孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  イスラム教の中国化でウイグル族の民族文化・社会の変革という「大事業」を進める

2019-03-23 22:43:54 | 中国

(ウルムチのバザールでウイグルの伝統的踊りを披露する女性。市当局による観光振興策の一環だ【3月22日 WSJ】)

【漢民族の視点にたった中華思想的歴史認識】
28年ほど以前、中国新疆ウイグル自治区のウルムチを旅行した際、新疆ウイグル自治区博物館に展示された「歴史認識」が非常に印象に残りました。

中国語なので細かいことはわかりませんでしたが、漢民族の勢力が西域に及んだ漢や唐の時代について、中国王朝の権威のもとに各民族が協調し、偉大な社会が作られた・・・・との認識です。いわゆる中華思想です。

しかし、それはあくまでも漢民族からの視点であり、新疆やチベット、モンゴル、朝鮮、ベトナムそして日本など周辺地域の民族にすれば、漢や唐の時代のような中国に強い権力が生まれると、漢民族によって圧迫あるいは征服されるという認識になります。

博物館に展示された漢民族的歴史認識をウイグルの人々はどのような思いで見ているのだろうか・・・・と、印象深かった次第です。

【アメリカの人権批判に中国反発 ただ、収容について「徐々に縮小」との見通しも】
その後、2007年には大規模な衝突があり、近年では中国当局による徹底した管理・弾圧が行われていることは周知のところです。

貿易・知的財産権や5G通信網などの最先端技術をめぐって中国と覇権を争う姿勢を強めているアメリカにとっては、中国の人権問題、特に約100万人が収容施設に入れられているとも言われている、イスラム教ウイグル族等に対する「弾圧」は格好の“攻めどころ”になっています。

****米の人権報告書に中国が強く反発「偏見」****
アメリカが中国の人権状況についてウイグル族らイスラム教徒が大量拘束され思想教育を受けているなどと批判したことを受けて、中国外務省の報道官は、14日の会見で、「偏見に満ちている」と非難した。

さらに、「中国政府は人権を重視し、保護している」「中国の内政に干渉することはやめるべきだ」などと強く反発し、アメリカ側に抗議したという。【3月14日 日テレNEWS24】
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****新疆で「テロリスト」1.3万人逮捕 中国政府、批判に反論****
(中略)人権団体によると、新疆ウイグル自治区ではウイグル人などのイスラム教徒を中心とした少数派民族約100万人が収容施設に入れられており、中国政府は同自治区での政策をめぐり国際的な非難を浴びている。
 
中国の内閣に相当する国務院は、こうした非難に反論する白書を発表し、「テロリズムや過激主義を支援するいかなる行動に対しても、法律にのっとり厳しく取り締まる」と説明。新疆は昔から中国領土であるものの、「テロリストと過激派の勢力」が同地域の歴史を「歪曲」することで分離独立運動を扇動していると主張した。
 
また、「新疆は2014年以降、1588の暴力テロリスト集団を破壊し、テロリスト1万2995人を逮捕、爆発装置2025個を押収、4858の違法な宗教活動で3万645人を処罰し、違法宗教資料34万5229点を押収した」と記し、「新疆でのテロ対策と脱過激化闘争は、常に法の支配の下に行われてきた」と主張した。 【3月19日 AFP】
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全国人民代表大会においても、「『政治的再教育キャンプ』などではない。信仰の自由は守られ、人権侵害もない」との反論や、今後ともテロ対策として厳しく取り締まるとの姿勢を崩していません。

****ウイグル自治政府、収容施設「再教育キャンプでない」 秩序維持と正当化****
北京で開かれている全国人民代表大会(全人代=国会)は12日、新疆ウイグル自治区の地方分科会をメディアに公開した。欧米が批判するウイグル族の「収容施設」問題について、自治区政府幹部が「『政治的再教育キャンプ』などではない。信仰の自由は守られ、人権侵害もない」と反論し、テロ対策などの社会秩序の維持を理由に設置を正当化した。(中略)
 
一方、中国最高人民検察院(最高検)の張軍検察長は12日の活動報告で「テロや民族の分裂、極端な宗教活動を断固として許さない」として少数民族に対する取り締まりを徹底する考えを表明。

張氏は「新疆における反テロ、社会安定の任務は重く多岐にわたる」と特に指摘し、昨年は検察官を手厚く配備して法執行を徹底したことを明らかにした。
 
今年は2009年7月に自治区の中心都市ウルムチで197人(当局発表)が死亡した大規模騒乱から10年を迎え、治安当局は神経をとがらせている模様だ。【3月12日 毎日】
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単にテロ防止というだけでなく、イスラムの「中国化」を進めるという形で、宗教に根差した民族文化を根底から変える施策がとられています。

****イスラムの「中国化」推進=貧困対策と正当化―中国全人代****
中国・北京で開催中の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、習近平指導部は「宗教の中国化」を掲げ、イスラム教徒のトルコ系少数民族、ウイグル族に対する統制を強める方針を訴えている。

ウイグル族に対する人権侵害に国際社会の批判が広がっているが、共産党政権は「貧困対策」「テロ防止」が目的だと主張している。
 
新疆ウイグル自治区のショハラト・ザキル主席は12日に開かれた全人代分科会で「新疆では2年間、テロが起きていない。習近平国家主席の指導に従った結果だ」と述べ、習氏を称賛した。

共産党政権はウイグル族の抵抗を警戒し、厳しい監視体制で統制を強化している。同主席は「テロの動きは今も活発だ。一刻たりとも反テロ活動を緩めることはできない」と語った。【3月12日 毎日】 
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もっとも、中国も高まる国際批判を多少は気にしている面もあるようです。

****ウイグル族収容「徐々に縮小」 中国次官、国連人権理で演説*****
中国の楽玉成外務次官は15日、国連人権理事会の会合で演説し、新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル族らの収容施設について「暴力テロ防止のための再教育が目的だ。教育が終われば規模を徐々に縮小していく」と述べた上で、将来的な閉鎖もあり得ると説明した。
 
国際社会の批判を交わす狙いとみられるが、自治区ではウイグル族抑圧への不満が強く、中国当局が実際に施設の縮小に乗り出すか不透明だ。
 
楽氏は施設について「収容キャンプではなく寄宿舎やキャンパスのようなものだ」と強調。「再教育」の効果により「過去27カ月間、自治区で暴力テロが起きていない」と訴えた。【3月16日 共同】
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【現実に進むイスラムの中国化】
「収容キャンプ」「再教育施設」の実態は、2月15日ブログ“中国のウイグル族等への民族弾圧 「再教育収容施設」の実態 トルコの批判に映像公開、新たな運動も”でも取り上げました。

「イスラムの中国化なんて、民族文化を変えてしまうことができるのだろうか?」と日本的常識では考えますが、常識では考えられないような万里の長城といったものを築いた国であり、また共産党一党支配の国でもありますから、やるとなったら徹底してやるのが中国です。

そこが、中国の怖いところでもあります。

****中国のウイグル族拘束、次はイスラム社会の破壊へ****
中国西部のシルクロード沿いにある古いこの町では、膨大な人数の拘束を含む治安維持キャンペーンが次の段階へと移行していた。それは、(ウイグル族の)地域社会の破壊と文化の一掃だ。

中国のウイグル族拘束、次はイスラム社会の破壊へ
ウルムチでイスラム教徒主体のウイグル系住民に対する当局の一斉拘束が開始されてから2年が経ち、ウイグル族の生活とアイデンティティーの根幹部分はその多くが根絶やしにされた。

がらんどうのモスクは残っているが、その周囲にあった貧しい家々は、中国各地でよく見られるような、ガラス張りのビルと商店街に変わった。

ウイグル族の社会にとって、ナンと呼ばれる丸く平たいパンは、フランス人にとってのバゲットのようなものだったが、焼きたてのナンを売る屋台は姿を消した。かつてナンを焼いていた若い男たちの姿も、ナンを買う人々の姿も見られなくなった。

新疆ウイグル自治区の首府であるウルムチ市は、長らく世界のウイグル人社会の中心だったが、ウルムチの書店にウイグル語の書籍は見当たらない。

古くからウルムチの広範な地域を特徴付けてきたチュルク語文化は、中国人観光客向けに整えられた別バージョンに取って代わられた。(中略)

こうしたウルムチの変革は、中国共産党によるウイグル族同化政策の最新の側面だ。中国政府は、拘束措置はテロリズムに対処するものであり、取り壊しはこの地域への何十億ドルもの投資と相まって、発展をもたらしていると主張する。(中略)

専門家らによれば、共産党の目標は、以前から反抗的だった新疆ウイグル自治区を思い通りのイメージに作り変えることで支配を強化し、同自治区を世界規模の開発を行うとする習近平国家主席の野望の拠点の一つにすることだ。

ウルムチの都市再開発計画が2017年に発表された際、共産党系の新疆日報は、中国政府としては、移転を強いられた住民に対して補償を行い、「全ての民族グループの習慣と利便性に全面的に配慮して設計された」新たな居住区を設ける計画だと伝えた。ウルムチ市と新疆ウイグル自治区の政府は、この都市再開発計画について、コメント要請に応じていない。
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中国共産党は、新疆ウイグル自治区の1400万人のチュルキ語系イスラム教徒(その大半はウイグル族)の中には暴力的で過激な傾向を持つ者がいると主張し、これに対処するための強力な対策を進めてきた。

国連の専門家らによれば、この「過激化阻止」目標達成のため、中国当局は、100万人ものイスラム教徒を抑留施設に収容し、他の多くの人々を電子機器による監視下に置いた。

中国の指導者らは、これら収容施設について、職業訓練センターだと説明し、世界的なテロとの戦いの新戦略として宣伝している。また、100万人という人数についても反論している。

ウルムチ在住で、国有資源会社に勤務するあるウイグル族の男性は「われわれはもはや、文化を持つことはできない」と語った。彼は、当局者が家にやってきて、コーランを没収した後、地域のモスクに行かなくなったという。「だれも(モスクに)行かない。危険すぎるからだ」

米ワシントン大学でウイグル族の移動状況について研究しているダレン・バイラー氏は、政府がウイグル族の独自性を示すものを制限したり、それを文化的に低俗なものとして扱ったりすることで、民族のつながりを弱めようとしていると指摘する。(中略)
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ウルムチにはおよそ250年の歴史があるが、その大半には軍が駐留しており、住民の多くは同国で多数派の漢族だ。過去10年間の市の人口でウイグル族が占めた率は13%前後だ。

しかし、2017年の1年間で、ウルムチの公式な人口は前年の260万人から220万人へと15%減り、30年以上で初の減少に転じた。

住民によると、市の警察はその年の5月にウイグル族を一斉に検挙し、収容所へ送還し始めた。住民によると、同じ頃にウルムチの当局は新疆の他地域から同市に移住して来た人々を強制的に故郷に送り返したという。ウルムチ市はその後、新たな民族別の人口構成を明らかにしていない。

ウイグル族が市から強制的に追放されるなか、政府の資金が流入した。中国政府はウルムチに「一帯一路」構想のハブとしての役割を担ってほしいと考えている。

ウルムチ市は昨年、60億ドル(約6700億円)の空港拡張計画を承認したほか、市郊外で40億ドルの建設プロジェクトに着手した。この中には一帯一路の工業団地も含まれる。

公式なデータによると、2017年のインフラ、工場やその他の固定資産への総投資額は2020億元(約3兆3200億円)と、前年から25%増加した。18年1~10月の総投資額はさらに9%増加した。

ウルムチ市は昨年、市内の貧民街の取り壊しと再建のために700億元の資金を割り当てた。貧民街には新疆南部から移住してきたウイグル族が多数住んでいる。

当局は若い移住者、つまり、ナンを焼いているような人たちが暴力をそそのかしており、急進派が取り込もうとする格好のターゲットになっているとみている。

取り壊された貧民街の一つが、黒家山地区だ。かつては市場と2つのモスク(イスラム教礼拝堂)の周りに低層の簡易な小屋が無秩序に建てられていた。前出のワシントン大学のバイラー氏によると、2017年から18年にかけて取り壊されるまで、この地区は移住してきたウイグル族の生活の中心となっていた。

同氏によると、「金曜日には5000人から1万人の人々が礼拝に来ていた」という。

ウォール・ストリートジャーナル(WSJ)の記者が最近行った現地取材では、モスクは高層アパートの影になりながらも依然として存在していたが、閉鎖されているようだった。こうしたモスクを撮影しようとしたところ、記者らは拘束され、近くの警察署に連行された。

警察での尋問の際、シン(Xing)と名乗る地区宣伝担当当局者は、政府がモスクを破壊しないよう注意を払ってきたとし、「このことは政府がイスラム教を尊重していることを示すものだ」と強調した。

中国国営メディアによれば、ウルムチには2015年の時点で400以上のモスクが存在した。過去数年間に閉鎖されたり、他の目的に転用されたりしたモスクは数カ所だが、現在でも使用されているモスクの周りには有刺鉄線と監視カメラが設置され、わずかに年配の礼拝者が訪れるだけだ。(中略)

新疆ウイグル自治区の当局者らはまた、観光産業の推進を目指しており、投資が拡大すれば、過激思想を助長していると彼らが主張する貧困の根絶に貢献すると考えている。(中略)

観光に力を入れていることは、かつてのウイグルの商業的中心地にあった二道橋バザールの変化にも見ることができる。

この周辺は2009年の大規模暴動の際、最も深刻な暴力事件の起きた場所だった。2017年11月にWSJの記者が中国政府によるウイグル族監視の状態を記録するために訪れた際、二道橋地区は活気にあふれていた。

それから1年後、その場所はまるでテーマパークのように変わっていた。

かつては車と歩行者、警察の駐在所で混み合っていた通りは、通行をチェックする大きなセキュリティーゲートのある2本の遊歩道になった。

バザールの中心部では以前、ウイグル語で話す商人たちの声が聞こえていたが、現在では中国語と英語の元気のよいあいさつがスピーカーから流れている。

「観光客の皆さん、こんにちは!」。録音メッセージは観光客に「シルクロードの商業拠点の素晴らしい復活」を楽しんでくださいと語りかけている。【3月22日 WSJ】
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【生命的に抹殺するよりは“穏便”?】
敢えて中国のやり方を弁護するなら、異民族に対する人権が尊重されるようになったのは歴史的・世界的にみて、近年の欧米など一部地域に限った話です。

古今東西の権力は、異民族を抹殺することに躊躇しませんでした。
ユダヤ人を抹殺しようとしたナチスもそうですし、今でもアフリカなどでは民族・部族間の殺し合いは日常的なことです。

そうした権力の本質からみたら、100万人を抹殺するわけではなく、再教育施設にいれるという文化的抹殺にとどめる“穏便な”方策を取っている中国は、まだ穏健な方なのかも。
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