孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

地球温暖化の進行を止められる新技術となるか? 大気中のCO2除去技術

2019-03-05 16:07:04 | 環境

(二酸化炭素を吸収する未来の設備の想像図【2018年06月8日 BBC】)

【経済活動を抑制する排出削減 まとまらない具体策】
アメリカのトランプ大統領など一部の人々を除けば、地球温暖化阻止の取り組みが今後の人類社会にとって非常に重要であるということが、ほぼ共通の認識になってきています。

そのために、「パリ協定」が合意され、国連気候変動枠組み条約締約国会議で議論が続けられていますが、その進捗は問題の切実さに比べて非常に遅いように思われます。

その原因は、具体策に関しての国際的合意が非常に困難なためですが、その困難さは、CO2排出を制限することは、現在の技術環境下では経済活動に抑制的に作用するという現実によるものです。

より効果的な具体策を求める欧州などは、途上国にも先進国と同等、あるいはそれに近い厳しい制限の実施を求めていますが、途上国側からすれば、「現在の問題は経済活動を主導してきた先進国が好き放題にCO2をまき散らした結果であり、これから経済活動水準を上げていかねばならい我々途上国に、その“つけ”を回すのはおかしい。先進国が大きな責任を負うべきであり、途上国を同列に扱うのは間違っている。」という主張にもなります。

途上国側の主張も“もっとも”です。ただ、大量排出国の中国やインドまでも“途上国”ということで厳しい制約を逃れては、有効な対応はできません。

毎年繰り返される議論で、明快な答えはみつかっていません。
アメリカ・トランプ政権が「パリ合意」から離脱する理由も、そもそもの「温暖化」への疑念や石炭産業保護に加え、温暖化効果ガス排出制限がもたらす経済活動への悪影響があります。

【C02除去技術で地球環境を改善できる日も近い?】
経済活動を抑制することなくCO2を抑制・削減できたら、この種の議論による「停滞」を打ち破ることも可能になります。

例えば、大気中のCO2を吸収・回収することはできないのか?
そんな都合のいい技術は・・・ないことはないようです。

****ベンチャーが挑む「フェーズ2」の新技術****
CO2の排出量を抑えるだけでは、予測を超える気候変動のスピ-ドに追いつけない。大気中のC02を科学の力で取り除けないか。従来の気候変動対策を「フェーズ1」とすれば、「フェーズ2」に相当する新たな試みが始まっている。
 
最先端を走るのがスイスのスタートアップ「クライムワークス」だ。チューリヒ近郊では、同社が世界で初めて開発・製造に成功した商業用C02回収プラントが、すでに稼働を始めている。
 
田園地帯にあるゴミ焼却施設の屋上に、エアコンの室外機のような装置が据えつけられていた。

18機のファンが吸い込んだ空気を約100度に加熱し、特殊なフィルターでC02を吸着させる。1年で回収できるC02は約900トンで、1機が数千本の樹木に相当。回収したC02は約400メートル先にある畑の温室にパイプで送り、作物の光合成を活発化させる「肥料」になる。

広報部長のルイーズ・チャールズは「2025年には地球全体で排出されるC02総量の1%を回収したい」と意気込む。

1トンの回収に600ドルかかる高コストが課題だが、コカ・コーラの発売する炭酸水「VALSER」に回収したC02が使われるなど、付加価値を高める試みも始まっている。
 
大規模プラントを試験運用するカナダの「カーボンエンジニアリング」、安全性の高い技術で注目を集めるオランダの「アンテシー」など、世界のスタートアップも次々とC02除去に名乗りを上げる。

きっかけは2016年に温暖化防止の国際ルール「パリ協定」が発効したことだ。「産業革命以降の気温上昇を2度未満に抑える」などの厳しい目標を前に、見込みのある技術は何でも試す機運が広がった。EUの長期戦略では、除去技術を使うことがすでに前提となっている。
 
C02除去技術の発展を支援する米国のNGO「カーボン180]代表、ノア・ダイヒは言う。「30年前は太陽光発電も非常に高コストだったが、技術の進歩でコストが下がり、それが投資を呼び込み、さらなる技術の発展を促すというサイクルで、100分の1にまで下がった。この好循環が起これば、C02除去技術で地球環境を改善できる日も近い」(後略)【3月3日 CLOBE+】  
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【大気中のC02から液体燃料をつくることでカーボンニュートラルを実現】
“1トンの回収に600ドルかかる高コスト”では、まだまだ実用化は先のように思われますが、上記記事にも名前がでてくるカナダの「カーボンエンジニアリング」などは100ドルを切る水準にコストを下げられるとしています。

カナダ「カーボンエンジニアリング」の特徴は低コスト実現のほか、画期的新技術ではなく既存の技術・施設を利用する仕組みとなっていること、回収したCO2を液体燃料に変えることで、プラスでもマイナスでもない「カーボンニュートラル」な状況を実現しているという点です。

****二酸化炭素を大気から吸収する新技術 加企業、低コストで****
空気中の二酸化炭素を低コストで吸収する新技術を、カナダの企業がこのほど公表した。二酸化炭素1トンを取り出す費用は100ドル(約1万1000円)以下と、従来の技術の6分の1になるという。

米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が後押しするカーボン・エンジニアリング社は、二酸化炭素と再生可能エネルギーから合成液体燃料を生産することが目下の目標だとしている。

新技術に関する専門家によるピアレビュー(査読)を経た論文は、科学誌「ジュール」に掲載された。

科学者たちの疑念
気候変動の原因になる二酸化炭素ガス問題を解決する技術的な「解決法」には常に、科学者たちから一定の疑いの目が向けられてきた。

宇宙に太陽光の遮光板を建設したり、二酸化炭素を吸収する物質を海中に投入したりといったアイデアは、温暖化ガスの排出削減を人々に訴えるという、平凡ながらも困難な取り組みから関心をそらしてしまい、危険でもあると指摘されてきた。

しかし、二酸化炭素を空気から直接吸収する計画は実質的に森林保護と同じで、幾分かはより現実的な方策だと考えられてきた。

このアイデアは、1990年代半ばに科学者のクラウス・ラックナー氏が最初に提唱したもので、その後、いくつかのハイテク企業が二酸化炭素を取り除く設備の高価なプロトタイプを建造してきた。

スイス企業のクライムワークス社は昨年、炭素を空気から直接取り出す設備を発表し、取り出された炭素を、近隣の温室設備で栽培されているトマトやキュウリの肥料として供給した。

カーボン・エンジニアリング社は今回、空気から直接取り出す技術の大幅な低コスト化に成功したと話している。
同社は2009年に、マイクロソフトのゲイツ氏やカナダのオイルサンド産業に投資するノーマン・マリー・エドワーズ氏から出資を受け設立された。同社は2015年から試験場を操業しており、一日当たり1トンの二酸化炭素を空気から取り出しているという。

同社の技術では、工夫が施された冷却塔に送風機によって空気が運ばれ、二酸化炭素と反応する液体に接触する。
その後いくつかの工程を経て、より純度の高い二酸化炭素が抽出され、二酸化炭素と反応する液体は空気接触器に戻される。

2011年に米国物理学会が行った研究では、空気から二酸化炭素を直接取り出す費用は1トン当たり600ドルだと示唆されていたが、カーボン・エンジニアリング社は、既存の技術を応用することで大幅なコスト削減が可能になったと説明する。

カーボン・エンジニアリング社を創業した米ハーバード大学のデイビッド・キース教授はBBCに対し、「大きな前進だと言っているのは我が社だけではない」とし、「本当はそうでないのに、我々を救ってくれる魔法の解決策だとか、あまりに高額でばかげていているとか、人々に言われてしまうものから、実現でき有用な形で開発可能な産業技術だと、この技術が考えられるようになるきっかけになると期待している」と語った。

カーボン・エンジニアリング社は二酸化炭素とクリーンエネルギーを組み合わせた液体燃料によって排出ガス削減に貢献したい考えだ

キース教授は、「有用な形」が意味するのは、ただ二酸化炭素を空気から取り出すのではなく、合成液体燃料の主要原料にできることだと話す。

カーボン・エンジニアリング社は現在、純粋な二酸化炭素と再生可能エネルギーを使って水から取り出した水素を組み合わせた液体燃料を一日約1バレル生産している。

キース教授は、「カーボン・エンジニアリング社が市場に提案しているのはまず、二酸化炭素の量がプラスマイナスゼロになるカーボンニュートラルな燃料で、その意味では排出ガスを削減する技術の一つに過ぎない。最終的には大気中の二酸化炭素を取り除いてはいない」と語った。

「我々の燃料工場の1日当たりの生産量は、長期的にはざっと2000バレルになると想定しているが、次に建設する工場は、初の本格的な商業目的ながら大きさは10分の1になる。我々は今それを開発していて、太陽光発電あるいは風力発電による非常に安価なエネルギー供給や、投資家を探している」

バイオ燃料よりも良い?
カーボン・エンジニアリング社は、バイオ燃料に対する同社の液体燃料アプローチの優位性は、必要となる土地や水がずっと少ないことだと考えている。

キース教授は、もし同社の技術がほかのカーボンニュートラルな技術と同等の補助金を得られるなら、資金調達が可能になり、かなり早期に工場を建設できると話した。

同業者からは、カーボン・エンジニアリング社が低コスト化を実現したことを歓迎する声が出ているが、二酸化炭素を大気から取り出して、活用し貯蔵することの潜在性を生かすためには、政府からさらなる後押しが必要だと考えている。

レイキャビク・エネジー社のエッダ・シフ・アラドティール氏はBBCに対し、「空気から直接取り出す手法が1トン当たり100ドルというのは、同様の技術の奨励策が全くない我々の現状からすると多少、大幅(な低下)だが、コストを引き下げるには、個別の技術や代替可能な工程について、さらに開発し効率化するしかない」と語った。
アラドティール氏はアイスランドで、大気中の二酸化炭素を吸収し、地中奥深くに固体として保存する計画にかかわっている。

同氏は、「我々が直面している最も大きな課題は、パリ協定で合意された文言の後には行動がなくてはならないということだ。気候変動の技術的解決策はすでにあるが、技術が幅広く実用化されるための奨励策あるいは義務化については、各国議会の取り組みは十分でない。パリ協定を守るためには、この状況が早急に変わらなくてはならない」と指摘した。

カーボン・エンジニアリング社の関係者は課題の大きさを痛感している。キース教授は、「我々が失敗する可能性はあらゆるところに転がっている」と語る。

しかし、キース教授は航空機や大型輸送の排出ガス問題は、電気自動車技術だけでは解決できないと考えている。
「液体燃料面でより良い革新が必要だ。二酸化炭素と再生可能エネルギーによって取り出された水素を組み合わせるという、このアプローチは突破口になる」【2018年06月8日 BBC】
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既存の技術の利用ということに関しては、以下のように説明されています。

“水酸化物の水溶液を擁する改造済の産業冷却塔がCO2を吸収して、炭酸塩に変換する。
変換された炭酸塩は、元々は浄水場において鉱物の抽出のために作成された装置で、ペレットになる。
そしてペレットは、金を焼くために本来設計された窯で熱せられ、純粋なCO2ガスに変換されてから、最終的に合成燃料となるのだ。”【2018年6月16日 IDEAS FOR GOOD】

大気中から吸収したCO2を原料に液体燃料をつくるという、“カーボンニュートラル”“排出ガスを削減する技術の一つに過ぎない”という点には、やや物足りない感も素人的にはありますが、“現実性”という面では大きな意味があるかも。

どんなに優れた技術でも、要した費用を回収できる道がなければ現実のものとはなりません。

せいぜい、公的な補助金で・・・というところでしょうが、昨今はどこの政府も財政難で、目の前の課題を抱えた状況で、遠い将来のための費用を負担する余裕はなく、やろうとすると “黄色いベスト運動”に直面しているフランス・マクロン政権(燃料税引き上げで気候変動対策など脱炭素社会を目指す)のように“政治問題”にもなります。

「地球環境は心配だけれど、今はそれどころではない」(黄色いベスト運動参加者)【3月3日 GLOBE+】

一方、CO2を原料に液体燃料をつくるというコスト回収方法があれば、政府が一定に誘導・補助さえすれば、あとは民間資金が市場ベースで世界各地で活動を始める・・・という話にもなります。

コストの問題は、これも素人の勝手な推測ですが、必要とされている技術であれば日進月歩の技術革新によって、そう時間を要することなく飛躍的に引き下げることも可能ではないでしょうか?きわめて楽観的ですが。

もちろん、CO2回収のルートができたとしても、長年増え続けてきたCO2を海中に蓄積するなど、すでに変容している地球環境の変化を押しとどめるためには、化石燃料などの使用削減は並行して進める必要があります。

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