(下院議長に年金改革法案を手渡すボルソナロ大統領(左)【2月21日 日経】)
【泡沫候補から一転、大統領に 背景には「今までの通りではだめだ」との国民の不満】
昨年10月のブラジル大統領選挙で、女性・黒人・同性愛者への差別的発言を繰り返し、軍事政権時代を評価する発言もする“ブラジルのトランプ”とも呼ばれるジャイル・ボルソナロ氏が、当初の泡沫候補扱いから一転、勝利に至ったことは周知のところです。
****ジャイール・ボルソナーロ****
2017年、連邦裁判所はボルソナーロにリオデジャネイロでのイベントでのアフリカ系民族に対する人種差別的な発言の咎で50,000レアルの罰金(16,000ドルを超える)の支払いを命じる判決を下した。
しかし、数日後、彼は 「黒人は繁殖する役割ではない」と述べた。
その年の8月、同じように左派労働党(PT)のマリア・ドゥ・ロザリオ下院議員に10,000レアルの支払いを命じる判決が下された。この女性はボルソナーロの様々なメディアのインタビューに飛び入り、若い夫婦を誘拐し、レイプして殺した16歳の少年、 "シャンピニャ"の行動を非難した。
インタビューが中断している間、マリア・ドゥ・ロサリオは、ボルソナーロが強姦擁護派であると非難した。それに対し、ボルソナーロは「彼女(マリア・ドゥ・ロザリオ)はレイプされるに値しない。なぜなら彼女は醜いからだ。私のタイプじゃない。私は強姦魔ではない。強姦魔だったとしても彼女をレイプしない。それに値しないからだ」と述べた。
外交面では、在イスラエル・ブラジル大使館をエルサレムに移転すると発表している。【ウィキペディア】
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まあ、売り言葉に買い言葉的なところがありますから、一言一句をあげつらう気もありませんが、基本的な姿勢・考えはうかがえるかと思います。
****SNS活用 “泡沫”一転、勝利に****
(2018年10月)28日投開票のブラジル大統領選で当選した極右、社会自由党のジャイル・ボルソナロ下院議員(63)は勝利宣言で、トランプ米大統領の決まり文句を意識しながら「ブラジルを偉大で栄える国にする」と誓った。
自分に不都合なニュースを「フェイクニュース」と決めつけ、「ブラジルのトランプ」と呼ばれるボルソナロ氏は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を有効に活用し、泡沫(ほうまつ)候補とみなされていた序盤から一転、勝利につなげた。
党の資金や組織力が乏しく、知名度が低かったボルソナロ氏の選挙戦は、有力政治家の応援もなく、政党議席数に応じて配分されるテレビの政見放送時間も短かった。
だがSNSで汚職非難のメッセージや動画を繰り返し投稿し、直接有権者に訴えると、熱心な支持者が勝手連的に増え、メッセージが拡散していった。
フォロワー数は9月時点で約1000万人に上り1月から4割増加。陣営は否定するが、企業を使った違法な大量メッセージ送信やフォロワー数の水増しなどの疑惑が浮上した。
またボルソナロ氏は9月、遊説中に自身に反発する元左派政党党員にナイフで刺され重傷を負い、「同情票」でも支持を集めた。
医師から討論会参加の許可が出た後も体調不良を理由に公開の討論会には出席せず、最後までSNS中心の選挙戦を続けた。勝利宣言もフェイスブックの動画中継で済ませ、街頭に出ることはなかった。
代わりに28日夜、南東部リオデジャネイロの自宅前でテレビのインタビューに応じ、「政府の財政赤字を減らして経済成長を促し、雇用を増やす」と語った。自宅周辺には数万人の支持者が集まり、花火を打ち上げて当選を祝った。
サンパウロ市内でボルソナロ氏に投票した技師のファビオ・マッシャードさん(24)は「彼が掲げる汚職一掃と治安対策を進めてほしい」と望み、「軍事独裁に戻る不安はない」と話す。
一方、対立候補のフェルナンド・アダジ元教育相(55)=労働党=に投票した学校職員のジュリアナさん(36)は「黒人や性的少数者、女性へのひどい発言は人間として信用できない。政権に軍人ばかりが増え、民主主義がどうなるのか不安だ」と危機感を吐露した。【2018年10月29日】
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上記のような「ボルソナロ旋風」が吹き荒れた背景には、汚職にまみれた既成政治への国民の反発、「麻薬戦争」とも呼ばれるメキシコ以上に劣悪な治安に対する秩序回復への期待、総じていえば「今までの通りではだめだ」という国民の思いが、“型破り”な言動のアウトサイダーへの人気に火を着け、また、停滞する経済状況の回復への期待にもつながったと思われます。
【銃規制緩和 相変わらずの奔放な発言も 軍賞賛発言には懸念も】
今年1月に就任したボルソナロ大統領は、“ブラジル北部フォルタレザで犯罪組織の襲撃激化、政府が軍展開へ”【1月6日 AFP】“ブラジル新政権、公営100社を民営化・閉鎖へ 債務削減の一環”【1月9日 AFP】と、治安回復・経済改革への取り組みを始めました。
いかにも“彼らしい”施策としては、銃規制緩和も。
****1人4丁まで所持可能 ブラジル、市民の銃規制を緩和****
南米ブラジルのボルソナーロ大統領は15日、市民の銃所持の規制を緩和する大統領令に署名した。警察による審査が簡素化され、25歳以上なら条件を満たせば銃を所持できる。
ブラジルでは治安悪化が社会問題になっており、ボルソナーロ氏は大統領選で治安回復を公約に掲げ、市民が銃で武装すべきだと訴えていた。
ブラジルでは市民の銃所持は法律上認められてきたが、警察による厳しい審査があり、事実上、銃は買えなかった。今回の規制緩和で、犯罪歴や精神疾患がないなどの条件を満たせば、25歳以上なら1人4丁まで銃を所持できる。
ボルソナーロ氏は署名後、「これで善良な市民が家庭で平和を手に入れることができる」と演説した。
ただし、銃所持が治安回復につながることを疑問視する市民も多く、直近の世論調査では61%が銃所持に反対だった。【1月16日 朝日】
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どうして4Tも必要なのかは知りませんが、犯罪歴がある者でも容易に“犯罪歴のない者”を介して銃を入手できるようにもなりますので、“火に油を注ぐ”ようなことになるのではと危惧します。
“型破り”は相変わらずで、トランプ大統領と確かに似ています。
****ブラジル大統領、カーニバルの「放尿動画」投稿が炎上 ****
ブラジルのボルソナロ大統領がツイッターに第三者の「放尿動画」を投稿し、波紋を広げている。
カーニバルに乗じ羽目を外す国民に苦言を呈する目的だったが、性的な内容を含んでおり、批判が相次いだ。
奔放な発言や交流サイト(SNS)の活用で泡沫(ほうまつ)候補から一躍大統領に上り詰めたボルソナロ氏だが、就任後も自粛する気配はみられない。(後略)【3月7日 日経】
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まあ、このあたりは“ご愛敬”的な部分もあります。
下記の軍を賞賛する発言は、過去の軍事政権を評価する人物の発言という前提で聞くと、やや不気味なところもあります。
****国軍は自由と民主主義の最後の砦=ブラジル大統領****
ブラジルのボルソナロ大統領は7日、同国の軍は民主主義の最後の砦だと述べた。
自らも軍人出身の大統領は、当地で行われた海軍の行事で演説し、軍を賞賛したうえで、「自由と民主主義は、軍が望まなければ存在し得ない」と述べた。
ブラジルは、1964─85年に軍政の独裁時代を経験、大統領は長年これを擁護する立場を取っている。反ボルソナロ派は、政権内で軍幹部出身者の役割が増していることに懸念を示している。
アミウトン・モウロン副大統領はブラジリアで記者団に、大統領の発言に脅迫の意図はないとして擁護し、「大統領は、もし軍が自由と民主主義にコミットしなければ、その価値観は死滅すると言ったもの。それはベネズエラで起きていることで、同国軍はこの価値観を破壊した」と語った。(後略)【3月8日 ロイター】
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軍は自由と民主主義の擁護者である・・・ということなのでしょうが、軍事政権への評価などを加味すると、自由と民主主義の在り様を決めるのは軍の力だ、軍が望まない自由と民主主義は存在しえない・・・というようにも聞こえます。
【類が友を呼ぶ? 人権派市議殺害容疑者との関係】
更に気になる“疑惑の関係”に関する報道も。
****人権派市議殺害の容疑者ら、大統領との接触は「偶然」 警察見解 ブラジル****
ブラジルの人権派市議マリエル・フランコ氏が昨年殺害された事件で、容疑者の2人がジャイル・ボウソナロ大統領と接触していたとされる指摘について、警察当局は12日、偶然だとする見解を示した。事件への関与の有無をめぐり、ボウソナロ大統領には厳しい目が向けられている。
容疑者は2人とも軍警察の元警官。1人は過去に軍警察を解雇されたエルシオ・ビエイラ・デ・ケイロス容疑者で、フェイスブックのアカウントにボウソナロ大統領と一緒に撮影した写真を投稿していた。
問題の写真はすでに削除されているが、ソーシャルメディア上で広く拡散された。ボウソナロ大統領はこの写真について、軍警らと撮ったたくさんの写真の一枚にすぎないとしている。
また軍警を退役したロニー・レッサ容疑者には、銃弾13発を撃ってフランコ氏と運転手のアンデルソン・ゴメス氏を殺害した疑いが持たれている。
レッサ容疑者はボウソナロ大統領がリオデジャネイロに滞在する際に使用している共同住宅に同じく住んでいたが、警察はこれについて単なる偶然だと述べた。
ボウソナロ氏は昨年10月、大統領選に当選した際、この共同住宅の前に集まった大勢の支持者と勝利を祝っている。
また警察幹部は、レッサ容疑者の娘とボウソナロ氏の息子が交際関係にあるとの情報について記者から問われると、事実だが現時点で警察は重視していないと答えた。
昨年3月14日に銃殺されたフランコ氏はレズビアンの黒人女性で、黒人や同性愛者の権利を推進する活動家だった。警察の残虐行為を真っ向から批判し、貧困層の保護に尽力していた。
12日に容疑者2人が逮捕されるまでのほぼ1年間、捜査には進展がみられていなかった。 【3月13日 AFP】*******************
人権派市議殺害容疑者と大統領が“共謀”していたということはないでしょうが、「偶然」の接触であるにしても、類が友を呼ぶと言うか、体質的に共通するものが関係を呼び寄せるのでは・・・とも。
【ブラジルの今後を左右する年金改革 中道政党の協力に期待も】
今後のボウソナロ大統領の正念場は年金改革であるとされています。年金改革の成否がブラジル経済の今後の成長を左右するとも言われています。
****ブラジル政府、年金改革法案を提出 財政負担30兆円抑制 *****
ブラジルのボルソナロ大統領は20日、年金受給開始年齢の引き上げを柱とする年金改革法案を議会に提出した。
ブラジルの年金制度は50代から受給できるなど過度に手厚く、財政赤字の要因となっていた。政府の試算では今後10年間で財政負担を総額1兆レアル(約30兆円)抑えられるという。ただ法案成立には上下両院で5分の3の賛成が必要で、改革の実現は予断を許さない状況だ。
現在、ブラジルでは原則、女性は55歳、男性は60歳で年金の受給資格を得ることができる。現役世代が退職世代を支える賦課方式で、2017年は民間と公務員(軍人除く)を合わせた年金支給額の約4割が国庫負担だった。
今回の改革案では今後12年かけ受給開始年齢を女性を62歳、男性を65歳まで段階的に引き上げ、財政支出を抑制する。
ボルソナロ氏は20日、経済政策を担当するゲジス経済相とともに議会に姿を現し、マイア下院議長に法案を手渡した。今後、議会での議論や採決を経て、年内の成立を目指す。
ブラジルでは16年まで続いた左派政権が年金改革に踏み出さなかったことで財政赤字が深刻化し、治安対策やインフラ投資などに資金が回らない状況が続く。経済再生や治安回復を掲げ1月に発足したボルソナロ政権にとり、年金改革は避けては通れないテーマだ。
今後、焦点となるのは議会の対応だ。17年に就任したテメル前大統領も受給年齢の引き上げに取り組んだが、国民の反発を恐れた議会の抵抗に遭い、頓挫した。
今回の改革案は移行期間をテメル氏の案から短縮しており、国民負担はより大きい。20日には労働組合がサンパウロで反対デモを開催するなど、左派陣営は改革反対の論陣を張る。
ボルソナロ氏は上下院で少数与党のため、中道政党の協力が不可欠だ。テメル政権下で与党だった複数の中道政党は改革そのものには前向きだとされるが、強権的なボルソナロ氏の姿勢には反発も強く、曲折が予想される。
また、ボルソナロ陣営の「お家騒動」も改革機運に影を落とす。ボルソナロ氏が所属する与党社会自由党(PSL)の副党首だったベビアノ大統領府長官は18日、自身の汚職疑惑の責任をとらされる形で解任された。
地元メディアはボルソナロ氏の息子とベビアノ氏の間の確執が要因だと報じており、与党内ですら一枚岩になれていない。今後、他党との協議に水を差すリスクがある。
ブラジルの大手銀イタウ・ウニバンコのチーフエコノミスト、マリオ・メスキタ氏は今回の年金改革法案について「必要な改革ではあるが、十分ではない」と指摘する。また、ボルソナロ氏の支持母体である軍人向けの年金改革案は含まれていない。【2月21日 日経】
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2月25日時点の世論調査では大統領の支持率は57.5%と、大統領選挙決選投票の得票率55.1%を上回っており、高い支持率を維持しています。
この高支持率を背景に年金改革に取り組む訳ですが、国民の大きな痛みを伴う年金改革は、“ブラジルのトランプ”であろうがなかろうが、極右であろうがなかろうが、どの政権・指導者にとっても高いハードルです。
あのプーチン大統領ですら、支持率を急落させています。
大統領の“体質”が、年金改革を支持する中道政党との協力関係にどう影響するか・・・というところです。