孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン情勢:カブール陥落から9年  米軍のGPS誘導移動式ロケット、ロシアの復帰

2010-11-13 22:30:41 | 国際情勢

(1メートル以内にピンポイントで命中するGPS誘導される単弾頭の誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS) “flickr”より By Defence Images  http://www.flickr.com/photos/defenceimages/5038806268/ 
多連装ロケットシステム自走発射機は、もともとはクラスター爆弾様のロケット弾を使用しており、イラク戦争では「鋼鉄の雨(スチール・レイン)」とイラク軍に恐れられたそうです。【ウィキペディアより】)

【カブール陥落から9年】
アフガニスタンの首都カブールから旧支配勢力タリバンが排除されてから13日で9年になったそうです。
しかし、復活したタリバンとの戦闘は続いています。治安が回復したかに見える首都カブールでも自爆テロが起きています。

****アフガン:首都カブール陥落から9年 治安回復も自爆テロ*****
01年の米同時多発テロへの報復として始まったアフガニスタン戦争で、首都カブールが陥落し、旧支配勢力タリバンが排除されてから13日で9年となった。その首都で12日、自爆テロがあり、アフガン国軍と北大西洋条約機構(NATO)軍の兵士2人が負傷した。

アフガンでは南部や東部で旧支配勢力タリバンが勢いを盛り返している。だが、カブールでは、アフガン兵や警察が治安を守り、復興の兆しを見せていた。市内のあちこちで道路や新築ビルの工事が進み、商店や飲食店はにぎわい、夜中まで色とりどりの電灯を店先にぶら下げている。車を持つ人が増え、街を走る車の9割は左ハンドルの中古の日本車だ。
そこに起きたテロ。NATO軍の四駆車の車列が狙われた。現場から約300メートル離れた小高い丘から見下ろすと、自爆したワゴン車は黒くこげ、原形をとどめていなかった。アワフ・ドワドさん(28)は、「土煙がこの丘まで舞い上がり、辺り一帯が真っ白になった。子供たちは『世界の終わりだ』とおびえ、逃げ回った」と話した。(中略)
この国は79年のソ連の軍事侵攻以降、30年にわたるさまざまな戦争を経験し、いまだに出口が見えない。【11月13日 毎日】
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余計なことですが、カブールの車の9割が中古日本車だとは知りませんでした。
ちなみに、タリバン御用達の愛車もトヨタのピックアップトラック「ハイラックス」だそうです。こちらはタリバンだけでなく、世界中の紛争地帯のゲリラ・武装勢力から絶賛を得ています。
機動性が高く、耐久性に優れ、荷台に重火器を設置すれば有効な兵器になります。
みんなが使っているので交換部品が入手しやすく、整備できる人間も多いというメリットもあります。
80年代のチャド内戦では、政府軍・反政府軍双方がハイラックス改造車を多用したため、「トヨタ戦争」とも呼ばれたとか。【10月27日号 Newsweekより】

話を本題に戻すと、翌13日にはタリバンによるNATO軍空港襲撃も報じられています。
****アフガン:テロ 北部で子供ら8人死亡、NATO軍空港も*****
アフガニスタン北部クンドゥズ州の市場で13日、バイクに仕掛けられていた爆弾が爆発し、子供3人と警察官2人を含む8人が死亡、市民約20人が負傷。東部ナンガルハル州ジャララバードでも同日、武装集団が同国に駐留する北大西洋条約機構(NATO)軍の空港を襲撃し、NATO軍との激しい交戦に発展、武装勢力側約10人全員が殺害された。
ナンガルハル州当局者によると、空港を襲った武装勢力の一部はアフガン軍の制服姿だった。爆弾入りのジャケットを着た者もおり、自爆攻撃を図ったらしい。旧支配勢力タリバンのムジャヒド広報官が、空港襲撃を認める声明を出した。
13日は01年に始まったアフガン戦争で首都カブールが陥落し、タリバンが排除されてから9年。武装勢力がこの日に合わせて攻撃してきた可能性がある。【11月13日 毎日】
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【誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)】
ここのところのアフガニスタン情勢については、攻勢を強めるタリバンと統治能力を疑われるカルザイ政権に出口が見えないアメリカという図式が一般的で、上記記事にあるようなタリバンの攻撃もその一環です。

一方で、11月3日ブログ「アフガニスタン アメリカの戦略変更 現地民衆懐柔重視から軍事作戦強化へ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101103)でも取り上げたように、統治の安定を促す包括的なアプローチである民衆を懐柔する典型的な対反政府武装勢力戦略(COIN)から軍事作戦強化に重点を移したアメリカの戦略変更を受けて、アメリカ側が「戦術的」にはそれなりの効果をあげつつあるとの指摘もあります。
“それでも、流れは変わりつつある。戦争に懐疑的だった米高官は最近のメールで「それなりに成功しそうな、それなりの作戦が実施されている」と書いている。NATOの顧問は3ヵ月前は完全に悲観的だったが、「今はどちらかというと楽観的だ」と語る。ただし、これらは「戦略的」成功ではなく「戦術的」進歩に関する発言だ。” 【10月27日号 Newsweek日本版】

タリバン側の自爆攻撃に対して、アメリカ側の攻勢を支えるのはやはりハイテク兵器です。
最近非常にタリバン側に打撃を与えつつある兵器に、誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)というものがあるそうです。
****タリバンが震え上がる米軍の新兵器*****
アフガニスタン南部のカンダハル州で米軍とアフガニスタン軍が反政府勢カタリバンに圧勝していると、ニューヨーク・タイムズが報じている。その主な理由の1つは、抜群の精度を誇る新型の移動式ロケットだ。
ロケットはタリバンの潜伏場所を破壊して司令官たちを殺害。命拾いした者は武器を捨てて逃走し、パキスタンヘ避難する者もいるという。

絶賛されているこの兵器は誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)。GPSシステム搭載で射程距離は約70キロ。抜群の破壊力を持つ弾頭を標的の1メートル以内に命中させる。05年からアフガニスタンで使われているが、米軍が砲兵部隊への配術数を増やしたのは昨年のことだ。
だが作戦を成功させるには正確無比なロケットだけでなく、敵の位置に関する高精度の情報が必要だ。米軍はこの点でも、数カ月前から大きな成果を挙げ始めた。砲兵部隊はどこに敵が潜み、どこを狙って攻撃すべきかをより正確に把握できるようになっている。
アフガニスタン駐留米軍司令官のデービッド・ペトレアスはタリバンヘの攻勢を強める一方で、諜報活動を強化。ハイテク機器を利用して集めた情報を専門のアナリストに分析させている。これを特殊部隊員のほか、タリバンを嫌う地元民の信頼を得やすいアフガニスタン治安部隊員からの情報とも照らし合わせて精度を上げている。
あるNATO関係者によれば、タリバンは隠れ家や拠点の周囲に簡易爆弾を設置して防御していることが多い。そこを攻撃するには空からの誘導弾か、遠距離からのロケットが有効だ。
米軍がこうした攻撃を可能にする情報を集められるようになったのはここ数カ月のこと。しかし既に、タリバンに大きな打撃を与えている。
冒頭の記事によれば、タリバンは着弾点のあまりの正確さに震え上がり、ロケットに対して「畏怖の念」を抱いている。多くの戦闘員が逃亡し、一部の司令官は上官から米軍への反撃を命じられても従わない状態であるという。【11月10日 Newsweek】
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戦闘がどちらに有利に進んでいるのかは部外者にはさだかではありません。

【帰ってきたロシア】
最近アフガニスタンで見られたもうひとつの変化は、かつてアフガニスタンから撤退したロシアのアフガニスタンへの「麻薬取締」の形での復帰です。アフガニスタン・カルザイ大統領は旧支配者ロシア復帰に不快感を表明しています。

****アフガン:露部隊が麻薬工場破壊、カルザイ大統領は反発*****
アフガニスタン東部のパキスタン国境に近いナンガルハル州でこのほど、北大西洋条約機構(NATO)軍とロシアの麻薬取り締まり部隊が、薬物製造工場4カ所を破壊する大規模な作戦を実施した。ロシア当局によると、作戦には約70人の将校らと複数のヘリが参加しており、ロシアにとっては旧ソ連軍が89年にアフガンを撤退して以来の本格的な軍事作戦への参加となった。しかし、アフガンのカルザイ大統領は「ロシアには軍事行動の許可を出していない」と反発している。(中略)
ロシアのラブロフ外相も30日、訪問先のハノイで、29日の合同作戦について「よい結果がもたらされ、我々は満足している。米露は(アフガンでの)麻薬密輸やテロとの戦いを続行することで一致した」と述べた。

01年に米軍などがアフガンに軍事介入した後も、ロシアは復興や治安維持へ向けた国際的な取り組みへの参加には消極的だった。ソ連時代のアフガン侵攻(79~89年)の失敗がトラウマになっているのが主な背景だが、今回の大規模作戦への参加は、ロシアがアフガン復興への積極関与にかじを切ったことを示す出来事といえる。
ただ今回の作戦について、アフガンのカルザイ大統領は30日、関知していないとして不快感を表明。カルザイ政権は旧支配勢力タリバンとの和解交渉を進めている最中で、タリバンの資金源となっている麻薬産業の破壊を外国軍が強行したことに反発している模様だ。
カルザイ政権の反発に加え、旧ソ連のアフガン侵攻の経験から住民のロシア人に対する反感は今でも改善されておらず、アフガンへの「ロシア復帰」は一筋縄ではいきそうにない情勢だ。【11月2日 毎日】
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ロシアのアフガニスタン復帰の背景には、当然ながらしたたかな思惑があります。
****NATOと連携したロシアのしたたかさ******
ソ連のアフガニスタン撤退から20年以上たった今、NATO(北大西洋条約機構)が再びロシアをこの国に呼び戻そうとしている。目的は、麻薬密輸組織との戦いや、治安部隊の再建で協力を得るためだ。
対口関係の「新たなスタート」としてNATOのラスムセン事務総長が推進した協定では、ロシアはアフガニスタン治安部隊に物資や訓練を提供し、麻薬対策プログラムと国境警備を支援することになるが、戦闘部隊の派遣は行わない。今月中旬にリスボンで開かれるNATO首脳会議でロシアのメドページェフ大統領が協定に署名する。これにより、NATO拡大とロシアの08年のグルジア侵攻で悪化した両者の関係の修復が期待される。

だがロシアは大きな見返りも要求。旧ソ連圏へのNATOの派兵規模を3000人規模までに限定すること、東欧諸国に25機以上の軍用機を配備する場合は42日未満とすること、ロシアの同意なしに中欧とバルカン半島、バルト3国に大規模な追加派兵をしないことI-―-といった条件を突き付けている。
メドベージェフの強気の理由は、NATOにとってロシアとの連携が不可欠であることを熟知しているからだ。ロシアがその気になれば、中央アジアでNATOの後方支援活動を妨害することもできるし、NATO内部の分裂を誘うこともできる。

とはいえ、メドベージェフも限度を心得ていると、専門家は言う。NATOが01年にアフガニスタンに展開して以来、彼らはロシアの国境の南側を「守ってくれる」存在だからだ。アフガニスタンにおけるNATOの失敗は、すなわち国境地帯の不安定化を招く。だから「建設的な」関係を結びたがっていると、カーネギー国際平和財団モスクワセンターのドミトリ・トレーニン所長は指摘する。
どうせ旧ソ連圏からNATOを追い出すことは不可能だ。それならば、アフガニスタンで彼らに恩を売っておいたほうが得策だ、ということだろう。【11月17日号 Newsweek】
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