(3月28日 カブールを訪問したオバマ大統領と会談するカルザイ大統領。結局、アフガニスタンの明日はカルザイ大統領の当事者としての意思・能力次第です。しごく当然の話ですが。“flickr”より By isafmedia
http://www.flickr.com/photos/isafmedia/4471811149/ )
【毎日約2人の兵士が死亡】
特段の意外感もない記事ですが、アフガニスタンでのアメリカ・NATO軍の死者数は、タリバン側の攻勢、タリバン拠点地域である南部のヘルマンド州・カンダハル州での大規模掃討作戦の実施によって、過去最悪のペースで増加しています。
****アフガニスタン駐留兵の今年の死者600人に、過去最悪のペース****
アフガニスタン東部で25日、武装勢力の攻撃で北大西洋条約機構(NATO)が主導する国際治安支援部隊(ISAF)の兵士1人が死亡し、今年に入ってからの駐留部隊の死者数が600人に達した。
アフガニスタン駐留兵士の死者数を集計する民間ウェブサイト「アイカジュアリティーズ」を参照しAFPが算出した。今年は毎日、約2人の兵士が死亡している計算になる。
米国がアフガニスタンでの軍事作戦を始めた2001年からの9年間で最悪のペースだ。これまで、最も多くの兵士が死亡した2009年でも、年間死者数は521人だった。アフガニスタンにおける2001年以降の外国人兵士の死者は合計で2170人となった。
ハミド・カルザイ大統領は、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンなどの武装勢力との融和を目指し「高等和平評議会」を発足させた。
しかしリチャード・ホルブルック・アフガニスタン・パキスタン担当特別代表は米CNNのインタビューで、NATO駐留軍が攻勢を強めていることを受けてタリバン上層部にアフガン政府との交渉を望む動きも出ているものの、現時点での接触は終戦に向けた交渉というより「連絡と話し合い」にとどまっていると述べた。【10月26日 AFP】
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【復興支援金の「迷宮」】
これまた意外感はありませんが、アフガニスタンにつぎ込まれている巨額の復興支援金に多くの使途不明権があるとか。混乱した紛争地域ですので十分ありうる話ですし、腐敗や汚職が横行し、大統領の身内にも利権や麻薬絡みで利益を得ていると者がいると言われるカルザイ政権のもとであればなおさらでしょう。
****米アフガニスタン復興支援、多額の使途不明分 監査官報告*****
米政府が2007~09年の3年間にアフガニスタン復興支援に割り当てた180億ドル(約1兆4500億円)近くについて、省庁間の情報共有の欠如から使途が「迷宮」入りしてしまい明確にしきれない部分があると、同復興支援を監査する特別監督官が指摘した。
米政府のアフガニスタン復興担当特別監察官 (SIGAR)によると、3年の間に政府は7000近い請負企業や事業体に総額177億ドル(約1兆4275億円)相当の事業を発注した。しかし国防総省、国務省、米国際開発局は支出額についてきちんと回答できなかった。
28日にAFPが入手したSIGARの報告書によれば、今回監査したのは07~09年度分だけだが、「各省庁から入手できる07年以前のデータは粗末すぎて分析できない」ため、米国がアフガニスタン復興支援を開始した02年まで問題はさかのぼるだろうという。(中略)
SIGARによると、報告書によって「政府の事業発注の入り組んだ『迷宮』を追跡するのは困難である」ことが示されている。例えば、国防総省内には同省予算による発注事業を監視する機構が4つもあるのに、互いの間に情報共有はない。ましてや各省庁間の情報共有は最小限度でしかないとSIGARは述べている。【10月29日 AFP】
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【COIN戦略の信頼できるパートナーには到底なり得ない・・・】
【10月27日号 Newsweek日本版】記事によると、増大する犠牲、見えない和平交渉の行方、進まない復興支援・・・・こうした泥沼状態からの出口を求めて、アメリカの対アフガニスタン戦略に変更が見られるそうです。
これまで、現地市民を守って基本的な公共サービスを提供し、統治の安定を促す包括的なアプローチである民衆を懐柔する典型的な対反政府武装勢力戦略(COIN)をオバマ政権はアフガニスタンでの基本戦略としてきましたが、最近は、悪者を殺害もしくは拘束するという昔ながらの戦い方に変わり始めているとのことです。
そして、それはある程度の戦術的成果はもたらしているようですが・・・。
目的は軍事攻撃もCOINも同じで、タリバンに圧力をかけて指揮系統を混乱させ、前線の兵士と国境付近のパキスタン側に潜伏する指導部の問に亀裂をつくり、彼らの多くを降伏させるか、アフガニスタン政府との和解交渉に応じさせることにあります。
しかし、現実的に考えればCOINには時間がかかり過ぎ、COINだけで成功させるために必要な時間は、最短でもあと6~10年間はかかると見られています。
更に、COINはアフガニスタン政治の腐敗によって失敗する恐れがあります。
COINは当事国の政府が主体にならない限り機能せず、米軍はあくまで当事国政府の要請で動くという形を取ります。しかしアフガニスタンのカルザイ大統領は国民をほとんど信頼せず、公共サービスを提供する手腕もほとんどない。そんな大統領が、COIN戦略の信頼できるパートナーには到底なり得ない・・・との、懐疑的な見方が広まっているようです。
****泥沼アフガン脱出の新戦略*****
駐留米軍 来年夏の撤退開始を前に激しい軍事攻撃を再開した米軍の狙い
COINは当事国の政府が主体にならない限り機能しないが、ハミド・カルザイ大統領は信頼できるパートナーになり得ない。
決意を固めたペトレアス
そこで米軍とNATO軍はタリバンに圧力をかけるために、強力かつ比較的速やかに成果が期待できる手段に重点を移している。
空爆や指揮官の殺害は以前から作戦の一部だった。同様にCOINも「殺害強化作戦」の一部だ。米軍が中心となって治安を維持し、住民を訓練して諜報活動に協力させなければ、特殊部隊は地上で機能しないし、空から標的の場所が分からないだろう。
その意味で、COINと対テロという2つの戦略は結び付いている。方針転換は、どちらの戦略を戦争の目的達成の推進力にするかということだ。
アフガニスタン駐留米軍のデービッド・ペトレアス司令官らがまとめた米陸軍のCOINの実戦マニュアルによると、COINの戦争は「もともと長引きやすく」「堅固な政治的意志と極めて強い忍耐」と「かなり大規模な時間と資源」が必要だ。
ペトレアスは6月の司令官就任以来、タリバンは自分たちが負けると思うまで交渉に応じないだろうと言い続けてきた。数週間前からは「敵の殺害と拘束」に大きく舵を切り、負けはかなり早そうだと敵に悟らせようとしている。ある米軍高官は記者に、アフガニスタンでタリバンが活動しているすべての地域に「ペトレアスが特殊部隊を配置している」と語った。
米空軍の最新の非機密情報によると、過去3ヵ月に米軍の戦闘機と無人機は1600発のミサイルと爆弾でアフガニスタン領内の標的を攻撃。半分近い700発が9月に集中している。昨年の同時期に発射されたのはわずか1031発、うち9月は257発だった。
戦略の転換はある程度の効果をもたらしているようだ。ある高官によると、過去3ヵ月でタリバンの中堅幹部300人が殺害または拘束された。一般の兵士も800人以上が殺害され、2000人以上が拘束されている。
情報当局によれば、戦場のタリバン兵は散り散りになり混乱している。指揮官が殺害されても後任はなかなか送り込まれない。
タリバン兵が数人や数十人単位で降伏するケースもあるという。現在約200人のタリバン兵が、投降するために南部のヘルマンド州から西部のヘラート州に向かっているとの情報もある。
ただ大規模な、あるいは幹部レベルの降伏の前兆とまではいかないようだ。先の200人のタリバン兵は仲間からの報復を恐れて移動しているという。また、寝返ってから再び寝返ることはアフガニスタンの戦士の「伝統」で、きょう降伏しても明日は戦っているかもしれない。
それでも、流れは変わりつつある。戦争に懐疑的だった米高官は最近のメールで「それなりに成功しそうな、それなりの作戦が実施されている」と書いている。NATOの顧問は3ヵ月前は完全に悲観的だったが、「今はどちらかというと楽観的だ」と語る。ただし、これらは「戦略的」成功ではなく「戦術的」進歩に関する発言だ。(後略)【10月27日号 Newsweek日本版】
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【多難な前途】
上記記事は、こうした軍事作戦に比重を移したアメリカ戦略変更が成功するかどうかのカギとして、2点を指摘しています。
ひとつは、軍事作戦強化によって仮にタリバン側が交渉の席に着かざるを得ない状況になったとしても、和解を継続させて政治的安定につなげるためには、経済が成長して、信頼できる司法制度が確立し、基本的な公共サービスが定着しなければならない・・・つまりは、結局カルザイ政権が当事者としての責任を果たす意思と能力があるかという問題で、COINの重要性に話は戻ってしまいます。
もうひとつ、「予測不能な要素」として北部同盟の存在があげられています。
“北部同盟はタリバン政権時代の反体制派で、01年に米軍がタリバン政権を倒した際には協力した。
カルザイ政権の発足に伴い北部同盟は武装解除したが、カルザイとタリバンの間で権力分担の合意が結ばれてタリバンが連立政権に復帰するようなことがあれば、彼らは再び武器を手に取るかもしれないとも懸念されている。そうなれば内戦が再開しかねない。”【同上】
記事の結論は“幕引きへの道は突然、少しだけ明るくなった。しかしどのように終結して、その後どうなるのかは、相変わらず見えてこない。”というものです。
大統領は、「11年7月」は米軍がアフガニスタンから撤退を「開始する」期限にすぎず、撤退の規模とペースは状況によると繰り返していますが、アメリカ中間選挙における与党・民主党の歴史的敗北によって、オバマ大統領の選択の幅はますます限定されるものになっていきます。
カルザイ政権は頼りにできず、隣国パキスタンの強力にも疑問符がつく状況、更に欧州各国は厭戦気分と軍事費削減によってアフガニスタンから手を引きたがっている、撤退開始期限はすでに明言している・・・なんとも厄介です。