(【3月20日 MAG2 NEWS】)
【圧力を強めるアメリカ ドイツがファーウェイ採用すれば、米軍はドイツ軍との通信を断つ】
アメリカ・トランプ大統領と欧州の関係がNATOの費用負担などをめぐってギクシャクしており、とりわけ難民対応などをめぐってドイツ・メルケル首相とは全くウマが合わないことは周知のところです。
一方、アメリカは中国との覇権争いに傾注しており、その象徴として5G通信網からの中国通信機器大手ファーウェイの排除を各国に求めています。(日本も欧州と同様な立場にありますが、アメリカの主張に沿う形を明らかにしています。)
上記のような情勢にあることは承知の上でも、下記のようなアメリカ側の強硬な姿勢にはやや驚きも感じます。
****ファーウェイ採用すればドイツ軍との通信を断つ、米欧州軍司令官****
中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)をめぐり、米国が欧州諸国に対して、同社を第5世代移動通信網構築への参入から排除するよう圧力を強めている。
米欧州軍のカーティス・スカパロッティ司令官は13日、ドイツがファーウェイの技術を採用した場合には、ドイツ軍との通信を断つ方針を示した。
米国と欧州の同盟国は、中国政府と緊密な関係にあるファーウェイは安全保障上のリスクをもたらすと懸念し、5G通信網構築の入札からファーウェイを排除してきた。
北大西洋条約機構軍最高司令官を兼務するスカパロッティ氏は13日の米下院軍事委員会で、ドイツを念頭に置いた欧州との貿易交渉に関する質問を受け、「特に5Gについて、周波数帯域幅の情報処理能力や性能は途方もないという点で、電気通信の根幹に関わる」と懸念を示し、防衛通信網内にそうした危険が存在する国とは通信しない考えだと述べた。
ファーウェイの5G技術は、スウェーデンの通信機器大手エリクソンやフィンランドの通信機器大手ノキアといった競合他社をはるかにしのぐと高い評判を得ており、早急に5G通信網を展開したい通信事業者にとっては魅力的な選択肢となっている。 【3月14日 AFP】
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【技術面で中国の台頭を座視できないアメリカの焦りも】
アメリカの強硬姿勢の背景には、ドイツがファーウェイ製品の排除を強行しない方向で調整を進めていることへの強い苛立ちがあります。
更に言えば、基本的には、アメリカの強硬姿勢は、中国が技術面でアメリカを凌駕する場面も出てきている(その代表がファーウェイであるわけですが)ことへの焦りと裏腹の関係にあります。
****2018年国際特許出願、アジアが急増 企業別はファーウェイが最多****
国際連合の世界知的所有権機関は19日、国際特許出願の内訳に関する年次報告を発表し、2018年の出願の過半数をアジア諸国が占めたと明らかにした。WIPOは、この結果により、技術革新が「西から東へ」とシフトしていることが一層明確になったとしている。
報告によると、2018年の国別の出願件数は依然として米国が一番多いものの、地域別ではアジアからの出願が引き続き急増している。
WIPOの国際特許登録制度は複雑で複数のカテゴリーがあるが、主要カテゴリーである特許協力条約に基づく国際出願の件数は、1位が米国(5万6142件)、2位が中国(5万3345件)、3位が日本(4万9702件)だった。また、インドの出願は2017年の1583件から2013件へと27%増加し、トップの伸び率を記録した。
企業別では、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が5405件を出願し、一企業としての最多記録を更新した。 【3月19日 AFP】AFPBB News
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****中国がAI分野で間もなく米国を越える、米シンクタンク****
米アレン人工知能研究所は13日、AI(人工知能)に関して中国の学術論文が急増しており、米国は間もなくAI分野で中国に追い抜かれるとの分析結果を公表した。
同研究所の分析によると、AI関連論文の発表数で、既に中国は米国を上回っているが、多くは質の面で中レベルか低レベルのもの。それでも、最も引用された回数の論文ランキングで、中国は2019年中に上位50%、来年は上位10%で、2025年までに上位1%に入る見通しで、米国を上回るという。
分析結果は、自動運転車、仮想現実、第5世代移動通信網などの主要技術分野で中国に先を行かれているとの米政府やIT業界の懸念を浮き彫りにした。(後略)【3月14日 AFP】
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【ドイツ 対米関係を基軸に据えていると強調するも、ファーウェイ問題の議論は続く】
欧州各国としては、技術的に優れたファーウェイを使って早期に将来社会の基幹となる5G通信網を立ち上げるか、それとも時間的・技術的に劣後することを覚悟したうえでアメリカの強面の要求に従うかの選択を迫られています。
さすがに、ここまで言われるとドイツとしてもアメリカの要求(恫喝?)を重視せざるを得ません。
****ドイツ政府、米との協力重視 ファーウェイ製品排除問題で****
ドイツ政府報道官は15日までに、同国の第5世代(5G)移動通信システム整備で中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)製品を採用すれば機密情報の共有を制限すると米国が警告したことに関連し、米独情報機関の協力は「非常に重要だ」と述べた。対米関係を基軸に据えていると強調した形だ。(後略)【3月15日 共同】
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ただ、実際にファーウェイ製品を5G通信網から排除するのかどうかは“議論続く”ということで、定かではありません。
****ドイツ、5G周波数割り当ての入札開始 ファーウェイ問題で議論続く****
中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)をめぐる安全保障上の懸念について米・欧州間で議論が過熱する中、ドイツで19日、第5世代(5G)移動通信網構築用の周波数割り当ての入札が始まった。
米国は、中国製品が欧米の企業や政府への中国政府によるスパイ活動に利用されている恐れがあると主張し、ドイツにはファーウェイ製品を排除しなければ機密情報の共有をやめると圧力をかけている。
ドイツ連邦ネットワーク庁のヨッヘン・ホーマン長官は外国企業の参入について、「スウェーデンであろうと中国であろうと企業は認可条件を満たし、安全性の審査に通らなければならない」と述べるなど、騒ぎの火消しに躍起だ。
ワイヤレス通信のダウンロード速度で世界46位にとどまる欧州最大の経済国ドイツは、5Gへの移行によりデジタル分野での大幅な遅れを取り戻したいと考えており、入札で周波数を勝ち取った企業は98%の世帯や国内の高速道路、鉄道線路に回線を行き渡らせる必要がある。
周波数割り当ての入札に参加するのはドイツテレコム、ボーダフォン、テレフォニカ・ドイツ、ユナイテッド・インターネットの4社。
ファーウェイは入札には参加していないものの、入札参加4社にアンテナやルーターなどの重要機器を提供している。【3月19日 AFP】
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【ロシアとの関係を強めるパイプライン「ノルド・ストリーム2」計画へのアメリカの反対】
一方で、ドイツはロシアとの関係でも、ロシアからバルト海経由で天然ガスを直接ドイツに送るパイプライン「ノルド・ストリーム2」計画をめぐって、“米国は、ノルド・ストリーム2に関わる企業への制裁をも示唆して、プロジェクトの中止を強硬に迫ってきた”という、アメリカ・トランプ政権との対立があります。
この問題は、アメリカとの関係だけでなく、欧州内でも利害の対立があり微妙な問題となっています。(工事の方は着々と進行していますが)
****ノルド・ストリーム2をめぐる深刻な対立と混乱*****
ロシアからバルト海経由で天然ガスを直接ドイツに送るパイプライン「ノルド・ストリーム2」計画は、欧州のロシアに対するエネルギー依存を高め、ロシアの欧州に対する政治的影響を強める結果になるとして、米国はこれに強く反対しており、EU内でも懸念が高まっている。
欧州議会は、計画について「欧州のエネルギー安全保障の脅威となる政治的プロジェクトである」と非難する決議を採択した。
これに対し、ドイツは、同計画を推進する強い立場を一貫して維持している。こうした中、2月13日EUは、「ガス指令」を改正し域外の第三国と加盟国とを結ぶパイプラインにも適用できるようにする案に、暫定的に合意した。
事態が大きく動いたのは、2月7日である。フランス外務省は突如として、2017年11月に欧州委員会が提案したガス指令の改正に賛成すると表明したのである。
この指令はEUと域外を繋ぐパイプラインにも第三者アクセス、料金、パイプラインの所有とガス供給の分離、透明性に係わる原則を適用しようとするものである。
ドイツは、プロジェクトを頓挫させるかも知れないこの改正に反対で、EU内で必要な数の反対票を確保すべく強烈なロビー活動を行って来たとされる。
ドイツの側に立つ加盟国はオランダ、ベルギー、オーストリアなどプロジェクトの恩恵を得る国のようであるが、フランスが改正に賛成するとなると、必要な数の反対票が集まらないことになる。
ところが、翌2月8日、これまた突然、フランスとドイツの妥協が成立した。その内容は、ガス指令の適用に当たっては、域外からのパイプラインが到達する地点のEUの国(ノルド・ストリーム2の場合はドイツ)が欧州委員会の監視の下において、このルールとその例外の適用に責任を持つ、ということのようである。
つまり、ノルド・ストリーム2をガス指令との関係でどのように扱うかについてドイツが裁量権(どの程度の裁量権は良く判らない)を持つということである。
今後、ガスプロムがノルド・ストリーム2の所有の形態を手直しすることを強いられたりすることがあるかは不明であるが、プロジェクトが大きく遅れたり頓挫することはないであろう。
ガス指令の改正は今後理事会と欧州議会の承認を要するが、改正が成立しないことがあるとしても、ドイツにとっては、むしろ、それに越したことはない。
フィナンシャル・タイムズ紙の2月14日付け社説‘Nord Stream 2 marks a failure for EU energy policy’は、「フランスとドイツの妥協に基づく今回の合意はEUのエネルギー政策の挫折」として強く非難している。
ノルド・ストリーム2を有害無益のプロジェクトと見る立場からはそういう結論になるであろう。その立場は解るが、ドイツの意向を無視してもプロジェクトを潰せた筈だとまで言うのは無理があると思われる。
米国は、ノルド・ストリーム2に関わる企業への制裁をも示唆して、プロジェクトの中止を強硬に迫ってきた。
欧州委員会は、今回のガス指令の改正によって米国が制裁を不要と考えるよう期待しているとの報道があるが、ガス指令の改正が計画を止めるに至ると考えられない以上、そのように期待する根拠はないように思われる。
ポンペオ米国務長官は2月12日、ワルシャワの記者会見で米国による制裁の可能性について問われて、「エネルギーに関しては欧州の安全保障を確保するため米国はその権限で出来ることをやるつもりだ」と述べている。
米独間の対立はますます深まっている。2月15-17日に開催されたミュンヘン安全保障会議では、ペンス副大統領は「東側に依存することで西側諸国を強化することはできない」「計画に反対している国々を称賛する。他の国にも同じ行動を要求する」などと述べ、メルケル首相は「ロシアがエネルギー供給国として信頼性を欠くと決めつけるのは妥当でない」などと述べた。
他方、ノルド・ストリーム2をめぐっては、独仏間の複雑な関係にも焦点が当たる結果となった。
2月7日、米国のグレネル駐独大使、サンズ駐デンマーク大使、ソンドランド駐EU大使が連名で、ノルド・ストリーム2計画に反対し中止を求める論説をドイツの公共放送Deutsche Welleのウェブサイトに寄稿したが、その直後というタイミングでフランスがガス指令改正への賛成を表明したことは、ドイツに衝撃を与えた。
妥協が成立し、ひとまず独仏関係の危機は回避されたが、1月22日に協力推進を謳った「アーヘン条約」を締結したばかりの両国関係がぎくしゃくしたものであることが露呈した。
対ロシアをめぐり結束を強めるべきNATOとEUであるが、ノルド・ストリーム2の問題一つだけとってみても、いくつもの深刻な対立と混乱を孕んでいることが分かる。【3月1日 WEDGE】
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ノルド・ストリーム2が稼働すれば(1本目のノルド・ストリームはすでに稼働中)、欧州の天然ガス対露依存度が高くなること、およびロシアからウクライナ経由欧州向けトランジット輸送がなくなり、ウクライナ経済が疲弊するという理由で、アメリカおよびウクライナは強く反対しています。
この問題に深入りすると長くなりますが、“欧州の天然ガス対露依存度が高くなる”ということの意味合いだけ少し。
常識的な「ロシアはガスを政治利用する」という議論に対し、以下のような反論もあります。
****「新パイプラインはロシアの罠」は真っ赤な嘘!****
英エコノミスト誌の「作文」を鵜呑みにした日本の新聞
(中略)確かに、ロシアはウクライナ向け天然ガス供給を過去3回止めました(2006年、2009年、2014年)。
しかしそれはあくまで経済問題であり、政治問題ではありません。商品代を払わない買い手に、商品供給を続ける売り手はいません。(中略)
「アラブの春」で北アフリカから地中海縦断海底P/Lが止まり、天然ガス不足となり困ったのが南欧です。
この時、追加供給して欧州の不足分を補填したのが露ガスプロムですが、別に経済支援したわけではありません。
ビジネスとしてガス供給を増やしただけですが、結果として双方の利益になりました。(中略)
ロシアの天然ガス輸出は商業契約です。契約に従い量も価格も規定されており、過去50年間、供給が政治的理由で途絶えたことはありません。
ロシアにとり石油(原油と石油製品)と天然ガスは主要な外貨獲得源ですから、自らバルブを閉めることは自分で自分の首を絞めることと同義語です。【3月7日 杉浦 敏広氏 JB Press】
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【アメリカの強い姿勢の背景に、ドイツのファーウェイ対応で欧州全体の対応も決まることが】
話をドイツに戻すと、ファーウェイをめぐるアメリカの強圧的とも言える姿勢は、ドイツ、ひいては欧州に踏み絵を迫った形にもなっています。
****中国につくか、米を選ぶか。ドイツの選択が決める世界覇権の行方****
(中略)
ドイツとアメリカの軋轢
ドイツといえば、世界第4位の経済大国。しかし、エマニュエル・トッドさんのように「EUは、事実上のドイツ帝国だ!」という人もいる。つまり、ドイツは、EUを支配していると。そうなると、ドイツは、「巨大な力」をもっていることになります。
GDPでみると、アメリカは世界GDPの約24%、EUは約22%、中国は15%、日本は6%。というわけで、ドイツ(=EU?)は、世界で2番目のパワーをもっていることになる。
そんなドイツは、アメリカと問題が多いのです。まず、トランプさんは、メルケルさんが大嫌い。はじめて会ったとき、握手も拒否したぐらい嫌い。
そして、政策面でもたくさん軋轢があります。たとえば、ドイツは、イラン核合意支持。アメリカは、離脱した。ドイツは、パリ協定支持。アメリカは、離脱した。
トランプさんは、「NATO加盟国は、もっと軍事費増やせ!」と要求している。ドイツの軍事費は、GDP比で1.2%しかなく、トランプさんは「少なすぎだ!」と怒っている。
トランプさんは、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」プロジェクトに反対している。アメリカは、「欧州のロシア依存が高くなりすぎる」と主張している。しかし、ドイツは、「ただアメリカ産の液化天然ガスを売りたいだけなんじゃないの?」と反発している(もちろん、アメリカ産ガスの方が高い)。
というわけで、アメリカとドイツ間の問題は多い。そうなると、ドイツは、当然ロシアとか中国の方にむかってしまう。そんな状況になっているわけです。
ドイツの決定は重要
ちなみにドイツがファーウェイを採用するかどうかは、とても重要です。なぜか?「EU=ドイツ帝国」でしょう?実際そうかどうかは別として、「ドイツは、EU内で最強」というのは間違いない。
つまり、「ドイツがファーウェイをやめれば、他のEU諸国もやめる」可能性がグンと高まる。逆に「ドイツがファーウェイを採用すれば、他のEU諸国も採用する」可能性が高まる。
そして、EUは世界GDPの22%を占めている。ここを中国が取るのか、それとも失うかは、米中覇権戦争の行方にも、大きな影響を与えることでしょう。【3月20日 北野幸伯氏 MAG2 NEWS】
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“ドイツの選択が決める世界覇権の行方”という見出しは、いささか誇張がありますが、アメリカが中国やロシアとの関係も独自のスタンスで重視するドイツに苛立ちを示し、“忠実なパートナー”となることを要求しているのは事実でしょう。
そういう二者択一的な構図は覇権を争うアメリカの視点であり、国際社会の本来の在り方とはまた別物です。
欧州にしても、日本にしても、「どっちをとるのか」と迫られれば、現段階ではアメリカを選択するでしょうが、アメリカには、腕力ではなく理念・価値観で躊躇なく寄り添える国であって欲しいものです。
本当は、この中国をめぐるドイツとアメリカの確執の話は前置きで、そういう中でイタリアが中国と「一帯一路」を・・・という話をするつもりだったのですが、長くなったのでまた別機会に。