孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア  一帯一路で中国との覚書締結 EUとしての統一対応を軽視した行動への批判も

2019-03-21 22:29:28 | 欧州情勢

(中国との覚書に署名済みの13カ国【3月21日 朝日】 なんだか、すでに外堀は埋まっているようにも いよいよイタリアという内堀にも手を伸ばしているように見えます。)

【欧州への影響力を強める中国】
昨日ブログでは、欧州、特にその中心国ドイツに対するアメリカの「アメリカをとるのか、中国をとるのか、はっきりさせろ!」と言わんばかりの5G通信網からの中国通信機器大手ファーウェイ排除を求める強硬な対応を取り上げました。

一方の中国は、“一帯一路”を掲げて、欧州へのアプローチを着々と進めてきました。

****要警戒!世界を中国化する「一帯一路」の危ない誘い****
(中略)中国は一帯一路の足掛かりとして、2012年からスタートしている中国と中・東欧首脳によるサミット「16+1」をフォーマットとして、EUを分裂させるための「トロイの木馬」を仕込んだ、と批判されている。

たとえばギリシャのピレウス港の67%にのぼる株式の買収。ここは海のシルクロードの起点の1つである。

続いてハンガリー・セルビア高速鉄道の入札。バルカン半島という地政学的要衝地が大量輸送インフラでつながれることになった。

中国国家電網はギリシャ電網の株の24%を押さえており、ポルトガルでも電信、エネルギー、保険の4分の1を中国資本が押さえた。

中・東欧から南欧に、すでに中国の経済力を通して政治力が浸透し始めている。チャイナマネーになびいたギリシャやハンガリーは、EUが中国の南シナ海問題や人権問題について非難の声明を出そうとすることに反対して、中国を名指しした非難声明が見送られたこともあった。
 
べったりとした親中派であったドイツは、中国にハイテク産業ロボットメーカー「クーカ」を2016年に買収されて少し目が覚め、「中国がEU事務に干渉している」と何度も非難するようになった。

だが、華為科技(ファ―ウェイ)製品の全面締め出しには躊躇し、米国から「ファ―ウェイ製品を排除しなければ重要情報が共有できない」と圧力を受けているところだ。

EU本部は域外からの投資審査を強化する仕組みを2020年秋から導入するが、これは中国の戦略的重要領域への投資に対するコントロールを強化するためでもある。

だが、EU内部は再び中国の戦略に振り回され、その結束は乱れているのだ。ちなみにハンガリー・セルビア高速鉄道はその入札プロセスに疑義があるとして、着工が事実上の棚上げになっている。(後略)【3月14日 福島 香織氏 JB Press】
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【インフラ整備、貿易で中国へ期待するイタリア EUの足並みに乱れも】
こうした欧州をめぐって、アメリカと中国が競い合う微妙な時期に、欧州主要国の一つ、イタリアが「一帯一路」に関する覚書を締結すという形で、中国に接近する姿勢を見せています。

上記のように、中・東欧やギリシャなどへの影響力を強めている中国ですが、やはりイタリアという欧州主要国、かつG7メンバーとの関係を強化することは、大きな意味合いがあります。

ただ、周知のようにイタリアは、「同盟」と「五つ星」の連立による、いわゆる“ポピュリズム政権”にあって、EUとも距離を置き(イギリスの混迷も目にして、EUから“抜ける”とは言いませんが)独仏とは異なる主張が多く、今回の中国接近についても欧州の足並みを乱す「勝手な行動」的な批判もあるようです。

なお、これまで中国と覚書を交わしたEU加盟国はバルト三国、中東欧(ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、クロアチア、ブルガリア)、南欧(ギリシャ、マルタ、ポルトガル)の13か国で、イタリアが14番目になるようです。

****イタリア、一帯一路参画へ 中国マネーに期待 G7で初、対中でEU足並み乱れ****
中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」について、イタリアが主要7カ国(G7)では初めて関連文書に署名し、参画する。

インフラ整備にチャイナマネーを呼び込むとともに、対中貿易を通じた経済回復をめざす狙いがある。中国の影響力拡大を警戒する欧州連合(EU)の足並みが乱れている。
 
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は21~26日にイタリア、モナコ、フランスを訪問し、イタリアでマッタレッラ大統領やコンテ首相と会談する。滞在中に一帯一路の一環として、インフラ整備や銀行システム、通信技術などの協力に関する覚書に署名する予定だ。
 
コンテ氏は15日、覚書について「中国との関係を発展させる分野を確認するための合意で、拘束力のある国際的な協定ではない」と強調し、各加盟国に域内の通商ルール順守を求めるEUの懸念払拭(ふっしょく)に努めた。
 
イタリアは欧州第4位の経済大国。昨年6月に発足した政権は直後から、2四半期連続でマイナス成長となる景気低迷が続く。

政権の一角「五つ星運動」党首のディマイオ副首相は対中輸出を拡大させ、2017年度の対中貿易赤字150億ユーロ(約1兆9千億円)を減らすとともに、港湾などのインフラ整備に中国資本を呼び込むことも狙う。
 
イタリアは、米国が「安全保障上の懸念がある」として排除を呼びかける中国の華為技術(ファーウェイ)による次世代通信規格「5G」の導入にも前向きだ。同社はコンテ首相の地元プーリア州などを拠点に、研究開発を進めており、今回の覚書にも「通信技術分野での協力」が盛り込まれている。
 
一帯一路に代表される中国の経済戦略について、欧州委員会は今月12日に発表した行動計画案で中国を「競争相手」と位置づけ、警戒心をにじませる。EUは21~22日の首脳会議でも対中国戦略を議論する。
 
ただ、EU加盟国ではすでにギリシャやポルトガルなどが一帯一路の覚書に署名している。一方フランスは、欧州の市場が中国企業に無秩序に席巻されるのを防ぎたい考えで、「欧州で一致した対応が必要だ」(大統領府)と強調している。

今回の習氏の訪仏でも、「イタリアとは異なるアプローチをとる」(同)として中国とは一定の距離を保つ見通しだ。
 
■「欧州接近の好機」 中国
中国は一帯一路を通じて、貿易や対外投資を通じて世界経済を主導する戦略を描く。このため、今回、イタリアが一帯一路に加わるインパクトは大きい。

王毅(ワンイー)・国務委員兼外相は8日の会見で「習近平国家主席は今年最初の外遊先に欧州を選んだ。イタリアを含む欧州各国が積極的に一帯一路に加わることをもちろん歓迎する」と欧州側に秋波を送った。
 
中国は、「米国第一」を掲げるトランプ米大統領から関税見直しなどを迫られるなか、同じく米国の圧力を受ける欧州連合(EU)への接近を図っており、それが奏功した格好でもある。

李克強(リーコーチアン)首相は15日の会見で「中米貿易摩擦は二国間の問題であり、第三国を利用することも害することもない」とかわしたが、中国外交筋は「敵の敵は味方になり得る。欧州と接近する好機だ」と語る。【3月21日 朝日】
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中国はイタリアを突破口にして、更に欧州の奥深くに・・・といったところでしょう。

****イタリアとの関係を「新たな時代」に、中国主席が伊紙に寄稿****
中国の習近平国家主席は21日のイタリア訪問を控え同国の新聞に寄稿し、中国はイタリアとの「グローバル戦略パートナーシップ」を強化する用意があると表明した。

習主席はコリエレ・デラ・セラ紙への寄稿文で「私の訪問では、イタリアの首脳らとともに両国関係の指針を提示し、両国関係を新たな時代に進めたいと考えている」とした。

同主席は、気候変動といった国際問題を巡りイタリアとより密接に連携する用意があると表明。また、中国とイタリアは港湾や海運、通信、医薬品といった分野で協力プロジェクトを進め、第三国における両国企業の協力を後押しすることができるとした。【3月20日 ロイター】
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中国との関係を強化する・・・というのはひとつの選択であり、一概に否定されるべきものでもないでしょう。

ただ、イタリアの今回対応に批判があるのは、中国とどういう関係を持つにせよ、まずEU内部で統一的な対応を検討すべきないか、それを行わず、イタリア国内にも中国警戒論が強い状況で、軽々に中国に寄り添うのはいささか思慮に欠けるのではないか・・・というところです。

****中国に擦り寄るイタリアの日和見主義*****
世論と国益を考えない対中接近策の「甘さ」
 
中国にとって、3月22日からの習近平国家主席によるイタリア訪問は、自国の外交力と経済的影響力を測る上で重要な試金石だ。イタリアは中国の広域経済圏構想「一帯一路」への参加を決めたとも言われている。
 
イタリアが参加すれば主要7力国(G7)では初。アメリカはイタリアに、参加すれば国の評判が傷つくと警告している。
 
イタリアが最近見せている中国寄りの姿勢は、一帯一路構想と同じくらい移ろいやすい。イタリアのポピュリスト政権は中国にいい顔をしながらも、実際に中国とどのような関係を築きたいか決めかねている。
 
中国はイタリアに過去10年で約230億ドルの援助を行っている。イタリアが獲得している中国からの援助は、ヨーロッパ諸国で3番目に多い。中国国有の巨大化学メーカー、中国化工集団によるイタリアのタイヤメーカー、ピレリの買収は、中国企業によるEU加盟国企業の買収としては史上最大だった。
 
イタリアの歴代政権は、中国による国内企業の「爆買い」を必ずしも快く思っていなかった。だが現政権は、中国からの投資誘致に熱心だ。対中政策でも、中国に近づくことにリスクを重要視していない。
 
こうした路線転換を主導しているのが、中国で10年生活したことのある経済発展省のミケーレ・ジェラーチ次官だ。省内に中国タスクフォースを設置し、外務省を脇に置いて中国との関係強化に取り組む。
 
新たな対中政策の背後には、中国からの投資がイタリアの財政改革の助けになり、アフリカで中国と協力することによって地中海からの移民流人を減らせるという考え方がある。しかし専門家からは、非現実的な思惑だという批判が聞こえる。

しかも、ジェラーチの親中姿勢は世論を反映したとは言い難い。イタリア人の3分の2は中国に否定的な見方をしている。

優先順位を見極めるべき 
対中政策をめぐるイタリアの分断は、華為技術(ファーウェイーテクノロジーズ)の5G(第5世代移動通信システム)参入をめぐる議論にも見られる。

この問題についてジェラーチは、安全保障上のリスクはないと考えているようだ。だが連立与党の一角を成す極右政党「同盟」の一部議員は、EUの外資規制権限(黄金権限)を適用して、ファーウェイの参入決定を無効にするよう主張している。
 
一帯一路構想にイタリアの港を参加させる戦略についても、国内の意見は割れている。中国の目的と、イタリアが中国の世界進出を支援することで得る利益に関しても、懐疑的な見方が根強く残っている。
 
こうした現状は、政権が代われば一帯一路への参加もなくなる可能性を示している。(中略)

イタリアは中国を重視すべきではないと言っているのではない。ただ、優先順位が違うのだ。
 
長期的に見れば、他のヨーロッパ諸国との間でこれ以上溝が深まるのはイタリアにとって得策ではない。自国に利益をもたらす中国との連携を模索するなら、他のヨーロッパ諸国と団結して行うのが最善の方法だ。
 
欧州委員会が新しい報告書に書いているように、中国の影響力を調整しつつ双方に利益をもたらす関係を築いていくには、ヨーロッパが足並みをそろえる以外に方法はない。【3月26日号 Newsweek日本語版】
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【“足並み”云々には関心がないポピュリズム政権 極右「同盟」が「五つ星」を凌駕 フランス叩きを競演】
ただ、“ヨーロッパが足並みをそろえる”云々はEUの統一を重視する立場の見解であって、もともとEUに対し懐疑的なイタリア・ポピュリズム政権にとっては「何言ってんだか・・・」といったところでしょう。

イタリアのコンテ首相は1月25日、フランスとドイツが自国の国益を追求している一方で、口先だけは欧州寄りの表現をしていると非難、「両国はわれわれをだましている」との刺激的表現も。

また、最近のイタリアは“足並みをそろえる”どころか、隣国フランスにケンカを売りまくっており、フランス・マクロン大統領も相当に苛立っています。

国内的に受けがいい施策であれば、対外協調など考える必要もないというのが、ポピュリズム政権のポピュリズムたるゆえんです。

****イタリア・ポピュリズム2与党 フランスたたき「競演」 EU選挙前に支持率逆転で、せめぎ合い?****
イタリアのポピュリズム(大衆迎合主義)政権の2人の副首相が、フランスのマクロン政権への批判を連発し、両国関係が悪化している。「フランス叩き」の背景には、連立2党の支持率が逆転し、5月の欧州議会選を前にせめぎ合いが活発化していることがある。
 
イタリアのサルビーニ副首相兼内相は23日、国営ラジオでマクロン大統領について、「彼は支持率が低迷している。仏国民は別の選択をすべきだ」と発言した。

22日には、不法移民の流入はリビアの政情不安が一因だとしたうえで、「フランスは石油権益があるから、リビア安定化に無関心だ」となじった。
 
ディマイオ副首相兼経済発展・労働相も負けていない。「アフリカから移民が来るのは、フランスが植民地化したせいだ」と批判。仏外務省は駐仏イタリア大使を呼んで抗議した。
 
今月半ばの支持率調査で、サルビーニ氏の第2与党「同盟」は36%、ディマイオ氏の第1与党「五つ星運動」は25%。昨年3月の総選挙で五つ星は33%、同盟は17%を得票したが、サルビーニ氏が移民強硬策で支持を大きく広げた。

力関係が変化し、経済政策をめぐる立場の違いも出始めた。イタリアでは、同国の移民政策を批判するフランスへの反発が強く、2人の副首相はそれぞれ「フランス叩き」を支持拡大の材料に使っているとみられる。

欧州議会選でも双方はたもとを分かち、同盟は仏極右「国民連合」と連携。五つ星はフランスで反政府デモを続ける「黄色いベスト」運動に接近している。
 
マクロン氏は昨年、移民救助船の寄港を拒否したイタリア政府を「無責任」と批判。伊世論調査で、「欧州で最も敵対的な国」にフランスをあげた人は最多の38%にのぼり、3年前の約3倍に増えた。【1月28日 産経】
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****仏大統領、イタリアに関係改善訴え ナショナリズムの台頭警告***
マクロン仏大統領は、ナショナリズム台頭の危険性を警告した上で、フランスとイタリアは最近の外交上の対立を乗り越え、欧州のために協力する必要があると訴えた。イタリア公共放送のインタビューで述べた。

フランスとイタリアは伝統的に緊密な同盟国だが、イタリアのディマイオ、サルビーニ両副首相が移民問題などを巡ってマクロン大統領やフランス政府への批判を強めたことから、2018年半ばごろから関係が悪化。フランス政府は先月、駐イタリア大使を一時的に召還した。

マクロン大統領はインタビューで、両国は利害を共有していると強調。「誤解があった。最近の対立は深刻なものではなく、克服しなければならない」と語った。

マクロン大統領は、欧州連合(EU)加盟国はナショナリズムを廃し、アフリカからの大量移民や景気減速といった数多くの問題に協力して取り組むべきだと主張した。

大統領はまた、仏リヨンと伊トリノを結ぶ高速鉄道(TAV)の建設計画について、反対を取り下げるようイタリア政府に要請した。

TAVの建設計画は、ディマイオ氏率いるポピュリズム(大衆迎合主義)政党「五つ星運動」が環境への影響やコストなどを理由に反対している。【3月4日 ロイター】
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「同盟」と「五つ星」の力関係逆転については、“2月25日、イタリア西部サルデーニャ島で24日行われた首長選で「同盟」など右派連合が勝利した。中央政府レベルで同盟と連立政権を組む「五つ星運動」は惨敗となり、5月の欧州議会選挙に向け不安を残す結果となった。”【2月26日 ロイター】とも。

“伊世論調査で、「欧州で最も敵対的な国」にフランスをあげた人は最多の38%にのぼり、3年前の約3倍に増えた”という政治状況では、フランスとの協調やEU全体の統一的対応重視といった選択は出てこないでしょう。

イタリアが中国とどういう関係を持つかという話より、イタリアがEUに背を向け、フランス叩きに躍起になっているということの方が、今後に欧州・EUにとっては重要でしょう。

極右「同盟」が最大勢力となるイタリアは、どこへ向かうのか?

その他、最近のイタリアに関しては“伊元首相の淫行疑惑裁判で証言した女性、謎の死遂げる 毒殺の可能性”【3月17日 AFP】、“イタリアのバス放火事件 移民や難民の犠牲に反発か”【3月21日 NHK】といった興味深い話題もありますが、また別機会に。

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