孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ総選挙 勢いをそがれたタクシン派 立場を利用する政権側 “生きのいい”新党も

2019-03-19 23:16:36 | 東南アジア

(「若者は強権的な古い政治から、民主主義の新しい政治への変化を求めている」と語る「新未来党」タナトーン党首【3月17日 西日本】)

【タクシン派 「奇策」失敗で苦しい展開に】
24日に実施されるタイの民政復帰に向けた総選挙については、2月8日ブログ“タイ総選挙に衝撃 タクシン派政党がウボンラット王女を首相候補擁立 にわかに波乱含みの展開に”で扱ったタクシン派政党の奇策で流れは一気にタクシン派側に傾くのか・・・とも思ったのですが、周知のようにその夜の国王の反対を受けて王女擁立断念、政党自体も解党に追い込まれ、逆にタクシン派は窮地に追い込まれるという目まぐるしい展開をみせました。

****タクシン派政党に解党命令 王女擁立「中立脅かす」 タイ憲法裁****
タイの憲法裁判所は7日、24日に実施されるタイの総選挙に向け、ウボンラット王女を首相候補に擁立しようとしたタクシン元首相派のタイ国家維持党の解党を命じた。同党の候補者は立候補資格を失う。タクシン派はタイ貢献党という主要政党が残るものの、厳しい選挙戦を余儀なくされることになった。
 
「この決定に非常に当惑している」「我々は純粋な意図で国のためになることをしようとした」。法廷から硬い表情で出てきた国家維持党のプリチャーポン党首は、報道陣に囲まれながらこう話した。
 
発端は2月8日、国家維持党がワチラロンコン国王の姉のウボンラット王女を、党の首相候補として選挙管理委員会に届け出たことだ。2014年のクーデターで自派の政権を覆されたタクシン派にとり、王女の擁立は政権奪還に向けた「妙手」のはずだった。
 
だが、その日の夜に国王が王女の政治関与を「非常に不適切」とする声明を発表。選管も王女を候補として認めず、逆に憲法裁に同党の解党を申し立てた。
 
同党は「擁立には王女の同意があった」と反論したが、憲法裁はこの日、王女の擁立は王室の政治的な中立性を脅かし、政党法が禁じる立憲君主制に敵対する行為だったとして、解党を命令した。幹部らの選挙への立候補や政党設立などを10年間禁じることも言い渡した。
 
ウボンラット王女は解党について、自身のインスタグラムに「悲しいことだ」と投稿した。
 
■軍政からの政権奪還に逆風
民政移管に向けた今回の総選挙は、軍事政権のプラユット暫定首相を首相候補に据え、軍主導の政権の継続を目指す国民国家の力党などの親軍政勢力とタクシン派などの反軍政派、双方と距離を置く民主党などが争う構図となっている。
 
世論調査の政党支持率で首位を走っているのは、農村や都市の貧困層から根強い支持を受けるタイ貢献党だ。だが、軍政下で導入された小選挙区と比例代表制による今回の選挙制度は特定政党が大勝できない仕組みになっており、タクシン派は国家維持党に勢力を分散し、双方で議席を確保する戦略をとっていた。
 
貢献党は350の小選挙区のうち250選挙区にしか候補を立てておらず、174選挙区に擁立した国家維持党の解党で、タクシン派候補がいなくなる選挙区が出る。反軍政を掲げる別の党に票が流れるとの見方があるが、タクシン派を目の敵にしてきた親軍政派にプラスに働くのは確かだ。
 
また、総選挙後の首相指名選挙では、事実上軍政が任命する250人の上院議員が、総選挙で選ばれる下院の500人とともに投票に加わる。

上下両院合計の過半数は376人。上院議員が親軍政派に同調する可能性が高いことを考えると、親軍政派はプラユット氏を首相に就けるために総選挙で126議席を取ればよいことになる。
 
専門家は「タクシン派は下院では第1党になるだろうが、政権奪還という意味では解党が逆風であることは間違いない」と話す。【3月8日 朝日】
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ウボンラット王女が首相候補を受諾するにあたって、兄のワチラロンコン国王に何も伝えていなかった・・・・というのは、考えにくいようにも思うのですが・・・・。(二人は別に疎遠という訳でもなく、親密な関係にあるとも言われていますので)

それはともかく、タクシン派の方でもある程度はこういう事態を想定したうえでの、主力政党ではない分派政党での擁立だった・・・・ということでしょうか?

いずれにしても、流れは再び親軍政党・軍部側に。
タクシン派の貢献党は第1党となっても、首相選出などでは苦しい状況にも。

****タイ総選挙 連立視野に3勢力が主導権争い “軍政延命”焦点****
タイの民政復帰に向けた総選挙(下院、定数500)は24日の投票日まであと4日。総選挙は約8年ぶりで、2014年から続く軍事政権の事実上の延命を許すかどうかが最大の焦点だ。

プラユット暫定首相の続投を目指す「国民国家の力党」などの親軍政派と「タイ貢献党」などタクシン元首相派とが対抗。これに両派と距離を置く民主党などが絡み、選挙後の連立を視野に主導権を争う。
 
18日、バンコクで開かれたタイ工業連盟の討論会に各党の首相候補らが顔をそろえた。
 
タイでも所得格差は問題となっているが、国民国家の力党は14日、1日の最低賃金を一気に約30%引き上げ、最高425バーツ(約1495円)にするとの公約を発表。タクシン派政党の支持者が多い農民ら低所得層の切り崩しを狙ったようだ。(中略)
 
一議席でも上積みし、選挙後の連立工作で主導権を握りたい各党は、実現性や持続可能性に疑問を投げかける報道を意に介せず、減税策や子供手当など、庶民受けする公約を並べる。
 
各種調査では、第1党は貢献党だが、過半数の確保は難しいとみられている。第2党は民主党だとみる調査が多いが、タイの政治専門家は「国民国家の力党だと分析する人もおり、競っているようだ」と語る。
 
選挙後の連立工作には「反軍政」と、「反タクシン派」という複雑な感情が交錯する。民主党は基本的には反軍政の立場だが、タクシン派も長年のライバルだ。

民主党党首で首相候補のアピシット元首相は、毎日新聞の取材に貢献党との連携の可能性を否定し、「国民国家の力党が我々との連立を検討する可能性がある」と指摘した。

一方、アピシット氏は別の場でプラユット氏の続投には反対だとも明言。貢献党が第1党となった場合、反タクシン派では共通する国民国家の力党と民主党のうち第2党になった方が政局の主導権を握る可能性があり、選挙前から相手に揺さぶりをかけている。
 
また、「軍の支配を終わらせる」ことが党の使命だと強調するタナトーン党首の新未来党は、政策や方針を共有できる政党と柔軟に連携する姿勢を示しており、総選挙で党勢が伸びれば重要な役割を果たす可能性もある。(後略)【3月19日 毎日】
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【「それは安定とは言わない。圧政だ」 “生きがいい”「新未来党」 どこまで議席にむすびつか】
旧態依然のタクシン派、軍事政権維持勢力、民主党がバラマキ政策の人気取り公約で争うという構図の中では、どこまで議席をのばせるかはわかりませんが、タナトーン党首の新未来党が新鮮味があります。

****タイ「新未来党」が存在感 総選挙、700万人新有権者に注目****
24日に予定されるタイ総選挙では、初めて投票する18〜25歳の新有権者が約700万人にのぼる。総選挙の実施が約8年ぶりとなるためで、全有権者の1割を超える。

2014年から続く軍事政権下で育った若者の票の行方が注目される中、軍政批判と変革を訴えて存在感を増しているのがタナトーン党首(40)率いる「新未来党」だ。

タナトーン氏は毎日新聞の取材に「タイに民主主義を取り戻す」と意気込んだ。
 
タナトーン氏は、タイ自動車部品製造大手の創業者一族出身で、副社長だった昨年、新未来党を結成。党の世論調査での支持率は、タクシン元首相派の中核政党「タイ貢献党」や親軍政政党「国民国家の力党」などに次ぐ4位だが、若者の間での人気は高い。
 
選挙戦終盤の14日、新未来党は提唱する次世代交通システム「ハイパーループ」の調査結果を発表。ハイパーループは、減圧されたチューブ内を列車が高速移動する。軍政には高速鉄道計画はあるが、タナトーン氏は「高速鉄道は15年もすれば時代遅れになる。最初から次世代のシステムを目指すべきだ」と語った。
 
こうした「変革」を志向する姿勢は選挙戦での主張にも表れる。タナトーン氏は「軍の支配を終わらせ、軍政下で制定された憲法を改正する」のが党の使命だと強調。国防費の大幅削減も提言する。
 
そのうえで「どの政党も下院(定数500)で過半数を確保できない」との見通しを語り、新未来党の方針を共有できる政党とは、連携が可能だとの認識を示した。
 
軍政下でタイは安定を取り戻したとの意見もあるが、タナトーン氏は「それは安定とは言わない。圧政だ」と一蹴。政権批判をしたことで自身が刑事訴追される可能性があることを例に出して反論した。【3月17日】
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「それは安定とは言わない。圧政だ」・・・・生きがいいですね。

タナトーン氏は軍政を批判し、クーデターを禁じる憲法改正や軍の人員半減などの公約を打ち出しており、「基本的人権を尊重し、東南アジアの希望でもあった以前のタイを取り戻したい」と語っています。【3月17日 西日本より】

政権からの圧力もあるようで、“タイ選挙管理委員会は14日、若者に人気の革新政党「新未来党」のタナトーン党首(40)に関する経歴詐称の調査を終了したと発表した。選挙関連法に違反する証拠が見つからなかったとし、不問に付した。”【3月15日 NNA ASIA】とも。

“人気が高まる半面、タナトーン氏が過去にインターネット上で行った軍政批判の違法性を指摘する告発も相次ぐ。解党されるリスクをはらむが、タナトーン氏はこうした圧力について「全く恐れていない。むしろ批判する側が私たちを恐れている」と一蹴した。” 【3月17日 西日本より】・・・・やっぱ生きがいいですね。

この生きのよさがどこまで議席にむすびつか・・・ですが、“進歩的な考えに対して特に若年層を中心に人気を集め、軍政の警戒心を買っている。ただし政党としては新しいため、候補者の多くは政治家としての地方での活動経験がなく、小選挙区での大政党のような議席獲得は見込めない。その代わりこのような政党への票は、今回の制度の下で比例区の議席となる可能性がある。”【3月15日 真辺 祐子氏 NIDS コメンタリー】とのこと。

主要政党の潰し合いの結果、キャスティングボードを握る立ち位置に立つ可能性もありえます。

【政権側の“不公平な選挙キャンペーン” 野党側に跳ね返す力・勢いは?】
プラユット暫定首相は、その立場を利用した「選挙活動」で親軍政党をてこ入れしています。

****タイ軍政の暫定首相、反対派の地盤を視察 念頭に選挙か****
タイ軍事政権のプラユット暫定首相が13日、東北部のコンケンとナコンラチャシマを訪れた。週末には北部のチェンライを訪問する予定だ。

いずれも公務による視察という名目だが、東北部と北部は24日の総選挙で親軍政派が対立するタクシン元首相派の地盤。選挙戦最終盤での親軍政派への「てこ入れ」との見方がもっぱらだ。
 
プラユット氏は親軍政派の国民国家の力党の首相候補だが、現職の首相が政党の集会などで演説をすれば選挙法関連法に違反する恐れがあると指摘され、党の選挙運動への参加を見送っている。
 
一方で、国民国家の力党はタクシン派の地盤では苦戦を強いられているとの見方が強く、選挙最終盤で東北部と北部での運動に力を入れている。

プラユット氏の視察先は党が最近、選挙集会などを実施した県とほぼ一致しており、「視察という形で有権者に姿を見せることで、党を支援する目的があるのは明らか」と政界筋はみる。
 
プラユット氏は13日、コンケンで鉄道施設などを視察した後、ナコンラチャシマの大学構内で演説。5年近くにわたる自らの政権下での成果を強調し、「(選挙で)決めるのはあなたたちだ」などと述べた。
 
プラユット氏は、週明けには南部のナコンシータマラートも訪れる予定。南部はタクシン派や親軍政派とも距離を置く民主党の地盤で、南部でもてこ入れを図るとみられる。【3月14日 朝日】
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これまでも、政権側はその立場を利用して“不公平な選挙キャンペーン”を展開してきました。

****不公平な選挙キャンペーン****
2014 年 5 月 22 日クーデター以降、政治活動や 5 人以上の集会は禁じられてきた。選挙に向けて徐々に政党の活動が解禁されてきたものの、反軍政的な言論は処罰の対象となり、政党によるオンラインでの政治活動にも厳しい監視の目が向けられている。

軍政は、これまで「コンピューター関連犯罪法」を解釈し、オンラインでの不敬及び反軍政的言論を抑える手段としてきたが、選挙活動においても反軍政的性格の強い新未来党党首らのフェイスブック投稿や同党ウェブサイトなどに同法を適用した訴えを度々起こしている。

反軍政的性格の政党は、限られた言論の自由と共に、主要プラットフォームであるソーシャルメディアを監視された上に、解党のリスクと背中合わせの選挙戦を強いられている。

なお、 今回の選挙で初めて投票をする有権者は約 700 万 人おり、新未来党の主要支持層であるソーシャルメディアを積極的に使用する若年層が多く含まれる との分析もある9。

一方で、軍政の元閣僚が組織し、プラユット現首相を首相候補と掲げる国民国家の力党は、新年の低 所得者への 500 バーツ支給などの多くのバラマキ 政策や、地方遊説、SNS のオフィシャルページで の広報など、現役首相として政治活動が禁止されていた他政党に先駆けて事実上の選挙キャンペーンを行ってきた。

これに関して、選管は、(下院議員 選挙法 78 条で国家公務員の地位や職権の使用を禁 じているが)首相候補であるプラユット現首相が選挙キャンペーンに関与することは問題ないとの見 解を示している。

国民国家の力党は、昨年末には 6 億バーツを集めたとされる政治資金パーティーを開催したが、これも問題ないとしている。

現役首相 であるプラユットは、5 年近い政権運営で知名度は 抜群な上、治安維持を名目に多くの権限を有し、5 年近い政権運営で選挙後も拘束力のある長期戦略を持つため、現政権や首相自身への賛否が選挙の争点となっている面がある。【3月15日 真辺 祐子氏 NIDS コメンタリー】
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やりたい放題ではありますが、このあたりはタイに限らず多くの国でも見られることです。
野党側には、こうした“不公平”を跳ね返すだけの力・勢いが求められます。

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