使用したが、われわれはアフガン国民を守るために使う」と強調したとも。

ただ、戦車に「威圧用」と「国民を守るため」の色分けがあるわけでもありませんので、どうでしょうか・・・。
「衝撃と畏怖を与える」のがタリバンだけでなく、アフガニスタン住民にならなければいいのですが。

【民家夜襲に対するアフガン国民の反発】
【11月19日 時事】記事にある“タリバン幹部を狙った夜襲”についても、アフガニスタン住民に強い恐怖を与えています。

****タリバン掃討「夜間の民家急襲に国民反発」 米・アフガン不協和音****
米国とアフガニスタンの関係に新たな不協和音が生じている。アフガンのカルザイ大統領が米紙とのインタビューで、国民感情の悪化を理由に米軍が夜間に実施する民家急襲作戦をやめるよう要求。これに対し、駐留米軍トップのペトレイアス国際治安支援部隊(ISAF)司令官が大統領発言への強い懸念をアフガン側に伝えたことも明らかにされた。
19日からは北大西洋条約機構(NATO)首脳会議がリスボンで始まり、アフガン政府への治安権限の移譲などが議論されるが、その直前に判明した両国の不協和音が協議の進展を阻むのではないかとの懸念も浮上している。

カルザイ大統領は14日付の米紙ワシントン・ポストのインタビューで、イスラム原理主義勢力タリバン掃討作戦の一環で米軍の特殊部隊が実施する夜間の民家急襲作戦が、アフガン国民を恐怖に陥れ、国民感情を悪化させていると懸念を表明。「アフガンでの軍事作戦を減らすときが来た」と述べた。
タリバンの残党が隠れる民家への夜間急襲作戦はペトレイアス司令官がもっとも力を注ぐ軍事作戦。AP通信によると、過去3カ月だけでも武装勢力の関係者300人以上を殺害・拘束する成果を挙げたとされる。
しかし、民家急襲に対するアフガン国民の反発も強く、カルザイ大統領はインタビューで「夜間に民家へと押し入り、アフガン人を逮捕するのは外国の軍隊の仕事ではない」と語った。

一方、15日付のポスト紙によると、ペトレイアス司令官はカルザイ大統領の発言に「驚きと落胆」を表明し、戦況の進展に悪影響を及ぼしかねないとの懸念をアフガン側に表明したと報じた。司令官は14日に予定されていたカルザイ大統領との会談も欠席した。
オバマ政権はアフガン戦略の再検証に関する報告書を来月中旬にも作成する方針。19日からのNATO首脳会議では、カルザイ大統領が目指す2014年末までのアフガン政府への治安権限移譲を踏まえ、将来的な駐留規模などが関係国で議論される。【11月17日 産経】
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治安権限の移譲の議論は予定どおり行われたようですが、アフガニスタン・カルザイ政権とアメリカの関係も不安定です。更に言えば、今回NATO首脳会議でロシアの協力が進められることになりましたが、アフガニスタン側にはかつての侵攻国旧ソ連に対する反発も根強くあるようです。

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