(中国・天津の裁判所前で撮影を阻止する私服警官(2018年12月26日撮影)【1月29日 AFP】
中国では外国人記者らの取材環境が従来にも増して悪化しており、 尾行や盗聴をされることもあるとか)
【ファーウェイの孟晩舟氏 「憲法上の権利を著しく侵害」されたとカナダ政府を訴える】
周知のように、中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟CFOは昨年12月1日、飛行機の乗り継ぎのため訪れたカナダ・バンクーバーで、アメリカ当局の要請に基づき、対イラン制裁に違反した容疑で逮捕されていますが、カナダ司法省は今月1日、アメリカへの身柄引き渡し手続きを正式に開始したと発表しています。
こうした状況を受けて、孟晩舟CFO側も“反撃”というか、対抗措置に出ています。
****ファーウェイが反撃、逮捕の副会長がカナダ政府を提訴―カナダ紙****
2019年3月4日、環球網は、カナダ紙グローブ・アンド・メールの報道として、中国・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟(モン・ワンジョウ)副会長兼最高財務責任者(CFO)がカナダ政府およびカナダ国境サービス庁、王立カナダ騎馬警察(国家警察)を提訴したと報じた。
記事によると、孟氏の弁護団は3日、「ブリティッシュコロンビア州の高等裁判所に1日付で民事訴訟を提起した」との声明を発表。「孟氏の憲法上の権利に重大な侵害があった」とし、「カナダ政府職員が法治に従わないことによって引き起こされた不法監禁」などについて賠償を求めたことを明らかにした。
孟氏サイドは「昨年12月1日、バンクーバーの空港で不当な拘禁に遭い、捜査、尋問を受けた。関係当局は逮捕を告げる前に孟氏を拘留し、捜査や取り調べを行った」としているという。また、弁護士は訴状の中で、「カナダ当局は孟氏を即逮捕するのではなく、税関の通常検査と見せかけて尋問を行い、この機会を使って証拠や情報を提供するよう迫った」と指摘しているとのことだ。【3月4日 レコードチャイナ】
*******************
華為技術創業者の娘でもある孟氏の事件は、5Gなどの最先端技術、知的財産権などをめぐって将来的な世界覇権を米中が争っている状況を象徴するものともなっています。
****ますます先鋭化、5Gをめぐる米中の争い****
昨年2018年8月にトランプ大統領が署名した米国国防権限法第889節は、中国の通信機器メーカーのファーウェイ・テクノロジー(華為技術)やZTEの製品を米国政府が調達したり使用したりすることを禁止した。
2018年12月には、カナダで、ファーウェイのCFO(最高財務責任者)孟晩舟容疑者が、逮捕された。中国政府は、これに報復するかのように、中国国内でカナダ人を複数、逮捕した。
今年2019年1月には、米国司法省が、正式に、法人としてのファーウェイとその子会社及びCFO個人を起訴した。
次世代移動通信規格5Gをめぐる米中の争いは、ますます先鋭化している。
米中貿易戦争は、米中間の技術をめぐる争いにも発展し、それは、軍事競争にも発展し得る。そして、その技術戦争の中心は、現在5Gになっている。
5Gは、単なる通信施設ではなく、工場の自動化、自動運転、遠隔医療など、IoT(モノのインターネット)時代の社会基盤になる可能性があると言われる。いわば、次世代の産業の主導権を握るものなのである。新たな技術革命とも言え、5Gを制するものが世界を制すると言っても過言ではないかもしれない。
その5Gで、米国は、中国に比して劣勢に立たされていると言う人もいる。ある民間調査会社によれば、2017年時点で1 万人当たりの5G基地局(電波を中継する)は、中国が約14万基であるのに対して、米国は4万7000基であったとのことである。
その中で目立つのはファーウェイで、2017年の売り上げは世界全体の28%と、長年トップのエリクソンの27%を抜いて世界第1位となった。
米国が危機感を持っているのは、5Gで中国に後れを取っているのみならず、5Gのネットワークが情報の搾取に利用される恐れが高いからである。
中国の「2017年国家情報法」は、中国の企業が中国の国家情報局を支援し、これと協力しなければならない、と規定している。5Gは広大な通信ネットワークで、米国はファーウェイが深圳の本部から世界に張り巡らされたネットワークにアクセスし、これを管理することを懸念している。
ファーウェイは、ネットワークを管理するソフトウェアに挿入したコードは悪意のあるものでも秘密でもなく、遠く離れたネットワークを常に最新のものに保ち、トラブルを分析するものだと説明しているが、場合によっては、企業がネットワークを監視するデータセンターにアクセスできるとのことであり、そのこと自体が懸念の対象なのである。
トランプ政権が、5Gをめぐる中国との争いが、国家の安全保障を守る争いであると言っているのは、このリスクがあるためである。(後略)【2月26日 WEDGE】
*******************
中国側は情報搾取に関するアメリカの疑念を否定したうえで、アメリカ側のファーウェイを狙い撃ちしたような対応を非難しています。
****米のファーウェイ排除 中国高官「国際市場の秩序乱す」と非難****
アメリカが、中国の通信機器大手ファーウェイの製品の排除を各国に求めていることについて、中国高官は記者会見で、「WTO=世界貿易機関のルールに違反し、国際的な市場秩序を乱すものだ」と述べ、強く非難しました。
中国では通信企業に対し、政府へのデータ提供が義務づけられていることから、アメリカは、安全保障上の脅威だと主張して、ファーウェイの製品を排除するよう各国に求めています。
これについて、中国で、重要政策を決める全人代=全国人民代表大会が5日に始まるのを前に、北京で記者会見した張業遂報道官は4日、「政治的な手段で経済活動に干渉するものだ。WTOのルールに違反し、公平な競争を前提とする国際的な市場秩序を乱すものだ」と述べ、アメリカの対応を強く非難しました。(後略)【3月4日 NHK】
***************
こうした状況については、2月24日ブログ“アメリカ主導のファーウェイ包囲網、イギリスは不参加か 将来的最大市場インドも”等でも取り上げてきましたが、中国だけが情報搾取を狙う“悪者”で、アメリカが“正義の味方”という話でもなく、両国とも似たり寄ったりの情報監視国家であると個人的には考えています。
【中国国内で「憲法上の権利が著しく侵害」されている人権派弁護士】
それはそれとして、冒頭の孟晩舟氏の“反撃”には“引っかかるもの”があります。
法律的な問題はわかりませんが、孟晩舟氏のことだけに関して言えば、孟氏側にもそれなりの言い分はあるのでしょう。
ただ、“空港で拘束された際に「憲法上の権利を著しく侵害」されたといい、カナダ当局による職権乱用と不法監禁に対する損害賠償を求めている”【3月4日 AFP】という主張を聞くと、どうしても「では、中国国内で行われているウイグル・チベットでの人権侵害はどうなのか?人権派弁護士の逮捕はどうなのか?」と尋ねたくなります。
ウイグル・チベットに関しては最近も取り上げたことがありますので、人権派弁護士に関する最近の記事をいくつか。
****人権弁護士に懲役4年6月、中国 国家政権転覆罪で****
中国の天津市第2中級人民法院(地裁)は28日、国家政権転覆罪に問われた人権派弁護士、王全璋氏の公判を開き、懲役4年6月の実刑判決を言い渡した。
習近平指導部は2015年7月に王氏を含む人権派弁護士や民主活動家ら約300人を一斉連行。王氏の拘束は、家族や家族が依頼した弁護人との接見を許されず、審理の内容も明らかにされないまま約3年半に及んでいる。判決に国際社会から懸念が強まりそうだ。
関係者によると、起訴状では、王氏が海外の組織から資金提供を受けながらインターネットを通じて政府を敵視する世論をあおったことなどが国家政権転覆罪に当たるとされた。【1月28日 共同】
*********************
中国のこうした「人権侵害行為」は、中国と争うアメリカにとっては“攻めどころ”ともなっています。
****米国務省が警笛を鳴らす中国の人権問題****
2019年1月29日付で、米国務省は、中国の人権派弁護士、王全璋(Wang Quanzhang)氏に対する判決に関して、以下のようなプレス・リリースを発表した。
「1月28日に中国天津で、人権派弁護士の王全璋氏に対して「国家転覆罪」で4年半の禁固刑が言い渡されたことに、米国は深く憂慮している。
王氏は、2015年7月9日(「709」)の中国政府による法の支配提唱者や人権擁護者に対する取り締まりによって最初に拘留された者の一人であり、判決を下された最後の者の一人である。
中国が王氏を判決前に3年半も拘留、監禁し、彼が選定した弁護士は認められず、その弁護士は報復にあったことを、我々は問題視する。
我々は、王氏が即時に釈放され、彼が家族のもとに戻れることを、中国に要求する。中国において、法の支配、人権及び基本的自由の状況が悪化していることを、我々は憂慮している。そして、中国が国際的人権ルールを守り、法の支配を尊重することを、引き続き要請する。」(中略)
2015年7月9日に開始された「709」キャンペーンでは、2−3週間の間に、300名もの人権擁護や民主主義、法の支配を訴えていた弁護士や法律顧問等が逮捕、抑留され、弁護士資格を剥奪されたり、仕事を失ったりした。
この中で、上記に掲げた王氏のほか、少なくとも 4 名が収監された。2016年 8月、周世鋒(Zhou Shifeng)氏と胡石根(Hu Shigen)氏は、それぞれ7年と7 年半の禁固刑を言い渡された。
2017年11月には、江天勇(Jiang Tianyong)弁護士が2年の刑に処せられた。その翌月2017年12月には、人権活動家の呉淦(Wu Gan)氏が8 年の刑を言い渡された。
また、上記のプレス・リリースで指摘されている、王氏の弁護士に関しては、そのうちの一人、余文世(Yu Wensheng)弁護士とは連絡が付かず、 彼は1年以上拘束されているとも言われている。
なお、この問題に関しては、1月31日付の米ワシントン・ポスト紙が社説で取り上げている。
中国については、共産党が大きな役割を果たし、はたして市場経済であるのか否かとか、世界標準を外れた行いを中国の特色として正当化する傾向があるとか、いろいろな問題があるが、人権無視の問題はその中でも中国を尊敬できない、恐ろしい国にしている主要な問題である。このことについては、不断に注意喚起をしていく必要がある。
中国で人権のために勇敢に戦っている人々は、民主主義世界の支持に値する。
旧ソ連でも、1975年まで人権はひどく無視されていたが、ヘルシンキでの全欧安保会議でヘルシンキ宣言が採択された後、状況は徐々に変わっていった。
中国に関しては、もちろんヘルシンキ宣言のようなものはないが、人権規約のうち社会権規約は締結済みであり、自由権規約についても署名済みである。自由権規約の批准、締結を求めていくことが適切である。
また、中国の人権問題を、ウイグル、チベットの問題を含め問題にしていくことは大切である。それが中国を異形の大国である度合いを低めることになる。国内での法の支配の強化につながるし、国際的な場での法や規則の尊重にもつながると思われる。
日本の人権活動家も、もっと中国の人権状況に関心を払うべきであろう。【2月20日 WEDGE】
**************
たとえ刑期を終えて解放されても、当局の厳しい監視下におかれます。
上記記事でも名前がでてくる江天勇氏については・・・。
****出所後に行方不明の人権派弁護士、所在判明も「まだ自由の身ではない」 中国****
中国の著名な人権派弁護士で、先月28日に刑期を終えて出所してから行方不明になっていた江天勇(Jiang Tianyong) 氏の所在が判明したものの、引き続き監視下に置かれていることが分かった。米国在住の妻、金変玲氏が3日、明らかにした。
江氏は、非合法化された気功集団「法輪功」のメンバーや、抗議活動に従事したチベット人など、注目された裁判で弁護を引き受けていた。また、共産党政権に批判的な司法関係者に対する2015年の一斉取り締まりの際に拘束された200人余りの弁護士や活動家の一人であり、17年に国家転覆を扇動した罪で有罪判決を受けた。
江氏は2月28日に2年に及ぶ刑期を終えたものの、その後所在が分からなくなっていた。妻の金氏によると、最終的に故郷の河南省信陽にいることが明らかになったという。
金氏はAFPに対し、「6年間互いに会えなかったが、ようやくビデオチャットで話すことができた」と明かした一方、江氏が出所後も「まだ自由の身ではない」と指摘。「現在夫は実家に身を寄せているが、外に警官が配置されている。夫がどこに行こうとも、警官は後をついてくる」と述べた。
その上で「夫がいつ失踪してもおかしくない不安もある。夫が極力早く米国に来て、わたしたちと再会できることを願っている」と話した。
中国では人権活動家や反体制派が刑期を終えて出所した後、引き続き監視下に置かれたり制約を受けたりすることが珍しくない。 【3月3日 AFP】
*******************
こうした状況こそが、“憲法上の権利の著しい侵害”“職権乱用と不法監禁”というべきものです。
中国でも極めて大きな影響力を有する立場にある孟晩舟氏はこのことについてどのように考えるのか、是非聞きたいものです。
【最近の中国政治の鬱陶しい空気】
中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が3月5日から北京で始っています。
中国の最近の政治情勢・雰囲気を示す話題をいくつか。
****「習氏に学ぶ」アプリ、党員悲鳴 ポイント少ないと指導****
中国で共産党の習近平(シーチンピン)総書記(国家主席)の思想や政策を学ぶスマホのアプリやPCソフト「学習強国」が、攻略法の紹介がネットで出回るなど異様なブームを見せている。
党の方針に従って大半の党員が使い始めたためとみられるが、学習するほどたまるポイントが少ないと指導を受けることもあり、党員からは悲鳴も上がっている。
アプリは党の思想や政策の普及を担当する党中央宣伝部が開発し、1月に配信が始まった。
「学習」は中国語で「習氏に学ぶ」という意味にもなる。習氏が唱える「新時代の中国の特色ある社会主義思想」を学ぶ場と位置づけ、約9千万人いる党員を中心に「学習」を呼びかけた。(中略)
SNS上には「各自のスコアは把握できる。他の人に負けないように」との通知や、「毎日ノルマを課されている」との書き込みがあり、党員はスコアを上げるのに必死のようだ。「ニュースは10秒読めばポイントがつく」など、短時間で高スコアを出す攻略法まで出回っている。(後略)【2月19日 朝日】
*********************
噴飯ものですが、実際にこういうことが行われるというのが中国政治の怖いところでもあります。
習近平氏への個人崇拝には中国国内でも対立勢力・党長老などから大きな異論・批判があったところで、多少は自制するようになったという話もありましたが、上記のような話を聞くと、いまだにその流れは変わっていないようにも見えます。
“締め付け”の対象は党員だけではないようです。
****チャン・イーモウ監督作品、取り下げ 規制強化? 中国当局の意向か****
ベルリン国際映画祭の最高賞「金熊賞」を競うコンペティション部門にノミネートされ、15日に上映予定だった中国映画「ワン・セカンド」(チャン・イーモウ監督)の出品が取り下げられた。
製作側は「技術的問題」を理由にしているが、中国では映画だけでなく人気ドラマの再放送が中止されており、中国当局による規制強化との見方が出ている。
(中略)文化大革命期(1966〜76年)の中国を舞台にしたため、当局から問題視された可能性がある。
青少年向け部門でも中国・香港合作の青春映画「ベター・デイズ」(デレク・ツァン監督)が「製作上の理由で間に合わない」(製作側)として出品が取り下げられた。
中国映画の審査権限については昨年3月に発表された機構改革で、政府部門から共産党宣伝部門に移管された。ドラマや出版でも党の審査権限が強化された。
中国紙、北京日報は1月25日の論評で、清朝の後宮を舞台にした人気ドラマ「延禧攻略(えんきこうりゃく)」と「如懿伝(じょいでん)」の2作品について「皇帝の重臣たちを美化することで、新中国の英雄・模範の輝きを失わせている」「ぜいたくを賛美し倹約や勤労を攻撃している」と批判。複数の放送局で2作品の再放送が中止されたり、途中で打ち切られたりした。
「延禧攻略」はネット上で181億回以上再生。18日から日本の衛星放送で放送される。「如懿伝」もネット上で146億回以上再生されているヒット作。突然の打ち切りにネット上では「文化大革命のようだ」と不満が出ている。【2月14日 毎日】
**********************
どうもトランプ大統領のアメリカしても、習近平主席の中国にしても、政治・社会の空気がよくないようです。