孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ・オバマ外交  アジア歴訪に厳しい評価  新START批准難航

2010-11-17 21:57:33 | 国際情勢

(アジア歴訪の最初の訪問国インドでは、ミシェル夫人がダンシング・クイーンとして大人気になったのですが・・・・ ただこれも、“インドではオバマ大統領は、ほぼ相手の望みどおりのことしか言わなかったから”とも言われています。 “flickr”より By U.S. Embassy New Delhi
http://www.flickr.com/photos/usembassynewdelhi/5177628273/# )

【「ソウルでの赤っ恥」、「三振でアウトだ」】
日本の菅政権も中国・ロシアに対する外交問題で強い批判にさらされていますが、アメリカ・オバマ大統領の外交戦略もうまくいっていません。
中間選挙における歴史的敗北後の挽回を狙ったオバマ大統領のアジア歴訪・ソウルG20については、アメリカ国内では非常に厳しい評価がされています。

****「赤っ恥」「三振」=オバマ大統領の歴訪酷評―米メディア*****
オバマ米大統領は14日、中間選挙での与党民主党の歴史的大敗の衝撃が収まらぬ中で出発したアジア4カ国歴訪から帰国した。今回の歴訪では、選挙での手痛い敗北の失点を外交で挽回(ばんかい)できるかが注目されたが、米メディアの報道では「大統領への世界の視線が、この2年間でいかに厳しくなったかが示された」(ワシントン・ポスト紙)など酷評が相次いだ。
「米国の大統領と財務長官が、ここまで総スカンを食らった経済サミットがかつてあっただろうか」。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は13日付紙面に「ソウルでの赤っ恥」と題する社説を掲載。大統領がソウルでの20カ国・地域(G20)首脳会合で、輸出拡大のため金融緩和によってドル安誘導していると非難を浴びたことや、米韓自由貿易協定(FTA)の批准に向けた合意をまとめられなかったことを厳しく批判した。
ABCテレビもソウル訪問では、米韓FTA合意、中国の人民元安政策の転換、G20での対中包囲網形成という三つの目的を達成できなかったとし、「三振でアウトだ」と報じた。【11月15日 時事】
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アメリカの期待する「強いアメリカ」を実現できなかったことへの失望でしょうが、日本国内メディアの評価も同様に、アメリカの指導力の陰りを指摘しています。
****オバマ大統領、アジア歴訪 世界経済、陰る米指導力*****
オバマ米大統領のアジア歴訪は、世界経済における米国の指導力の陰りを印象づけたという見方が出ている。米韓自由貿易協定(FTA)の最終合意や、各国と協調し中国に人民元切り上げを迫るという目標の達成に失敗したからだ。米中間選挙で民主党大敗の原因となった景気回復の遅れと、経済政策運営の行き詰まりが、外交にも影響しているという指摘もある。
大統領の6日からのインド訪問を皮切りにしたアジア歴訪は、中間選挙敗北の挽回(ばんかい)を狙ったものだった。

しかし、11日にソウルで行われた韓国の李明博大統領との会談で、アジア市場に対する輸出促進のカギを握る米韓FTAの批准へ向けた決着を逃したことについて、アメリカン・エンタープライズ研究所のフィリップ・レビー上級研究員は「大統領の失敗であり、世界経済における米国の指導力の弱体化を露呈した」と指摘する。
2007年にブッシュ政権が署名した米韓FTAによって米国には、年間100億ドルの輸出増と7万人の雇用促進が見込まれる。輸出倍増計画を掲げるオバマ大統領もソウルでの首脳会談を「最終合意期限」と位置づけていた。
中間選挙の結果、自由貿易派の共和党が下院を制し、批准への機運も高まっていた。だが、米国産の牛肉や自動車の輸出に対する韓国の障壁をめぐり、韓国側から譲歩を引き出すことができなかった。

主要20カ国・地域(G20)首脳会議でもオバマ大統領は、焦点だった貿易不均衡是正の具体策で合意を主導できず、中国に人民元切り上げを迫る国際的な圧力も強化できなかった。
米連邦準備制度理事会(FRB)が3日に決定した6千億ドルの国債購入による追加金融緩和を、中国やブラジルなどが、米輸出の拡大に有利な「ドル安誘導策だ」と批判し、それへの釈明に追われたからだ。
世界的な経済危機の最中の昨年4月、ロンドンで開かれたG20首脳会議で大統領は、景気対策の国際協調を主導した。だが、当時の指導力は見る影もない。

「彼ら(各国)は一段と自己主張を強めている」。大統領は、合意形成が難しくなった要因は自国本位の風潮にあるとした。また、新興国の通貨上昇の元凶とされるFRBの金融緩和は、「世界の利益だ」と主張した。だが、新興国側からは、米国の景気回復を優先させ、他国の利益を無視した「一国主義だ」との声も上がっている。
「世界的な課題はもとより、国内の経済課題も解決できない弱い米国の大統領-世界がオバマ氏をそうみているのではないかと危惧(きぐ)する」。米紙ワシントン・ポストのコラムニスト、デイビッド・イグナチウス氏は、こう指摘している。【11月16日 産経】
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【新STARTの年内駆け込み批准も難航】
今回のアジア歴訪に限らず、アフガニスタンは出口がはっきりしない、イラン・北朝鮮の核問題もなかなか進展していない、中東和平交渉はもとより誰も成功を予想していない・・・という状況で、オバマ外交はいまひとつ成果を出せずにいます。

なかでも懸念されるのは、アメリカとロシアが4月に調印した新戦略兵器削減条約(新START)の批准(上院の3分の2の賛成が必要)がアメリカ国内で困難になっていることです。これは外交というより、アメリカ国内問題と言うべきでしょうが。

オバマ大統領とロシアのメドベージェフ大統領は14日、横浜市内で会談。アメリカ議会での批准が難航している新戦略兵器削減条約(新START)について、オバマ大統領は、外交上の最優先課題として取り組んでいることを強調、年内の批准を目指すことを改めて表明し、理解を求めています。

****米露関係「リセット」に影 中間選挙大敗で新START批准難航*****
米国とロシアが4月に調印した「新戦略兵器削減条約(新START)」の米上院(定数100)での早期批准が中間選挙の与党の大敗で困難になっている。オバマ政権は年内まで任期の残る現議会での“駆け込み採決”を目指しているが、批准に必要な上院全体の3分の2の67票の賛成を得るには共和党8議員の協力が必要だ。民主党の議席が少なくなる来年になると、状況はさらに不利になる。14日には横浜市で米露首脳会談が予定されているが、この問題が両国関係に影を落とす懸念も高まっている。

 ◆党派超え結束を
「民主党と共和党の伝統的な争点ではなく、わが国の安全保障の問題なのだ」
オバマ大統領は中間選挙直後の4日、核不拡散への熱意を世界に示すためにも新START批准に党派を超えて結束するよう訴えた。
新STARTは、配備済み戦略核弾頭を1550発、大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの運搬手段を800まで削減し、双方の核ミサイル基地への査察を実施する点などが柱となっている。

 ◆最重要政策の一つ
「核兵器なき世界」を掲げるオバマ政権は「リセット」と称してブッシュ前政権下で悪化した対露関係の改善を重視、新STARTの批准を最重要政策の一つに掲げてきた。
だが、北朝鮮やイランの核兵器開発が深刻化しており、条約締結が米国の核抑止力の低下につながりかねないとの懸念は強い。ロシアが強く反対する米国のミサイル防衛(MD)への悪影響も指摘される。
9月の上院外交委では共和党の3議員が賛成に回ったことで批准承認が可決されたが、本会議でどこまで共和党の協力を得られるかは未知数だ。しかも来年の民主党の上院議席は現在の59(民主党系含む)から53に減少する。
このため、ホワイトハウスは年内採決に向けて共和党穏健派の懐柔に乗り出しており、米国が保有する核兵器の近代化など、一部の共和党員が受け入れやすい条件の提示を画策している。

 ◆共和党の動き鈍く
しかし、共和党側の動きは鈍い。支持率低下にあえぐオバマ政権にあえて協力するメリットはなく、条約が批准されればオバマ政権に外交成果を与えることになるからだ。
こうした状況にタウシャー米国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)は「本来あるべき姿を超えて(批准の議論が)政治問題化されている」と批判のトーンを強めている。
中間選挙で中断していた米議会は15日に再開予定で、新STARTをめぐる与野党の激しい駆け引きが展開されそうだ。【11月13日 産経】
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オバマ政権としては、中間選挙敗北により来年からは上院での議席差が縮まるため、比較的有利な年内に駆け込み批准したいところですが、共和党の協力が得られていません。
オバマ政権側との交渉窓口だった共和党上院ナンバー2のカイル院内幹事が16日、年内の批准に反対する声明を発表、年内批准は極めて厳しい情勢となっています。
 
****米上院:新START批准暗雲 共和党「年内」反対****
オバマ米大統領が外交上の最優先課題と位置付けている米露間の新しい戦略兵器削減条約(新START)について、政権側との交渉窓口だった共和党上院ナンバー2のカイル院内幹事が16日、年内の批准に反対する声明を発表した。多くの共和党議員が従うとみられ、年内批准は極めて厳しい情勢となった。
年内批准に失敗すれば、「核兵器なき世界」を目指すと提唱してきたオバマ大統領の国際的な信用も大きく失墜しかねず、政権側は必死の説得工作を続けている。
カイル氏は声明で、「議会で多くの法案が残っていることや、核兵器の(抑止力強化のための)近代化について複雑で未解決な問題があることを勘案すると、年内の残り会期では批准すべきではない」と反対姿勢を明確にした。
オバマ政権は、核抑止力強化のため10年間で800億ドル(約6兆6400億円)の核兵器関連予算を計上することをすでに発表しているが、批准への賛同を得るため、さらに今後5年間で41億ドル積み増すことをカイル氏側に提案。交渉は順調に進んでいるとみられていただけに、ホワイトハウスは衝撃を受けている。

オバマ大統領は14日、横浜で行われたロシアのメドベージェフ大統領との会談で、新STARTの年内批准を最優先課題として取り組んでいると表明したばかり。実現できなければ、米露関係に影響し、アフガニスタン戦争や対イラン政策で協力が得にくくなるとの指摘が出ている。
ホワイトハウスのバイデン副大統領は16日、声明を出し「年内批准ができなければ米国の国家安全保障を危うくする。新STARTはロシアとの関係の基盤となるものだ」などと懸念を表明。17日にはクリントン国務長官が連邦議会内でルーガー(共和)、ケリー(民主)両上院議員と記者会見し、党派を超えた批准に協力を求める予定だ・・・・【11月17日 毎日】
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新戦略兵器削減条約(新START)が批准されなかったからといって、すぐに米ロの軍拡競争が始まるような情勢ではありませんし、批准できたからといって「核兵器なき世界」が即実現される訳でもありません。
しかし、核軍縮に向けた制度的枠組みを失うことの意味は小さくありません。
実務面でも、相手国のミサイル基地を査察できる手だてがなくなることで、疑心暗鬼の状況を生みかねません。
上記記事にもあるように米ロ間の信頼、ロシアのアフガニスタンやイランでの協力にも影響します。
また、オバマ大統領の指導力低下を世界に示すことにもなり、様々な交渉における影響も考えられます。
少なくとも、「核兵器なき世界」を掲げて受賞したノーベル平和賞の価値が大幅に減じるの間違いないところです。

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